【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

112 / 139
第111話 診療所でのお手伝い

 ある日の事、結城家で過ごしていた真白の元に御門から連絡が入る。内容は診療所がとても忙しく、人手がお静だけでは足りない為に手を貸してほしい。というもの。その日特に予定の無かった真白は了承。真白から話を聞いたヤミは当然乍ら美柑やモモ、リトも手伝う事となり、4人は御門の診療所で1日だけアルバイトをする事となった。

 

「お似合いですよ! シア姉様!」

 

「……モモも、綺麗」

 

 手伝いという事もあり、真白やモモ達はお静と同じナース服を着る事となった。膝丈の短いスカートの様になっている下は全員の太腿が殆ど露出しており、普段見慣れぬ真白の服装を見てモモは眼福に感じ乍ら褒め称える。だが綺麗さならば断トツの彼女の方が高く、故に真白が返す様に告げればモモは両頬に手を当てて照れた様子で身体をくねらせた。……そんな光景をジト目で眺める同じくナース服の美柑は、隣に立つ見慣れた髪色の見慣れる女性を前に再びジト目になった。

 

「で、何でリトは女の子の姿な訳?」

 

「俺が求めた訳じゃねぇ! モモに無理矢理やられたんだよ……」

 

「……リトも、綺麗」

 

「お、おぅ? ありがと? 何か複雑だけど」

 

「シア姉様。今のリトさんはリトさんではありません。リコさんです!」

 

「……リコ?」

 

「いや、俺は別にどっちでも」

 

 現在、リトは嘗てララの発明品によって性転換した姿……リコに変わっていた。それはナース服を着る事になった際、リトが女性になった経験がある事を思い出したモモの提案である。リコの姿に真白はモモへ伝える時同様に思った事を伝えるが、言われた本人の心境は元男故に複雑である。モモの訂正に首を傾げる真白を前に、頬を掻きながら苦笑いを浮かべたリコ。そんな(彼女)の姿を見て、眺めていた御門が口を開いた。

 

「性転換、ねぇ。出来るなら、後でじっくり調べさせて欲しいわ」

 

「ドクター・御門。何か企んでいますか?」

 

「いいえ、何も? さて、伝えた通り今日は忙しくなるわ。夕方までは休めないと思うから、覚悟して頂戴。その分、バイト代は弾むから。よろしくね」

 

≪はい≫

 

「頑張りましょう、皆さん!」

 

「よろしく頼むわね、皆」

 

「……ん」

 

 リコの身体を頭の天辺から足先まで眺めて告げる彼女の言葉にヤミが何かを感じて目を細めながら質問するが、彼女は首を横に振った後に手を叩いて全員に告げる。そしてリコ達が一斉に返事をする姿を前にお静が拳を握って言えば、続けて告げたティアーユの言葉に頷く真白を最後に全員は仕事を始めた。基本的にやる事は宇宙人の患者を案内したり御門やティアーユの補助をしたり等。普段から日常的に手伝っているお静に指示を受け乍ら仕事を続けていた時、患者を案内していたリコが悲鳴を上げる。見ればそこには怪我のせいでよろけたと称してリコの身体に触る宇宙人の姿が。途端、その宇宙人は命の危機を感じる羽目になった。

 

「……」

 

「ひぐっ!」

 

「私の診療所は御触り禁止よ」

 

「ひぃ!」

 

「病気では無く怪我での来院の様です。なら、多少増えても問題はありませんね」

 

「ご、ごごご、御免なさいぃぃ!」

 

 一瞬にしてリコから引き剥がされた宇宙人。真白によって壁に叩きつけられ、続いて御門の投げたメスが顔の真横に刺さり、最後にヤミが髪を数え切れない程の拳に変身させて近づけば、命欲しさに宇宙人は診療所から逃げ出す。綺麗な女性や可愛い少女達に鼻の下を伸ばしていた患者たちは、その光景を前に邪な感情を抱かない様に決意する。直して貰いに来た筈のこの場所で、怪我を増やすのは流石に笑えない話故に。

