【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第104話 魔剣ブラディクス【後編】

 リトは目の前に迫る刃を前に死を覚悟した。だが突然横から飛来した何かが凛の持つブラディクスの刀身にぶつかり、その振るわれる刃の軌道はリトの真横すれすれとなって地面へ振り下ろされる。訳も分からず呆気に取られるリトを前に光の無い目で凛が刃を横へ振るおうとする。しかし1度振り下ろした時間によって辿り着いた真白がリトの着ていた執事服を掴み、その身体を連れて大きく跳躍した事で再び回避に成功する。

 

「のわぁぁぁ!」

 

「……」

 

 状況について行けず叫んでしまうリトを片手に着地した真白はその手を離し、メアへ視線を向ける。彼女の長いおさげの先はハンマーの様になっており、笑みを浮かべて目を合わせる彼女はその髪を元に戻す。……リトを救ったのは他ならない、メアであった。

 

「……ありがとう」

 

「どういたしまして♪ 真白先輩」

 

 それは彼女の変化なのか、それとも未だにヤミが行う事に意味があると考えているのか……定かでは無い。だがあの瞬間リトを救ったのは彼女であり、真白が感謝するには十分の理由である。誰かの血を欲して再び構える凛の姿を前に、真白は数歩前に出るとメアにもう1度視線を向けた。

 

「……入れる?」

 

「う~ん、出来るけど……今九条先輩の中はブラクティスが支配してる。中に入ったら襲われるよ? 最悪、真白先輩の心は壊される。そんな危険を冒してまで助けに行く理由があるの?」

 

「……友達、だから」

 

「! ……そっか」

 

 メアは真白の答えに僅か乍ら目を見開いた後、納得した様に呟いた。数日前にナナと本当の友達に成れたメアだからこそ、真白が答えたその理由は彼女を揺らす。2人の会話を聞いていたモモがまさかと思って顔を上げる中、メアは微笑みを浮かべて言葉を続けた。

 

「良いよ、繋げてあげる。その代わり、次の日曜日はカレーにしてね?」

 

「……分かった」

 

「待ってください、シア姉様!」

 

「な、何する気だよ!?」

 

「ま、真白?」

 

「……」

 

 頷いて了承した真白の姿に引き止めようとするモモと何かをしようとしていると分かりながら、それが何かは分からないナナが声を上げる。リトも衝撃から立ち直った後に嫌な予感を感じて凛へ近づき始める真白の背中へ視線を向け、唯一ヤミだけがその姿を前に何も言わずジッと見続けていた。……やがて(ブラディクス)が近づいてくる真白へ容赦無く剣を振るった時、数分前の同様にその刃は間に入ったヤミによって防がれる。今度は流さず、両手でその刃を微かに表情を歪めながら受け止めて。

 

「気を付けてください、真白」

 

「……ん」

 

「行くよ、精神侵入(サイコダイブ)!」

 

 ヤミの見送りを受けて、真白は刃を持つ凛の手を包む様に握る。その瞬間、メアによってその精神は支配された凛の中へ落ちて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い闇の中、漂う様に浮かぶ真白の目の前には四肢を拘束されて吊るされる裸の凛が存在していた。精神体故に真白も裸であり、静かに彼女の元へ近づき始める真白。だがそれを妨害する様に突如彼方此方から触手の様なものが迫る。両手を、両足を絡めとって拘束する触手。やがて真白が両手両足を大きく開く状態で身動きが取れなくなった時、その目の前に目玉が出現した。

 

「何だ、テメェは。外部からの侵入者? まさか、俺以外に精神侵入出来る奴が居るってのか?」

 

「……」

 

「はっ! だがテメェみたいな雌餓鬼、簡単に支配してやるよ! ぎゃはははは!」

 

 それは魔剣ブラディクスの意思であり、ブラディクスはそう言って拘束する触手とは別に真白へ闇の中から触手を出現させて襲わせ始める。一瞬にして真白の姿は見えなくなり、闇の中には彼の笑い声が響き渡る。身体も心も支配されている凛は微かに微睡む様な意識の中、目の前で触手に飲まれる真白の姿を見た。それが誰なのかも徐々に分からなくなり、そしてその意識は再び落ち始める。……ブラディクスは勝利を確信して再び笑い始め、だが突如その笑いが止まる。

 

「あぁ?」

 

 飲まれた真白の周りは完全に触手で埋め尽くされていた。だが突然小さな光が漏れ始め、徐々にその光に当てられた触手が溶ける様に消え始めた事でブラディクスは驚く。消滅する速度は増して行き、やがて手足を拘束していた触手も含めて真白の周りにあった物は光によって掻き消された。

 

「餓鬼、何しやがった!?」

 

「……邪魔」

 

 驚き戸惑いながら質問するブラディクスを前に真白は軽くその目玉を払う。途端に大きな衝撃と共に吹き飛ばされたブラディクスは限界までその目玉を見開いた。浮かぶ様にして凛の傍へ近づいた真白は彼女を拘束する触手に触れ、先程と同じ様にそれを消していく。やがて全てが消えた時、真白は自分よりも大きな凛の身体を抱きしめる様に抱えた。そして何事も無かったかの様に自分が現れた場所へ戻り始める。そこには真白が使う光とは違う明るさがあり、ブラディクスはそれが精神の中と外の出入り口であると嫌でも理解した。そして、それを止める為に動き始める。

