書いたものが消えてしまったため一から書き直していました。
今回の話は本来分割されていましたがデータが消えたのでどこら辺で区切っていたのか忘れたので合わせました。なので一万字以上あります。
1. 暁、紅魔館へ
河童のアジト
「紅魔館、か」
「ああ、そうなんだ。サソリの旦那」
今さっきアジトの外で出会った人物について話すデイダラ。眼下の傀儡から目を離さずに思考を巡らせているデイダラが「どうするんだ?」とサソリに促す。
「紅魔館、ですか」
顎に手を当てどこか思い当たることがある鬼鮫は自分の記憶を辿る。
「うん?鬼鮫の旦那、紅魔館ってのを知ってるのか?」
「知ってる、という訳ではありませんが、それらしいものを湖の辺りで見ましたね」
そう言って鬼鮫は湖で見た光景を思い出す。湖には霧が立ち込めていて視界は良くなかったが、鬼鮫がチルノ達を相手していた時に一瞬湖のほとりに大きい影を見たのだ。
だが、鬼鮫はそれが紅魔館だとは知らず大きい影は見間違いだろう、と決めつけていた。もし、デイダラの言ったことが事実ならそこに行く価値はあるのか、鬼鮫は危険と好奇心を天秤にかける。
とは言っても、ここにいるだけというのも味気ないという答えに行き着き暇になったら行こうと考えただけだった。
「しかし、紅魔館か。芸術に繋がりそうな名前だな。実物を見りゃ行くかどうかすぐ決めれたんだがな」
デイダラがうーん、と唸る。彼の芸術は爆発だが、爆破させるものにもある程度のこだわりがあった。
「ここに幻想郷についてのことなら詳しい奴がいるだろ」
サソリが視線を向けると何かマズいものを見た顔をしたにとりが部屋の入り口に立っていた。巻き込まれないように逃げようと走るにとりだが、サソリに回り込まれ捕まってしまう。
「さて、紅魔館とやらについて聞かせてもらおうか」
サソリに首根っこを掴まれ逃げられない、と判断したにとりは五人に説明を始めた。
「紅魔館ってのは霧の湖のほとりにあるでっかい真っ赤な屋敷で吸血鬼の住処さ。あそこの主人は随分と派手好きで物好きな奴でね。幻想郷で何かあるとすぐに首を突っ込んでくるんだよ」
「派手好きか、そこに住んでいる吸血鬼はオイラの芸術を理解してくれるかな、うん」
派手、という言葉に反応するデイダラ。彼の芸術は“爆発”のため素人目で見ても派手だ。自分の芸術を見せた時、その吸血鬼が自分の芸術に酔いしれるのではないか、と期待する。
「オイラは行ってみるぜ、その紅魔館とやらに」
「デイダラ、お前はその吸血鬼が派手好きだから行くんだろう?その吸血鬼がお前の芸術に賛同するとは思えんがな」
サソリの言葉にムッとしたデイダラは「見せなきゃ分かんねェだろ」と返した。
「吸血鬼ってアレだろ?人間の血を吸う不死身の怪物だったよなァ?」
紅魔館に興味を持った飛段が角都にそう話を振り、「そうだが」と角都が返す。
「だったらオレも行くぞ。本当に不死身かどうか試してーからなァ」
飛段は笑いながら大鎌の手入れを始めたその一方で、角都も紅魔館のことがとても気になった。
「その紅魔館、金になりそうなことはあるか?」
そう言って角都はにとりに詰め寄った。角都の迫力ににとりは逃げようとするが、角都がそんなことをさせるはずもなくにとりは再び首根っこを掴まれた。
「そんなこと聞かれたって私が知ってるはずないだろう‼︎」
それもそうか、と角都の口からこぼれるが紅魔館がでかい館と言葉が角都は気になった。金の匂いはしなさそうだったが、このままでいるよりはマシか、と考える。
そして件の吸血鬼が強いのならば隙あらば心臓を奪い取ろうとも考えていた。
「お、お前たち、まさか行くんじゃないんだろうな!あ、あそこは人間がどうこうできるところじゃないんだぞ!」
にとりは叫ぶが準備をする三人には声が届かなかった。これ以上厄介事はゴメンなにとりは藁にすがる思いでサソリに助けを求める。
「な、なぁ!あんた、こいつら止めてくれないか?いくらなんでも怖いもの知らず過ぎるだろォ!それにこのままだと私達まで巻き込まれるかもしれないんだよ」
にとりは三人を止めてもらおうと頼み込むが、サソリはにとりを無視して傀儡の改良に没頭していて返事は返らなかった。
(……マズい、このままだと本当に私達が巻き込まれる。でもこいつらを止める手立てはないし、どうしたら……そういえばあの鬼鮫って奴は他の奴らの喧嘩を止めたり仲裁に入ったりしてたな。せめて何も問題を起こさないよう見張っておくよう頼むか?)
