東方暁暴走録 〜暁メンバーが幻想入り〜   作:M.P

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ものすごく久しぶりな投稿です。
もう1年半も経ったのか。


3. 暁VSパチュリー・ノーレッジ 下

〜パチュリー視点〜

 

「うおおぉりゃぁー!!」

 

 飛びかかる人間を魔法ではたき落とす。人間は「ぐべっ」という情け無い声を出してもんどりを打ちながら本棚に突っ込んだが、すぐに起き上がる。ほこりを払いながらこちらを忌々しく見る様子からまだ諦めてないらしい。

 これだから体育会系は苦手だ。

 

「飛段、お前はいつまでそんなことをしている。俺の攻撃に合わせろ」

 

 その言葉に大鎌男は怒りをぶつけるかのように刃先を覆面の人間に向ける。

 

「うるせーぞ、角都ゥ! てめーにチンタラ合わせてたら当たんねーだろーが! これは儀式なんだぞ、俺がやらなきゃ意味ねーだんよバーカ」

 

 敵を前に喧嘩を始めた人間達に唖然とするが、私がやることは変わらない。魔法空間にしまってあるスペルカードを取り出す。先程のスペルカードと同じぐらいの威力だが、それをくらっても大丈夫な人間だから大丈夫だろう。

 

 水符「プリンセスウンディネ」

 

 空中から出現した水泡が列をなして人間達に向かっていく。数は火符よりは少ないがこちらもまともに当たったらただではすまない。

 

「フンッ!」

 

 角都と呼ばれていた人間が半身になり腕を盾代わりにするように突き出した。水泡は角都に容赦なく襲いかかるが、彼は何事もなかったかのように五体満足で立っていた。

 普通の人間だったら腕や足を抑えるほどの痛みがあるはずだけどあの人間(角都)は平気だし。それに飛段の方も仲間が攻撃を受けたのに全く心配をしていない。

 もしかして彼等は力を出さないんじゃなくて出せなかった? そういえば彼等はこっちに来て一週間も経っていなかったかしら。そう考えれば彼等があまり攻めてこないことには納得したわ。もう一、二ヶ月待てばよかったかしら?

 

 思考の海に潜っていると仮面をつけた黒い化物が口から電撃を放ってきた。少しでも隙を見せると攻撃してくるわね。ちょっとぐらい考える時間が欲しいわ。

 魔法で電撃を防ぐと視界の端から何かが飛び込んできた。彼等の攻撃か何かか、と一瞬目を向けた。

 

 ––喝ッ!!

 

 それが視界に入った瞬間に爆発が起きた。瞬時に魔法でガードしたが、もう少しで巻き込まれるところだ。

 こんなことができる人間は予想できるが念のために物が飛んできた方角を見るとやはりデイダラがこっちに走ってくるところだった。

 

「デイダラーッ!! てめー出口さがしにいったんじゃーねーのかよ!」

 

 飛段が手に持つ大鎌を絨毯に何度も叩きつける。

 

「結界が張られてたんだ! あいつを叩かねえと出れねーんだよ、うん!」

 

 私が張った結界は強力でそう簡単には壊れないようになっている。風見幽香を倒したデイダラの術に耐えられるかどうか不安だったが杞憂だったようだ。

 

「ってこたー何だ、やっぱあいつブッ殺っしゃーいいってことかァ!!」

 

「たしかに、そっちの方が早く終わりそうだな」

 

 飛段と角都がこちらに向き直る。その目には迷いがなくある意味で真っ直ぐだ。こうなった人間は面倒くさい。

 少々やり過ぎな気がするがこのスペルカードで眠ってもらう。魔法空間からスペルカードを取り出してすぐさま発動する。

 

 土&金符「エメラルドメガリス」

 

 緑色の晶石が三つ空中に出現し、すぐに巨大化していく。人間を軽く包めるほどの大きさになったそれは眼下の人間にそれぞれ向かっていく。

 

「うおっ! 危ねっ!」

 

「ぐあーッ!! 痛ェッ!!」

 

 降り注ぐ晶石を飛段と角都は蜘蛛の子が散るようにして避けたが、残りの晶石は逃げ遅れたデイダラの右半身を包むようして捉えた。

 すぐに後二つの晶石をデイダラにぶつけて動きを止める。

 

「ぐあッ!!」

 

 デイダラが苦悶の表情を浮かべる。晶石はデイダラの腹と両脚に突き刺さった。皮膚を突き破ってはいないから重症ではないが、身体を強く打ったことと変わらない。

 その場にうずくまるデイダラから他の二人に視線を向けると、すでに体勢を整えて走って来ている。辺りに落ちた晶石やデイダラに当てた晶石を自分の手足のように意識して身を守る盾の形に展開する。デイダラはもう右腕が使えない。片腕が使えないのは戦闘ではかなりのハンデだ。彼はもう戦えないだろう。

 

「痛ェッ! クソッ、喝ッ!!」

 

