東方暁暴走録 〜暁メンバーが幻想入り〜   作:M.P

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文章を一部修正しました。


3.飛段

 

 旧都、そこは幻想郷の地上から追放もしくは嫌われた者達が暮らしている。だがそこの住人はそんなことは気にもせず毎日のように宴を開いていた。

 

 そんな旧都の暗い路地裏で一人の男が仰向けに寝ている。口からは涎が垂れ、いびきをかいているがその程度ではここの住人は気にも止めない。酔っ払って路地裏で寝ている人がいるのは旧都では日常の光景だからだ。

 その男は若干汚れてはいるが黒と分かる色に赤い雲が描き込まれた服を胸元を開いて着ている。髪型はオールバックで銀髪だ。

 

 バシャッ、バシャシャッ。

 

「うが、……ぐふっ、ゲホゲホッ、ゴホッ!」

 

「オウ、起キタカ」

 

 かけられた酒が器官に入りむせた声が出るが、それは喧騒な宴会によって掻き消される。

 酒をかけられた男はまだ少しむせているが体を起こし周りを見渡して自分の状況を確認する。

 

「……アァー、どこだここァ?……ウオッ!?」

 

 男は自分を起こした人を見た。いや、生物と言った方がいいかもしれない。男に酒をかけて起こしたのは筋骨隆々で男の背丈の倍以上もある赤黒い鬼だった。

 

「ココハ地底ダ、人間ニトッテコノ旧都ハトテモ危ナイゾ、早ク立チ去レ。デナケレバオ前ヲ喰ッテシマウゾ」

 

 目の前の鬼を見てあまり状況が呑み込めていない男だったが、自分が()()()()()()()()()ことを思い出すといつも持ち歩いている大鎌を掴もうと背中に腕を回す。

 

「あれ?無ェ、オレの鎌はどこだ?」

 

 右手は空を掴むばかりで

ならばと足元を見回すも何もない。

 

「ドウシタ?何カ探シテイルノカ?……何モ落チテイナイゾ」

 

 男は何か嫌な予感がして服の中も探ったが何もなく、男は着の身着のままの状態だった。

 

「……やべェ、クソッ!これじゃあジャシン様に何も捧げることができねぇ……」

 

「……何ヲ言ッテイルノカサッパリ分カランガ立チ去ラヌノナラ喰ウゾ」

 

 男が困惑する様子をよそに鬼は男を喰らおうと腕を伸ばした。もう少しで肩が掴まりそうになった時、男は飛び上がり路地裏に並ぶ屋根の上に着地する。

 

「何ッ!?」

 

「けっ、てめーなんかに捕まる程オレは遅くねェよ」

 

 鬼は男の身体能力に驚いた。男の動きは普通の人間のそれではなかったからだ。

 

「コノ!下リテコイ!」

 

「だーれが下りるかバァーカ」

 

 舌をペロリと出して屋根の上を悠々と男は走る。鬼もそれを追いかけるが、風のように走り抜ける男に追いつけず姿が見えなくなったところで足を止めた。

 

「オノレ、久々ニ人間ヲ喰エルト思ッタノニ」

 

 ご馳走を逃がしたことに鬼は地団太を踏みながら逃げた男を追いかけた。

 

 ◇◆◇

 

 飛段は“暁”のメンバーである。

 それと同時に“ジャシン教”という新興宗教の信者であり自分の目的の為に暁に所属した為、“暁”そのものに忠誠心はあまりない。

 

 彼の一番の特徴は不死身である。飛段はこの特徴を利用して呪術・死司憑血(しじひょうけつ)という術で相手を死に追いやる。

 この呪術は「汝、隣人を殺戮せよ」を教義とし、殺戮がモットーのジャシン教が生み出したものである。

 

 この呪術を簡単に言えば、自分が攻撃を受けると呪術の対象者にも同じ影響を与えるというものである。飛段に体に剣や槍が刺さると、対象者にも飛段が受けた同じ痛みを与える。一度呪術の対象になると、ほとんど詰みになってしまう。

 

 飛段がある一個小隊と闘った時に彼と呪術の弱点を見破られ、策略に嵌まり生き埋めとなってしまう。飛段は不死身といっても栄養を摂取しなければ腐ってしまう。ゆえに生きたまま体が腐って死に、時が経ち忘れ去られた。

 

 

 

 鬼から逃げのびた飛段は屋根の上を歩いていると大鎌を背中に担いだ少女を見つけた。あれほどの大きさだったら失くした鎌の代わりにはなるだろうと踏み少女に話しかけようと屋根から飛び降りる。

 

 そんなことは露知らずの少女は肩をガックリと落としたまま地上に出ようとしていた。

 

 ◇◆◇

 

 唐傘お化けの妖怪の少女、多々良小傘はここの所先行きが不安だ。

 少女は右目が青色、左目が赤色のオッドアイで髪は水色のショートボブである。右手に紫色の傘をさし、左肩に大鎌を担いで旧都を歩いている。そんな彼女を気にする者は一人もいない。

 

 唐傘お化けは人を驚かすことで腹を満たすが、彼女の場合人の驚かし方が下手であること、幻想郷では非常識に慣れた人間が多いという理由によって彼女は空腹であった。

そんな彼女でも対策はするが、上手くいくことは少ない。鍛治で生計を立てているものの最近は売れ筋が良くない。

 地上で売れないならば、と地底に来たがここでも同じだった。

 

「はぁーっ、売れないなぁ。人間の子ども達も驚いてくれないし、張り切って地底に来たけど全然相手にしてくれない。あぁー、せっかくこの大鎌持ってきたのに。これなんかすんごく切れ味が……」

 

