東方暁暴走録 〜暁メンバーが幻想入り〜   作:M.P

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かなり長くなってしまいました。


5.サソリ

玄武の沢

 

幻想郷には大小の山があるが、その中でも一番の存在を主張する妖怪の山の麓に垂直に切り立った岩の壁に囲まれたそこに小さな沢がある。

そこは玄武の沢と呼ばれ、この沢には河童達が住んでおりそこを拠点として行動している。外敵に襲われないようにするため、邪魔が入らないようにするため、という理由がある。

 

妖怪が跋扈する妖怪の山の麓の沢で静かな自然の世界では聞こえない機械音が響き渡る。

沢にある無数の洞穴の中に河童達のアジトがあり、機械音はそこから聞こえてくる。アジトは河童達が作った傘付きの白昼電灯が天井からぶら下がっており暗さを感じさせない。

 

そのアジトで動く姿がある。河童達だ。河童は技術力が凄まじく道具と材料があれば、大抵のものは作れてしまう。

その技術力を持った河童の一人、河城にとりはとても上機嫌である。

にとりは阿漕な商売をしたりする性格が黒い河童だが、技術者故に技術に関しては貪欲だ。にとりは手に持ったドライバーを器用に使い目の前にある()()をいじっていく。

 

「ふっふ〜ん♪いやーやっぱ外の技術はすごいね〜」

「口を動かすくらいなら手を動かせ」

「ヒュイッ⁉︎ご、ごめんなさい」

 

にとりは無駄口を指摘され素直に謝った。他の河童達も雑談をしていたので慌てて作業に取りかかった。

にとりが謝った相手は人間だったが河童達は人間の言う事を聞いている。

妖怪は普通人間の言う事は聞かないが、これにはある事情があった。

 

今日は河童達にとってある意味では波乱を呼ぶ一日だった。

 

 

外の世界のとある国で、“赤砂のサソリ”と呼ばれる忍がいた。

その忍は子どもの頃から天才と呼ばれ、国の部隊長をしていたが祖国を抜けて“暁”に入った。

彼は傀儡を巧みに扱い戦うが、彼の一番の能力は人間を人傀儡に作り変えることができるということだ。そして彼は今まで殺してきた人間を人傀儡にしてコレクションしていた。

その数は三百近くに登り、その数の一つに祖国の代表がいた。最もこの事を知っているのはサソリを含めて三人しかいない。

 

サソリは暁のアジトの一つの場所で実の祖母ととある国の忍を相手にし、その戦闘で死亡した。

傀儡、毒を使うも対策されついには()()()()()()()()()()まで使って応戦するも身内に手をかけることを躊躇ったために、その一瞬の隙を突かれ自らが作った傀儡〈父〉と〈母〉にサソリの本体を攻撃された。

 

その後、穢土転生によって蘇り連合国の奇襲部隊と交戦する。この時サソリは傀儡を持っておらず、生身での戦闘だった。その理由により本来の力が出せず拘束される。

サソリはこの時、自分を拘束した忍に穢土転生によって蘇った自身の体を「かつて自分が追い求めていた体だ」と、言ったが同じ傀儡使いの忍に「傀儡使いが操られたらお終いだ」と、説かれサソリは自分の芸術である「永く後々まで残ってゆく永久の美」が「次の世代に受け継がれてゆくもの」であるという答えに至り、自身の傀儡を託し昇天した。

 

穢土転生から解放されたサソリだったが、彼はいつの間にか幻想郷にいた。

辺りは森が鬱蒼と茂っており人がいる気配はない。

 

「…………」

 

獣の声を耳に挟みながらサソリは森を移動するが、同じ所をグルグル廻っている感じがする。

それもそのはず、彼は誘導されていた。

そのことにサソリは気がつくが誘導している相手が出てこない。さらに、彼が作った傀儡も今は一つも手元に無い状態である。

サソリは何もできずにいた。

 

