【完結】ToLOVEる  ~守護天使~   作:ウルハーツ

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第102話 日曜日の夜。ネメシスの歪なお礼

 日曜日。明るい時間を御門の家で過ごした真白はヤミを連れてメアとネメシスの住むマンションに足を運んだ。その手には途中で寄ったスーパーのレジ袋があり、チャイムを鳴らせば笑顔で玄関を開けるメアに迎えられて2人は中へ入る。リビングで優雅に寛ぐネメシスの姿が中にはあり、真っ直ぐキッチンへ入る真白とは別にヤミが彼女と睨み合う。

 

「やっとこの日が来たか。そう睨むな、金色の闇よ」

 

 余裕そうにネメシスは真白の姿を確認した後、自分を睨みつけるヤミへ告げる。何も答えずに警戒を続けるヤミと2人でリビングに残る中、キッチンでは食材をまな板やキッチンの台に乗せる真白と夕飯のメニューが気になるメアの姿があった。

 

「真白先輩、今日は何作るの?」

 

「……ハンバーグ」

 

「ハンバーグ。確かお弁当のおかずで食べた気がする! 何か切るのがあったら言ってね!」

 

 何度か食べた事のあるお弁当のおかずにあったハンバーグを想像して期待を膨らませたメアは笑顔で続ける。真白の料理を手伝おうと最初は始めた食材を切る行為。だが()る事に快感を感じてしまったメアはその日以降、料理の手伝いと称して何かを斬りたくて仕方が無かった。一度始まってしまえば粉々になるまで斬り続けるメア。故に真白はメアの目の前に玉葱を置く。ハンバーグを作る過程でそれをみじん切りにする必要があり、何もかも切り刻むメアには丁度良かった。

 

 隣でメアが恐ろしい速度で玉葱を切り刻むのを横目に真白もひき肉や卵などを用意して料理を開始する。やがて恍惚とした表情を浮かべるメアの前に置かれた粉々の玉葱を加えて捏ね続けた後、大きい4つの肉塊を作って焼き始める。徐々に香り始める美味しそうな匂いに戻って来たメアが再びワクワクし始める中、リビングでは未だ警戒中のヤミと優雅に寛ぐネメシスの姿が続いていた。

 

「私達を警戒するお前が真白がここに来る事を許すとはな」

 

「貴女達を受け入れようとしている私達が距離を取るのは間違っている。それだけです。警戒は解きませんが」

 

「ふっ。矛盾しているな」

 

 明らかにピリピリとした雰囲気を醸し出す2人。だがそんな2人の元にその雰囲気に合わない楽しそうな声が聞こえ始める。両手にお皿を持って現れたメアの声だ。皿の上には出来たてのハンバーグがあり、ネメシスはその匂いとテーブルに置かれるそれを前に座り直す。メアの後ろから真白も両手にお皿を持って現れ、テーブルの上には4つのハンバーグと野菜の乗ったお皿が置かれた。

 

「メア、米を」

 

「はいは~い! あ、でも勝手に食べちゃ駄目だよ? 主」

 

「分かっている。早く全員分をよそえ」

 

 自分達で用意した炊飯器(・・・・・・・・・・・)からしゃもじで用意してあったご飯をお椀へメアがよそい始める。初めて真白が料理を作った日、食事をする上で絶対に必要と言っても過言では無い主食の米。カレーを食べてその偉大さを知ったネメシスは迷わず炊飯器とお米を購入して家に置く様にしていた。そして真白が来ない日は適当に何かを食べて過ごす2人は真白が来る日曜日のみ、ネメシスがメアに命令して米を炊かせる。……一週間に一度、美味しい物をお腹一杯食べれるチャンス故に。

 

「頂きま~す!」

 

「ふん、頂こう」

 

「……頂きます」

 

「頂きます」

 

 メアの言葉に続く様にネメシス、真白、ヤミが手を合わせると食事を開始する。幸せそうに頬を緩ませるメアと彼女程では無いが笑顔が隠し切れずにニヤけるネメシスの姿は何処からどう見ても可愛らしい少女であり、真白はその姿を無表情乍ら優しく眺めて箸で分けたハンバーグの一部を口に入れる。

 

「ヤミお姉ちゃんは良いな~。毎日真白先輩の料理食べれるんでしょ?」

 

「正確には真白と美柑の料理です。美味しいですよ、とても」

 

「ふむ。真白、そろそろ日数を増やさないか?」

 

「……駄目」

 

