東方暁暴走録 〜暁メンバーが幻想入り〜   作:M.P

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遅くなりました。


2. 暁VSパチュリー・ノーレッジ 上

紅魔館 大図書館

 

 吸血鬼を主とする紅魔館の地下には巨大な空間が広がっている。

 そこは広々としておらず数多くの本棚と膨大な量の本によって埋め尽くされている。漂う空気は湿っておりインク特有の匂いがそこら中に広がっている。そこに数時間いるだけで服に匂いが移ってしまうのは避けられないだろう。

 その広大な大図書館の一角で一人の少女がある作業に没頭していた。少女の名はパチュリー・ノーレッジ、紅魔館の主人レミリアの友人でありこの大図書館の主とも言える人物である。そのパチュリーは自身の足元や宙に展開させている魔法陣を操作している。

 

「パチュリー様ー、本当に上にいる人間達をこっちに送ってくるんですか~?」

 

 涙目でそう訴えるのはパチュリーの使い魔である小悪魔だ。ちなみに名前は与えられていない。彼女の仕事は一般の図書館の司書と同じだ。だが、この日パチュリーから与えられた仕事は自分が行うことの手伝いだった。

 それだけならなんてことのないことだが、パチュリーはこの大図書館に外来人を入れるという。聞くところによるとその人間達はかなりの実力を持っているのでは?ということで少々強引ではあるが、転移魔法でここに連れて来て話をしようということになった。

 

 もっともこれを提案したパチュリーは話し合いで済むとは毛程も思っておらず大図書館が戦場となってもいいように現在進行形で魔法で本棚や図書館のあちこちを魔法で防御している。

 大図書館では普段から防御の魔法が掛かっているがそれは本や図書館を最低限守るだけであって耐久性はそこまで優れていない。パチュリーは外来人が大妖怪を倒したという情報を入手し、彼らとレミリアの闘いぶりを見て万が一のことを考えて急ピッチで大図書館の防衛に取り組んでいるのだ。

 

「私が集めた情報では彼らの強さは大妖怪にも引けを取らないわ。実際に手痛い攻撃を受けた妖怪もいるもの」

 

(あの風見幽香にあれほどの手傷を負わせた人間がどんな方法でやったのか興味もあるしね)

 

「だからってこっちに呼び寄せる必要ないじゃないですか〜、ぶー」

 

 司書の愚痴は魔法使いには届かず口ではなく手を動かしなさい、と怒られた。

 図書館と全ての本棚の魔法による防護が終わり、転移魔法もこちらから門を開ければいつでも呼び寄せることができる。

 

「さあ、来るわよ。こあ、準備しときなさい」

 

「は、はい~」

 

 小悪魔は背中の羽を慌てながら羽ばたかせてどこかへ飛んで行った。それを見届けたパチュリーの目の前に巨大な魔法陣が展開し図書館の中が目が眩むほどの光で明るく照らされる。

 パチュリーは目に飛び込んで来る目映い光を腕で覆いながら魔法に不具合がないか確認する。十秒と経たずに光が収まると魔法陣があった場所に四人の人間が現れた。無事転移してきたことにパチュリーは前に突き出ている胸を撫で下ろした。

 

 転移魔法は失敗するとどこに飛ばされるか分からない。二週間程前に紅魔館に住むホフゴブリンを転移させようとした時は魔法が失敗して行方不明になってしまった。必ず成功するとは限らないことを知らされたパチュリーはどこかの次元にでも飛ばされてしまったホフゴブリンに黙祷を捧げて現れた人間達に向き直る。

 

 そして先程まで豪華な内装に彩られた部屋にいた四人はいきなり暗く清潔とはいえない場所に飛ばされ困惑していた。

 

「どこだ、ここは?」

 

「さあ、少なくとも罠にハマったことしか分かりません」

 

 四人は図書館のジメジメした空気に顔をしかめながらも自分達に置かれた状況を確認する。周りには背の高い本棚がいくつも並ぶ圧巻の光景に押される。

 

「ここは……書庫か何かか?オイラの里ん所よりメチャクチャ広いぞ」

 

 禁術を身につける時に里の機密場所に入ったことがあるデイダラが言う。

 

「しっかし、どこのどいつだァ~?オレ達を飛ばした奴は」

 

 飛弾の何となく出た問いの答えは上から返ってきた。

 

「貴方達をここに転送させたのは私よ」

 

 四人が見上げると開いた本を片手に持つ一人の少女が宙に浮いていた。寝間着のような恰好で四人を見下ろしていたのは友人に動かない大図書館と言われたパチュリーだった。

 

 自分よりも年下に見える彼女に見下ろされることに飛段が憤懣やる方ない顔で怒鳴ろうとするが、話だけは聞いてやろうと押し止めた。

 話を聞いてくれることに安心したパチュリーは呼吸を軽く一回して口を開く。

 

「貴方達に興味があったの。それと実力を見たくてね」

 

 一触即発の状態にジメジメ感が漂う大図書館が一変して緊迫した空気に包まれる。誰も動かない状況に気まずい雰囲気になりかけたところにデイダラが口を開いた。

 

