【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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【5話】完成。本日より5日間、投稿致します。


第116話 丁度良い関係

 真白は1人、公園のベンチでとある人物を待っていた。公園の一角には屋台があり、僅かな人で賑わっている。そして真白の待ち人は現在、その中で順番待ちをしていた。やがて無事に購入出来た様子で両手にクレープを持って真白へ近づいて来たその人物は、両方を一度見てから真白へ片方を差し出す。

 

「こっちが三夢音の分だ」

 

「ん……ありがとう」

 

「これはお礼なんだ。気にするな」

 

 受け取った真白の言葉に首を横に振りながら僅かに笑い、真白の座るベンチに隣り合う様にして座ったのは凛であった。数日前のモモが真白に接触している人物を調べていた日、真白は凛に誘われたのだ。『今度互いに時間が空いた時、お礼をさせて欲しい』と。今日がその日であり、故に真白は凛と共に行動していた。

 

「今日1日、何でも言ってくれ。可能な限り叶えよう」

 

「……大げさ」

 

「命を救われたんだ。大げさ何かじゃない。それに……」

 

「?」

 

 何かを言い掛ける凛の姿に真白は首を傾げるが、彼女は「何でも無い」と続けてクレープを食べ始める。真白もその姿に持っていたクレープを齧り、その甘さに僅か乍ら頬が緩んだ……様に凛には見えた。彼女は真白に命を救われた事への感謝と共に、自分の為に命を張った真白の心に戸惑い続けていた。過去に何度か沙姫経由で出会う事はあれど、お世辞にも仲が良かったとは言えない。そもそも最初は敵意すら抱いていた訳であり、唯一穏やかな気持ちで過ごしたのは美柑を助けたお礼の際に共にした昼食ぐらいだろう。故に凛は理解出来なかった。たったそれだけの時間を過ごした友達とも知り合いとも言える間柄の相手に命を張った真白が。

 

「最後にお前の傍に居る少女……ヤミちゃん、だったか? あの子に鯛焼きのお土産を用意する事はもう決めている。彼女が鯛焼き好きなのはそこそこ有名だからな。だが三夢音が好きな物は『甘い物』としか分からなかった。だからこの後は適当に町を歩こうと思うんだが、良いか?」

 

「……分かった」

 

 だからこそ、凛は知りたいと思った。真白が自分に命を張った理由を。そして昔の敵意でも、今までの警戒でも無い、自分の中に感じる不思議な感情を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続いて2人が食べる事にしたのは団子であった。ある人物が好物としている団子だが、そんな事を知る由も無い2人はクレープよりも控えめな甘さに舌鼓を打ちながら目的を決めずに次のお店へ向かい始める。その道中、迷子になった子供を見つけて母親を探したり等もした2人。徐々に空が色を変え始める中、凛は真白と顔を合わせた。

 

「流石に色々食べたな」

 

「ん……満足」

 

 最初のクレープを始め、団子やアイス。他にも趣向を変えてコロッケなど沢山の物を食べた真白は凛の言葉に頷いて答えた。そして最初に凛が告げた通り、鯛焼きを買いに行こうとした2人は突然聞こえて来た声に視線を向ける。それは女性の声であり、悲痛な叫びでもあった。

 

「引ったくりよ!」

 

「! 三夢音!」

 

「ん……」

 

 2人に見えたのは杖を持ったお婆さんが転び、その少し前に鞄を持ったモヒカン頭の男が走っている姿であった。言葉の通りならば、今目の前で起きているのは犯罪行為。それを黙って見過ごせる凛では無く、彼女の言葉に真白も頷いて走り始める。宇宙人である真白はその速度が尋常では無く、瞬く間に男の目の前に姿を現した。

 

「な、何だお前! 邪魔するな!」

 

「……」

 

「少し借りるぞ」

 

「へ?」

 

 突然現れた真白の姿に驚く男。そんな彼の元へ走り続ける凛は、お婆さんの落とした杖を借りて男の元へ。退かない真白を前に焦っていた男は強行突破しようとするが、足を前に進めた瞬間に片足を杖の曲がった部分で引掛けられて転倒する。そして空かさずその上に乗って鞄を奪い返した凛を前に、周りで見ていた者達は数秒呆気に取られた後に拍手を始める。誰もが完全に終わりだと思っていた。……だが、捕まった男は自暴自棄になった様子で暴れ始める。そしてそれはいくら鍛えているとしても、女性である凛を退けるのに十分であった。

