1.デイダラ 魔法の森にて 上
魔法の森 上空
太陽の畑から巨大鳥型の起爆粘土で移動するデイダラは畑を離れて五分程経った今、森の上を飛んでいる。
上空からは地面が全く見えず、当然人も見えない。
「…………」
デイダラは粘土を見つけるために太陽の畑から飛びたったため、どこに飛んでいいか分からない状態だ。
闇雲に飛んだ結果、森の上空を飛んでいる。
「……流石にこんなところに粘土はねーなぁ、うん」
森の上空をしばらく飛んでいるとデイダラに異変が起きた。
「っ⁉︎……ぐっ⁉︎何だ⁉︎」
突然意識が遠のいていく感覚をデイダラが襲う。
起爆粘土の下に広がるこの森は魔法の森と呼ばれ、日光が地面まで届かず湿度がとても高い。
そのため、森の中には多種多様な茸が生えている。その中には幻覚作用を持つ茸や麻痺作用を持つ茸が多数存在する。
それらの茸の胞子が風で飛び、近くの生物を麻痺させたりする。この胞子は遠くに飛び、胞子の密度が低くなると体に作用はしなくなるが、デイダラがいる森の上空は胞子の密度がまだ高いのだ。
そのため、今デイダラは茸の幻覚作用に襲われている。
「……っ!」
意識が遠のいていくのを感じるデイダラは起爆粘土を操作し、着陸できる場所を探す。
彼が操作する起爆粘土はそれなりの威力がある。もし、デイダラが意識を失いコントロールを失った起爆粘土がどこかに激突すると大爆発を起こしてしまう。
高度がだんだんと低くなっていく起爆粘土を操作するデイダラは目前に開けた場所とその中心に建っている建造物を見つけた。
デイダラは起爆粘土を操作し、建造物の裏手に着陸した。そこでデイダラの意識はなくなった。
魔法の森に住むアリス・マーガトロイドは人形を作っていると、自宅の近くに近付いてくる存在に気が付いた。
自宅の裏手に現れたと思われる存在に警戒するアリスだったが、いくら待っても誰も来る気配がなかった。
そこでアリスは自作の上海人形に確認に向かわせたところ、巨大な鳥を模したものの背中で気絶している男を見つけた。
◆
「……うん?ここは……」
ベッドに寝かせられていたデイダラは起き上がると、辺りを見渡す。シックなインテリアで統一された部屋の中を小さな人形があちこちで動いている。
「……人形?」
「あら?目が覚めた?」
突然の声に身構えようとするデイダラだったが、体は痺れているかのように動かなかった。
デイダラは視線を動かし声がした方向を見た。声の主はウェーブのかかった金髪蒼目の少女だった。
「あなたは家の裏で倒れてたのよ。よくもまあ、こんなところに来たわね」
「……ここはどこだ?」
「ここは魔法の森よ。対策もなしに来るところではないわ」
デイダラは〈魔法の森〉と言われてもピンとこなかった。そんな森は聞いたことがないからだ。
「……その〈魔法の森〉ってのはどこの国にあるんだ?うん」
「国って……ああ、あなたは外の世界から来たのね」
「……外の世界?」
デイダラは少女の言っていることが理解できなかった。しかし、それは仕方のないことである。いきなりここは違う世界だ、と言われて誰もすぐに理解することは難しい。
デイダラは若干混乱しているが、今の現状を把握することを優先した。
「……外の世界ってのはオレが住んでいた世界ってことでいいのか?」
「まあそんな感じね。あなたがここに迷い込んだのか、あなたが忘れ去られたのかは分からないけれど」
忘れ去られた、という言葉を聞いてデイダラは少女に食ってかかった。
「ちょっと待て!それじゃオイラの存在は!オイラの芸術は忘れ去られたのか!……ぐっ!」
少女に突っかかったデイダラは体が痺れ、動きが止まる。
「まだ動いてはいけないわ。体の中の毒素が抜け切れていないもの」
「……毒、そういやオイラは急に意識が遠のいていく感じが……」
「あなたが吸い込んだのは麻痺作用のある茸だったわよ。もう少し毒素が強いものだったら危なかったかもしれなかったわ」
デイダラは知らず知らずの内に命に危険が迫っていたことに背筋が凍った。
「……まあ、アンタは命の恩人だ。アンタがいなければオイラはここで死んでいたかもしれなかったからな、うん。……しかし、部屋の中を動き回る人形は何だ?」
デイダラは少女にお礼を言うと、部屋のあちこちで動く上海人形を見る。
「あれは上海人形、私が作ったわ。命令するとああやって動くの」
「……ふーん、サソリの旦那みたいだなぁ、うん」
部屋の中を動き回る上海人形を見てデイダラはかつてのパートナーを思い出した。
「……サソリ?」
自分と似たようなことをしているという人物の名前を少女は復唱した。
「うん?ああ、そいつはオイラと前に組んでいた男だな。まあ、あれは人形というより傀儡だがな」
「…………」
少女はデイダラが言った男の名前を記憶した。人形は人の形を模したものであるが、傀儡は人形を操る目的で作られたものである。似て非なるが本質は変わらない。
少女は自分の意志で行動する完全な自立人形を作ることを目標としている。同じ
「…………」
少女は部屋の中を動き回る上海人形を目で追っているデイダラを見てあることを思う。
「……あなたは人形が勝手に動いているのに何も思わないの?」
「……?」
少女はデイダラが上海人形を気味が悪いと思っていないことに疑問を感じた。少女は今までに森で迷った人間を受け入れたことがあるが、皆少女と人形を気味悪がり抜け出していた。
「……サソリの旦那の作業場も似たようなもんだからな、うん」
「……そう」
「うん?おい、あそこの人形……」
デイダラの視線の先には動かなくなった上海人形が転がっている。手にはモップを持っていて掃除の途中だったようだ。
「……また命令し直さなきゃ……」
少女は机を避けて人形がある場所まで歩き、命令をかけた。命令を受けた上海人形は再び動き出した。
「……ずいぶんと効率が悪いな、うん」
「今は効率が悪いかもしれないけれど、いつかは完全な自立人形を作ってみせるわ。……それが今の私の目標だもの」
「……まぁ頑張るんだな」
少女の目標に一応のエールを送るデイダラだった。
デイダラはそこであることをふと思い出す。
「しかし、サソリの旦那はそういう意味だとすごいな」
「……どういうこと?」
デイダラの言葉に少女は聞き返す。
「サソリの旦那は永久に動き続けるんだからな、うん」
「……⁉︎」
少女はデイダラの言葉に混乱する。
「……それって……」
「ああ、分かりやすく言えばサソリの旦那自身が人形なんだよ」
「⁉︎」
少女は今まで生きてきた中で一番の衝撃を受けた。少女の目標が目の前にいる男はその存在を知っているのだ。
バンッ‼︎
少女は自分でも驚くほどの音で机を叩き、デイダラに微笑んだ。
デイダラは少女の笑顔に少し恐怖を感じた。何故なら少女の笑顔は明らかに繕っていたからだ。
「そのサソリという人、もう少し詳しく聞かせてくれないかしら?」
(……ヤバい奴に助けられたな、うん)
デイダラが少女に危機感を抱いた時……
コンコンッ
少女の家に訪問者が訪れた。
次もデイダラです。