零が振り返り、優麻に目を向けると、もうそこにはいなかった
「くそっ、監獄結界に移動されたか...!」
「火・水・木・金・土・日・月」
零が呟いた直後、夏音が詠唱を始めていた
「夏音...?」
「月の陣、でした」
夏音がそう言うと、零と古城、雪菜、夏音は、監獄結界の中に移動していた
「もう使いこなしてるのか。さすがだな、夏音?」
「ありがとうございました」
「優麻...!」
「さすがに早いね。獅子王機関の四聖と一緒だからかな?」
優麻が振り返り、古城──自分の肉体に
そこに割り込んだのは雪菜だった
雪菜が
「そこまでだ、優麻」
気が付くと、零が妖櫻ではない刀で古城の肉体を斬っていた
「もうちょい加減しろよ、零?」
古城が、古城の肉体で零に抗議する
「悪かったな。ってか、今の戦闘の余韻で那月が起きちまった」
「起きた....?」
「監獄結界ってのは、那月の夢の中に囚人を収監する結界魔術だ。それが、那月が魔女になるにあたって悪魔と交わした契約」
「あまりベラベラ話すな、零」
那月の本体が目を覚まし、零に目を向ける
「あ、ダメだった?」
「いや、どうせ話す予定だったが「何で止めたんだよ」あれは話すなよ?一連のことが終わったら、私が言う」
「アイアーイ」
そして那月が、不意に真面目な表情で優麻2と向き直った。
「……仙都木阿夜の娘。どうする、まだ続けるか?」
優麻が静かに立ち上がって首を振る。
「やめておくよ。あれだけ強烈だった焦燥感が消えてるボクにはもう、監獄結界をどうこうする理由はないみたいだ.....
「そうか」
優麻が実体化させた守護者を眺めて、那月はうなずいた。
顔のない青騎士は、過剰な魔力の逆流や雪菜との戦いによって、満身創痍の悲壮な姿をさらしていた
たとえ回復するにしても、優麻が魔女としての能力を完全に取り戻すには,長い歳月が必要になるはずだ。そして優麻自身それを望んでいるとは思えない。
彼女はようやく母親の呪いから解放されたのだ。
そのことを実感して、古城は我知らず満足げな微笑を浮かべた。
異変が起きたのは、その一瞬のことだった。
「
守護者,の実体化を解こうとした優麻が、不安げに声を震わせた。
顔のない青騎士が,カタカタと全身の甲冑を震わせる。金属と金属がぶつかり合うような,
奇怪な騒音。それは笑い声だと、古城は唐突に理解する。
傷だらけの騎士が、骸骨を思わせる空虚な仮面の下で笑っている
「やめろ、
優麻が悲鳴のような声で命令する。しかし青騎士の動きは止まらない。
腰に提げていた剣に手をかけ、青騎士が初めてそれを抜き放つ。
鞘の下から現れたのは、鋭く研ぎ澄まされた真新しい刀身だ。
古城と零が飛び出して、それぞれ那月を庇うように立つ。
しかし青騎士の次の動きは、古城たちの予想を裏切るものだった。
振りかざした巨大な剣を、青騎士は優麻の胸へと突き立てたのだ。守護すべき対象であるはずの優麻へと。
「……ユウ......マ!?」
古城は呆然とその光景を見つめる。優麻の口から、ごぼっ、と鮮血がこぼれ出す。
「......お母様……あなたは,そこまで......」
自らの“守護者”に手を伸ばし、優麻が絶望の声を洩らす
彼女の胸には、深々と剣が突き刺さっていた。だが、優麻の身体を茸폰たはずの切っ先が、彼女の背中に現れることはなかった
優麻の肉体を空間転移の門に使って、剣をどこかに転送したのだ.
「待チワビタゾ....コノ瞬間ヲ。抜ケ目ナク狡猾ナ貴様ガ、ホンノ一瞬、気ヲ抜クノヲ」
顔のない青騎士が、錆びた声を紡ぎ出す。
それは女の声だった。歳を経た邪悪な魔女の声音だ
「ブービー-トラップ......か....自分の娘を、捨て駒にするとはな....外道め...」
那月が突然、蔑むようなうめきを洩らす。
彼女の息から漂う血の臭いに、古城は表情を凍らせて振り返った。
レースで美しく飾られた那月の胸元から、想しく無骨な鋼鉄の塊が生えていた。
青騎士の持つ巨剣の切っ先が
「南宮先生!」
「那月ちゃん!?」
「那月⁉」
あまりにも歪なその光景に、雪菜と古城、零は愕然と立ち尽くすしかない。
呆然自失の古城を少し怒ったように睨みつけ、那月が弱々しく笑う
「担任教師を....ちゃん付けで呼ぶな......馬鹿者」
人形のように小柄な担任教師の身体が、ゆっくりとその場にくずおれていく。
顔の無い青騎士の、不気味な笑い声が途切れることなく聞こえてくる。
あまりにも軽い担任教師の身体を抱きかかえながら、
「うおおおおおおおお─────っ!」
古城はただ声を嗄らして絶叫した
壊れかけの薄暗い聖堂に、第四真祖の咆哮が響き渡る