I.S.F インフィニット・ストラトス×Fate   作:ボイス

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 壇上で身を隠していた一夏が不意に腕を引かれ、そのまま連れてこられた場所は、自分が着替えさせられた更衣室だった。完全な防音が施された空間はアリーナの喧騒を遮断している。

 振り返った先にいたのは、弾を探していた際に出会い、無理やり名刺を渡してきた女性、巻紙礼子だった。

 にこにことした顔は変わらないが、何故ここに彼女がいるのか訊ね――

 楯無が駆けつけた時には、一夏の姿はボロボロだった。

「聴かせてもらえるか? どうしてわたしが、コイツを狙うとわかった?」

「別に、深い意味はないわよ。三人の男性操縦者の中でも、更にそこから振るいにかけられれば、第四世代型と呼ばれる『白式』を持つ彼を狙いに定めると予測しただけ」

「ふん、もうひとりの専用機持ちを狙うとは思わねーのか?」

「思うわよ。だから言ったでしょ? 予測しただけって。もうふたりの方にも相応に護衛はつけているもの。うちひとりの周りには他の専用機持ちが居る」

「…………」

「わたしの護衛対象は、織斑一夏くん……というだけよ、亡国機業」

「ほう……どこまで知ってるもんだかなぁ」

「洗いざらい喋ってもらうわ。もちろん、あなたの口からね」

「ぬかせ、ガキが」

 『剥離剤』により『白式』を奪われ、なすがままに痛めつけられているところへ『ミステリアス・レイディ』を展開させて割り込んだのだが――

「……ドジった」

 状況は好転していない。むしろ劣勢へと回る。

 オータムもまた、ケタケタと笑っていた。

「おいおい、さっきまでの勢いはどうしたよ? わたしに洗いざらい吐かせるって意気込んでたじゃねーか?」

「……耳障りな声ね」

 前半は何の問題もなく『アラクネ』を相手にいなしていたのだが、次第に機体の動きが鈍りはじめる。見た限りの外部面の補修は万全なもの。だが、内部システムに関しては事細かに修復はされていない。士郎との模擬戦による蓄積ダメージにより、思った以上に楯無の機体『ミステリアス・レイディ』は動かなかった。

 ここまで被害があるとは思わなかったこと、システムに関しても、軽く見た限りでの修正程度。より一層深く確認などしていなかった結果によるもの。

 相手を甘く見た楯無の表情は若干焦りを浮かばせていた。更には自分は一夏を護りながら戦っている。

 自嘲気味に笑いながらも、懸命にランスを駆使し、オータムとの間合いを取る彼女。

「おねーさんに任せなさいなんて言っておきながら、すごくかっこ悪いわね」

 巻紙礼子――オータムが纏うIS『アラクネ』――

 蜘蛛のように背から伸びた八本の装甲脚のうち、二脚の先端は開き、砲口を覗かせている。

 守勢一方――

 一夏をかばった楯無だが、その右腕は動かない。装甲ごとレーザーに焼かれた腕からは嫌なにおいが鼻腔に漂う。

 じっとりと額に浮かぶ脂汗。だが、熱と痛みに顔をしかめもせず、楯無は平然を装っていた。

 対IS用ISの武装――

 絶対防御を無視する熱量エネルギーに、まさかこうも簡単にやられるとは彼女は思ってもいなかった。油断していたものもある。

 何故、相手がこんな武装を持っているのかと考えるよりも――こんな時に模擬戦時の士郎の言葉が脳裏をよぎる。

「――やっばいわね」

 普段はおちゃらけているが、ここぞという時には冷静沈着、物事を見極める洞察力に長けた楯無は汗を垂らしながら機体を動かそうとしていた。

 半壊している機体、ならびに一夏を護りながら果たしてどこまで出来るか――彼女は僅かばかり焦燥に駆られながら考えていた。

 だが、その状況は唐突に変わることとなる。

「あー、せっかくのお楽しみのところ悪ィんだがなぁ……その兄ちゃん殺されっちまうとよ、いろいろとマズイんだよな」

 呑気な声音。ついで、真横から不意に聴こえた風を切る音。それと同時に楯無の眼前を走る煌く白刃。

 オータムは咄嗟にカタールで払い、またはかわし避けていた。

 からんと音を立てて床に転がるのは――ステンレス製のフォーク。ちらりと背後に視線を向ければ、壁に刺さっているのはバターナイフ。

 投擲したバターナイフが深々と壁に刺さるなど、いかなる原理、ならびに力を加えたものなのか。

 視線をナイフが飛んできた先へと向け、オータムは呻く。

「……テメエはさっきの……なんのつもりだ」

「『なんのつもり』とは随分だな。ただのウェイターだよ。ただのな。あ? 執事だっけか――て、まぁいいさ。ほれ、オーダー取りに来てやったぞ」

 唐突に、第三者の声音が更衣室に響く。

 踵を鳴らし、現れたのは――ランサーだった。

「ランサー」

 一夏もまた信じられないという顔をして、現れた男に視線を向ける。どうしてここにランサーが居るのかがわからなかった。

 それは楯無も同様に。だが、それ以前に彼女は声を上げて叫んでいた。

「ランサーさん、ダメ下がって! 相手はISなのよ!?」

「まぁ、俺としてはどうでもいいんだがな……知っていながら放っておいた事がバレでもしたら、『マスター』にどやされるんでね。なんだかんだとはいえ、一応、嬢ちゃんは顔見知りだ。個人的に見殺しにしたとあっちゃ、寝覚めが悪いってなモンもあるしな」