「実力だと?オイラ達はこっちに来てから逃げてばっかなんだぞ。それにオイラだってこの前も風見何とかって奴を爆破しただけだぜ」

 

「その大妖怪相手に五体満足でいる方がおかしいわ」

 

 デイダラは自分がしたことの重大さが分からず首をかしげる。もっとも幻想郷に来たばかりの彼らにこちらの世界の情勢を知ろというのが無理な話だ。彼が爆破した大妖怪である風見幽香は紅魔館の主のレミリアにも引けを取らない強さを誇っている。本来であればただ一方的に殺されるしかないのだ。

 

「そういう訳で相手してくれるかしら」

 

「いやだ、と言ったら?」

 

「こちらからいくだけよ」

 

 そう言うとパチュリーは服の裾から一枚のスペルカードを取り出す。

 ()()を見たことがある鬼鮫とデイダラが前に遭遇した妖精がしでかしたことを思い出し身構える。あの時は森を簡単に破壊するスペルカードの威力に逃げることしかできなかったことに口元を歪める。

 

火符「アグニシャイン」

 

 パチュリーがスペルカードを発動させると拳ほどの大きさの火球が少女の周りに突然現れる。それだけであれば脅威ではないが、問題はその数だった。

 

「おいおいおい、どんだけ出すんだ。あいつは」

 

 パチュリーの周りに現れた火球は十や二十という数ではきかず五十を軽く超える数だった。パチュリーが本を持っていない方の手を突き出すとそれを引き金に火球がデイダラ達目掛けて飛んできた。

 向かってくる火球に何の危なげもなく避ける四人。標的を失った火球が床や本棚に当たりデイダラは火事になることを恐れたがいつまで経っても燃える気配はない。

 

「自滅するほどバカじゃないわ」

 

「そりゃそーか」

 

 対策をしていることに全く動じないデイダラ。彼も自分の術に巻き込まれないように離れて戦う。目の前の眠たそうな表情を浮かべる少女がすることは至極当然だ。

 

「だったらオイラの爆破忍術でも問題ねーな、うん!」

 

 デイダラは手のひらの口から粘土を吐き出すとそれを練って蜘蛛形にする。その様子を見てパチュリーは彼が上での戦い方を思い出す。

 

(私が見たことも聞いたこともない術、あれで風見幽香をやったのね)

 

 先程レミリア達と“暁”が戦う様子を図書館から見ていたパチュリーは分析を始める。戦場では危険極まりない状態だが今彼女は魔法で宙に浮いている。飛び道具でもない限り攻撃は届かない。

 

(恐らくあの口に入れる前の粘土はただの粘土のようね。粘土に何か他のものを混ぜているようだけど。何を混ぜているのかしら)

 

 魔術や妖術といった多種多様な術を研究してきたパチュリー。新たに出てきたワードに心を躍らせる。

 

(それにしても忍術、か。外の世界の魔法や術とは何か違うのかしら?)

 

 デイダラの口から出た“忍術”という言葉に焦点を当てるパチュリー。魔術の世界に一石を投じるのではないかと期待していると何かがこちらに来る気配を感じ取った。パチュリーは何事かと後ろを振り返る。

 

「おらあッ!」

 

 目に入ったのはただの跳躍でパチュリーの高さにまで跳んだ飛段がまさに大鎌を振り下ろすところだった。彼女は内心驚きながらも魔法で防御術を展開して向かってくる凶刃を防ぐ。

 

「うおっ!?」

 

 攻撃を弾かれた飛段はくるりと体を一回転させて着地する。舌打ちしながら再び跳ぼうとする飛段だがパチュリーは高度を上げて距離をとる。

 

(まさかここまで跳ぶなんて……一回常識を捨てた方がいいわね)

 

 パチュリーが思考しているところに角都と鬼鮫がさらに追撃する。角都は雷遁で、鬼鮫は水遁で宙に浮く彼女を狙う。

 

(考える暇を与えてくれないか、それに今の二人は相当戦い慣れているわね。一瞬も気を抜けない)

 

 パチュリーはデイダラ達を上を通過するように移動して二人の攻撃から逃げる。それを見た角都は服の隙間から黒い繊維で人の形に象られた化け物を出してパチュリーを追わせる。口から電撃を放ちながら近付いてくる化け物にパチュリーは興味を示した。

 

(雷属性の術、しかも随分と強力ね。私の魔法で防げるかしら)

 

 電撃の威力が思った以上に強力で魔法だけで防ぐのは難しいと判断したパチュリーは新たにスペルカードを取り出して宣言する。

 

 土符「レイジィトリリトン」

 

 スペルカードが発動すると床から水晶が生えるように出現し宙に浮くパチュリーを包み込む。電撃は閉じこもったパチュリーを命中するが効果はない。黒い化け物もそれに電撃を放つが結果は同じだ。

 

(知りたい。彼らの力、その源となっている、それをもっと知りたい)

 

 パチュリーが“暁”を図書館に入れた理由は“暁”よりも彼らが使っている術に興味があったからだ。普段は図書館で大人しくしているパチュリーが積極的なことにレミリアからも驚かれていた。