 

サソリが移動を開始する少し前、河童達は自分達のアジトの近くに人間がいることを知り、ある装置を発動した。

その装置は同じ所を歩き廻らせ森から出さずにそのまま餓死させるというものだ。河童達のアジトが見つかってもその場所を誰にも伝えさせずに消すためである。だが、サソリがグルグル廻っていることに気がついたため少し離れた茂みから様子を見ていた。

 

サソリが動かないことに河童達が疑問を抱き始めた頃、サソリがいきなりこちらに振り向き何かを指の先から飛ばしてきた。

突然のことに河童達はその何かを避けられず、三人ほど捕まってしまった。河童達は光学迷彩スーツを着ているために自分達の姿は見えないはずなのに的確に命中させたサソリに恐れを抱いた。

サソリに捕まった河童達はサソリの先から出ているチャクラの糸で操られていた。

操られた河童達は仲間に攻撃を強要される直前……

 

「ま、待った。私達は降参する。だから仲間達を解放してくれ」

 

光学迷彩スーツの電源を切り、青いツナギ服を着て背中に巨大なリュックを背負った河童の河城にとりが茂みから姿を現した。両手を挙げ降参のポーズをし、手には何も持っていないことが分かる。

 

「…………」

 

彼女に敵対心がないことが分かると、サソリは河童達についているチャクラ糸を切り離した。

 

「な〜んて言うと思ったか!バーカ!」

 

サソリが糸を切り離したのを確認したにとりはリュックからマジックハンドを伸ばし、サソリを捕まえようとしたが……

 

「あたっ!」

 

マジックハンドがサソリに触れる前ににとりの後頭部に木片が直撃した。にとりは前に倒れ込み、マジックハンドもサソリに触れることなく地面にめりこんだ。

サソリはチャクラの糸を出した時、河童達だけではなく武器になりそうなもの(いくつかの木片)にも糸を付けたのだ。

サソリが河童達を解放した時ににとりはもう指先から出ている糸はどこにも繋がっていないと思い込んでしまい油断してしまったのだ。

 

「やっと姿を見せたな、さぁオレをここから出してもらおうか」

「イテテ……、それは無理だよ。何しろここは妖怪の山、出ようとすると人食い妖怪に襲われるよ」

「何ッ⁉︎」

 

マジックハンドをしまい後頭部を押さえながら立ち上がるにとりはサソリにそう言うと……

 

「別に私が人里の近くに連れて行ってもいいけど……」

 

にとりはサソリに視線を向けた。

 

「……何だ?」

「いや〜、タダで連れて行くほど私は優しくないんだ。()()()()の技術を教えてくれるなら考えてやらないこともない」

 

にとりの申し出にサソリは眉を顰めた。だが、サソリはある単語に耳を傾けた。

 

()()()()……だと?」

「うん?お前さんはまだ自分の身に何が起こっているのか分かってないのかい?ここは幻想郷って言うんだ。外の世界で忘れ去られたものが辿り着くところだよ」

「…………」

 

にとりが告げた事にサソリはしばらく呆然としていたが、すぐにハッとしてにとりに問いかけた。

 

「……外の世界とはオレが住んでいた岩の国とかのことか?」

「そんな国は聞いたことがないが、外の世界だということは間違いないね。ま、こっち(幻想郷)ではアンタみたいなのを外来人って言うんだけど」

 

にとりの言葉に右手を顎に置き思考を巡らすサソリ、そんな様子を見ていたにとりはサソリにある提案を言う。

 

「……こんなところで話すのも何だ。別の場所でこの先のことを話そうじゃないか」

 

ここは妖怪の森である。いつ襲われるか分からないのに森の真ん中で話しをするのは人間も河童も危ない。

にとりはサソリにそう促し、アジトへ誘い込むことにした。

 

「この辺りに私達のアジトがあるんだ。そこで話さないか?私達もそろそろ危ないんだ」

「…………」

 

