『……』
「何を、するつもりですか……!」
苦手なニュルニュルに拘束されたヤミは何も言わずに自分を見つめるダークネスを前に険しい表情で聞いた。だが話す事をしないダークネスは視線を真白へ向け、再びヤミへ戻す。その動作が何を意味するのか……自分の中にあった存在故か、ヤミには理解出来てしまった。気付いていたのは発現と共に終わらない破壊衝動。だが今目の前に立つダークネスがしようとしているのは破壊では無いと。
「っ! ぃ、ゃ……!」
「くっ! 真白っ!」
真白を自らの手で拘束していたダークネスはまるでヤミへ見せつけるかの様にその身体へ愛撫を始める。ヤミを拘束する滑る触手とは別に左右から伸びる触手が両手の先から肩辺りまでを何度も巻き付く様にして拘束し、磔の様な状態にされたまま背後から襲われる真白の僅かに乱れる姿はヤミにとって甘美であり、そして許せない事でもあった。だがそれを止めたくても行動出来ないヤミにそれを止める術は無い。
『……ホシイ……ホシイ』
「!? 一体何を」
『……スベテ、ワタシノ……』
両手だけでは無く、両足にまで触手を絡み付かせて真白を拘束したダークネスは闇の中に声を響かせながら真白の身体を抱きしめる。腹部に両腕を回して背中から唯抱きしめるだけだが、まるでそれは真白を独占している様にもヤミには見えた。そしてダークネスはヤミと目を合わせる。
『……』
「受け入れろ、とでも言いたいのですか。そうすれば真白を手に入れられる。とでも」
「はぁ……はぁ……んっ!」
言葉は発さずとも何を言いたいのか全てを理解出来た時、ヤミは自分を見つめるダークネスとそれに抱かれて荒い息を吐きながら自分を見る弱った真白の姿を前に黙り込む。ダークネスの意を理解して、迷わない訳では無かった。確かに受け入れればヤミは自らの中に取り込んだ真白を完全に自分の者とする事が出来るだろう。だが黙り続けていたヤミは僅かに身体を揺らし始める。拘束するニュルニュルはヤミへ自分の存在を主張する様に蠢くが、ヤミは強く目を瞑って腕を強引に動かした。
『!』
「強引にでも奪いたい。そう思った事が無いとは言いません」
『……ユダネロ』
「私だけを見て欲しいと、何度も思いました」
『……ウケイレロ』
強引に拘束を外そうと動かし始めたヤミにダークネスは驚いた様子を見せる。今のヤミは苦手なニュルニュルによって力が出ない筈。だが実際に目の前で起きているのはヤミが力を捻り出して拘束する触手を強引に引き千切り、自由になろうとする光景。伝えた思いを全て理解しているヤミへ誘惑する様にダークネスは語り掛けるも、彼女は静かに呟きながら徐々に解放されていく。やがて完全に触手が引き千切れ、自由になったヤミは片手を刃にダークネスへ1歩近づいた。
「ですが、貴女のやり方では真白の心は手に入らない」
『……ァ……』
ダークネスが気付いた時、既にその手の中に真白の姿は無かった。拘束していた触手が全て切り刻まれ、ヤミが背後で真白を横抱きに抱えている姿があった為に。
『ワタシノ……マシロノ、スベテハ……!』
「急いては事を仕損じる、ですよ。…………さようなら、
手の中に真白が居なくなった事を絶望する様に叫ぶダークネスへ静かにヤミは背を向けたまま髪を巨大な刃へ
「終わりました。真白」
「……ん……お疲れ、様」
『あれ? もう終わっちゃったの?』
突然闇の中に声が響き渡る。それはメアの声であり、ヤミは真っ暗な空間を見回した。だが何処にも彼女の姿は無く、彼女はその姿が見えている様に笑いながら言葉を続ける。
『あはは! 今私の
メアの言葉の後、突然闇の中に薄明かりが見え始め、ヤミは真白を抱えたまま歩みを進め始める。徐々に光は強くなり始め……やがて2人の身体は眩い光に包まれるのだった。
「バイタルも正常。問題無いわ」