「何を言っているの……?」

 楯無にしてみれば気が気でない。逆に、どうしてこんな時に現れるのか歯噛みさえした。いくらランサーの身体能力がすごかろうとも、ISが相手では何の役にも立ちはしない。

(眼を離さないように織斑先生にお願いしたのに――違う! 何を考えているの!?)

 万全ではない機体で一夏を護りながら戦っているのにさえ厳しいところへ、ランサーも護りながらとは痛手過ぎる。

 気に食わない相手ではあるが、放っておくわけにも行かない。瞬時にランサーの前に出ようとする楯無だが、ランサーは愉快そうに笑い手で制していた。

「聴こえなかったか? ご注文はお決まりですか、お客さま?」

 敢えてかしこまった口調で言ってみるのだが、相手はお気に召さなかったのだろう。

「ふざけた真似しやがって――」

 ランサーにしてみれば、状況は予想していたものの中でも、半分最悪だった。

 眼の前の女から発せられる匂いは、嗅ぎ慣れたもの。自身がよく知る血生臭いものだ。

 彼がまず真っ先に向かった場所は保健室。

 キャスターは、お茶請けの煎餅をバリボリとかじり、だらけてはいたが、第四アリーナでの動きは把握したのだろう。自身の形成した陣地内での一夏、オータム、楯無による小規模とはいえ、衝突の波長を見過ごすほど寝ぼけてはいない。ランサーが保健室の窓から飛び込んできた時点で既に彼女の緩んでいた表情は一変していた。

 ランサーの顔を見て、キャスターもまたひとつ頷き、生み出した鳥の使い魔をセイバーのもとへと飛ばすと二騎は散開する。ランサーは騒動の起こる現場へ、キャスターは援護も兼ねて士郎の身を護るべく向かう。

 彼が匂いを頼りに来てみれば、床に倒れている一夏はISすら身に纏っていない。楯無に関しては、その一夏を庇うように立ってはいるが、右腕は損壊している。大方、庇いながらでも戦ったのだろう。

 容易に状況が知り得た彼は、ぼりぼりと頭を掻きながら気だるそうに息を吐く。

「ったく、面倒くせぇなぁ。埠頭で啖呵切った生徒会長さんも劣勢のようだ」

 オータムへ向き直り、おどけた表情を浮かべてランサーは肩を竦めて見せていた。

「おい……ここはひとつ、分けってことにしねぇか? こちらとしてもよ、無駄な面倒事は起こしたくねぇし、巻き込まれたくもねぇんでな。こいつらが無事なら、俺的には文句はねえからよ。この場は見逃してやってもいいぜ?」

 楯無が背後で何かを叫ぶが、耳には入れず、そのまま彼の口は動き提案を告げていた。

「それにだ、テメエ自身にゃ悪い話じゃねえだろう? 俺と後ろのふたり含めりゃ三対一だ。このままやるってんなら、そっちにゃ分が悪いと思うがなぁ?」

 どうだ、と物語るランサーの顔に――だがオータムは切れ長の眼を歪ませていた。

 相手の言い分では状況から見て「三人がかりでは勝てはすまい」と一方的に決め付けられたもの。なによりも「見逃してやる」などと上から目線での情けをかけられたものだ。

 にたり、とオータムの口が開かれる。そんなものに従う道理など、彼女は持ち合わせていない。

「はっ――笑えない冗談だなぁ? 馬鹿言ってんじゃねぇぞ。テメエ程度のカスが、たかだか一匹混じった程度で、あげくは後ろに転がってる何もできねぇガキも頭数に入れて三対一だぁ? このオータムさまも舐められたもんだなぁ? IS引っ張ってくるならならまだしも、生身の奴に何ができる!」

 交渉決裂とみなした返答に、ランサーは息を吐く。

「……ちっ、ああそうかい。これでも最大限に譲歩してやってるってのに……ったく、こちとらガキのお守しながらの戦闘なんざ柄じゃねぇんだ。面倒くせぇーのによ」

 そこまで言って――

 ランサーは、オータムが口にした台詞の一部が引っかかり、確かめるべく振り返っていた。

「兄ちゃん、いつもの威勢はどこいった? ISの展開もしねーでやられっぱなしなんて、らしくねぇじゃねーか」

「違う……違うんだ、ランサー」

「あん?」

「『白式』は――」

 身体に走る痛みに顔を歪ませた一夏に代わり、肩を貸して抱き起こす楯無が言葉を継ぐ。

「奪われたの、一夏くんの『白式』が!」

 立ち上がる楯無だが、やはり機体制御が巧く効かない。

 それを見て――

「……そういうことか……」

 一言漏らし、首のネクタイをはずし床へ放り捨てると、ランサーは前へと歩き出していた。

 だが、その行動にぎょっとしたのは楯無だった。

 何をしようとしているのかなど、彼女にとっては、火を見るよりも明らかだ。

(なんて馬鹿なことを……勝てるはずが無いのにもかかわらず、彼はISを相手にしようとしている)