 

「こ、のっ!」

 

「っ!」

 

 転んだ凛を前に気付けば男はナイフを取り出し、翳していた。再び悲鳴が聞こえる中、突然の事で驚き反応出来なかった凛は咄嗟に目を瞑る。が、何時まで経っても痛みが来ない事で恐る恐る目を開けた。ナイフは振り下ろされていたが、凛にその凶刃が触れる前に止められている光景がそこにはあった。横から伸びた真白が男の肩と腕を掴んでいた為に。

 

「……」

 

「ひっ! ぐぇ!」

 

 無表情に見つめる真白の姿を前に怯えた様子で声を上げた男は、身体を持ちあげられた後に地面へ叩きつけられた事で無様な声を漏らす。ナイフは地面転がって男の手から離れ、男自身も強い衝撃に意識を失い、完全に無力化された。すると、真白は男の事は気にせずに凛の傍へ駆け寄る。

 

「……怪我……無い?」

 

「あ、あぁ。っ!」

 

 心配する真白の姿に少しばかり呆気に取られながら頷いた凛は、立ち上がろうとして顔を歪める。見た目は何とも無いが、その右足は押し退けられた際に捻ってしまった様だ。隠そうとした凛だが、一瞬だけ顔を歪めたのを見逃さなかった真白は徐にその手を取ると、自分よりも大きな身体を背に担ぎ始める。

 

「お、おい!?」

 

「……平気」

 

 横で無事に手元へ戻った鞄を持ったお婆さんがお礼を言うのを横目に、真白はその場を離れて凛に家の場所を質問した。今の状況に困惑しながらも凛は諦めた様に家の案内を始めると、揺られながら自分の目の前に映る薄銀色の髪を眺める。

 

「また、助けられてしまったな」

 

「……気にしない」

 

「お前はそうかも知れないが……。三夢音。1つ、聞きたい事がある」

 

「?」

 

 凛の言葉に歩みは止めず、顔を僅かに振り返らせた真白。真っ赤な片目と凛は目を合わせ、意を決して言葉を続けた。

 

「お前は……どうして私を助けた。あの時、場合によってはお前の身も危なかった筈だ。なのに、何故だ?」

 

「……」

 

 その質問を受けた真白は足を止めて顔を前に向け、何も答えずに黙ってしまう。それが考えている様にも見えた凛は彼女が喋るまで待ち続け、やがて真白は凛に見えない位置で閉じていた目を開いて答え始めた。

 

「……友達が……消えたら……笑えない」

 

「!」

 

「……凛が、消えたら……沙姫が。綾が……笑えない。……2人が笑えないと……皆、笑えない」

 

「そう、かもしれないな」

 

「……美柑を……助けてくれた……からじゃ、無い」

 

 真白の言葉を聞いて凛はハッとする。一番凛の中で納得出来る理由は美柑を助けたからと言う事であり、助けなかった場合はああはならなかったかも知れないと思わなかった訳では無かった。だが言葉にせずともそれを察された事に驚き、それと同時に凛は思わず無意識に質問する。

 

「私が消えた時、笑えない人達の中にお前は居るのか?」

 

「ん……友達、だから」

 

 その言葉を最後に真白は再び歩き始める。そして凛の家に到着するまで2人が会話をする事は無く、家の中に入って手当を施し終えた右足首を見ながら凛は空を見上げた。既に夕方から夜へと切り替わり始めており、真白は凛の視線を追って空を見た事で帰る為に立ち上がる。

 

「鯛焼き、買い忘れたな」

 

「……また、今度で……良い」

 

「! そう、だな。また今度、共に食べ歩きでもしよう」

 

 ふと思い出した鯛焼きの事を呟いた時、真白の言葉を受けて凛は驚きながらも約束をする。そして真白が家を出た後、1人残った凛は小さな溜息を吐いた。

 

「友達か……案外、私達の関係はそれで丁度良いのかも知れないな」

 

 嘗て敵視していた相手との新たな距離感を思い、凛は静かに呟いて微笑むのだった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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