 

「折角手に入れた肉体だ! まだ斬り足りねぇんだよ! 逃がすかぁ!」

 

「!」

 

 目にも止まらぬ速さで近づいた1本の触手が真白の胸を貫く。それは肉体的では無く、精神的に真白の身体を支配する為に伸ばされた触手。ブラディクスは再び笑い声を上げて自分を邪魔する真白の精神から支配を始めようとして……再び目を見開いた。

 

「な、何だこれは!」

 

「あ~あ、やっちゃった」

 

「!? また侵入者だと!?」

 

 何かに困惑するブラディクスは突然現れたもう1人の侵入者に驚いた。それは真白をこの場所へ繋げたメアであり、彼女は目を細めて貫かれる真白を眺めた後、ブラディクスへ視線を向けた。

 

「九条先輩を支配出来たから真白先輩も支配出来ると思ったんだろうけど、甘かったね。……その人、貴方程度じゃ支配出来ないよ」

 

「ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!」

 

 真白の精神を支配しようとしたブラディクスが困惑する理由。それは支配しようとする力をどれ程強くしようとも、その精神を支配出来ない事であった。今まで誰かを支配して自分を使わせ、何かを斬って来たブラディクスにとってそれは認められない事実。メアの言葉に怒りを現にして本気で支配しようと更に触手を真白に伸ばすが、それが身体を貫く前に真白の手に握られる事で止められてしまう。

 

「何っ!?」

 

「鉄は打たれて強くなるって言葉があるらしいけど、精神も同じなのかな?」

 

「……さよなら」

 

「俺はぁ! もっと血をぉ! おぉぉぉ!」

 

 メアの言葉の意味をブラディクスが理解する事は出来ない。貫いた触手や握られた触手が最初同様に真白から生まれる光に消されて行き、真白はそのまま凛を連れて精神世界から外へ出る。途端、現実では凛の手からブラディクスが落ちる。それは真白が成功した証であり、落ちたブラディクスは刀身に足を生やして移動し始めた。

 

『ふざけるな! あんな小娘共に! こうなったら何処かの街で新しい身体を……!?』

 

「……さようなら」

 

 だが逃げていたブラディクスの上に巨大な金槌が落とされる。それはヤミが手を変身させたものであり、ゆっくりと持ちあげたその下には完全に折れた刀身のみが静かに残っていた。真白と凛は同時にその身体を倒し始め、素早く控えていたモモとナナが2人の身体を受け止める。

 

「シア姉様!」

 

「先輩!」

 

「2人は大丈夫なのか!?」

 

「大丈夫だよ、リト先輩。どっちも寝てるだけ。そういう風に作られた私ならいざ知らず、生身の人間が他人の精神に入り込むのは消耗するからね。九条先輩も支配されてたから消耗してるけど、ちゃんと目覚めると思うよ?」

 

「そ、そうか……はぁ~」

 

 目を閉じたままの2人に焦ったリトだが、メアの言葉を聞いて安心した彼は大きく安堵の溜息を吐いた。状況は正に一件落着であり、その後騒ぎを聞いて駆け付けた沙姫達にも説明をして2人は屋敷のベッドに運ばれる事となる。そして真白が眠る部屋を庭の外から眺めていたメアは気付けば背後にいたネメシスに気付いて振り返る。

 

「真白先輩の精神を完全に支配するなんて私達でも無理なのに、魔剣如きが出来る訳無いよね」

 

「あぁ、当然だ。家族だけで無く友にまで命を掛けるその精神()……益々染め甲斐がある」

 

 そう言って笑うネメシスはそのまま姿を消してしまう。メアは再び真白と凛が眠る部屋の窓に視線を向け、遠くから聞こえるナナの声に返事をして掃除を再開するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日が暮れ始めた夕方。夕日の差し込む部屋の中で、凛は目を覚ます。最初に見えるのは見慣れた天井であり、彼女は寝起きの朧気な思考で自分がどうして眠っていたのかを思い出そうとする。最後に覚えている記憶は2階の倉庫で真っ赤な刀身の刀剣を触った事。それから先の記憶は無く、凛は手掛かりを求めて周りを見渡す。

 

「……三夢音……真白」

 

 同じ部屋で別のベッドに眠る真白の姿があり、凛はその姿を前に一瞬だけ蘇る記憶に困惑する。それは暗い世界で触手に飲まれていく真白の姿。詳しい事は定かで無いが、凛はその出来事を思い出すと同時にその時感じた事を思い出す。それは同じ精神世界に居たからこそ、無意識に感じる事が出来た真白の心。

 

「お前は、私を助けようとしたんだな……守ろうと、したんだな……」

 

「……すぅ……すぅ」

 

 静かに寝息を立てる真白の姿を眺め、凛はまだ怠い身体を再びベッドへ倒す。起きた事を報告すべきだと分かりながら、暖かい何かを感じた凛はそのままゆっくりと目を閉じ始めた。

 

「友達……か」

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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