【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第103話 魔剣ブラディクス【前編】

「ようこそいらっしゃいましたわ! 三夢音さん! ヤミさん!」

 

「急の呼び出しですまないが、来てくれて感謝する」

 

「……ん」

 

 天条院家の屋敷に訪れた真白とヤミを出迎えたのは沙姫・凛・綾の3人であった。今回は招待では無く、凛から美柑経由で連絡があった為にやって来た真白。その理由は昨夜、沙姫が使用人を労う為に料理を作って振る舞った結果、全員が今朝から腹痛で仕事が出来なくなってしまったのが原因であった。屋敷の事を出来る人物が誰も居ない。その状況の解決方法としてすぐに思い至ったのは結城家で家事を行っている美柑と真白に来て貰う事であった。だが美柑は用事がある故に来れず、結果真白と付き添いのヤミだけが天条院家に訪れる。

 

「さ、早速着替えてください。此方がその、メイド服です」

 

「貴女方が住む家とは比べ物にならない広さですので、大変だとは思いますが頼みましたわよ?」

 

「……頑張る」

 

「私も手伝います」

 

『ご安心ください! シア姉様!』

 

 綾から天条院家に仕えるメイドが着ている服を手渡された真白は沙姫の言葉に答え、ヤミの言葉に頷いて返した。その時、突如屋敷内に響き渡るモモの声に全員が玄関口へ視線を向ける。突然独りでに開き始めた扉の向こうには、真白の持つメイド服とは違うスカート丈等が短いメイド服を着たモモ、ナナ、メアの3人が立っていた。そして彼女達に交じって執事服を着た何とも言えない表情を浮かべるリトの姿もあった。

 

「私達もお手伝いします!」

 

「この前美柑がお世話になったからな。俺にも手伝わせてくれ」

 

 綾と凛は沙姫に判断を委ねる為、視線を向ける。リトの体質に何度か巻き込まれた経験のある沙姫は彼の存在に少し渋るが、その思いは伝わったのだろう。他の3人共々やがて許した事で全員は改めて天条院家の1日限定使用人となった。綾に渡されたメイド服はスカート丈の長い正統派な物であり、着替える為にその場を離れる真白にモモが声を掛けて着いて行き始めると、しばらくして出て来た真白はモモ達と同じスカート丈の短いメイド服で姿を見せる。傍には同じ服を着たヤミの姿もあり、それを見たナナやメアは嬉しそうにその姿を眺めた。

 

「……これで……良い?」

 

「仕事に差し支えなければ構いませんわ」

 

「ふふっ、良かったです。……」

 

「な、何だ?」

 

 確認する真白へ気にした様子も無く沙姫が答えると、安心した様に微笑んだモモが傍に立っていた凛へ視線を向ける。少し嫌な予感を感じた凛がその様子に質問した時、モモは何処からともなく同じメイド服を取り出した。

 

「実は後1着あるんですが、着て見ませんか?」

 

「いや、私は」

 

「そうですわね。凛も偶には可愛い恰好をしてみても良いかも知れませんわ」

 

「さ、沙姫様!?」

 

 モモの提案に断ろうとした凛だが、まさかの援兵に動揺してしまう。そしてそのままあれよあれよと言う間に他の全員と同じ格好にされた凛。恥ずかしそうにスカートを掴みながら、彼女は気にしない様にする為か仕事を開始する様に言う。真白はヤミと共に。メアはナナと共に。リトはモモと共にそれぞれ別々の場所を掃除から開始し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沙姫の言う通り、一般家庭とは比べ物にならない程に広い屋敷内の掃除は簡単では無かった。髪を箒にして高速で掃除を進める傍らで普段通り掃除を行い続ける真白。1部屋ずつ進めていた2人は次の部屋に入り、そこでリトの顔へ馬乗りになっている凛の光景を目撃する。何も言わずにその光景を見つめる真白と、何も言わずに目を細めるヤミ。凛は2人の姿に気付くと、素早く立ち上がってリトを引っ叩いた。

 

「……」

 

「この不埒者! お前たちも誤解するな! 今のはこいつが足を滑らせて巻き込まれただけだ!」

 

「何時ものですか。懲りませんね、結城 リト」

 

「業とやってる訳じゃねぇって!」

 

「……怪我、無い?」

 

 必死に説明する凛の姿に普段のリトを知っている為、誤解せずに理解したヤミが冷たい視線をリトに向ける。そして叩かれた頬を擦りながら立ち上がるリトの言葉に真白が2人へ交互に視線を向けて確認した。足を滑らせたとの事であったが、リトが凛に叩かれた以外に被害は何も無い様子である。

 

「ここは既に終えている。お前たちは隣の部屋を頼む」

 

 短いスカートを叩きながら真白とヤミに告げた後、リトを一瞬睨んで部屋を後にする凛。彼女の姿を見送った後、ヤミは改めてリトに冷たい視線を向ける。彼自身が業とでは無いと言い、実際に本当なのはヤミも真白も知っている。だがそれでも流石にその事で援護する気にはなれなかった。何度か自分達も被害を受けている故に尚更である。