 この場での怖いもの知らずは、命を落とすことになりかねない。

「馬鹿っ――下がってランサーさん! あなた何を考えているの!? ここはわたしが抑えるから、あなたは一夏くんを連れて逃げて!」

 ISの装甲腕部で生身の人間が殴られでもすればひとたまりもない。『アラクネ』が扱うカタールも容易に人など分断できる。さらには楯無自身が腕を焼かれたエネルギー兵器。ISの絶対防御に包まれていながらこの程度なのだ。これが生身で直に浴びればどうなるかなど想像することができない。

 と――

「嬢ちゃん、ソイツ連れて離れるか隠れてるかしてろ」

 ランサーは楯無の制止を無視し床を蹴る。

「やめて――」

 声にならない悲鳴を耳にしながら駆けるランサーに――オータムは笑うだけ。

「なんだテメエ……自殺志願者か? だったら望み通りにバラしてやるよ」

 言って、両腕に握るカタールで対象者を斬り伏せようと襲いかかる。

 振り下ろされたそれら二刀を体術だけでかわし、懐に潜り込んだランサーの蹴りが疾り、オータムの腹部へと迫る。

「馬鹿が――」

 オータムは鼻で笑い、一夏と楯無は「馬鹿なことを」と声を漏らす。生身の蹴りなど、IS搭乗者になど効くはずがないのだから。

 そう。本来であれば。

 その場にいた者は誰もが思った。だが、瞬時にありえないことがおき、その場にいた者は驚愕する。

 鈍い音が上がると同時に、『アラクネ』の機体が後方に吹き飛ばされていた。

「――!?」

 なにをされたのか、一番理解できていなかったのは、蹴りを叩き込まれた当のオータムだった。

 重い一撃を受けて、ISを纏う自身が衝撃に浮かせられたのだから。

(なにをされた? わたしは今、なにをされた? 蹴られただと……わたしが!?)

 自問自答し――認識する暇もなく、再度の蹴りは脇腹に叩き込まれていた。初撃と比べて威力が増した二撃目の衝撃に、オータムの身体は手近の壁に叩きつけられていた。

 絶対防御に包まれているにもかかわらず、衝撃に息を詰まらせた口からは唾液を垂らし――だが、その双眸は信じられないといった色を滲ませ相手を見る。

「なんだ、そりゃ……?」

 オータム自身も間の抜けた声を漏らしていると気づいているだろう。

 その『貌』――つりあがった口元は粗暴。涼やかな獣の視線。

 いや、それよりもオータムの眼は、ランサーの手に握られている『物』へと向けられていた。

 つい先まで、男は無手だったはずだ。

 だが――その腕には、紅い凶器が握られていた。

『――――』

 一夏と楯無のふたりが息を呑むのが気配でわかる。驚く眼が向けられる先も同じだろう。

 二メートルほどはある、血のような真紅の槍――

 身体を「く」の字に曲げるオータムに、まるで旋風のようにランサーは追撃する。手にした槍を払い――それを寸での所で避けると、展開したカタールで振り向きざまに斬りつけていた。

 顎を引き、ランサーは紙一重でかわして見せると、逆にバランスを崩しているその体勢――死角から紅い槍を振り上げる。

 確実に首元を狙い穿つ一撃を、オータムはカタールで弾き逸らしていた。

 間合いを取る一機とひとりに、楯無と一夏は言葉が出なかった。

 それはオータムも同様だ。

 生身の人間、それも男がISを展開している相手に反応速度で追いつけるわけが無い。

 今一度、オータムは、眼の前の男を信じられないといった表情で捉えていた。給仕姿は変わらない。その脚も腕も生身のまま。ISによる部分展開もされていない。さらには、手品のように、何処から取り出したのかわからない紅い槍。斬り合っただけで、彼女にはアレが決して玩具などではないということがわかっていた。

「ちっ――」

 小さく呻き――

 武装したカタールで斬りかかるが、ランサーは掌で槍を掴みなおし、苦もなく斬り弾いていた。

「給仕野郎が……」

 苛立ちのまま、オータムの背後から鋭く伸びたクモの脚によく似た『爪』が貫かんとばかりに頭上から襲いかかる。

 しかし、それよりも速く――装甲脚を瞬時にかわし、ランサーは間合いを離すべく床を蹴る。

 が――

 飛び退きざまに、彼の腕から投げ放たれていた紅い槍は、弾丸さながら音を切り、オータムへと一直線に突き進む。

「――っ」

 迫る切っ先に罵声を漏らしながら、手にするカタールと装甲脚全てを使い――自身も瞬時に身を捻りやり過ごす。勢いを完全に殺すことはできず、軌道を逸らすために斬り弾くのがやっとだった。

