とあるギルドナイトの陳謝【完結】   作:皇我リキ

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【幕間】とあるギルドナイト(悪党)の陳謝

 その日、僕はギルドナイトになった。

 

 

「さーて、就任早々だが一つ仕事をしてもらう」

 まだギルドナイトのスーツも貰えていない状態で、僕をギルドナイトに推薦し同僚の先輩となったクライス・アーガイル。

 ある意味で彼は僕の命の恩人で、ある意味で彼は僕を都合の良い駒に使う悪党である。

 

 

「ギルドナイトの仕事、ですか?」

「おうよ。ここ数ヶ月、ユクモ村でハンターが行方不明になる事件が多発しててな。しかも男のハンターだけが、クエストを受けずに村の中で行方不明になるって奇妙な事件よ」

 なにそれ恐ろしい。

 

「んでだな、犯人の目星は付いてるわけよ」

 なにそれめっちゃ恐ろしい。

 

 

「んで、これが容疑者の容姿と住んでる場所の地図。ドンドルマ出身のハンターだが、ユクモ村でクエストを一回も受けた事がないのに昼間は良く酒場に入り浸ってるらしいぜ」

「いやなんで、そんな個人情報まで特定してるんですか普通に怖いんですけど?」

 なにこの組織。もう既に辞めたい。辞めたら消されるけど辞めなくてもいつか消されそう。

 

「というわけで行け。ソイツの名前はネーナ・アースティだ」

「もうやだ帰りたい」

「あ、これ。この前言ってた銃な。人に取られたり持ち逃げしたりしたら消されるから気をつけるように。こいつはギルドナイトしか所持が許されてないからな」

「もうやだ帰りたい」

 これが僕の初仕事の始まりでした。

 

 

 そんな訳で集会所。良くできた似顔絵通りの金髪碧眼の少女が、その華奢な身体に不釣り合いな場所にちょこんと座っている。

 そういえば、僕がギルドナイトになる前からあの娘を集会所でよく見かけたような。

 

 だけど喋りかけた事はないし、特に知り合いという訳ではない訳。さて、どうするか。

 

 

「ちょっと質問いいですか?」

「お、坊主か。最近見かけないと思ったが久し振りだな。親父さんも最近見かけないんだが、元気か?」

 ユクモ村は僕の故郷なので、集会所には知り合いもいる訳だ。

 

 だから話しかけて聞こうと思ったんだけど、これは失敗だったかな? まさか自分で殺した父親の事を聞かれるとは。

 

 

「あ、あはは。まぁ、ちょっと遠くに引っ越しましてね」

「あー、なるほどなぁ。だからあの加工屋も無くなってた訳だ!」

「……は、はい。まぁ」

 何も知らないってのは、幸せな物だと思う。

 

「で、今日はどうしたんだ?」

「えーと、あの娘に付いて知ってる事があったら教えて欲しいんですけど」

 やっと本題に戻れたので、僕は小声で知り合いのハンターに少女の事を聞いてみた。

 なにか詳しい話が聞けるといいけど。しかしあの華奢な女の子がハンターを何人も殺害したなんて信じられない。

 

 

「なんだ、ナンパか?」

「そう来たか。いやそう来るか普通」

「ん? 違うのか?」

「いや、ナンパです」

 怪しまれても困るので僕は真顔でそう返した。いや、よく考えたらこれもおかしい気がするぞ。

 

「どうしたんだ小僧」

「世の中金と女って事に気が付いたんですよ」

 なに言ってるの僕。えーい、もうどうとでもなれ。

 

 

「……お前も成長したんだな」

「……そういう訳です」

「……誰に似たのやら」

 父親かな。

 

 

「でもなぁ、俺もそんなに知ってる訳じゃないんだよ」

「と、いいますと?」

「俺も確かに少し前からあの娘が集会所に来るようになったのは知ってるが、喋った事ないんだよなぁ。ただ、風の噂なんだけどよ」

 知り合いは僕の耳に顔を寄せて、小さな声でこう続ける。

 

「あの娘と話していたハンターは数日後に行方不明になるって話だ。変な噂だよなぁ。だから小僧も気をつけた方が良いぜ? はっはっはっ」

 そう言うと僕の背中を叩いてくる知り合いのハンター。

 

 成る程、容疑者扱いされる訳だ。

 

 

