真・恋姫†三國伝~群雄飛翔~   作:椛颪

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 今更ながら、台詞有で登場した原作キャラって今の所五指に満たないんですね。

 そろそろ皆大好き御使いの出番ですな。原作だと黄巾の乱直前でしたもんね


十二話

「結局、今回の一件を通じて涼州方面の武将が中央への影響力を持つことに成功したの。しかも、韓遂の旧知がね」

 

「ていうと、アタシらはうまい事踊らされてたって訳か?」

 

「そうなの。しかも、そうとう巧妙にしてやられたって思うな」

 

 孫策の「折角だから記念に洛陽見てきなさい!」令によって、孫皎と全琮は洛陽への道をぽくぽくと歩いていた。守兵には話が通っているらしく、何やら笑顔で彼女達を通してくれた。

 

「……すっごい。何だって揃っちゃうんじゃないの?これ」

 

「流石に天下の中心ってだけの事はあるって思うな。人の多さも活気も、寿春とは桁違いなの」

 

 全琮も孫皎も、洛陽の市街を見るのは初めてのことだった。戦場とは違う朗らかな人の熱気に当てられて、二人はしばしその場に立ち尽くしていた。

 

「ここから蒋済さんが言ってた腐臭がするだなんて、信じられないな……」

 

「治安も、そこまで悪そうには見えないしね」

 

 実際に大通り沿いは活気に溢れており、規模こそ桁違いではあるものの至って普通の巨大商業都市にしか見えない。

 

「腐臭を感じないのは、腐臭をそれと認識出来ていないからなんだよねえ。俺の鼻にゃあキツ過ぎるぐらい臭ってるんだが」

 

「キミ、どちら様?シキの知り合いに、キミみたいに胡散臭い人居ないんだけど」

 

「同じく。マジでアンタ誰だ?気安く声掛けてきたんだ、それなりの理由があるんだろ?」

 

 孫皎達にじろりとねめつけられた青年は気さくな笑みを浮かべて頬を掻く。

 

「俺は司馬仲達。春華(しゅんか)――あ、いや、蒋済の所で世話になってるモンだ。春華に頼まれて、アンタらの洛陽観光に付き合って差し上げようって寸法さ」

 

「成る程、蒋済さんのお使いって訳なのね。じゃあ、お願いするの」

 

「あっさり頼むなぁ。……まあ、断る理由も無いしね。お願いするよ、仲達さん」

 

「まかせときー。……じゃあ早速、洛陽が放つ腐臭の一部を嗅がせてしんぜよう」

 

 司馬仲達と名乗った青年は、孫皎と全琮を伴って洛陽の路地裏へと足を踏み入れた。

 

「昏いな、この界隈は。人の活気も表通りとは全く違う」

 

「確かに、ひっどい空気なの。人の目も死んでるし……」

 

 孫皎と全琮は、淀み、荒みきった空気に思わず顔を顰める。前を先導する仲達はけろっとしているが、周囲から向けられる視線は粘ついた液体のようにどろりと纏わりついている。

 

「此処に住むのは洛陽での暮らしから落ちこぼれた奴ら、年貢を納められずに夜逃げした元農民、戸籍に乗せられなかった逃散者、それから買主の下から逃亡した奴隷なんかが主に住んでる地区だな。当然の如く治安は悪いし、此処に住んでる連中は日に食うものにも事欠く有様っていう訳だ」

 

「でも、流民位なら琅邪にも居るの。対策には躍起になってるみたいだけど……」

 

洛陽では対策すらとっていない(・・・・・・・・・・・・・・)。建前上、帝都たる洛陽には流民のような落伍者が存在していないということになっているからな」

 

「何それ。現状すらマトモに見れないのが今の為政者なの?」

 

「今上は政治など執り行っては居ないよ。宦官共が自分に尻尾を振る狗共を使って政治ごっこに現を抜かしてるのが現状だ。今上は、決済の印璽を与えるだけの存在さ」

 

「腐れ者風情に政を壟断されるたぁとんだ無能だな陛下は。あるいは、無能者なんて自覚すらないのかもしれないけどよ」

 

「宦官が政を壟断してるのは、和帝の後から長く続いてる慣習なの。別に今上唯一人が無能者って訳じゃ無いって思うな」

 

「加えて言うなら、儒者連中が和帝時代に皇帝の政に対する突き上げを激しく行ったのも原因と言えるだろうな。あれによって皇帝は自らの功を天の者にされ、自らの失敗のみならず天災の責任までもひっ被せられるようになってしまった訳だ。あれでは今上のみならず歴々の皇帝が政治に関心を向けないのも致し方ない事なのかもしれん」

 

「だからと言って、自らもとめた無能の責めを、民草に支払わせるのは道理が通らんだろうが」

 

 孫皎の表情には、抑えがたい怒りと侮蔑の色が浮かんでいる。彼女は琅邪に居た頃より城下の民との歓談を楽しんでおり、彼らとの関係性がどれだけ重要かを肌で感じ取っていた。そんな彼女からすれば、民――と公称こそされないが、同じ人を蔑ろにし、安穏と飾られた平和を貪っている為政者の存在など認めたくもないのだろう。

 

「それが漢帝国の内情だよ。高祖劉邦や、後漢建国の立役者劉秀たちが活躍していた頃とは比べるべくもない、腐りきった龍の臓腑さ」

 

「この国は、滅亡期寸前ってくらいの状態に陥ってんのかもしれねえな。こないだの叛乱にしたって、その発露にしか過ぎないような気もする」

 

「正しいとも言い切れないが、なかなか核心を衝いた意見ではあるな。――二人とも、大平道の話を聞いたことは?」

 

「知らないの。寿春にいる間は、城で部隊の指揮を執ってばっかりだったし」

 

「――陳留の方から流れてきた農民が、そんな信仰が流行りだしたなんて話をしてたっけかな。張だったかの三姉妹が教祖のようなことをやっていて、巫術のようなもので病を癒すんだとか何とか。胡散臭いから話半分で聞いてたけど、実在したんだな」

 

「その大平道が、なにやら不穏な空気を醸し出しているらしい。勢力が大きくなりすぎて、朝廷に睨まれてるんだとさ」

 

「特に対応はしてないの?そんなのほっといたら、面倒くさいことになるのは目に見えてるの」

 

「一応、今は執金吾をしている丁原の旧領である宛の太守にすることで誤魔化そうっていう動きはあるみたいだな。それでどうこうなるかは分からんから、大方釘づけにした上で機を見て暗殺しよう、なんて考えかもしれん」

 

 仲達の言葉に、二人は呆れたようにため息を吐いた。乱の火種を取り除くにしても、これはあまりにも下策ではないか。

 

「戦乱の起こりも遠からず、てなわけか。精々気を引き締めておこうかな」

 

 いずれ、遠からず。そのような悠長な事を言わずとも、漢王朝が衰亡してゆく臭いを孫皎は嫌と言うほど嗅ぎ取ってしまった。民という根を腐らせた大樹が朽ちて倒れるその瞬間に、自分たちはどう身を処せばいいのだろうか。

 孫家という大きなくくりの事は孫策や周瑜が考えるとしても、自分自身の心にどう説明を付けておくべきなのかは、考えておくべきなのだろう。

 

「孫家の王朝……か」

 

 孫皎の微かな呟きは、他の誰の耳にも届くことは無かった。今はそれでいい。彼女は自嘲気味に嗤って、全琮と共に再び洛陽の表通りへと向かっていった。




 これにて第一部終了です。思いの外時間掛かったなという印象ですな。

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