 

 角都達が攻撃を止めてしばらく経つと水晶に亀裂が入り粉々になって砕ける。水晶の中からは魔力のオーラを纏ったパチュリーが姿を現した。砕けた破片は床に落ちずこぶし大の大きさから砂粒程の大きさの破片まで欠けることなく浮いていた。パチュリーが腕を左右に振ると破片が二人に向けられる。

 

「なーんかやばくねーか?」

 

 飛段の言葉は現実のものとなる。

 パチュリーが上げていた腕を振り下ろすと破片が一斉に四人に襲い掛かる。角都は素早く印を結んで土遁を発動させ防御の構えをとる。一方で飛弾は大鎌を振り回し飛んでくる破片から身を守るが数が多く全てを防ぐことはできず身体のあちこちに食い込むように刺さった。

 

「痛ってーッ!!」

 

 顔や指に刺さった痛みを訴える飛段。いくら不死身であっても痛いものは痛い。

 

「覚悟しろよ、このクソ女ぁーっ!」

 

 激昂する飛段をよそに角都は次の攻撃を仕掛ける。宙に浮く相手に飛びかからず雷遁の遠距離攻撃で攻めるが魔法陣によって防がれる同じ攻防が続く。

 

(ふふ……何だか楽しくなってきたわ。あの巫女と戦った時もこんな気持ちが湧いたわね)

 

 一歩間違えたら死ぬかもしれない状況でパチュリー・ノーレッジは自然と笑みを浮かべていた。その一方で先ほどの攻撃を避けた四人の内二人がいなくなっていることに気が付くが今は目の前のことを楽しんだ。

 

 ◇◆◇

 

 飛段がパチュリーの攻撃に悶えている時、デイダラは一人図書館の中を駆けていた。大図書館は日本人の平均身長を大きく上回る本棚三つが縦に積まれその高さは十メートルはあるのではないかという程だ。

 

 そのズラリと並ぶ本棚にはパチュリーが所有する魔導書や外の世界の本がぎっちりと詰まっている。芸術系の本なら数百冊読み通しているデイダラも大図書館のあまりの蔵書の多さに圧倒されていた。

 

「一体ここには何冊本があるんだ?」

 

 そう言いながら立ち止まると何千とある本から一冊を手に取りパラパラとめくる。だが見たこともない字で書かれているため何が書かれているか全く分からない。仕方ないと本を閉じて元の場所に戻す。

 

「しかし、ここは広いが飛ぶには狭いな、本棚も邪魔でオイラの芸術も輝かないか」

 

 デイダラの基本戦術は距離を取りながら起爆粘土を相手に飛ばして攻撃するヒットアンドアウェイである。だが、この大図書館は本棚が多く設置されている。障害物が多いこの大図書館では満足に飛べず下を走ることしかできない。

 

「少し離れたところからやるか?いや、出口も見つけねーといけないしな」

 

 パチュリーは角都と飛段が相手している。今二人に加勢するよりここを出ることが最優先ではないか、そう考えたデイダラ。

 

「ま、うだうだ言ってる場合じゃねーし、まずはここから出ることが最初だな。……しっかし、本ばっかでどこがどこだか分からねーなァ。全部ぶっ壊してやろうか?」

 

 周りをスッキリさせようと袋から粘土を出そうとした時、デイダラの後ろから声が聞こえてきた。

 

「うわあ~~~っ!!退いてくれ~~!!」

 

「あん?ぐわっ!?」

 

 声の主の願い叶わずデイダラとその人物は思い切りぶつかり、その衝撃で互いの所持品が辺りに散らばった。

 

「痛っててて、せっかく門番が眠っている時に忍び込めたのに……ってお前誰だ?」

 

「それはこっちのセリフだ!」

 

 のしかかる少女を押してデイダラは立ち上がり、自分にぶつかってきた人物を見た。その少女はデイダラとだいたい同じ背丈で黒の三角帽をかぶり黒のドレス風の服にに白いエプロンを付けた魔女のような恰好をしていた。

 

「んー?見ない恰好だな。どこから来たんだ?」

 

 目の前の少女がかもしだす雰囲気にデイダラは何も言えない。しかしあることに気が付き口に出す。

 

「そんなことよりアンタはどっから入って来たんだ?」

 

 入り口があるならば出口もあるはずだ、と考えが浮かんだのだ。いい答えが返ってくると踏んでいたがその答えはあまり芳しくないものだった。

 

「ああ~、そいつはちょっと言えねーなー。あの隠し通路は私専用なんでな」

 

 少女の答えにイラついたデイダラは吹き飛ばそうかと粘土を手から吐き出す。危険が迫っていることに露知らず

の少女は満面の笑みで言う。

 

「私は魔理沙、霧雨魔理沙だぜ。っと、あいつに見つかっちまう。あばよ!」

 

 魔理沙と名乗った少女は落ちた物を全て拾い箒に跨るとあっという間に飛び去って行った。

 

「……何だったんだ?あいつは」

 

 嵐のように去っていった魔理沙にただただ呆然とするしかなかったデイダラは今起きたことをなかったことにして出口さがしを再開した。

 


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