真・恋姫†三國伝~群雄飛翔~   作:椛颪

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 久々の主人公登場。(笑)とは言わせんよ!


二十話

 四日後の朝、孫策率いる揚州軍は寿春へと到着した。廬江城塞での戦闘で討ち取った黄巾賊は一万六千余、一方で損失は百以内に収まっている。

 寿春に展開しているのは袁術軍八万と黄巾軍七万。此処で孫策軍三万五千が加われば、数の上では有利となる。

 

「尤も、袁術軍が数通りの戦いをしてくれるとも思えませんが」

 

「そこが問題よね~。最悪、私達だけで戦わなきゃいけないって事にもなりかねないわ」

 

「っても、野戦なら負ける気はしねえけどな。相手の練度なんかも、俺らたぁ比べものにならねえしな」

 

 徐盛は飽く迄強気だが、それも兵の損耗を考慮しない場合の話だ。無論彼自身もそのことは承知しており、あくまで軽口を叩いたという程度の気分でしかない。その事を周囲も理解しているのか、特に波風が立つという事も無く、軍議は寿春の地勢に関する話題へと転換してゆく。

 寿春は平地と湖が多く、見晴らしの良い土地である。故に地の利を活かすということが難しく、指揮官および軍師の力量が試される土地柄といえた。

 

「取り敢えず、地勢がいまいちって事は分かったわ。――それで、軍師閣下としてはどういう方策を採るお積りかしら?」

 

 孫策の悪戯な視線を受け流した魯粛は、幕舎の中央に置かれた卓上の地図を指示した。

 

「我々が現在陣を構えているのは合肥近郊、巣湖の東側にある丘陵地帯です。そして袁術軍、黄巾賊が布陣しているのが含山近郊。我々の方に近いのは幸いにも袁術軍であります」

 

「袁術軍には、我々の居る巣湖方面へと撤退して貰いましょう。――偽装撤退が出来るほどに練度が高いとは思えませんから、本気で黄巾賊と潰しあった末での敗走、という事にもなりかねませんが」

 

「袁術配下の張勲はそこそこ有能だから、その辺りは上手くやってくれると信じたいもんだがね」

 

「アレは袁術第一だから、その気になれば袁術一人連れてでも脱出しかねないわ。むしろ紀霊あたりに持ちかけた方が、上手くやってくれそうよね」

 

「その辺りは、私が向こうで話をつけて参りますのでご心配無きよう。……我々の役割は、撤退してくる袁術軍を追撃する黄巾賊の側面もしくは後背を衝いて敵を混乱に陥れ、袁術軍との協同によって敵を殲滅することにあります」

 

「そう上手くいくかしら?」

 

「問題は有りません。敵には指揮官らしい指揮官もおらず、いわば頭脳が欠けた状態にあるのですからな。勝ち馬に乗ってしまえば、尚更思考能力が低下するのは言うまでもなく分かっておいででしょう?」

 

「それもそうね。で、袁術の所に行くのは誰の役割なのかしら?」

 

「私と主上、この二人だけで十分でしょう。余計な人数を連れて行っても、却って警戒心を強められかねませんから」

 

 残る面々には兵の配置を伝え、魯粛と孫策は僅かな護衛を連れて含山方面へと進発した。戻ってくる頃には戦況が動き始めているという緊張感から、将たちの表情は一様に引き締まっていた。

 

――――――――――――

 

 孫皎は、洛陽で買い求めた馬の手入れをしていた。震電と名付けられたこの馬のことが、孫皎は殊の外気に入っていた。

 

「よしよし。この間は出番が無かったけど、今度の戦は最初から野戦だからな。思う存分駆け回れるぞ」

 

 語りかけながら首筋を撫でてやると、震電は目を細めて耳をはためかせる。思わずにやける顔を首筋に埋めていると、震電もそれに応えるように首を揺らした。

 

「あー、スマン。取り込み中だったか?」

 

「……ッ!?何の用だよ」

 

「少し、話せるか?……いつまでもぎくしゃくしたままっていうのも嫌だしさ」

 

