真・恋姫†三國伝~群雄飛翔~   作:椛颪

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戦闘パートは難しいですな。上手く表現出来ないから四苦八苦しております


八話

 敵の攻勢が思ったより弱い。徐盛は槍を構えた兵達が敵の歩兵隊にぶつかる様子を馬上から眺めながら、自ら絶ち割れてゆくような動きを見せる敵軍に対して言いようのない違和感を感じていた。

 

「兵の損耗を抑えてるのか。これでは今一盛り上がらんぞ……」

 

 じゃれ合いのような戦況に歯痒さは感じるが、其れを以て暴れる程に徐盛は若くない。今はとにかくひたすらに耐える時間だ。唯一孫皎隊が派手に敵部隊とやりあっていたが、それも既に沈静化し、今は遊軍として忙しく駆け回っている。

 敵は、待っているのだろう。官軍の本隊が打ち破られるのを。そして、我々も叛乱軍の別動隊が敗れるのを待っている。その為の策は、昨日の内に講じてある。

 

「敵が引いたか……こちらも一時的に後退しろ。一旦陣形を立て直す!」

 

 流石に厳しい調練を耐え抜いただけの事はあって、徐盛隊の兵達は素早く方陣を組み直す。珠蓮の騎馬隊も、一度十座隊の背後に着いて馬を休める事にしたようだ。

 

「兵の損耗も殆ど無し、か。ちったあやるようになったじゃねえか」

 

「必死でしたからね、兵達を生かすのに。これからも上手くいくとは、思って無いっすけど」

 

 こいつは鼻が利く。大方、最前線にありながら上手く立ち回ったのだろう。

 

「しっかし、敵さんの動きも胡散臭い。耐え忍ぶのにゃあ慣れてるが、どうも八百長っぽいのは嫌いでね。蹴散らしっちまいたくなる」

 

「分かるっすよ、その気持ち。何も考えずにバーってやっちまった方が、楽っすもんね?」

 

「そうじゃねえよダボ。芝居に付き合わされんのが嫌だって話だよ。……っつーか珠蓮よ、今のを慎の奴が聞いたら絶対泣くぞ?」

 

「い゛――っ!?だ、大丈夫ですって!ちゃんと慎さんの教えは理解してますから!」

 

「実践はしていない……だろ?」

 

「ぎくっ」

 

 二度目の拳骨を孫皎の脳天に振り下ろし、徐盛は再び戦場に視線を投じる。戦況は動きなく、恐らく官軍か賊軍が壊滅したとの報が入る時こそ転機となるだろう。そう踏んで、ただじっと待つのみであった。

 

――――――――――――

 

 賈詡は自分が指揮を執る部隊を鋒矢陣形に編成し直し、敵の襲来に備えていた。董卓軍は雍州が本拠地というだけの事はあって、騎馬隊の精強さには定評がある。それを知っていた張温が、皇甫嵩に働きかけて遊軍扱いとして貰ったのだ。承認されたのはつい先ほどの事だったが。ともかく、戦場においてある程度自由に動き回れるというのは非常に有益なことだ。

 

刹那(くしゃな)、先鋒として敵軍に一当たりして来て頂戴。勢いがあるから、側面を衝くように心掛けてね」

 

 賈詡が呼び付けたのは樊稠と同じく董卓軍の中核を為す猛将、徐栄である。彼女は母が浮屠(ふと)(ともがら)(仏教徒のこと)であったことから、自分もこのような真名を持つに至った、と周囲に語っている。彼女は幽州の出身であり所謂外様武将といった扱いなのだが、実力人格の双方を評価されており、軍内でも地位は高く扱って貰っている。

 

「お任せあれー♪敵軍を撹乱し、見事に鋭気を殺いでみせましょう♪」

 

 酷く軽薄は口調は、生来の物だと徐栄は言う。兵の士気が緩むから直せ、と何度言っても改善しないので、賈詡は最早諦めの境地に達していた。それも殆ど言い掛かりのようなもので、実際に兵達がそれで緩む事は無いと知ってはいるのだが。

 

「――相変わらず、刹那の事は苦手なようでございますな」

 

「あれで弱かったら、とっくに狼の餌にでもしてやってるわ。強いから、仕方なく使ってあげてるだけよ」

 

「苦手なのは、否定なさらないのですな」

 

「……事実を否定する程、バカじゃないわよ。というか、アンタが推挙した武将って皆アクが強くて使いにくいのよ!どうにかしなさいよね!」

 

 賈詡が顔を真っ赤にしながら文句を言い募るが、対する樊稠は何処吹く風といった表情でからからと笑っている。ちなみに、彼女が推挙した武将の筆頭と言うのが今前線に向かっている徐栄である。彼女をみれば、他の面々がいかにアクが強いのかも推して知るべしであろう。

 

「……っと、刹那がぶつかるようですぞ」

 

「どれどれ……?」

 

 徐栄の率いる騎馬隊は、筒袖鎧(とうしゅうがい)と短弓、長剣のみを装備した軽騎兵だ。機動力に優れ、相手を攪乱する戦法に効果を発揮する。更に幽州出身の彼女に鍛えられた兵達は騎射も習得しており、強力無比な機動戦力として勇名を馳せている。

 一気に距離を詰め、騎射の構えを取らせる。何度も繰り返しただけの事はあり、皆慣れた手つきだ。馬に振り落とされるような間抜けは、とうに居なくなっている。死ぬか、自ら去るか、そのどちらかによってだ。右手を高く掲げ、風の唸りと共に振り下ろす。それだけの合図で、千本の矢が敵の左翼目掛けて殺到してゆく。敵がもんどりうって倒れてゆく様を表情一つ動かさずに見やりながら、さらに斧槍(ハルバード)を持った左手を掲げる。そして、

 

「全軍、敵を抉り取れッ」

 

 叫ぶ。同時に、千騎が一丸となって敵に殺到する。互いの陣形の表面を舐めるような軌道で両者は交錯したが、派手に血風を巻き起こしたのは徐栄の部隊であった。横殴りの軌道で斧槍を振るう。それだけで、一気に四つも五つも首が飛んだ。一瞬の交錯の後、徐栄は馬首を返して敵軍の背後に躍り出る。再び駆け出し、右手を掲げて振り下ろす。後方から降り注ぐ矢雨に混乱の兆しを見せる左翼に対し、再び左手を振り下ろした。先程の交錯よりも被害は増し、躍起になった叛乱軍は徐栄の部隊を追い立て始める。徐栄はそれを尻目に、今度は中央軍に踊りかかってゆく。併走するように敵陣の表面を削り取り、右翼方向へ駆け抜けながら更に表面を削り取る。右翼に対しては騎射のみに止め、全速で中央軍の目前を走り始めた。

 

「掛かりましたな。見事なものです」

 

「上手く敵を挑発したわね。――命令違反のような気がするのだけれど」

 

 なぁに気のせいでございましょう。そう言った樊稠は呵々大笑する。実際、最初は側面を衝き、その後敵を挑発する事によって撹乱、更に当初は鶴翼陣形の右翼を狙っていた叛乱軍を釣る事に成功したのだから、目的以上の成果を挙げたといっても過言ではないだろう。

 

「さて、我々も刹那の働きに見合うだけの仕事を致しましょうや」

 

「そうね。此処で功績を稼がないと、この先上手く立ち回れないわ」

 

 徐栄に釣られた叛乱軍が官軍の中央におびき寄せられるのと同時、官軍と叛乱軍双方の後方から、伏兵の喚声が上がった。両者とも、勝利を確信した響きを孕んでいた。


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