 そのデイダラの合図と同時に私を守っていた晶石の盾が爆発して砕け散った。

 

「えっ?」

 

 呆気にとられていると角都の雷撃がバチバチと音を立てて飛んできた。すぐに魔法障壁で防ぐと「チッ!」と舌打ちされた。本当に抜け目のない。攻撃はもう当たらないと判断したのか、角都は本棚の奥へ姿を消した。

 

 しかし、油断した。あの人間はわざと攻撃を受けて晶石の中に爆発物を混ぜたのか。いや、それとも()()()()()()が爆発物になったのか。どちらにしろ、

 

「なんて奴!」

 

 無意識にそう愚痴っていた。

 

「どうやら苦戦しているようですね、では私も手伝いましょう」

 

 本棚の陰から青肌の人間––確か鬼鮫って呼ばれてた––が顔を出した。彼の腕には目を回した小悪魔を抱られている。

 

「鬼鮫、何だそいつは」

 

「私達を陰からコソコソと覗いていたんですよ。コイツが持っていた水晶には録画機能がありました。ああ、水晶はもう割っておきました」

 

 鬼鮫は小悪魔を床に捨てると私に顔を向ける。その眼には苛立ちや怒りが含まれており簡単には許してもらえないだろう。

 いや、それ以前に私が囮になり彼らの術や技を水晶で録画し分析する計画は早くも破綻した。小悪魔にはあとでお仕置きをしておくとして今はこの状況をどうしようか。

 

「ともかくまずはここから出ましょうか」

 

 私が動く前に鬼鮫が素早い動きで印を結ぶ。

 

「『水遁・爆水衝波ッ!!』」

 

 合掌を最後に鬼鮫の口から大量の水が吐き出される。その量は異常でそこらにある一軒家ならあっという間に水没するほどのものだった。

 

「からの」

 

 鬼鮫が念じると水はまるで生き物のように蛇の形になって図書館内を縦横無尽にうねる。古びた本棚をいくつか巻き込んでとぐろを巻くと、パチュリーに狙いを済ませた。そして、鉄砲水のような勢いでこちらに向かって来た。

 

「『水遁・大水牢の術!!』」

 

 咄嗟に魔法障壁で前面をガードしたが、それは間違いだったとすぐに思い知らされた。

 

「ゴボッ、ガボッ」

 

 水は宙に浮くガラスが無い水槽のように封じ込めてきた。水は肺の中にまで瞬時で入り込んだ。

 

「ガボボボ、ゴボッ!」

 

 水の中では詠唱が出来ない。彼はそこまで見越してこの技を使ったのだろうか。だが詠唱が出来なくても使える魔法はある。これは彼らが最後の抵抗をさせない為にと残してきたが、使わざるを得ない。

 水で息が出来ないがこの魔術は詠唱がいらない。

 

 鬼鮫は油断をしている。こちらの行動に気が付かないうちに彼に指を突きつけた。

 

 ◇◆◇

 

「鬼鮫の旦那、これは?」

 

「『水遁・大水牢の術』です。『水牢鮫踊りの術』より二回りほど小さいですが」

 

 デイダラが巨大な水の球体の檻を見上げる。人一人を包む『水牢の術』より何倍もの体積のあるそれは幻想的に見えた。

 

「とにかくこれで終わり……ですが」

 

「よーしッ! これで後はコイツブッ殺しゃーいいってか」

 

 飛段は無邪気な笑みを浮かべて、手に持った大鎌を水牢の中にいるパチュリーに向ける。飛段の声には抑え付けられた怒りが込められていた。相当に溜まっているようだった。

 

「今、この娘を殺すと向こうは今度こそ本気で私たちを殺しに来ますよ」

 

 飛段が虫をうっかり噛み潰してしまったような嫌な顔を浮かべる。

 

「んじゃー、死なない程度にやればいいのか?」

 

 飛段の適当な言葉に角都が返答しようとしたその時、パチュリーが鬼鮫に腕を突き出した。それに気が付いたのはデイダラだけだった。

 鬼鮫とパチュリーの距離は三メートルほどだったが、鬼鮫達は完全に油断している。

 

「鬼鮫の旦那ァッ!?」

 

 デイダラは咄嗟に手のひらの口からまだ唾液が乾いていない粘土を吐き出した。

 鬼鮫達はデイダラの声でパチュリーが何かをしようとしていることに気が付いたが、すでに魔術が発動しかかっていた。三人が攻撃をしようにも、肝心のパチュリーは水牢に囲まれていてどの攻撃も阻まれる。

 三人のその様子にデイダラは夢中で手を一回握ったかと思うと、粘土を砲弾を投げるかのように水牢の中に投げ入れた。

 

(マズい! 攻撃が来る! 防御をッ!)

 

 パチュリーが防衛魔術を発動する前にデイダラは爆弾のトリガーを引いた。

 

「『喝ッ』!!」

 

 パチュリーの眼前にまで飛び込んだ鳥型粘土は彼女の鼻先に触れるか触れないかの距離で爆発した。


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