三国志大戦で呉単か群単暴乱デッキばっかり使っていたおもひでよさらば……
琅邪の練兵場は、先程までと打って変わって静寂に包まれている。兵達の調練も終わり、十座さんによるしごきも、一応の終わりを迎えたからだ。
「け、稽古つけてくれて……げほっ。有難う、ございました……」
地べたに倒れたままのアタシをニヤついた顔で眺めていた十座さんは、
「だいぶマシになってきたじゃねえか。昔よりも
俺に勝てたら酒の一つも奢ってやるよ、という彼にとってはお決まりとなった科白を残し、練兵場から去って行った。
十座さんは元々江賊だったそうだ。武勇もあり、そこそこ知恵も廻る自分の好き勝手に暴れまわっていたのだが、ある時伯母様――水蓮様が率いる軍に強かに打ち破られたのだという。その一件があって以降彼は心を入れ替え、自分の部下を更生させた上で孫家の傘下に加わったのだそうだ。それから8年余り、彼は孫家の中核として、兵を鍛え、将を鍛え続けているのだ。それは、並大抵のことではないと思う。少なくとも、手前の事で手一杯な今の自分には、考えもつかない事のように感ぜられた。
「ったく、気軽に言ってくれるよなぁ。何時になるか分かったもんじゃねえってのに」
弟子の心師知らず、と云う訳では無いだろう。あれは十座さんなりの激励なのだ。早く俺を越えて、酒の一つも奢らせてみろという意思表示なのだと気付いたのは、つい最近の事だったか。
「よーう、また遅刻したんだって?十座兄ぃから聞いたんだけどよ、アンタも懲りないねえ」
物思いに耽りながらぼうっと空を見上げていると、不意に頭上から呆れ半分な声が降ってきた。声の主は、まあ、見なくても分かる。
「うっせ、ほっとけよ
「どーせ雪蓮様に嵌められたんだろ?前もンな事あったんだから、それも込みで言ってんのさ」
彼女は姓を賀、名を斉、字を公苗、真名を彪という――アタシと同い年の女だ。山越族の討伐で勇名を馳せ、十座さんに勧誘されてきたという経歴を持っているらしい。それ故かどうかは分からないが、十座さんを兄ぃと呼んで慕っている。
同期の将候補という事で彼女とは浅からぬ縁なのだが、十座さんに対する呼び名とか、性格が苦手だという点なんかが手伝って、正直得意な相手とは言い難いのが現実だ。無論、相手も周囲もそんな事は気にも留めてくれないが。
「……それよりさ、珠蓮この後暇だろ?ちょっとつきあってよ」
「え~?また装飾品買うのかよ……」
彪はさっぱりした性格や見た目に反して尋常ではない程の派手好きで、時たま町に繰り出しては職人から派手な装飾品を買っているのだ。その徹底ぶりは孫家家臣団の中でもかなり有名で、部下の鎧まで透かし彫りと彫金を施した高級品で統一していると言えば、分かって貰えると思う。
「い~ぃじゃん!新しく入荷した蝶の仮面、めっちゃカッコいいんだってば!珠蓮も実物見れば絶対気に入るって!」
「――芝麻球買ってくれたら、ついて行ってやらんでもない」
買い物に対し臨戦態勢を敷いた彪を静止出来る者は居ない……と言われている。だからこれは、アタシに出来る精一杯の抵抗だった。
「買ってやるから!さあ、出発進行だ!」
「わーったから、引っ張んなって!自分で歩くから……!」
「時は金なりだぞ!」
――――――――――――
「……うわぁ」
「なっ?カッコいいだろ?」
彪に連れられてやって来た装飾品店に並ぶ蝶の姿に意匠を凝らした仮面を見て、アタシは思わず呻き声にも似た声を漏らしてしまった。不覚と言えばそうだったが、興奮している彪には聞こえなかったようだ。
「凄い精巧な作りだってのは分かるんだけどさ……」
正直、技術の無駄遣いに思えてならない。なにしろ、見てくれが致命的に悪趣味なのだ。何しろ毒々しい紫の本体に、血のような赤や藻のような緑色をした宝玉を散りばめ、金糸で波のような模様を描いた代物なのだから。
「……いや、職人の技巧が光る逸品だと思うぞ、うん」
舌の先にまで出かかった率直な感想をどうにか飲み込んで心にも無い賛辞を述べると、彪はそうだろうそうだろう!と言わんばかりの満面の笑みを浮かべて大仰に頷いた。
「さってと、こうやって店頭に並ぶ姿を眺めるのも乙なもんだが、買い手が付いちまっても厄介だ……」
そんな物好きも居ねえだろうよ、などと考えはしたが口には出さずに、彪の様子をまんじりと眺めていたアタシであったが、
「親父、こいつをくれ!」
「店主、その仮面を譲っては貰えぬか?」
不意に背後から飛び込んできた購入意思を示す声に、驚愕のあまり思わず振り返ってしまうのだった。
沢山の分量を不定期に投稿するのが良いのか、少しの分量でもほぼ毎日投稿できるようにしておくのが良いのか。
どっちなんでしょうね
それはさておき、次回から三人称視点で執筆していきたいと思います。場合によっては、呉軍編の看板を下すことも考えています