ストライクザブラッド ─真の零番目─   作:本条真司

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第33話

阿夜「我の結界を、壊すか...自分の家に、土足で入られた気分だ、な」

零「言っとくが、ここは俺らの学校だ。不法侵入は阿夜だろ」

阿夜「.....確かにそうだ、な」

古城「納得するのか....」

那月「ふふん、阿夜は物わかりがいいからな」

 

雪菜と夏音は絶句している

隣にいたはずのサナが、那月の口調で話始めたからである

 

零「阿夜、諦めろ。罪を償ってこい」

阿夜「まだ、終わりではない、ぞ?(ル・オンブル)...!」

零「....もう休め、阿夜。那月のためとはいえ、やりすぎだ」

阿夜「....!」

雪菜「監獄結界という魔術のために捕らわれ続ける南宮先生のため....だったんですね」

 

そして夏音が、炎月を起動する

 

夏音「火の陣、でした」

阿夜「....っ!」

 

すると、雪菜たちを捕らえていた檻が溶けた

 

零「阿夜....否、我が血の従者よ。ありがとう。もう休め」

 

零はそう言うと、左手を左に向け、那月は扇子を開き、阿夜に向けた

 

那月「起きろ、輪環王(ラインゴルト)

零「起きろ、影環劫(ラインオンブル)

 

零の声は静かでありながら、阿夜を思う暖かいものだった

これだけのことをやった阿夜は、普通に裁判にかけられると、死刑は確実。ならば、那月が──親友がいる世界で、親友がいる結界で過ごさせたいという心意気であった

 

古城「那月ちゃんと同じ....!?」

 

古城の言葉通り、零が出した守護者(・・・)は、那月の守護者と、ほぼ同じであった

違うのは、色。那月の守護者は金色なのに対し、零の守護者は、黒。(ル・オンブル)の色であった

 

阿夜「私は...私は....!まだ、終わりでは...ない...!」

 

阿夜が黒き炎に包まれる。零の攻撃かと思われたが、違った

 

零「ロスト...!?」

那月「阿夜...!」

 

二人は声をあげた。が、少し震えているようだ

同じ魔女──守護者の所有者にはわかっているのだ

この、自分の魂を守護者に喰わせ、膨大な力を手にする『ロスト』の恐ろしさを

 

久遠『零!まだ、救えるでしょ!』

 

そのとき、久遠の声が、神威から聞こえた

零は反射的に能力を起動した

 

零「天血当主権限行使・七式突撃降魔機槍<鎧>!」

 

神格振動波駆動術式を全身に纏う

そしてそのまま阿夜に駆け寄る

阿夜は零に攻撃を仕掛けるが、那月が打ち落としているのを確認しながら、零は阿夜を抱き締める

 

阿夜「....!!?」

零「すまなかったな、阿夜。お前にばかり負担を押し付けて。だが、これからは俺も負担しよう。二人....否、三人で那月を解放する手段を探そうぜ」

阿夜「....わかった、から....離せ」

零「あ、すまん」

 

阿夜は照れているのだろうか、顔が赤い。そして、悲しそうな顔をする

 

零「悲しそうな顔をするな。俺たちからすればすぐにまた会える。今度は合法的にな」

夏音「そのときは、優麻さんも一緒、でした」

阿夜「......わかった。ありがとう、な」

 

そして、阿夜の周囲の地面から鎖が飛び出す

監獄結界のシステムが、阿夜を連れ戻そうとしているのだ

 

那月「阿夜、どうせどこでも私たちは一緒だ」

阿夜「そう、だな...」

 

阿夜はふっ、と笑って、二人に聞こえないようにこう呟いた

 

阿夜「ありがとう、我が主。否、我が友人たちよ」

 

そして学校にかかっていた結界が解除され、古城が霧化させていた島が、元に戻った

 

阿夜「零に始まり、無限に広がる、か...その通りだ、な」

 