 

「……平気?」

 

「あぁ、助かった。ヤミと先生もありがとな。唯一応あれも患者だった筈だけど、大丈夫なのか?」

 

「貴女を助けた訳ではありません。真白に加勢しただけです」

 

「ふふ。患者の事なら平気よ。ああいった患者は最初にしっかりお灸を据えて置かないと、後々調子に乗り始めるもの」

 

 患者から解放されたリコに真白が手を伸ばす。その手をとって立ち上がったリコは自分を助けた3人にお礼を告げ、ヤミの言葉に笑いながら告げる御門の言葉を聞いて安心した様子で息を吐いた。その後、何の問題も無く診察は続いていき……やがて患者の数も徐々に減り始める。気付けば外も茜色に染まり始め、最後の患者を終えた御門は大きく伸びをして脱力感を感じた。すると、お茶を手にお静が御門を労う。

 

「ふぅ。お疲れ様。あら? ティア達はまだ戻っていないの?」

 

「そう言えば、ティアーユ先生とシア姉様の姿がありませんね」

 

 椅子を回転させて全員に労いの言葉を告げた御門は、2人の姿が無い事に気が付いた。最後の最後まで忙しかった全員は御門の言葉でそれに気付き、真白の行方なら知っているであろうヤミに視線を向ける。が、向けられたヤミは首を横に振った。ヤミは仕事中も常に一緒という訳には行かず、仕方なく別行動を取っていたのだ。すると、御門は真剣な表情で立ち上がる。

 

「さっきティアには使わない備品を運んで貰ったんだけど、恐らく真白はそれについて行ったのね。でもまだ戻ってきていないって事は……」

 

「見て来ます」

 

「俺も行くよ」

 

「なら私も行きます」

 

 彼女の言葉に地下倉庫へ向かおうとするヤミ。彼女の後を追う為にリコやモモが着いて行こうとするが、片付けなどが残っている為に全員で行く訳にはいかない。そこで建物の主である御門と週に1度は訪れているヤミ、そしてリコに探すのを任せ、モモと美柑はお静と共に片づけを開始する事となった。

 

「ティアはおっちょこちょいだけど、真白が居れば大丈夫の筈。でも地下には取り扱いの危険な薬品とかもあるから、流石に心配ね」

 

「そうですね。……! 止まってください」

 

「? どうしたんだ?」

 

「この匂い……」

 

 御門の言葉を聞いて頷きながら歩いていたヤミは突然2人の前に手を伸ばして歩みを止める。リコが首を傾げる中、彼女の行動で御門は自分達の元に香る微かな匂いに気付いた。それは何処か甘く、僅かな匂いだけでも頭がボーっとしそうな香り。他にも何か作用がありそうだが、香りの薄い3人の居る場所でそれ以上は何も無かった。だが今向かっている先から香るのであれば、真白とティアーユは間違い無くその香りを嗅いでいる事だろう。

 

「不味いわね。匂いからしてホレ草、パワダの花、アドレナの花が混じってる様ね」

 

「ホレ草ってララがバレンタインでチョコに混ぜたあれか!?」

 

「パワダの花はミストアで真白が力を失った原因です。アドレナの花は興奮作用があると聞きます。何故ここにあるのですか?」

 

「どれも使い方次第では便利な薬品に出来るのよ。でも失敗作もある筈だから、もしそれが漏れ出たなら……」

 

 3人が顔を見合わせ、余り嗅がない様に鼻を押さえ乍ら歩みを再開する。やがて一番匂いの濃い扉を前に、3人は意を決してその扉を開いた。途端、濃い匂いが3人を襲い始める。幸いだったのは、既に空気中に長時間漂ったその匂いに効果は殆ど無かったことだろう。だが、それが充満した際に部屋に居た者には絶大な効果を齎していた。

 

「真白……はむっ」

 

「……ティ、ア……んっ」

 