にとりがこの状況をどうしようかブツブツと呟いていると後ろにいる鬼鮫に声をかけられた。
「貴方は先程から何を呟いているんですか?」
「き、聞いてくれ!あいつらが何か問題を起こす前に止めてくれないか‼︎頼むよ‼︎」
必至のあまりにとりの形相はすごいことになっているが、鬼鮫はそれに何も言わない。
「このままだと私達が本当に巻き込まれるんだ」
「巻き込まれるも何も、その紅魔館の従者は
「うっ」
「なら、今さら関係ないと言い張っても聞いてくれないのではないんじゃないですかね〜?」
「うっ、うぐぐ〜」
鬼鮫の言葉に何も返せず、これから起こるかもしれない未来に恐怖するにとり。
「まぁ、貴方の言葉は忠告として受け取っておきましょう。その吸血鬼が本当に強いとなると私達で勝てるか分かりませんからねぇ」
もしかしたら踏みとどまってくれるか、とにとりは希望の光が見えた。
「それでも、強いというのならばなおさら会いたくなりますね」
が、一瞬で消えた。立ったまま気を失ったにとりを横目に鬼鮫は視線をデイダラ達の方に向ける。
「オイラは行くぜ紅魔館に。サソリの旦那、アンタはどうすんだ?」
デイダラはそう言いながらパンパンに張った袋を服の中から取り出す。デイダラは紅魔館の従者が去った後に大急ぎで粘土を採取していたのだ。
良質の粘土が取れるまでの繋ぎにしようとしていたが思った以上に質の良い粘土が取れたことにデイダラは満足していた。
「いや、いい」
「うん?旦那は行かねえのか?」
「ああ、行かない、興味がないからな」
「そうか?旦那ならてっきり傀儡の材料にするために行くと思ってたんだが……何でだ?」
自分の予想とは別の答えが返ってきたことに面食らうデイダラ。
「傀儡の材料としてなら興味があるが、傀儡は生前の人物の能力を引き継ぐんだ。それを日光が弱点だとか何とか、そんなものを傀儡にしたところですぐに壊れちまうのが目に見えているんだ」
「ああ、んなこと前言ってたなぁ、うん」
サソリの傀儡は材料となる人間を文字通りにそのまま使う。吸血鬼の肉体は魅力的だが、日光の弱点はサソリであってもどうしようもなく他の具材で代用してもいいが、それでは人傀儡ではなくなっている。作るものは完璧な状態で仕上げることに芸術家としてのプライドがあるサソリは道具が揃ってからだ、とデイダラに告げる。
「それにオレの傀儡はまだ未完成だ。それにそんな奴らと殺りあうにはまだまだ傀儡が足りない。だから行かない」
「まあ無理強いはしねェが本当に行かねーんだな?」
「オレよりも自分のことに気を向けたらどうだ」
見ると角都と鬼鮫はすでに部屋を後にしており飛段も部屋を出ようとしているところだった。
「おいおい、デイダラァ~、てめーが一番最初に行くってんのに来ねーのか?」
ヘラヘラと笑ってデイダラをいじる飛段。二人はよく口喧嘩をしては他のメンバーが止めるが今は誰もいない。
「行くったってんだろうが!うん!」
デイダラは粘土がパンパンに詰まった袋を腰に下げて外へと慌てて出た。
四人がアジトを出て数分経った頃、にとりが正気に戻るがアジトに四人がいないことに気付くと顔を青くしてサソリに掴みかかりそうな勢いで叫ぶ。
「お、おい!アイツらどこへ行った?!」
「ここにいないことが答えだ。もうとっくにアイツ等は出て行った」
「……お、終わった。私達河童はあいつ等に滅ぼされるんだ」
サソリの作業部屋はにとりの乾いた笑いで包まれた。
◇
「あ~~~~、あち~~~~」
「うるさいぞ、飛段。黙っていろ」
「角都ゥ、オレぁあち~からあち~っつってるだけだぞ~。うあ~~~」
「まぁ、飛段の言うことも分からなくもないですよ。日差しがとても強いですし……」
鬼鮫は手で目を覆いながら空を見上げる。空は雲一つない快晴で、ジリジリと幻想郷を照り付けていた。森のあちこちでは何種類もの蝉がジージーと鳴き、それがさらに四人に暑さに拍車を掛けている。
