真・恋姫†三國伝~群雄飛翔~   作:椛颪

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一刀のポジションを定めあぐねている今日この頃……


十六話

「黒山賊十万が、全滅した……?確かなの、風露?」

 

「うちの手の者による確定情報です。兗州東郡の戦場にて黒山賊十万と官軍一万が交戦、官軍が百足らずの損害で十万を殲滅したとの報告が複数入りましたから」

 

「一万で、十万をねえ。指揮官は誰なのか、調べてあるわよね?」

 

「総指揮官は呂布、字を奉先という武将ですね。他に目立った武将は張遼、高順、臧覇といったところですか」

 

 十倍の差を覆して勝利する。相手がいかに賊とはいえ、勝ちに乗った相手を殲滅するというのは並大抵の事ではない筈だ。それを成し得るということは、やはり非凡な武将なのだろう。そう結論付けた孫策は、改めて自身が直面している状況に思索を馳せる。

 蘆江を占領する羅市が率いる兵数は約二万、数の上ではこちらが有利だが、敵は自らの数的不利を知って籠城を決め込んでいる。攻城には兵力が足りない上、時間をかけすぎては他の黄巾賊を討伐して名声を高めることも不可能になってしまう。このような所で止まるわけにはいかない孫策としては、どうしても気が急いてしまうのだ。

 

「雪蓮様、この攻城戦は私に任せてもらえませんか?」

 

「何か策があるの?」

 

「ええ。上手く行けば、今晩中にこの戦闘を終わらせられます。……早く片付けてしまったほうが、宜しいのでしょう?」

 

「そうね。今後のことを考えれば、これでも時間を掛け過ぎているくらいだわ」

 

「……蘆江の城塞の中にはかなりの可燃物が有ります。ですが城壁が高いので火矢などは届かず、そもそも火攻め自体が選択肢に入っていませんでした。そこで私が今晩単身で侵入し、火を放って来ましょう。あの城塞の内部構造は把握していますし、見張りの賊達の周回時間も見定めてあります。中に侵入してしまえば私の実力だけで十分ですから、場外に逃走する敵を掃討して下さい。こっちは自力で脱出しますし、上手くすれば羅市の首も取って来ましょう」

 

「それ以上に上策も無いし、恐らく裏魄(りはく)も恐らく賛成するだろうけど……。死ぬことは許さないわよ、風露」

 

「御意。私とて、このような所で死ぬ積りは有りませぬよ……ふふっ」

 

 風露が去った後、孫策は魯粛を呼び出した。彼はいつも通りの仏頂面で拝礼し、兵達の様子と敵城の様子を報告してゆく。

 

「揚州の様子はどう?」

 

「上手く釣り出せたようです。公瑾からの報告によれば、小規模な勢力の掃討は粗方終了し、後は大きめの勢力を潰してゆくのみだとのこと」

 

「そう、順調そうで何よりだわ」

 

「あの程度も収められぬとなれば、我が親友たる資格など有りはしませぬ。――その様子では、攻城の手立ては見つかったようですな」

 

「風露が城内に侵入し、中から火を放つ算段になっているわ。決行は今晩、我々は彼女が火計に成功し、敵が城門を開いて出てきたところを徹底的に叩き潰す」

 

「まあ、妥当な所でしょうな。兵力が足りない以上、攻城戦を手っ取り早く片付けるには対象を燃やしてしまえば良いのですから」

 

「過激なこと言うわね~。承認した私が言うのもアレだけど」

 

「朱然が言わねば、私からその策を献策していたでしょうからな。羅市はあちこちの邑で掠奪を働いていたようですし、名分は十分に立つでしょうからな。――宛の張曼成に対しては朱儁将軍が向かわれたようです。それと皇甫嵩将軍が呼び戻されて再び中朗将に就任。此方は潁川方面へと進軍しております」

 

「となると、私達が向かうべきは寿春方面かしら?本当なら江夏を抜けて宛に向かう算段だったんだけど」

 

「袁術が、どうやら苦戦しているようですな。兵は充分ですが、率いる将が少ないですからな」

 

「そういえば、裏魄は昔袁術に仕えてたんだっけ?」

 

「ほんの二ヶ月程です。尤も、余りにも質が悪かったので、直ぐに下野してしまいましたが」

 

「恩を売れると、そう考えてるのかしら?」

 

「袁術には、無駄でしょうな。アレは恩義をそうと思わず、手助けも当然と本気で信じるような娘ですから」

 

「じゃあ、誰に恩を売れると?」

 

「強いて云うなれば、寿春の民草に。黄巾党と袁術軍は、蝗の群れが二つあるかのような戦をしているようですからな。直ぐに寿春での戦闘を終息させれば、民だけでなく在野の士も我等になつくでしょう。これから戦乱が猖獗を増す中では、人口の確保が何より重要となりますれば」

 

「寿春の人口を、建業以南に流す。そういうことね?」

 

「御意。汝南までは同じ方針を貫けましょうが、陳留以北はそうも行きますまい」

 

「何故かしら?」

 

「曹孟徳の居城が陳留。そして、陳留には黄巾族の姿が非常に少ない。これだけ言えば、分かっていただけるとは思いますが」

 

「火事場泥棒のような真似は、不可能って事ね」

 

「然り。故に我々は寿春、汝南を通って許昌へ至り、そこで皇甫嵩将軍と落ち合うのが良いでしょう」

 

「宛には、行かないのね?」

 

「許昌には、今二十五万の軍勢が駐留しているそうです。この数故に朱然の配下に居る間諜たちも幾らか潜り込ませる事に成功しているのですが、どうやら許昌には張三姉妹が居るようですので」

 

「それを討ち、首級を挙げて我らの手柄と為す。ってとこかしら?」

 

「然り。さすれば、名族の出では無い我らとはいえ、朝廷も粗略には出来ますまい」

 

 魯粛の表情は、相変わらず動かない。彼を登用してから、孫策は魯粛の笑う顔どころか表情が動いた所すら見たことが無かった。そういう性質なのだろうと割り切っては居たものの、やはり面と向かって喋るには威圧感が勝ちすぎる。

 

「北郷殿……いや、谷利はどう考える?」

 

 いきなり話の矛先を向けられ、一刀――今は谷利と名乗っているが――は面食らったように目を瞬かせる。

 

「俺は魯粛さんの意見に賛成だ。曹操が俺の知ってる通りの人物なら、出来るだけ敵に回さない方が良い」

 

「それだけ?」

 

「――それに、朝廷の権威が生きている間に、余り派手な動きは見せない方が良い、とも思う。迂闊なことをして睨まれたら拙いんじゃないか?」

 

「よしよし、良く出来ました♪」

 

「――話し方は直した方が良いな。ただ、言っている事に間違いはない。勇名を馳せる事は必要だが、それも過ぎれば蛮勇となる。その辺りの舵取りが重要だという事を、主上には能々承知おき戴きたい」

 

「うっ、た、確かに。以後気を付けるよ」

 

「判ってるわよ。自分一人の身で、気ままに暮らせるわけじゃ無いっていう事くらいね。ただ、忠告は確りと受け止めておくわ。有難う、裏魄」

 

 そう言って戴ければ十分。そう言い残した魯粛は全軍に下知を下すために幕舎を出て行った。


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