 羨ましがるメアへ正直にヤミが答えた時、それを聞いていたネメシスは前々から行っていた交渉を再び始めようとする。だが開幕で即座に答えが出され、ネメシスは面白く無さそうに箸に乗せたご飯を口を放り込んだ。一度真白の手料理を食べてしまって以降、ネメシスは味に関する最低ラインは底上げされてしまったのだ。適当に購入可能なお弁当等では空腹を満たせても味は満たせない。一週間に一度来る日曜日が待ち遠しくなり、故に日曜日だけ彼女達は普段以上の量を食べる。

 

「あ、ご飯無くなっちゃった」

 

「何? しっかり5合炊いたのか?」

 

「ちゃんと炊いたよ。前回4合じゃ足りなかったから、残って良いと思って思い切ったもん」

 

「真白。確か1合はこの茶碗に2杯、ですよね?」

 

「……ん」

 

 炊飯器を覗き込んで中に何も無い事に気付いたメアの声でネメシスが驚きながら確認し始める光景を前に、ヤミは真白へ質問する。1合は約お茶碗2杯程の量であり、2人の会話が本当ならば10杯分はあった筈である。だが真白とヤミが1杯ずつよそった後は1度も御代りしておらず、それはつまりメアとネメシスで8杯分を食べたと言う事。実は6日間何も食べて無いのでは? と錯覚してしまう程の食べっぷりである。

 

「次は6合で炊くべきか……幸い米は余る程用意してあるからな」

 

「そうだね。それじゃあ残ったおかずだけ……♪」

 

 真剣に米の炊く量を考えるネメシスの言葉に頷いた後、メアは残ったハンバーグを一気に口の中へ放り込んで満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜遅い時間に結城家へ帰宅する真白とヤミは、遅い時間という事もあって日曜日のみ『彩南ぽかぽか温泉』へ行く様にしていた。毎日から一週間に一度となった温泉。慣れた様子で中に入れば、閉店前故に人の姿は非常に少なかった。湯浴みをして身体を洗い、湯船をヤミと共に浸かった真白。だが突然その身体にゆっくりと誰かの手が這い始める。驚き後ろに振り返れば、そこに居たのは裸のネメシス。斜め前に居るヤミからは真白の身体で見えない様な位置取りで、ネメシスは驚く真白の口を手で塞いだ。

 

「食事の礼だ。気持ち良くしてやろう」

 

「!?」

 

 湯船の中で背後から伸ばされるネメシスの手が真白の胸へ容赦無く襲い掛かる。驚きながら与えられる快感に反応するが、口を塞がれている為にその声は抑えられてヤミには届かない。が、当然ヤミが何も真白に話し掛けない筈が無かった。ヤミが気持ち良さに細めていた目を真白へ向けた時、ネメシスの姿が消える。微かに荒い息をした真白を残して。

 

「真白、どうかしましたか?」

 

「……ネメ、んっ!」

 

「真白?」

 

「……何でも、無い」

 

 掛けられた声へ正直に答えようとした真白だが、微かに自分の弱点である過去に羽のあった部分を撫でる指の感覚にその言葉は遮られる。それは同時にヤミへ教えようとすればその場所を攻めるというネメシスからのメッセージでもあり、真白は首を横に振ってヤミへ嘘を告げた。首を傾げながらも「そうですか」と言って視線を外し、再び暖かさにボーっとし始めるヤミ。その傍では視線が外れた事で姿を見せたネメシスが真白の身体を弄び始める。

 

「ほれ、ここが良いのか?」

 

「っ! 止め、て……」

 

「ふふっ、愛いな。この調子で私でしか感じられない身体に……!?」

 

「何、しているのですか?」

 

 耳元で囁くネメシスが更に真白を攻め立てようとした時、突然自分の身体があった場所に斬撃が襲い掛かった。少し驚いた様子ながらも軽々と回避して湯船の中で距離を取ったネメシスは、真白の傍に立つヤミと向き合う。睨みつける裸のヤミからは途轍もない殺気が放たれ、数少ない銭湯を楽しんでいた人々は恐怖から逃げだしてしまう。結果、銭湯には荒い息の真白と笑みを浮かべるネメシス。そして彼女を睨みつけるヤミの姿だけが残った。

 

「ちょっとした礼だ。気にするな」

 

「それで済むとでも?」

 

「済ませるさ。ではな」

 

 余裕綽々で答えた後、ヤミの言葉に軽く笑ってその姿を湯気に紛れる様にネメシスは消してしまう。捕まえる手段は無く、ヤミは怒りを抑えて真白へ近づいた。暖かいお湯に浸かって荒い息をするのは余り身体に良く無い為、ヤミはその様子を見て真白へ身体を貸して湯船から出る事にする。そしてそのまま銭湯を後にした真白は警戒するヤミと共に結城家への帰路へつくのだった。

各話の内容を分かり易くする為、話数の後に追加するのは何方が良いでしょうか?

  • サブタイトルの追加
  • 主な登場人物の表記

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