 ただこれは一応仕事だから、僕は調べるしかない訳です。適当なタイミングを見計らって話しかけるとするか。

 相手がもし人を殺しているというなら、気を付ければ良いだけの話。夜道で二人きりになった時とか、変な暗がりに連れ込まれたりした時に気を付ければ良いだけ。相手はあんなに華奢な女の子なんだからね。

 

 

「やー、どうもどうもお嬢さん。こんな所で一人でお茶かい? 良かったら一緒にどうかな?」

 そんな訳でナンパした。特にタイプという訳ではないが、ナンパした。

 本当は僕は自分より背の高いお姉さんに甘えたいタイプだ!! いや、そんな事はともかく。

 

 

「ふふ、どうぞ。一人で暇していたんです」

 少女はあっさりと二人でお茶をする事を聞き入れてくれた。しまったな、このパターンは次にどうするか決めてなかったよ。

 

 

「ど、どうも」

 どうするウェイン・シルヴェスタ。考えろ。何か適当に話を作れ。

 

 

「さ、最近、ハンターが行方不明になる事件が多いですね」

 何聞いてんだこのバカ。いや僕なんだけども。

 

 容疑者に事件の事を話す奴が居るか? 煽ってるのか? 煽ってるとしか思われないぞ? 

 

 

「ふふ、そうですね。なんだか、私とお話をしたハンターさんは行方不明になるって噂が立ってるみたいで」

 少女はお茶を人差し指で突きながら、俯いて言葉を落とした。

 寂しそうなその声は、どうにも守ってあげたくなる。

 

「あ、いや、そ、そういう訳じゃなくてですね!?」

「良いんですよ。多分、仲間内で罰ゲームか肝試しみたいな事をしてたんじゃないですか? あの疫病神女に話しかけてみろ、みたいな」

 この娘が本当にハンターを行方不明にしてる犯人か、なんだか違う気がした。

 

 何かが引っかかる。

 

 

「ち、違いますよ。本当です。……実は、一目惚れで」

「優しいんですね」

 くすりと笑う少女の笑顔はとても素敵で、僕はこの時思ったんだ。

 

 

 

 あ、これが恋に落ちるって奴なんだなって。

 

 

 

 幸か不幸か、本当に一目惚れしてしまった訳です。はい。

 

「私、父は熟練のハンターで殆ど家に居なくて。母も亡くなっていて兄弟もいなくて、家にいても一人ぼっちなんです。……だから、とても賑やかなこの集会所でお茶をするのが楽しいんですよね。……罰ゲームだったとしても、肝試しだったとしても。あなたが話しかけてくれて嬉しかった。ありがとう、見知らぬハンターさん」

 この娘は犯人じゃないな。確信した。

 

 

 だから帰ってあの悪魔のような先輩にこの娘の無実を証明しよう。

 

 そう思ったんだけど、もしそうしたら僕は別の仕事で他の村や街に飛ばされるんじゃないか。

 あの先輩の拠点はタンジアだって言っていたし、そうなれば僕はもうこの娘に会えない。

 

 

 僕は狩りは本当にてんでダメだったけれど、なぜだか頭の回転だけは早かった。

 だからどうしたら良いか、どうしたら僕の都合の良いようになるか、簡単に思い付く。

 

 

「じゃ、じゃあさ。……僕で良ければなんだけど」

「?」

「お茶を飲む友達にならない? 僕の名前はウェイン。ウェイン・シルヴェスタ」

「お友達。うれしい! 私は、ネーナ。ネーナ・アースティよ」

 

 

 その日、僕達はお茶友達になった。

 

 

「と、いう事で。まだ疑いの余地があるので調査を続けたいと思います」

「ん、まぁ、お前がそういうなら分かった。またなんか分かったら教えろよ」

「勿論です!」

 数日に一度、クライス先輩に観察の報告をするのが僕の日課の一部。

 ネーナちゃんの疑いは正直皆無だが、僕が彼女とお近付きになる為にはこう嘘を吐き続けるしかないのだ。

 

 

 報告が終わると、僕は整備に出していた銃を受け取ってネーナちゃんの元に走っていく。

 こんな物要らないんだけど、もし本当の犯人がネーナちゃんを襲うなんて事があったら僕はこれで守らなきゃいけないからね。

 

 

「ごめんネーナちゃん、待たせちゃったかな?」

「ううん。いつまででも待つよ」

 笑顔で手を上げてくれるネーナちゃん。天使か。

 