「アタシは別に構わねえけどな。アンタと気まずいままだろうが何だろうが」

 

 大体、気に入らない奴と何で態々仲良くならなきゃいけないんだよ。孫皎の視線はあくまで冷たいままだったが、それでも一刀は怯まない。

 

「これを言うと権威を笠に着てるみたいだから嫌なんだが。……雪蓮からの命令なんだ。帰ってくる迄に君と普通に喋れるようになっておけ、ってさ」

 

「じゃあ、目的は達成してるじゃねーか。アタシとアンタは、こうして普通に喋ってる事だしな」

 

「いやいやいや、普通に喋ってるって雰囲気じゃないだろこれ。全然フレンドリーさが無いじゃんか」

 

「ふれ……?何だそれ、天界語か?」

 

「あー、親密さが無いって感じの意味だよ。俺たちの会話って、そういうの全然足りないだろ?」

 

「いらない」

 

「いらないって、そんな身も蓋もない……」

 

「――神の御使いだってのはまあ信じてやるとしてだ、アンタが存在すること自体が孫家にとって危険要素だってことは分かってんだろ?」

 

「あぁ。俺をここに置くかどうかの話し合いで、散々言われたからな」

 

「それなのに、アンタはここにいる。雪蓮様が許したって言うのも、納得いかないんだよ」

 

「それは、雪蓮に直接言ってくれよ。俺に決定権なんて無いんだから」

 

「自分から出ていくっていう手もあるぞ?それなら、自分の裁量だろ?」

 

「出て行くことも、許されてないんだよ、これが。先回りされたみたいだな」

 

 一刀の笑みをそっぽを向いて無視した孫皎は、逃げるように震電の手入れを再開した。

 

「――嫌な奴じゃないんだろうけどな、アンタ。裏魄さんも十座さんも、真名預けてるみたいだし」

 

「じゃあ……!」

 

「……でも、アタシは認めない。全員がアンタの事を認めるのは、どう考えても異常なことだから」

 

 それは、彼女なりに考えての結論だった。最初こそ直感的な嫌悪が先だって一刀を遠ざけていたが、冷静になって周囲を観察する余裕が生まれる時期に至って、孫家家中の面々が天の御使いという存在に浮かれているように感じ始めていた。

 故に、少なくとも自分以上に戦略眼を持ち、かつ冷静な境地に立ち至った味方が現れるまでの間だけでも、周囲に反対する立場を堅持する積りなのだ。

 

「アタシは頭が良いわけじゃないけど、でも、孫家のことは必死に考えてる。考え抜いた末の信念だから、曲げる積りなんて毛頭ないぜ。――雪蓮従姉様にも、アンタにも悪いとは思うけど、これだけは譲れないな」

 

「……分かった。無理言って、済まなかったな」

 

「構わねーよ。――ってか、こんだけ長々と話してやったんだから、従姉様に対する申し訳も立つんじゃねえの?」

 

「継続的にこの状態が続くのが、雪蓮の望みだと思うんだがなあ」

 

「それじゃあ、お断りだね」

 

 孫皎がひらひらと手を振ったのを見て、話は終わりだと悟ったのだろう。一刀は幕舎の方へと引き返してゆく。それを見送りもせず、孫皎は震電を撫で続けた。

 

「――随分と、色々考えているんですねえ、んふふ」

 

「考えなきゃ、生きてけないっすよ」

 

「そういう事じゃないんだけどなあ……。ま、私は珠蓮ちゃんの味方だよ?」

 

「そらどーも。言葉半分に受取っときます」

 

 酷いねぇ。そう言って笑う朱然に笑い返し、孫皎は手持無沙汰に自らの得物を玩び始める。しばらくはさみしそうな朱然の相手でもしてあげようか、そんなことを考えながら。




 中国地図買いました。結構便利で重宝しますねこれ。
 これ以降地名が多くなってくると思いますので、グーグルアースなんかで地図参照しながらだと分かりやすいかもです。

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