東方暁暴走録 〜暁メンバーが幻想入り〜   作:M.P

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7.長門

天界

 

奥行が十メートルほどの洞窟の奥に二人の人物がいる。

一人は暁のリーダー、長門。もう一人は不良天人、比那名居天子。長門は紙の絨毯のようなものの上に横たわっている。そんな長門を見下ろす天子。

 

天子は長門の顔の横に立ちしゃがみこむと長門の目を覗き込んだ。洞窟の中は薄暗く普通の人間ならば長門の目をよく見ることはできないが、天子にはあまり関係がなかった。

 

「ねぇアナタ、何で目が波紋状になってるのよ。教えてくれない?」

 

好奇心旺盛な天子は長門の輪廻眼のことを質問する。

 

「……これは……」

 

長門はこの瞳のことを話していいか迷った。

輪廻眼は長門がいた世界では最強の瞳術と呼ばれ、輪廻眼を開眼した者はあらゆる性質の術が使えることができ、特殊な術も使えるようになる。ゆえにその力を求める者は多く、これを知られると数多の人間から狙われるのである。

 

「……何?話したくないの?ならいいけど」

「…………」

 

長門が話さない様子を見て、天子は興味を失いそっぽを向いた。天子は立ち上がると近くにちょうどいい高さの岩がありそこに腰かけた。

 

「じゃあ、外の世界のことを聞かせてくれない?私外から来た人と初めて会うんだよねぇ〜」

「外の世界?」

「あ、そっか。知るわけないわよね。いい?ここは幻想郷って言うの。しかも、天界よ。運がいいのか悪いのか」

「…………」

 

どんどん話を進めていく天子に長門はついていけなかった。かろうじて分かったことは、今いる場所は自分達が住んでいた世界ではないということぐらいだ。

 

「悪いことは言わないわ、早くこんなところ出ていった方がいいわよ。あ、でも外の世界のことを言ってからにしてくれない」

 

天子の物言いに呆気にとられた長門だったが、自分は動くことができないために長門は天子に自分の人生を話した。

ここは自分達のいた世界ではないこと、自分はもう何もする気力がないことからだった。

 

 

暁のリーダー、長門の人生は凄まじいものだった。

幼い頃、他国の忍に両親を殺され孤児となる。食糧が底を尽き行き倒れたところに出会ったのが小南と弥彦だった。三人は互いに手を取り合い生きた。

だが、その時忍同士の戦闘に巻き込まれ、三人と一緒にいた犬が死んだ。この時弥彦は世界の神になることを決意し、長門もまた彼の願いが長門の夢となった。その後、三人はその時の戦闘に参加していた忍の一人に教えを請うた。忍の弟子になった三人はみるみる上達していき、強くなった。

 

修行が終わり忍と別れた三人は“暁”という組織を作り、武力に頼らない平和をつくるために活動を続けた。

暁の存在を無視できなくなった国の長は当時の暁のリーダー、弥彦に大国間での平和交渉を持ちかけた。だが、その交渉自体が罠であり弥彦は死亡した。

 

この世に絶望した長門は暁のリーダーとなり、暁は犯罪者が集う組織となった。

長門は禁術兵器を作りそれを各大国に分配し、兵器による人々の恐怖心によって戦争を抑制しようとした。

だが、その計画は止められ、長門は一人の忍に希望を見て自分の全ての力を使い、殺した人々を復活させ弥彦と長門の夢を託した。

 

 

天子は頬杖をつきながら長門の話を聞いていた。

 

「……アナタってばすごい人生を送っていたのね。だけど平和の為にとはいえ犯罪者を集めてまでなんて……」

「そうでもなければ計画は進まなかったのだ。だが今はもう関係ないがな」

 

自分の人生を話した長門は目を閉じ思いを馳せる。自分が死んだ後、本当に世界は平和になったのか、と。

 

「はぁ〜、外の世界も大変ね。ここ(天界)は戦争もなくてずっと平和だけど……うーん」

「……どうした?」

 

長門は天子から聞いた天界を羨ましく思い、また望んでいた世界でもあった。だが、天子は天界を快く思ってはいない様子だ。

腕を組み首を傾げる天子はその体勢のまま長門に質問する。

 

「長門はさあ〜、()()()()()ってどういう意味だと思う?」

「?」

 

天子の質問に対して長門は頭の中にはてなマークが浮かぶ。

天子は姿勢を直して両手を自分が座っている岩の上に置いて天井を見上げる。

 

「確かにここはずっと平和で争いなんかない。ただ毎日豪勢な日々を過ごすだけ。でもね、()()()()なのよ」

「……どういうことだ?」

 

長門は天子の言っていることが理解できなかった。

 

「私から言わせてもらうなら、ここはクソ以下よ!」

「⁉︎」

 

長門は目を見開いた。天子が言ったことが信じられなかった。

長門と弥彦、小南の夢である争いのない世界が否定されたのだ。

 

「歌って踊って飲んで暮らす、……それがずっと続くのよ!終わりなんてないの!」

 

天子の叫び声が洞窟内に響き渡る。

 

「…………」

 

長門は天子が天界を貶す理由を理解した。

ここには刺激がないのだ。刺激がなければ人は意欲が湧かない。永遠に続くというのは人間にとっては地獄でしかない。

長門は天子の言葉を聞いて目を閉じて思考する。

 

「ハァ、ハァ……アナタどうしたのよ」

 

天子は叫んだことによって息を切らした。

 

「……オレはただ争いがなければいい、と思っていた。だが、お前の話を聞いてまた考えを変えないといけない」

「……どういうことよ?」

 

長門の言葉に天子が問いかける。

 

「……オレは本当の意味での平和を見つける」

 


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