 ちなみに、僕と彼女が出会ってから二ヶ月という月日が経っていた。

 

 

「そういえば明日だね」

 いや、月日が流れるのは早いもので。

 

「あー、付き合って一ヶ月だね」

 なぜかお茶友達からお付き合いに発展し、それから一ヶ月も続いてしまっていた。

 ふ、計画通り。見ててくれ母さん、僕はこの先薔薇色の人生を送るよ。ザマァみろ糞親父。

 

 

「あのね、ウェイン君」

「どうしたの? ネーナちゃん」

 上目遣い辞めて。天使か。

 

「お父さんが久し振りに帰って来てたんだけど、今日また街に行っちゃうんだ」

「あら、それはまた寂しくなっちゃうね。僕の事はいいからお父さんとの時間を大切にしたら?」

 流石にまだお父様と顔を合わせるだとかそんな話ではないと思う。いや、怖いじゃん。

 

 

「ううん、それは良いの。慣れっこだから。……でもね、今日の夜はちょっと寂しいなって。あと、一人って怖いんだ。誰かが人が守ってくれたら、良いのになぁ」

「ったく、何言ってるんだよネーナ。僕は一応ハンターなんだよ?」

 なぜ見栄を張った僕。いや、まぁ、寂しさを紛らわせるくらいなら僕にも出来る。モンスターを倒せなくても寂しさくらい倒してみせるよ。

 

 

「でも、お父さん出て行くの深夜の本当に夜遅い時間だし。鍵も掛けちゃうんだよ? ねぇ、もし私が起きてたら、太陽が登るよりも少し早くに家に来てくれる?」

「行く行く。太陽うんぬんじゃなくて、お父さんが出ていった瞬間にもう行っちゃう」

「あはは、流石にそれは私寝てるかな。朝六時くらいで良いから、来てくれる?」

「勿論さ。いや、もう真っ暗だろうが行くから安心してよ」

「ふふふ、だから寝てるって。……待ってるね。武器、ちゃんと持って来てね」

「勿論。僕が君を守るから」

 

 

 こうして初めてネーナちゃんの家に行く事になったのだが、初彼女の家である。

 

 

 もうそれは想像するよね。

 想像する事といえば一つだよね。

 

 

 

 男の子だもん!!! 

 

 

 

 そんな訳で日付が変わって少し時間が経った頃。

 

 ネーナちゃんの父親らしき人物が彼女の家から出て行き、ちょっと高価な鍵を掛けていった。

 鉄の棒を刺して、形が合うと鍵の開け閉めが出来るという優れ物の鍵。そんな鍵で僕とネーナちゃんの恋を防げると思うなよ。

 

 

 いや、はい。お父様にはいつか必ず挨拶しますよ。はい。勿論ですとも。

 

 

 

 無駄に知識とかはあるので、僕は小さな針金でその最新式の鍵を開けてみた。簡単に開いちゃうんだね。

 これがギルドナイトのやる事なのだろうか、なんて疑問はさて置き。

 

 

 

「ネーナちゃーん、来たよー?」

 寝ていると思うから、僕は小さな声を出してみる。返事はない。

 

 

 少し部屋を進むと、真っ暗な部屋で薄着を着て横になっているネーナちゃんの姿が見えた。

 普段は見えないような身体の形が見える薄着に、ちょっと僕は己の理性と戦う事になる。

 

 

 

 落ち着け、流石にそれをやったら嫌われるぞ。

 

 

 でも目の前に大好きな彼女の無防備な姿があるんだぜ? 

 

 

 僕の理性は本能と激しい戦いを繰り広げた。それはもう激しく、激しく求め───

 

 

 

 

 ───気が付いたら半裸の二人がベッドで横たわっていた。

 

 

 

 あまり書くとRー18に飛ばされてしまうので何が起きたかはカットする。察して欲しい。僕の理性はモスみたいな強さで、本能はティガレックスみたいな強さだったって事だ。

 

 怒られはしなかったけど、目覚めたネーナちゃんは心底驚いた表情だった。いや、うん、ごめん。本当に悪気は無かったんです。僕が屑なのが悪いんです。

 

 

 

「……なんか、ごめんね。ネーナちゃん」

「……ううん。嬉しかったよ。あのね、ウェイン───」

 持ち上げた身体を押し倒してくるネーナちゃん。

 

 

 ふふ、もう一回するかい? 僕は全然───ん? 