「ほう……あの距離からかわすかよ。ISてのは面倒くせぇモンだなぁ?」

 低い姿勢で床に降り立ち見据えるランサー。

 とはいえ――

 自分から武器を手放したことに、オータムは笑みを浮かべていた。理由はどうあれ、眼の前の男は再び素手となったのだから。

「クソ野郎が、ちょこまかしやがって――大人しくぶっ殺されろ!」

「テメエがな」

 口汚く罵るオータムに、ぼそりと呟いたランサーが疾る。

 だんと踏み込み、一息に伸びた蹴り脚からオータムは咄嗟に身体を仰け反しかわし避けていた。だが、半円を描くように足先の軌道が変わると、側面から刈り取るかの如く牙が迫り、右手に握るカタールを叩き落していた。

 ついで――

 オータムが気づいた時には、床を蹴り、流星の如く蹴りを叩き込んでくるランサーの姿。

 咄嗟に装甲腕部で防ぐが――ありえない音を立てて叩き込まれた重い衝撃に、身体が沈む。

 ランサーは、ぐるんと宙で身を翻すと、二撃目を叩き込み――

「うっとうしィんだよ、テメェはさっきから――」

 衝撃にバランスを崩しながらも、IS展開腕部を疾らせたオータムは相手の足首を掴むと、力任せにランサーの身体を床へ叩きつけていた。

 そのまま覆いかぶさると、空手となった右のIS腕部の指先が相手の頭部を捕らえ、握り潰すように力をこめる。熟れた果実のように潰される頭の末路を思い描きながら笑みを浮かべる彼女だが――

 瞬時にランサーの両手が掴み留める『アラクネ』の五指に伸びると――拘束を力任せに引き剥がしにかかっていた。

「本当に人間かコイツ!?」

 ISの力に抗う術など生身の人間には持ち合わせるはずがない。

 しかし、いまや完全に『アラクネ』の五指を引き剥がし、その顔には嘲笑すら浮かべた男がいる。

 息を漏らしながら、オータムは左手に握ったカタールを逆手に持ち替えると――穂先を男の胸元めがけて振り下ろす。

 だが――

 疾るランサーの腕が遥かに速い。刀身を真横から打ち抜いた裏拳により、オータムの手から凶刃は撥ね飛ばされていた。

「テメエッ――」

 悪態をつきながらもオータムの挙動は迅速だった。得体の知れない相手の胸倉を掴み――彼女は手当たり次第に、ランサーの身体を周囲へ叩きつけていく。床、壁、ロッカー、とにかく眼につくもの全てに、一切合切、見境なく、手加減などあるはずもなくランサーを振り回し――投げ飛ばしていた。

「っ――」

 衝撃に吹き飛ぶロッカーから一夏を護りながら楯無。眼の前で繰り広げられる光景は、まるで子供の頃に見た怪獣映画のようだった。

 ただひとつ明確に違うのは、破壊の限りを尽くすのは双方怪獣ではない。とても信じがたいが、暴れるのは一機とひとり。

 と――投げ飛ばされたランサーは、轟音を上げて、手近のロッカーが並ぶ一角へと叩きつけられる。

 衝撃に思わず眼を瞑るが、恐る恐る開けて見たものは――視界に映るのは、床に投げ出されて動かないランサーの二本の脚。

「――――」

 声を上げることも駆け寄ることもできず――ただ、楯無はその場にへたり込んでいた。それは一夏も同様に、立ったままではあるが言葉は失ったまま。

 しかし、そのふたりの眼の前で――ランサーの脚は不意に跳ね上がり、反転するかのように身体を起こし立ち上がっていた。

 その顔には、何食わぬ平然とした表情が張り付いている。整えられた髪は乱れ、衣服はところどころ破れてはいるが、それだけだった。

 何事もなかったかのように、ロッカーの残骸を蹴り退かして歩むランサー。

 その姿にオータムは戦慄を覚えたことだろう。散々痛めつけたというのにもかかわらず、相手はまるで空想上の産物、ホラー映画に登場する動く屍、ゾンビのように、ゆらりと立ち上がってはこちらに向かって来るのだから。

 今一度、オータムはランサーを見やるが、やはり相手はISを身に纏ってはいない。IS反応もハイパーセンサーには感知されていない。脳裏では、報告にあったとされる不可思議なISの存在かと思いもしたが、すぐに頭を振っていた。確証などないが、彼女の脳はその結果を否定していた。

 そんなことはないはずだ。相手はただの生身の人間だ。そう、生身の人間のはずだ。でなければ、こんなことはありえない。

(では、これはなんだ?)