阿夜の体が、虚空に溶けるように消え、そこには何もなかったかのような錯覚を覚える

だが、零は阿夜が残したモノを身に感じていた

零が昔欲しがっていたネックレスと、(ル・ブルー)──優麻の守護者である

 

零「さぁて、祭りの最終日だ!楽しんでいこうぜ!!」

古城「お、おう?」

夏音「はい」

雪菜「そうですね」

 

零は遠隔操作で、優麻に守護者を戻し、無理やり作り出した元気を用いて振り向くことなく言った

 

零「あー。夏音、古城、雪菜。ちと忘れもんしたから先にここ行っといてくれ」

 

そう言いながら、零は地図を古城に手渡す

そこには、港の付近に丸が印されていた

 

古城「わかった、遅れるなよ?」

夏音「待っています」

雪菜「では、失礼します」

 

三人は、夏音の炎月で先に行った

 

零「..........」

那月「........」

零「......なぁ、那月」

那月「二人だけのときくらい、ちゃん付けでいいぞ?」

零「そうかい...那月ちゃん、従者契約、切るか?」

那月「切らぬよ」

 

さも当然といった顔で那月が答える

 

零「だけど.....」

那月「皆まで言うな。それに、どちらにせよ私は不老不死だ」

零「....それもそうだね」

那月「ほぅ?どうした?口調が昔のようになったな?」

零「ちょっと安心したよ」

那月「そうか.......」

 

そしてまた二人は黙ってしまう。別れを惜しむように

まだ語り足りないというように

 

零「そろそろ古城に怒られるな」

那月「そうだな」

 

二人は、那月の空間転移で地図に示した場所に移動する

そして、到着とほぼ同時に花火が上がった

 

古城「遅いぞ、零、那月ちゃん」

雪菜「私たちもさっき来たばかりですけどね」

 

古城は気だるげな顔で。雪菜は苦笑いで迎えてくれた

 

那月「教師をちゃん付けで呼ぶな!」

夏音「零さん!」

 

古城は那月に扇子で叩かれ、夏音は零に抱き付く

 

零「か、夏音!?」

夏音「一人で抱え込んではダメ、でした。零さんが教えてくれたこと、でした」

 

夏音には気付かれたようだ。零にとっての、最愛の人には

そして、零もまた、那月の心情を察していた。察してしまっていた

だからこそ、何も言わない

 

零「...ありがとな、夏音」

夏音「大丈夫でした」

古城「那月ちゃん、もう戻るのか?」

那月「ああ。戻らなければなるまい」

古城&夏音&雪菜「........」

零「また会えるだろ」

那月「ああ、その通りだ」

古城「けど、それは」

 

本物ではないと言いかけて、やめた

零と那月に、現実を突きつけてしまう気がしたからだ

 

夏音「那月先生は、零さんを」

那月「おっと、気付かれたなら仕方ないが、言うなよ?」

夏音「は、はい...」

零「おい古城、お前のせいで聞き逃したぞ!絶対大事な話だったのに!」

古城「知らねぇよ!俺が言いてぇよ!」

 

古城と零が怒鳴りあっている。それを見て那月は、零と怒鳴りあった日々を思い出した

そして、覚悟を決めたように後ろを向く

 

那月「月曜日の授業にはちゃんとこいよ?暁古城」

古城「まぁ、わかってるけどよ」

零「そういえば、俺は一応、大学出てるぞ」

古城「嘘だろ!?」

那月「ふふん、まぁ頑張れよ、あほつき古城」

古城「那月ちゃんまでそう呼ぶな!」

那月「では、月曜日にな」

零「ああ、そうだな」

古城「補習は嫌だから行くぜ」

 

そして那月は空間転移で移動した

監獄結界という、今の居場所へと

 

雪菜「先輩....」

古城が振り向くと、目の前に雪菜がいた

古城と雪菜は、黙ったまま、至近距離で見つめあう

ふいに、雪菜が話始める

 

雪菜「私のいないところで、変なことはしないでください!ちゃんと私の傍にいてください!」

 