 

「と、取り敢えず掃除を続けようぜ!」

 

 リトの言葉に頷いて部屋を出る真白に切り替えたヤミも追い掛ける様に部屋を出る。別の場所では恥ずかしさと憤りを感じ乍ら美柑に言われたリトの良い所を思い出して否定する凛が歩いており、彼女は2階の倉庫の整理を始める。そこには沙姫の父親が集めたコレクションがあり、新しく送られて来たそれを確認する為に蓋を開いた凛の目に映ったのは異様な形をした刀剣であった。

 

 別の場所の掃除を開始していた真白とヤミは突然感じる気配に驚き、顔を見合わせる。何かが肩に重しとして圧し掛かっている様な気配は尋常では無く、何も言わずに警戒をし始めた2人。すると突然僅かな亀裂が天井に入り……一気に何かが落ちて来る事で崩落した。土煙が舞い上がる部屋の中で何が落ちて来たのか確認する2人に映ったのは、真っ赤な刀身をした刀剣を手にゆらゆらと揺れる凛の姿であった。

 

「真白、これは……」

 

「……」

 

 明らかに様子がおかしいその姿にヤミが真白へ声を掛ければ、真白は頷いて凛の前に立つ。彼女の目に光は無く、唯只管その口は同じ言葉を繰り返していた。

 

「よこせ……よこせ……血を、よこせ……!」

 

「!?」

 

 突然飛び出た凛は常人では見えない程の速さで真白の前に立ち、その刃を振るう。驚きながらも間一髪体勢を低くして避けた真白は距離を取ろうとするが、離れた先には一瞬で先回りした凛が構えていた。しかしその刃が振るわれるも真白に届く事は無い。間に入ったヤミが手を刃にして防いだからである。

 

「よこせ……よこせ!」

 

「くっ!」

 

 重い一撃を受け止め、それをヤミが横に流せば一瞬にして壁が破壊される。他の部屋や外で掃除をしていた面々も響き渡る轟音を聞く中、ヤミは距離を取って真白と並んで凛と改めて対峙した。

 

「恐らく原因は」

 

「……剣」

 

 見た目は変わらず、可笑しいのは雰囲気と格好に不釣り合いの禍々しい刀剣。元凶は明白であり、ヤミと真白は同時に頷いた。途端、再び2人の目の前に現れた凛が刀剣を大きく横に一閃。跳躍して2人は回避するが、2人の立っていた場所の後ろにあった壁には巨大な斬痕が出来上がる。

 

「私に刷り込まれた武器、兵器に関する知識の中に該当するものがあります。魔剣ブラディクス。寄生型の知的金属生命体です」

 

「……」

 

 生まれ故にヤミの頭の中にはその類の知識が詰め込まれていた。真白は彼女の言葉を聞いて凛を解放する為にすべき事を考える。一番分かり易いのは彼女の手から刀剣を離す事だろう。だが凛を傷つけずにそれを行うのは容易では無い。人間業では無い斬撃を紙一重で躱しながら、真白とヤミは目を合わせた。

 

「破壊します」

 

「それは止めた方が良いよ、ヤミお姉ちゃん」

 

 ヤミの言葉に突然それを止める声が掛かり、2人は崩れた壁の向こうに視線を向ける。そこにはメアを始めとして手伝いに来ていた面々が揃っており、驚く様子があった。訝し気に視線を送るヤミと何も言わずに説明を待つ真白へメアはやがて言葉を続ける。

 

「あの剣が九条先輩に使ってるのは私と同じ精神侵入(サイコダイブ)の応用、肉体支配(ボディジャック)。髪の毛の1本まで物理、精神共に支配して所有権を奪う方法。つまりあの剣と先輩は今一心同体って訳。だとしたらあの剣を壊した瞬間」

 

「っ! 彼女の精神も壊れる訳ですか」

 

「そ、それってどうなるんだ?」

 

「精神の破壊。それは彼女の心が失われると言う事です。そして失った心は二度と戻りません」

 

「まさか……」

 

「多分、二度と目を覚まさないんじゃないかな?」

 

 メアの言葉を聞いて理解するヤミを前に恐る恐るナナが聞けば、モモが真剣な表情で続けた。彼女の言葉に嫌でも察してしまったリト。声にするのも恐ろしいその結果に顔を青くする中、さも当然の様にメアは言い切ってしまう。全員が改めてゆらゆらと揺れる(ブラディクス)へ視線を向けた時、その姿が消えた事で一斉に戦慄した。そして彼女の姿が次に現れたのは、リトの背後であった。

 

「リトさん!」

 

「!」

 

 宇宙人である真白が一度回避出来なかった程の速度に地球人である彼がついて行ける筈が無い。真白は即座に駆け出すも距離がある故に間に合う様子も無く、刃を構えるその姿を前にリトが目を見開く中、モモの声が響くと同時にその刃は無情にも振り下ろされた。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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