 ありえないことが起きている。この男は人間ではないというのか。

 馬鹿らしい。酷く馬鹿げて笑い話にもなりはしない。

 故に――

「ンな馬鹿げたことがあってたまるかよっ! だったら消し炭になりやがれっ!!」

 叫びを上げながら、背面の八本の装甲脚のうち、四本の先端が開き――閃光を撃ち放つ。

 楯無は眼を閉じることもできない。ランサーの身体が焼き尽くされると、頭で理解はしているが、動くことはできなかった。

 だが――

 誰もが想像した結果には至らなかった。

 ランサーに迫る四条のレーザーは、当たる直前に突如屈折し、天井や床へと突き刺さっていた。

「なんだっ!?」

 撃ち放つオータム自身の声は震えたもの。何度撃とうとも結果は同じだった。

 何かに護られているかのように、レーザーは阻まれあらぬ方へと折れ曲がる。

(偏向射撃の干渉――いや違う、わたしの武装はBT兵器じゃない……それに偏向射撃はBTエネルギーが高稼働率時のみに使えるはずだ……自身のBT兵器の操作ならまだわかるが、他人の兵器に生身が干渉できる術なんざ存在しねえ。聴いたこともねぇし、ありえるはずがねぇ)

 頬を伝う汗も拭えず、オータムの推測は続く。

(ならなんだ……考えられるのは絶対防御か!? いや、それもありえねぇはずだ……対IS用ISの武装だ。現にあの女にゃ当たってんだ。生身で喰らえば、一発で御陀仏だってのに――)

 視線は一度楯無へ向けられるが、直ぐにランサーへと戻されていた。

 ランサーも不敵な笑みを浮かべるだけ。彼に『アラクネ』の射撃が効かないのは、彼が生まれつき持つ『矢よけの加護』によるものだ。射手を視界におさめていれば確実に回避可能な、飛び道具に対する防御スキル。それは、この世界における近代兵器も例外ではない。

 それに加えて、自然に曲がったように見えるものも何のことはない。魔槍ゲイボルクを高速で払い斬り弾いているだけだ。

 ――と。

 床を蹴り滑るランサーは声を上げる。

「嬢ちゃん、ソイツをよこせ」

「え」

 意味がわからず呆けた楯無だが――

「早くしろ」

「は、はい!」

 二度目の叱責に言われるまま、咄嗟に「使用許諾」を施しランスを投げる。

 振り向きもせず伸ばした片手で柄を掴んだランサーは軽々と扱い――迫る刃を難なく弾いていた。

「……嘘」

 眼の前の光景が信じられず、思わず楯無の口から声音が漏れる。

「ちっ――」

 蹈鞴を踏むオータムを前に、ランスを旋回させて構えたランサーは、歯を見せ、獰猛な笑みを浮かべていた。

「他人の槍はいまいちしっくりこねぇが……まあ、やれなくはねぇか」

 言って――踏み込み、オータムの握るカタールを弾いていた。

 IS武装を生身で扱いながら――なによりもパワーアシストの保護もないのに、動きに無駄がない。決してランスは片手で扱えるほど軽々とした重量ではない。

 にもかかわらず、ランサーは片手で掴むランスを、まるでデッキブラシでも扱うかのように、突き、斬り、打ち、払い、振るう。

 二刀のカタールと八本の装甲脚をランスで難なく凌ぎ彼。

 さらには、オータムを一角に追い詰めると――ランスを軸に宙に舞い、床、壁、天井を蹴りつけ翻弄する。ISを相手に生身の人間が常識の速度を超越して、だ。

 直に相手をしているオータムにとっては信じられないことが連続で起きている。ハイパーセンサーが相手の姿を補足できていないのだから。

 ランサーの姿が掻き消える。文字通り、消えていた。

「なっ――」

 状況が理解できないオータムだったが、警告音とともに瞬時に顎を引き反転するように後方へ体をのけぞらせていた。

 刹那――

 ぼっ、と空気を貫く音とともに、瞬前までいた空間を真横から疾るランスの穂先。

 僅かにハイパーセンサーの反応が遅れている。

 本能的に動かなければ、間違いなく頭部を貫かれていただろう。串刺しにされた姿を想像し、背筋に汗を流しながら、数歩ほど下がるオータム。だが、ランサーの動きは止まらなかった。

 かわされるとわかるや否や、空中で身体をひねらせ――壁を抉りながらランスを直角に叩きつける。

「――くそがっ」

 カタールで鈍い衝撃を受けながら――声を漏らしオータムは更に後方へ機体を走らせる。

 そのまま――

 耳をつんざくような轟音が上がる場所は、三度身体をひねらせ、頭上から力任せに得物を振り下ろしていたランサーだった。しかしその両の手に握られていたものは二種。左手には握り直したランスを。右手には再び紅い槍が握られていた。

 衝撃に床は窪み、いびつな穴が開く。

「おい」

 静かに紡がれる声音に、オータムはぞくりと背を竦ませていた。

「――っ」

「あんまりちょろちょろすんなよ。巧くつぶせねえだろう?」

 突き刺さったランスを抜き取り、獣のような眼光はオータムへ向けられる。

 言いようのない恐怖に包まれた彼女は、言葉を発することもできずに後退する事しかできなかった。

(なんだコイツは……なんなんだコイツは……なんなんだよ、何で、手から離れていたはずの、あの槍をまた持ってやがる……どういう理屈で呼び出しやがった――量子変換かっ!?)