デイダラを含めた元“暁”メンバーの四人は紅魔館へと足を進めていた。河童のアジトから出た時は勢いがあった四人だが、今は飛段を筆頭に暑さにやられ始めていた。
暑さで頭がどうにかなってしまいそうな飛段が不意に顔を上げると靄がかかったように視界はかすんでいた。
「なぁ、あそこらへんずいぶんと霧がかかってないか?向こう側がほとんど見えねーぞ」
飛段の言葉に他の三人が顔を向けると確かに目の前に広がる道の先には濃い霧がかかっていた。
「ということは、紅魔館もこの辺りということになりますね~」
「ってことはそろそろ着くのか。しばらくは暑いのとはおさらばできるな、うん」
外の予想以上の暑さにまいっていた飛段は霧で涼もうと汗でベタベタの体を動かして霧の中に飛び込む。
「あ~~、涼しーなーおい」
霧の中に入ると今までの暑さが嘘だったかのように霧の中は涼しかった。飛段に続いて三人も霧の中へと入って来た。
「霧が濃くて何も見えねーがほんとーにあんのか?紅魔館ってのはよー」
「詳しい場所までは分かりませんが……湖のほとりにあるとあの河童は言ってましたから湖をぐるっと回ればその内たどり着くんじゃないですか?この湖は広いですがグルリと回るだけなら時間はかからないと聞きましたし」
「あー?まだ歩けっつーのか、てめーは。もーちょっと場所を特定できないのかァ~?」
これ以上外にいるのはゴメンな飛段は鬼鮫を罵る。
「そう言われましても……ああ、そういえば」
「あん?何か思い出したのか」
「ええ、私が紅魔館らしきものを見たとき森を背にしてましたね」
かなりの曖昧な答えに飛段はコケる。
「うォい、もうちょっとマシな情報はないのかよ?」
「いいえ、ありません」
鬼鮫がはっきり言うと飛段は掴みかかろうと飛び掛かるが角都にのされた。
「私がここにいたの一時間にも満たないんです。全て覚えている訳はないじゃないですか」
その後、湖の上を歩くという案も出たりしたが反対側に着いて紅魔館がなかったらどっちに向かえばいいか分からないということから却下された。
結局、四人は湖を迂回する形で紅魔館に向かうことになった。
◇
湖に沿って歩くこと二十分、大きな影が霧に映し出されると飛段は影に向かって一目散に走り紅魔館の外形を視界に捉える。
「おーい、ここが紅魔館だよなー!違ったらオレァぶっ壊すからなーッ!」
後から来た三人に呼びかける飛段。目的地と違っていたら本当に壊しそうな勢いでうるさく叫ぶ男に角都が答える。
「ここで間違いないだろうな。あの河童は紅魔館のことを真っ赤な屋敷だと言っていた」
「……本当だろうな?」
飛段の問いに角都は軽く頷いて返す。
「さて、何とかここに着きましたけど」
鬼鮫が言いながら目の前に見える門の前にいる人物をチラッと見る。
門の前には一人の少女がいた。これ程の大きさの館のなると門番が置かれているのも頷けるが、その少女は背中を門に預けてグーグーと寝ていた。その様子に四人は不安になる。
「なァ、こいつって本当に
寝ている少女に飛段は大鎌の柄でコンコンと叩く。
「他にそれらしいものは見えねーならどこに行こーってんだ、うん」
「招待したのは向こうだ。オレは先に入っているぞ」
角都はそう言って門の上を飛び越えていった。「では、私も」と続けて鬼鮫も門の中へと入っていく。
「おォい!!ちょっと待ててめーらァ!置いてくなァ!!」
飛段も慌てて門の上を飛び越えた。
「……オイラも行くか」
一人取り残されたデイダラは門の上に飛び乗ると中の様子を窺う。眼下に広がる庭は芸術と言われてもおかしくないほど整理されており、デイダラの心をくすぐる。
「うん、やっぱここにはオイラの芸術を分かってくれそうな奴がいそうだな」
この館の住人は自分の芸術をどう見てくれるか、そんな期待で胸を膨らませているデイダラが入った数分後、どこからか飛んできた侵入者も門の上を平然と越えて入って行った。
◇
紅魔館内
四人が玄関の扉を開けて館の中に入るとまるで来ることが分かっていたかのように少女がそこに立っていた。