 殆どナース服を着ながらもその胸を晒した状態の2人が絡み合う姿が、そこにはあった。壁を背に荒い息をする真白に四つん這いの体勢で迫り、その首筋に舌を這わせるティアーユ。胸だけで無く大事な場所を隠す下着も膝元に引っ掛かる形で落ちており、見方によっては完全にアウトである。匂いの原因を理解していた3人は、2人がそうなってしまっている理由も当然理解する。ホレ草で相手を意識してしまい、力の出ない状態でそれでも興奮してしまった2人は求め合い始めたのだと。

 

「なっ、なぁ!」

 

 目の前の光景に顔を真っ赤にするリコを置いて、ヤミと御門は2人に近づき始める。互いの手を繋いで乱れるその姿は前に、何方が固唾を飲んだのかは定かでは無い。だが真白とティアーユは2人の存在に気付く事無く行為を続け、やがて2人はキスをしようと口を近づけ始めた。

 

「駄目です」

 

「駄目よ」

 

 しかしそれは2人の行動に気付いたヤミと御門によって阻止される。真白の顔を御門が抑え、ティアーユの口元と額に髪を回してヤミが引き剥がす。だが薬のせいで互いの事しか見えないとばかりに手を伸ばし合う2人を前に、御門は溜息を吐くとリコに傍にある薬品を数個取る様に指示を出した。驚きながらもそれをリコが集めた時、御門はそれを目の前で調合し始める。……そうして出来上がったのは、2本の試験官に入った青色の液体。

 

「疑似ラックベリー薬よ。これを飲ませれば治る筈だわ」

 

 そう言って手渡された試験管をヤミはティアーユに飲ませる為に、髪に力を加えて強引に抑えた上で口を開かせた。僅かに零しながらもやがて喉を鳴らしてそれを飲み込んだ時、ティアーユの目は徐々に正気を取り戻し始める。自分が何をしていたのかあやふやな様で、現在の状況に困惑しながら。一方、御門は真白に同じく飲ませようとしていた。が、真白はそれを飲もうとしない。力の入らない身体で抵抗は出来ず、だが口は閉じて流し込まれても喉に通そうとしなかった。

 

「本当に染まり易いわね、貴女」

 

「? ドクター・御門? なっ!?」

 

 今、真白の頭の中にはティアーユの事しか無いのだろう。故にそれ以外の者から与えられる干渉を拒み続けている。もし、真白が誰かに恋をしたのなら……そんな事を考えながら御門は何を思ったのか、自分が用意した薬を自分の口へ入れ始めた。彼女の行動に訝し気な視線を送ったヤミは、続いて行った行為にその目を見開いてしまう。

 

「んっ……」

 

「っ!」

 

 真白は御門の口から直接流し込まれる液体を拒む事が出来なかった。滑る舌に唇の間をこじ開けられ、零れない様に抑え付けられて流し込まれる液体は喉を通す以外に逃げ場が無い。それでも僅かに2人の口元から青い液体は滴り落ちるも、真白の正気を取り戻すには十分の量が彼女の中には入り込んだ。そして御門がゆっくりと顔を離した時、真白は虚ろな目のままゆっくりと身体を倒す。それを察知していた御門は素早くその身体を床に打ち付けない様、受け止めた。

 

「これで大丈夫よ。戻りましょう」

 

「あ、あぁ。えっと……」

 

「…………」

 

 御門は真白の身体を横抱きに抱え、何食わぬ顔でそう言って部屋を後にしようとする。衝撃的な光景に顔を赤くしたまま了承する事しか出来ないリコはその後を追う為に歩き出し、ヤミも無言で困惑した後に気絶したティアーユを髪で持ち上げて歩き始める。が、リコはヤミと御門の間に流れる空気に怯える事しか出来なかった。明らかに普段と違う冷たい視線を送るヤミと、そんな彼女の視線に気付きながら特に気にした様子も無く真白を運ぶ御門。やがて微かに振り返った彼女はヤミと目を合わせ、薄く笑みを浮かべて地下倉庫から出る。そして彼女の笑みを前に、ヤミはそれ以上無い程に無の表情を見せるのだった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。