 ごくりと固唾を飲み込み、震える腕はカタールを握りなおす。油断せず、相手の一挙手一投足に細心の注意を払いながら。

(いいや、ありえねぇハズだ。あの野郎はISを纏っちゃいねぇ。にもかかわらず、IS相手に生身でかかってくるだと……本格的にワケがわからねぇぞ……噂に聴く、織斑千冬以上かコイツは……男のクセに……『アラクネ』と真っ向からカチ合うだと)

 と――

 だん――と一歩踏み込んだランサーに、びくりと反応したオータムは、手近にあったロッカーを掴み、相手めがけて投げ飛ばしていた。

 せまる鉄塊をランスで一閃し、まるでバターのように容易く切り裂き――だが、ランサーの視界に『アラクネ』の姿はなかった。

 音を立てて 背後の壁を巻き込み後退するオータムに――

「なんだよ、逃げんのかよ」

 撤退した相手に――ランサーは、肩に担いだランスを弄ばせながら、振り返りもせずに声をかけていた。

 後ろに感じるのは、ふたりの気配。

「更識の嬢ちゃん、ここ(第四アリーナ)に訓練機はあるのか?」

 ランサーの言葉が何を意味するのかわかりかねたが、彼女はこくりと頷いていた。

「あるわよ……格納庫に『打鉄』と『ラファール・リヴァイヴ』が……でも、隔壁が降りてるし、パスコードも……それが――いや、それよりも」

 彼女の向けられた視線の先は、長身の男の右手に握られた真紅の槍。ついで、ランサーの身体を交互に見る。

「ランサーさん、あなた一体……怪我は――それに、その手に持つ槍はなんなの……?」

「あ? コレか、ただの手品だ。結構自信があってよ。巧いモンだろ? まぁ、そういうワケだ。気にすんな。身体は見てわかるように、頑丈だけが取り柄なモンでな」

 さらりと言いのけるランサーに対し、楯無は本気で心配しているのだ。それを軽く流されて黙ってなどいられない。

「頑丈……手品って――ふざけないでよっ!」

 相手の剣幕に対し、こいつはマズかったかなと肩を竦めて見せて彼。

「ンなことよりも――訓練機はあるんだな。嬢ちゃんはソイツと一緒にここに居ろ。その腕じゃ追撃は無理だ。それと、コレは返すぞ」

「……ランサー、まさか……追いかける気なのか?」

 競技であればまだしも、殺戮ともなれば楯無では分が悪すぎる。ランサーにしてみれば、自分が得意とするものは「スポーツ」ではない。

 となれば――

「面倒くせぇが、それしかねぇだろ」

 一夏の言葉に対して、だるそうに返答すると――

 ランスを放り、ランサーの姿は音もなく、一瞬にして掻き消えていた。

 

 

 オープンテラスの一角、席に座ったホークアイはアイスコーヒーを口にしていた。

 眼の前の席に座るサンシーカーはソフトクリームを美味しそうに舐めている。

 あの後、サンシーカーを見つけるにはそう時間はかからなかった。

 とある模擬店前を、ハンバーガーを片手にパクついて呑気に歩く姿を発見していた。勝手にはぐれないようにと手をしっかり握り、それなりにふたりは学園祭を見て回る。

 特にホークアイが見たいものはない。全てサンシーカーの眼につき興味をそそられた先へと腕を引かれて連れ回されただけである。唯一、ホークアイが僅かな反応を示したのは美術室で行われていた「爆弾解体ゲーム」だった。一切の迷いもなく、逡巡も示さず思うままに解体していく。居合わせていた生徒たちは「おお」と驚いていたが、同様に横にちょこんと座るサンシーカーに対しては癒しを感じたのか、「かわいい」「お菓子食べる?」と可愛がっていた。おかげでチョコレートやクッキー、ビスケットなどもらえるものは全部食べていたのだが。

 解体ゲームに興じる女性の傍らで、生徒たちに頭を撫でられる少女。絵的に見ても、滑稽なものはないだろう。

 ふうと満足げなホークアイと、別の意味で満足げなサンシーカー。

 両手いっぱいにお土産のお菓子を貰い、サンシーカーは生徒たちに手を振り美術室を後にしていた。

 休憩するホークアイではあるが、些か身体はだるさを感じていた。普段であれば、こんなことはありえない。元気な連れに、あっちへふらふら、こっちへふらふらと振り回されたためだろうと割り切ってはいたのだが。

 妙な違和感は拭えぬまま。

 不意に――

「サニ」

「ん?」

 名を呼ばれ、顔を上げたサンシーカーだが、声をかけた当のホークアイは空を仰いでいた。

 ――と。

 頭上を過ぎるは一機のIS。高速で飛び去る『打鉄』に、居合わせた学園生徒や他の来場者も、何事かと視線を向けていたが、学園祭の何かの催しだろうと直ぐに興味がそれたのかそれ以上関心を持つものはいなかった。