放課後。保健室でヤミの身体を見ていた御門の言葉を聞き、集まっていた一同は安心した様に息を吐いた。無事に元の姿に戻る事が出来たヤミは内に取り込んだ真白を解放する事も出来、だが空高い雲よりも上で意識を失ってしまった。しかし地上でティアーユを主導に御門から説明を受けていたお静や他の面々の協力を経てネメシスから身体を取り戻したメアが駆けつけた事でその身体は落ちる事無く支えられ、保健室へ運ばれる事になったのだ。
「良かった……2人も体調に問題は無いのね?」
「ん……」
「平気だよ。でも今まで感じてた
ティアーユは安心した後、ヤミ同様に大変な目にあった真白とメアの心配もする。だが真白は体力の消耗のみで身体に異常も無く、メアも特に大きな問題は無かった為に頷いて肯定。するとメアの言葉にヤミと真白は驚いた様に視線を向けた。2人の視線に気付いたメアは笑顔で説明する。
「私はもう、頼らないって決めたんだ。私の事は私で決める。だから改めてよろしくね! ヤミお姉ちゃん、真白先輩♪」
彼女の言葉に2人は顔を見合わせ、そして頷いた。2人を知らない者が見れば唯無表情に顔を見合っただけの様にも見えるだろう。だが2人を知る者達が集まっているからこそ、2人が嬉しそうに笑っている事に気付く事が出来た。
「……真白」
「?」
「私は今日、自分でも頑張ったと思います」
「……ん」
「ですから、ご褒美が欲しいです」
ヤミの言葉を聞いて保健室に居た殆どの者が驚かずにはいられなかった。中にはメアを始め数人が面白そうにその光景を見ており、言われた真白は少し黙った後に頷いてヤミに近づき始める。彼女へのご褒美を考えた時、真白の中で浮かんだのは今日お願いされた行為であった。実はあの時真白は了承したのだが、それが引き金となった為に中断されてしまった行為。ゆっくりと顔を同じ高さに合わせ、頬に両手を添えて顔を近づける。……そして、2人の唇は重なり合った。
「んっ」
「ん! ま、しろ……!」
「!?」
自らの唇に触れる柔らかく暖かいその感触を前に、ヤミは抑えが効かなくなったかの様に自らの手で真白を抱きしめて舌を伸ばした。ララにも御門にもされていない情熱的な舌を絡め合う口付けをされて真白が目を見開く中、ゆっくりと満足した様に口を話したヤミは口元に残る唾液を拭う。
「今はこれで満足です。……ですが、何時かこれ以上もして貰います。覚悟して置いて下さい」
「……」
「な、ななな、何やってんだ2人とも!」
ヤミの行動に驚いて若干放心状態になる真白を前に、ナナが指を差しながら声を上げる。途端に保健室の中は騒がしくなり、先程まで戦いが繰り広げられていたのが嘘の様に平和な時間が戻って来るのであった。
嘗てメアと共に立っていた彩南町を見渡せる建物の屋上で、浴衣姿のネメシスは遥か遠くから彩南高校の保健室にいる真白達の姿を眺めていた。
「なるほど。ダークネスを染めるには至らずとも、その光は影響を与えたか。そして金色の闇その者を強くした。……認めざる負えないな、心の存在を。いや、この場合は
1人誰も居ない場所でそう呟いた彼女は視線を空へ向ける。僅かに太陽が沈む夕日となり始めている茜色の空はとても美しく、ネメシスはそれを眺めて笑う。
「メアも離れて大事な下僕が1人減った。あぁ……本当に面白い。この世界は、
それを最後にネメシスは黒い霧となって姿を消してしまい、屋上には誰も居なくなるのだった。
各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?
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サブタイトルの追加
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主な登場人物の表記