 

 

 突然腹部に感じる違和感をたどって手で触ってみると、激痛と共に何か熱い液体が手を赤く染める。

 

「───大好きだよ」

 そんな言葉と共に引き抜かれた小型のナイフからは、おびただしい量の血液が流れ落ちてベッドを赤く濡らした。

 

 

「───なん……で?」

 意味が分からなかった。

 

 自分がされた事の意味も、彼女の言葉の意味も。

 

 

「ウェインが私を調べる為に近付いてきたのは分かってたの。……ギルドナイトが私を嗅ぎまわってるって噂もあったし」

 ネーナちゃんは立ち上がって、僕を見下ろしながらそう言う。

 ごめん、何言ってるか分からないよ。確かに僕は君を調べる為に近付いた。でも僕にはそんなつもりは無かった。

 

 ただ僕は、君と居たかっただけなんだ。

 

 

「昼間、私と会う前にギルドナイトの人と話してたよね。……それで確信したんだ。やっぱりあなたは生かしておけないって」

 あぁ、やっと理解が追いついた。

 

 

 君は黒だった訳だ。本当に件の事件の犯人で、僕が君を疑ってると踏んで消す事にした。

 そんな単純な事に気がつくのが遅れたのは、僕が本当に彼女を疑ってなかったからだと思う。

 

 恋は盲目とはこの事だ。

 

 

 クソったれな人生だよ。

 

 

 

 

 

 尊敬していた父が母を殺し、大切に思っていた少女に殺されかける。

 

 我ながら不幸だと思うね。もう何も信じられない。誰も信用出来ない。信用しない。

 

 

 

 

「私、父親なんて居ないんだ。家族も居ない。色んなハンターさんを誑かして、こうして油断した所を殺してたの」

「それで所持品を盗んだりって事かな? 件の事件の動機は金儲けって訳か……。そんなに可愛い顔してるんだから、真面目に接客業とかしてみたら良いと思うよ。僕だったら君みたいな娘がいたら毎日通うね」

 腹部を抑えながら軽口を叩いてみる。なんとか致命傷にはなっていないみたいだけど、このまま放っておいたら普通に死ぬ。

 

「これが仕事だから」

「仕事?」

「私はね、あなたと違うけど同じお仕事をしてるの。……罪を犯したハンターの排除。他の人には内緒だよ? あなたにだから教えるの、ウェイン」

 ごめん、何言ってるか分からないよ。

 

 

 それに、もう騙されない。僕は誰も信じない。

 

 

 

「けど、ギルドは裏の仕事を組織の外に知られてはいけない。例えそれが同じギルドという存在であっても、他のギルドには知られていけない。これが()()()()()()……私達の仕事なの。本当は殺したくない。私、ウェインの事大好きだよ」

「人を刺しておいて、今更意味の分からない事を言うなよ……っ!!」

 僕は本気で、本気で君の事が好きだったんだ。

 

 

 それなのに───意味の分からない理由で殺されてたまるかよ。

 

 

 

 服の中に隠してあった銃を手にとって、ネーナに向ける。

 

 

 

「───なっ」

 一瞬彼女から視線を外した僕の視界に映る少女が手にしていたのは、僕を刺したナイフじゃなくて───

 

 

「───ごめんね、さようならウェイン」

 ───僕が握っている物と同じ。銃だった。

 

 

 それはギルドナイトしか持っていない筈。何故だ? なぜ彼女がソレを持っている? 人から奪ったのか? 作った? 理解が追い付かない。

 ただ一つ分かる事は───早くこの引き金を引かなければ僕が死ぬという事。

 

 

 

 だから僕は。

 

 

 

 

 何も考えずに。

 

 

 

 

 考えられずに。

 

 

 

 

 その引き金を引いた。引いてしまった。

 

 

 

 

 弾き出される鉛弾。音を立てて倒れる少女。僕に新しい穴が空くことはなく、ネーナの握っていた銃が地面に落ちる。

 

 

「……っ」

 僕は生きていた。

 

 でも、生の実感よりも、驚きの方が強い。少しずつ回り始める頭。目の前で倒れる少女が目に映る。

 

 

 

「……う……い…………ん」

 名前を呼ばれているような気がした。

 