 だが、ホークアイだけは違っていた。『打鉄』が向かった方角をじっと見入っていたが――彼女は瞬時に立ち上がっていた。

 手首に視線を落とし――腕時計を見る。定時連絡に定めていたはずの時刻はとうに過ぎ、しかし、オータムからの連絡は一切ない。

「戻る。恐らく、あれは追撃されている」

 連絡がないのは、何かしらの問題があったのだろうと彼女はそう結論付けていた。

「えー、もう? クレープとチョコバナナまだ食べてないよ? あ、あそこでホットドッグ売ってる」

「……任務が優先。それに、後でわたしが好きなだけ買ってあげる」

「むー、わかった。我慢する……」

 不貞腐れながらも素直に従い、サンシーカーは手にしていたソフトクリームをぱくりとほおばっていた。

 

 

 クラスの喫茶店が忙しいから、直ぐに戻ってと連絡を受けたふたりは急いでいた。男性陣が誰もいなくてクレームが酷いとの報告も受けている。

 士郎と一夏はわかるが、なぜランサーまでいないのかと不思議がるセイバーだが、彼女は言われるままに駆けていた。

 劇は混沌としたものになっていた。観客まで参加するものとなり、手伝うものも特にないのと、これ以上は付き合いきれない、クラスの催し物が混雑しているとの三点の理由で、士郎は一足先に、第四アリーナから教室へと戻っていた。

 セイバーも劇には幾分満足したのか、士郎をひとりにするわけにもいかず、後は本音に任せて教室への帰路を急いでいた。隣を走るシャルロットの表情は浮かず、残念そうな面持ちだった。

 王冠をゲットした者は一夏との同室を認める、という触れ込みを受けていただけに、是が非でも一夏の王冠がほしかったのだが――正直に言えば、まだ第四アリーナに残って王冠の争奪戦に加わりたかった。

 だが、セイバーが教室に戻る姿を見たのと、専用機持ちたち全員が抜けたままではクラスの喫茶店の人手も足りなくなっていること。さらには当の一夏の姿が何処にも見当たらなかったのだ。

 他の連中は、自分だけ抜けても別にいいだろうという考えを持っているが、シャルロットはその辺はしっかりとしていた。それは、確かに自分も抜けていたいという気持ちが全くのゼロというわけではない。

 しかし、なんとかしてと呼びにきたナギの姿を見ては、戻らざるを得なかった。

 足早に第四アリーナから駆けるふたりだったが――不意に、セイバーの歩が止まる。

「どうしたの、セイバー?」

「…………」

 シャルロットも相手に気づき声をかけるが、セイバーは応えない。見れば、彼女の視線は大空へと向けられていた。

 つられてシャルロットもまた空を見上げ――

 高速で視界を過ぎ去るのは『打鉄』だった。

「打鉄? なんだろ?」

「……ランサーです」

「え? ランサーさん?」

 じっと空を凝視していたセイバーだが、その眼は別の方へと向けられていた。

 と――

 チチチ、とさえずる小鳥がセイバーとシャルロットに舞い降りる。一羽はセイバーのかざした手を止まり木のように乗り、もう一羽はシャルロットの肩へ留まっていた。

 突然のことに眼をぱちくりとさせたシャルロットだが、口元には自然と笑みが浮かんでいた。

「人懐こいなぁ……逃げないなんて。随分と人間馴れしてるみたいだ」

 言って、シャルロットは指先を肩へと運ぶと、小鳥は啄ばむように戯れていた。

 くすぐったさに思わず口から声が漏れる。囁くかのように小さく鳴く姿はひどく可愛らしいものがある。

「何か言ってるのかな? でもゴメンね。僕、キミが何を言っているかはわからないんだ……それにしても、紫色の鳥なんて珍しいなぁ」

 言葉が通じるはずもないのだが、何気なくそう呟き伸ばした指先で小鳥の頭をそっと優しく撫でる。それに甘えるかのように、小鳥はくちばしを擦りつけていた。

 一方のセイバーは、先から静かに――それでいて無言のまま。それはまるで、小鳥の声を聴き入るかのように。

 そのまま――

「あっ」

 シャルロットが声を漏らしたのは、肩に留まっていた小鳥とセイバーの手から離れて羽ばたく小鳥に対してのもの。

 名残惜しそうに見入っていた二羽は、校舎の方へと飛び去っていった。

「いっちゃった……つがい鳥かなぁ。すごく仲良さそうだったけれど……あんなに人間に馴れてるなんて、警戒心がないのかな?」

 ねぇセイバー、と同意を求めようと視線を向けるが――彼女は一切返答せず、今来た道を戻り、第四アリーナへ駆け出していた。

「セイバー!? どうしたのさ!?」

 シャルロットも慌ててその後を追い駆けていた。

 

 

 上空を走るは二機のIS、黒色と黄色。

 IS学園から更に二機のISの反応があることにホークアイは気づいていた。迷うことなく自分たちへ向かってくるということは、恐らく、相手も此方を捕捉しているのだろう。

「…………」

 オータムの援護に向かおうとしていたが、瞬時に彼女は判断を取りやめていた。

 スコールから命令されていた内容は「オータムのサポート、だが状況如何によってはその限りではない」とのものだ。つまりは、状況に応じて最善となる策をとれ、ということになる。