「おい、そこのガキ。その肩に担いでいる大鎌を寄越せ」

 

 彼女の一人言を遮り、彼女が見上げる程の身長がある男が話しかけてきた。

 

「えっ?」

 

 小傘は声がした方向に振り向いた。と同時に同じ一つ目と大きな口も振り向いた。

視線を下げた状態でいきなり一つ目と口が目の前に現れる形になる。

 

「うおっ!?……びっくりさせんな、コラァッ!」

 

 飛段の激昂に小傘は一瞬体をビクッとさせるもお腹が膨れていく感覚が彼女の中を駆け巡る。

 

「……おいガキ、何とか言ーやがれ」

 

 動きが止まった小傘に話しかけるが当の本人はピクリとも動かない。

 

「……驚いて、くれた」

 

「あァっ!」

 

 小傘は飛段の凄みに全く動じず、自分の空腹を満たす感覚を何度も反芻する。

 

「驚いてくれた!!」

 

「うぉいっ!大声いきなり出すんじゃねーよ!」

 

 小傘の突然の大声に少し面を食らった飛段だが、その驚きも小傘の腹を満たしていった。

 久々の食事に小傘は満足した。しかも、驚いたのが子どもではなく大人なので唐傘お化けにとってたいへん美味なものだった。

 

「……おいガキ、その大鎌を寄越せ」

 

「いいよ!持っていって……ハイ!」

 

 小傘は飛段の要求を快く呑み、大鎌を飛段に差し出した。

 飛段は小傘がすぐに要求を呑んだことに驚き、小傘は飛段のその驚きでまた腹が膨れ、体をくねらせる小傘に飛段は若干引く。

 

「……じゃあコレ(大鎌)貰っていくぞ」

 

「うん!」

 

 スキップしながら去っていく小傘を尻目に飛段は大鎌を担ぎ自分がさっきまで寝ていた場所に向かった。

 

「ククッ、さっきはジャシン様に捧げられなかったがこれがあればアァ!!」

 

 飛段の声は徐々に大きくなりついには路地裏に響き渡るほどの声量になる。

 

「アアアアアッ!!ジャシン様アァー!!見てて下さいよォー!!今からすんげー奴をぶっ殺しますからァー!!あの鬼の内臓とか引きずり出しますからァー!!ヒイィヤッハー!!」

 

 奇声を上げながら飛段は旧都の街並みを駆けていった。

 

 ◇◆◇

 

旧都 露店通り

 

 屋根の上に逃げられた飛段を追ってきた鬼と大鎌を持った飛段が対峙するまでそう時間はかからなかった。

 

 鬼と飛段の周りを野次馬が何事かと囲む。しかし、その中に人の姿はなく皆妖怪であり、鬼の姿もチラホラと見える。

 

 地底において一番の娯楽は喧嘩だ。ただの喧嘩なら妖怪たちの興味は薄いが喧嘩する片方が人間と聞いて野次馬たちは「早く喧嘩を始めろ」と、急かし始めた。

 

「ヤット見ツケタゾ、サァオトナシク喰ワレロ」

 

「はっ!てめーなんぞに喰われるかよ。それよりオレはこれから祈りを捧げる、だから少し待ってろ」

 

 飛段はそう言うと、胸に掛けてあるアクセサリーを外し、祈りを捧げた。

 鬼は弱い人間が仏にすがる様を見れるのなら、と少しだけなら待つつもりだったが五分経っても祈りを捧げ続ける飛段に苛立ちを覚えた。

 

「オ前、イツマデソレヲヤッテルツモリダ。イイカゲンニシロ!」

 

「ちっ、うるせーな。オレだって面倒くさいんだぞ、だけどジャシン教は戒律が厳しいんだよ」

 

 鬼の怒りに対して飛段は軽く応える。

 祈りを終え、アクセサリーを再び首に下げると、大鎌を構えた。

 

「さぁ来いよ、無神論者。……いやてめーに言ったって何も分かんねーか」

 

「アァ喰エル、久々ノ人間ダ」

 

 怒りよりも食欲の方が勝っている鬼は無策で飛段に向かって直進する。鬼の巨大な拳が飛段を捉えようとした時、大鎌の柄が先制の拳を受け止める。

 鬼の拳は防いだかのように思われたが、やはり人間と妖怪の力の差がかなりあったのか飛段の身体は吹っ飛び向かいにあった酒店に突っ込んだ。野次馬から歓声が上がり一撃を食らわせた鬼もニタリと頬を緩ませる。

 

「人間ノクセニ何カアルカト思エバ……ヤハリ弱イナァ、ウン?」

 

 鬼が顔に手をやると鼻の先がわずかに切れている。飛段が吹き飛ぶ前につけた傷だがそんなことは鬼には関係がなかった。

 人と妖怪の差は歴然であり武器も効果が薄い。鬼の身体を傷付けたことに評価するがそれだけだ。人間がどんな絶望した顔をしているかと考えていると酒店の入口が吹き飛んだ。

 

 そこから身体に付いた木材や割れた食器を振り払いながら飛段が酒店から出てきた。酒店の客たちから煽る形で徳利や皿を投げられるも飛段はそれを無視して足を引きずり地面に模様を描いた。

 

「ガハハッ、何ヲシテルンダ?」

 

 飛段は大鎌の刃にわずかに付いた鬼の血を舐める。その光景を鬼も野次馬もイカれていると笑い飛ばす。

 

「何かだと?決まってんだろォ!儀式だよ!」

 

 妖怪たちは何を言っているのか、と首をかしげていると飛段の身体が黒く変色していった。

 

「ナ、何ダ?」

 

「クックック、さぁー、これから儀式を始める!」

 


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