あまり感情を表に出さない雪菜にとって、その言葉は精一杯の本音なのだろう。古城は真面目に反省した。たしかに、今回は雪菜に心配をかけすぎたかもしれない。しばらくは大人しくして彼女の言うことを素直に聞いておいたほうがいいだろう

 

古城「傍にいろって......花火大会が終わるまでってことか?」

 

どれくらいでほとぼりが醒めるのかわからなかったので,いちおう参考のために訊いてみる。

雪菜は、びっくりするくらい大きな瞳で古城をじっと睨みつけ、きっぱりと答えた

 

雪菜「この先もずっとです!」

 

いやさすがにそれはちょっと、と古城はたじろぐ。だが、反論することはできなかった。

なぜなら古城たちのすぐ近くで、人々がどよめく気配がしたからだ。

怪訝顔で振り向いた古城たちが見たのは、呆然と立ち尽くしている友人たちの姿だった。絶

え間なく続く花火の轟音で、彼らの足音に気づくことができなかったのだ

 

紗矢華「.....ゆ、雪菜....!?ずっと傍にいて...って、それってまさかプロポー....」

 

蒼白な顔で呟いたのは、紗矢華だった。え、と戸惑うように訊き返す雪莱たちに聞こえていたのは、古城たちの会話の後半部分だけらしい。

 

浅葱「そ、そう......まさか、正攻法で来るとはね......やるわね......」

 

動揺しつつも、なぜか闘志を燃やし始めているのは浅葱だ。雪菜を見つめる彼女の目つきは、

宿敵に遭遇したスポーツ選手のそれによく似ていた

 

雪菜「あ、あの......待ってください。今のは、その......」

 

さすがに誤解されたことに気づいて、雪菜があたふたと取り乱す。しかし、なにしろ事情が複雑なので、説明するのが難しい。

矢瀬と倫が、そんな雪菜の様子を面白そうに眺めている。

そして浅葱たちの背後にいた凪沙は、なぜか頰を赤らめて雪菜を見つめて、

 

凪沙「雪菜ちゃん...…大胆」

雪菜「ち、違? .....だ、だから......わたしは先輩の監視役として......違うんですっ!J

 

雪菜の絶叫が夜空に響き渡る 投げやりな気分で頭上を見上げる古城。笑いながら神威を顕現させる零

それを遠くから見ているみょんと羣雲、それぞれの刀である翠漣と禍

六者六様の反応を見せながら、花火大会が幕を閉じる

零は、笑いながらもあることを考えていた

 

零「(昔もこんなことがあったな。さしずめ、俺が古城で雪菜が那月ちゃん、凪沙が阿夜ってところか)」

那月「(そうだな。あれから、私以外は成長してしまったものだ)」

 

いつの間にか、那月の実体のある分身が隣にいた

 

那月「(昔のように、三人で話が出来る日が来るといいがな)」

零「来るのなんて待ってられっか!俺が作ってやらぁ!」

古城「おぉう!?どうした零!?」

零「うるせぇ!黙れ!イチャイチャしてろ!」

古城「してねぇし散々な言われようだな!」

那月「さて、と。全ては零に始まり」

 

零、古城、夏音、雪菜は答える

 

四人「無限に広がる(でした)」

 

夏音は零に抱き付き、古城はクラスの男子に捕まった

 

羣雲「ハハッ、俺が知らない過去だな」

みょん「十年前らしいよ?」

羣雲「嘘だろ!?何で知らねぇんだ!?」

みょん「多分、那月さんと同じように、幻影使ったんじゃない?」

羣雲「あのやろう!」

禍「クカカカカ!」

翠「ふふっ♪」

 

そして、羣雲は告げる

 

羣雲「幻想郷に帰るか。これなら大丈夫だろ」

禍「いつか呼ばれるぞ?」

羣雲「俺らはな」

みょん「そだね」

翠「ですが、残ります」

 

羣雲と禍は面食らったようになり、笑う

 

羣雲&禍「そうだろうな」


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