 故に、ホークアイは、自分たちが出来得る限りの最優先へ移行する。それは、更なる追撃者をオータムへ向かわせないこと。

「サニ」

「んー?」 

「追っ手が来た。海上に出る」

「んー、了ー解」

 二機は進行方向を変え、市街地から海上へと飛行ルートを変更する。と、ハイパーセンサーに捉えていた二機もまた此方の進路を追ってきていた。

 やはり此方を追ってきたかと確信すると――追ってこなければこちらから襲撃するだけだったが――IS学園から遥か離れた沖合いの海上で機体を停止させていた。サンシーカーもまた機体を滞空させている。

 ここでならば、スコールに釘を刺されていた無駄な被害も出はしまい。

 そう判断すると、ホークアイは背後を振り返っていた。そこには、『打鉄』と『ラファール・リヴァイヴ』が同じように滞空している。

 搭乗者ふたりの幼さが残る顔を見る限り、どうやらIS学園の生徒なのだろう。てっきり教員か何かの類が追ってきたとばかり思っていただけにホークアイの心境は若干拍子抜けだった。

 正義感からか、または興味本位からなのかはわからないが、いずれにせよ、オータムのために足止めはせねばならない。

 瞬時にホークアイはハイパーセンサーを起動させ、該当データ検索にヒットしたIS機体は一件。フランス代表候補生の専用機、『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』――

(フランス国家……曰くつきの候補生、シャルル・デュノア……否、シャルロット・デュノアか……)

 表示ウインドウを消し、ホークアイは向き直る。

 サンシーカーも該当データを確認したのだろう。彼女の方は、つまらなそうに声を漏らしていた。

「あなたたち、何処の所属ですか? ここがIS学園と知っての行動ですか?」

 勤めて冷静に、それでいて気丈に警告するシャルロットだが、相手二機の該当する事細かな詳細データは存在しなかった。

 一目見てわかり得たのは、IS機体は『ラファール・リヴァイヴ』であること。

 それも――

(僕と同じ、カスタム化されている機体だ)

 シャルロット自身のリヴァイヴ・カスタムⅡと同じように、基の形状とは懸け離れた機体。

 片方は軽装備仕様。身に纏う装甲も必要最低限とされる腕部や脚部だけ。本来搭載されているシールドの類は一切見当たらない。スラスターも二翼のみ。

 もう片方は重装備仕様。両肩を覆う装甲アーマー、腰に下がるフィン・アーマー、脚部に搭載される砲門。加えて、機動性を補うように背には大型のウイングスラスターが四基。

 この空域を飛行する話など聴いてはいない。ならびに、学園でのパフォーマンス、こんな機体を持つ生徒や候補生がいるとも聴いていない。なによりも、バイザーで顔を覆っているが、搭乗者ふたりは見知らぬ相手だ。

 言いようのない不安を覚える。背には嫌な汗が流れていた。

 物々しい雰囲気に、頭では理解している。眼の前の人間が、ただの人間ではないということが。

「……もう一度訊きます。あなたたちは、何処の所属の方ですか? 応えてください……返答如何によっては、あなたたちを拘束しなくてはいけないことになります」

「…………」

 再度問いかけるシャルロット。

 セイバーもまた無言ではあるが、機体は自然とシャルロットを護るように前へと出ていた。彼女の直感が警鐘を奏ではじめる。

 だが――

「んんー、ホーク……わたし、あっちの『打鉄』のお姉ちゃんの方がいいな。()()()()()()

「…………」

 それには応えもせずに――

 ホークアイの眼は、橙のIS――シャルロットへと向けられていた。それとともに、ホークアイの先までの楽観視は消えていた。サンシーカーの口にした言葉に、相手ふたりが、ただの学生ではないと認識を改めたために。

 バイザー越しであるというのに、射抜かれるような鋭い双眸を感じ、悪寒により、ぞくりと身を震わせるシャルロットだが、相手が話しに応じないというのは雰囲気でわかった。

 それでも三度警告しようとするシャルロットだが――その口は動かなかった。眼は大きく見開かれる。

(なに、あれ……)

 黄色のリヴァイヴの手に生まれた、量子変換した――大太刀。

 刀身、刀幅、厚み、大雑把な言い方をすれば、その形状はまるで軍艦でも一撃で粉砕できるかのような――さながら『対艦刀』とでも呼ぶべきか。

 それほどまでに、言葉無く見入ることしかできないシャルロットに構わず、刃渡りは三メートルはある大剣をサンシーカーは容易に扱い構えていた。

 セイバーもまたシャルロットほどではないが眼の前の少女が握る大剣に驚いていた。だが、彼女の脳裏に走ったのは第五次聖杯戦争で相対したバーサーカー、ヘラクレスが使用していた岩の斧剣――

 ホークアイもまた、両手には量子変換された長銃を握り締めている。その銃も、シャルロットは見たことが無いデザインだった。

「――っ、セイバー!」

「わかっています。シャルロット、下がってください」

 既に呼び出し、ブレードを構えたセイバーの声に応えるかのように――サンシーカーとホークアイは、リヴァイヴを駆り、牙を剥き襲いかかっていた。


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