 喉元を真っ赤に染めた少女は、虚ろな目で必死に僕を見ている。辞めろよ、そんな目で見るなよ。君は僕を裏切ったんじゃないか。そんな目で見るなよ。

 

 

 

「………………ごめ……ね」

 瞳が閉じて、力が抜けていった。

 

 息を引き取った少女の瞳から流れる涙はなんだったのか。回り始めた頭がソレを理解するまで、僕は本当にどうにかしていたんだと思う。

 

 

 

 ソレが分かった瞬間、僕はこの世界を呪った訳だ。

 

 

 

 そんな理不尽があるかよ。そんな意味の分からない事があるかよ。

 

 

 

 何がギルドナイトだ。何が正義の執行人だ。

 

 

 

 僕達は───ただの悪党だ。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 それは、ギルドナイトになった日の話。

 

 

「ネーナ・アースティ。本名ジュリア・マール。ドンドルマのギルドナイトで、ギルドの任務で密猟者やギルドのルールを破ったハンターを裏で消していた。それを事件として見ちまったタンジアギルドは、その犯人を殺人犯として処理。……なんとも皮肉な同士討ち。初仕事でこれは酷いもんだなぁ。……俺が言うのもなんだが」

 報告書を読み上げる、とあるギルドナイトは頭を掻いて立ち上がる。

 

 

「まぁ、大層な仕事ぶりだ。これに免じてギルドナイトを辞める事を俺が許可しても良い。……どうする?」

 ギルドナイトもギルドも一枚岩という訳ではなく。色々な場所で裏の仕事をこなしていた。

 

 彼女は確かに人殺しだった。でも、それがギルドナイトの仕事だったんだ。

 

 

 いや、本当。意味が分からないよね。何それ? 

 

 

「今ならまだ戻れるかもしれねぇぞ? さぁ、どうする。お前が選べ」

「どうするも何も……」

 戻れる? 

 

 

 そんな訳がない。

 

 

 僕は自分が一番大切だと思っていた人をこの手で殺したんだ。

 

 きっと彼女は分かっていた。彼女は分かっていたから、僕を殺さずに自分が殺される道を選んだ。

 あの時彼女は先に引き金を引く事だって出来た筈。

 

 そもそも、あの後調べたらあの銃には弾が入ってなかった。

 

 

 刺し傷も、思っていたより浅かった。

 

 

 彼女は初めから殺されるつもりだったんだ。

 

 

 それがギルドのルールだったんだろう。ドンドルマのギルドナイトは、他のギルドにバレる事なく仕事をしなければならないとか、そんな感じのふざけたルールだったんだろう。

 

 

 

 僕は何も考えずに彼女を殺した。

 

 

 彼女がどれだけ悩んでいたか、事が終わってからやっと分かった。

 

 

 クソくらえ。

 

 

 こんな人生どうでも良い。

 

 

 

 今から戻れる訳がない。だって僕は───

 

 

「───僕はもう、正気じゃないですよ。頭がイかれてるんです」

「じゃ、決定だな。これがお前のギルドナイトスーツだ。適当に着ろ」

 自分のギルドナイトスーツを手に取る。

 

 

 これを着たらもう、本当に戻れないかもしれない。

 

 

 

 いや、もう、戻る場所なんてない。

 

 

 

 ここが僕の居場所なんだ。

 

 

 

 ネーナ、いつか近いうちに僕がそっちに行ったらさ───

 

 

 

「んじゃ、早速仕事だ。お前が殺した女のように、俺達はいつか己の罪の咎を受ける。……その覚悟だけは、しておけ」

「……へいへい、りょーかいです」

 ───また一緒にお茶、してくれるかな? 

 

 

 

 僕も大好きだったよ、ネーナ。

 

 

 

 ───ごめんね。




これにて本作の更新は完全に終了です。番外編を書くつもりもありません。これまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

本日中に活動報告にて、キャラクター紹介とあとがたりを書こうと思います。今後の予定なども書きますので、お暇な方は是非遊びにいってやって下さい。


とあるギルドナイトの陳謝は完結致しましたが、私はまだ何作品か書いている作品がありますし。また何か書き始めるかもしれません。
その時、またお目にかかる事があれば再び作品を届けていきたいと思っております。

重ね重ねになりますが、これまでお付き合い下さり本当にありがとうございました。



それでは、またどこかでお会いしましょう。


皇我リキでした。

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