サソリはにとりの言葉を聞いて、自分を誘導していると感じた。騙し討ちをした彼女だ、まだ何か企んでいることは勘で分かった。

だがサソリは……

 

「分かった、そこに案内してもらおう」

 

 

アジトに戻った河童達はそれぞれ背負っているリュックを下ろしていく。

サソリはアジトのミーティングルームのような場所に通された。大きな丸い机を中心にした部屋で机の上には紙やペン、何かよく分からないものが乱雑している。

椅子が机の周りを囲むように並んでいるが、机も椅子も彼女達河童の大きさに作られていた。

 

「まぁ適当に掛けてくれ、椅子のサイズはそれしかないんだ。座り心地は悪いかもしれないが我慢してくれ」

 

サソリは近くの椅子に座ったが、サイズは当然合わず尻の位置より膝の位置の方が大分高くなってしまった。

サソリは椅子のことよりも現状を知ることの方が大切なため文句を言わなかった。

 

「……さて、ここがどういうところか、詳しく聞かせてくれ」

「それは幻想郷のことかい?それともこの河童のアジトのことかい?」

 

椅子に座ったにとりはサソリが何を聞きたいか分かっていてからかった。

その返しに苛立ったサソリだったが〈河童〉という言葉が引っかかった。

 

「河童?」

「あぁ、そういや言っていなかったね。私達は河童さ、皿は見せれないけどね。さて、自己紹介といこうか。私はにとり、河城にとりだ」

「……サソリだ」

「サソリ、か。いい名前じゃないか」

 

自己紹介が終わるとサソリは早速幻想郷のことを聞いた。

 

「幻想郷とはどんなところだ。忘れ去られるとはどういうことだ」

「そのままの意味だよ。外の世界でアンタのことを知っているのは誰一人いないということさ」

「‼︎」

 

衝撃的な事実にサソリは思わず息を呑んだ。

それはサソリが作った傀儡も誰が作ったか分からない、もしくは傀儡そのものが忘れ去られたということになるからだ。

傀儡の製作者というサソリが存在した事実が外の世界から消え去ったことにサソリはショックを受けた。

 

「……アンタが外の世界でどんな存在だったか知らないが、私としては早く外の技術を教えて欲しいんだが」

「…………」

 

サソリはショックから少し立ち直り、今やることを優先した。

 

「……分かった、教えよう。ただし、約束は守れ」

「ああ、分かってるよ」

(そんな約束守るわけないだろう、外の技術が分かるんだ。逃すわけにはいかないよ。ニヒヒ)

 

にとりはサソリとの約束を守る気は始めからなかった。

心の中で黒い笑みを浮かべていたが、サソリの次の言葉にその笑みはなくなった。

 

「もし約束を守らなかったらお前達を人傀儡にしてやる」

「ほぉーっ、それは何だい?」

(外の技術かな)

 

外の技術を聞けることにテンションが上がっているにとりは机に身を乗り出す。

 

「殺した人間をそのまま傀儡にするんだよ」

「えっ?」

 

 

にとりはこの人間をアジトに入れたことを後悔した。

外の技術はにとりはもちろん河童達にとって新しい発見だったがそれを伝えた人間をアジトに連れてきたのがいけなかった。

 

河童達は今傀儡を作らされている。にとりが約束を守る気がなかったのがバレ、サソリを怒らせてしまいにとりは傀儡にされかかったが、にとりは河童達にも傀儡を作らせそれを全てサソリに渡すということを提案した。

その提案でサソリの怒りは一応収まったが、「次はない」という言葉に河童達は震え上がった。

にとり以外の河童達が手伝っている理由は傀儡にされるのはにとりだけではないからだった。

 

外の技術を聞けることができた反面、しばらく河童達はサソリの機嫌を悪くしないように過ごした。

 

 




長門、イタチは少し時間がかかりそうです。

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