「ようこそおいでくださいました」
「あ!アンタは!?」
アジトにやって来た同じ人物がいきなり目の前に現れたことにデイダラは粘土が入った袋をつい落としそうになる。
「おや?この人が河童達のアジトまで来た従者ですか?」
デイダラの様子から三人は目の前の少女を観察する。鬼鮫達は少し気を抜いていたとはいえ気配を悟らせなかったことにルーミアも倒した実力も合わせて警戒した。
「しかし、おかしいですわね。門番がいたはずなのに何の連絡もなかったので少し慌てましたが」
「あー、門番てあのグースカ寝てた奴か。たぶんまだ寝てんじゃねーか?うん」
デイダラの言葉を聞いた咲夜は一瞬顔が固まりすぐに取り繕った笑顔になる。
「後でオシオキが必要ね」
小声で聞こえてきた従者の言葉に何も追及しない方がいいと悟ったデイダラは改めて屋敷の内部を見回す。所々に鮮やかな装飾や高級感溢れる芸術品が見て取れるがそれ以前に気になるところがあった。
「……赤いな」
ついポロっと口からそんな言葉が出たのはデイダラだった。芸術を扱う彼にとって他の芸術品の見極める眼を持っているが、その眼が芸術より他のものに移ることはデイダラ自身にとって衝撃を与える。
紅魔館は外装だけでなく内装まで赤で統一されていた。床はもちろん、壁まで赤一色に染まっている。目が疲れたのかデイダラが目をこすっていると従者が三人を連れて案内をしていた。遅れないよう小走りで追いかけるもその様子を見ていた飛段に鼻で笑われ喧嘩になりかけた。
空気が重くなった四人は紅魔館の主人がいる部屋に通された。部屋は人が百人入ってもなお余る広さであり、家具が所々に置かれているものの空白が目立つ。
部屋に置かれている家具は一目で高級品とわかるものばかりであり、その中で一際豪華なソファに紅魔館の主人であり吸血鬼のレミリア・スカーレットが腰深く座っていた。
「咲夜、その四人が私が招待した人間達かしら?」
「はい、まだいると思われますが今回来たのはこの方々だけです」
「神社で見たあの男はいなかったのかしら?」
神社という単語に三人が反応し、レミリアと咲夜はそれを見逃さなかった。
(やはりあの人間はこいつらと何かしらの関係があるとみて間違いないわね。というか同じ格好だから絶対に仲間よね)
レミリアは四人を一通り見て、ソファから立ち上がる。
「適当なところに腰かけてちょうだい。今、咲夜がお茶を入れるから何か飲みたいものがあるなら言ってちょうだい。だいたいのものなら出せるから」
四人は互いに距離を取ってそれぞれソファに座った。
「それではここに来る前に聞いているとは思うけど、私がこの紅魔館の当主レミリア・スカーレットよ。紅魔館へようこそ、歓迎するわ」
レミリアは両手を広げて歓迎の意を示してから自らもソファに座る。
「歓迎?てめーみたいな化け物がか?」
飛段の挑発に従者が反応するがレミリアがそれを止める。
「クックック、たしかに貴方達人間から見たら私は化け物ね。ま、貴方達の方が化け物と言われるかもしれないけれど」
「そいつは心外だな。オイラは普通の人間なんだぜ」
デイダラの言葉に一瞬面を食らったレミリアだが、すぐに口元に笑みを浮かべた。
「普通?貴方達が?」
レミリアは手に顎を乗せ首をかしげる。
「普通の人間はまずここに来ようとは思わないわ。幻想郷では人里以外の場所では妖怪達が好き勝手に生きているの。それはこの紅魔館も同じよ」
レミリアは従者が運んできた高級茶が入ったティーカップを手に取ると、カップに口を付けずじっと見つめる。
「そんなところをさも平然と通って来た貴方達は普通ではないわ」
「普通じゃないか、か。それはよく言われるな、うん」
“暁”のメンバーの中には国をも相手にできる忍がいる。デイダラもそれを普通だとは思っていない。そう考えればレミリアの言葉はそこまで間違っていないと一人で納得する。
「それに貴方、手のひらに口が付いているじゃない」
レミリアがそう言いながらデイダラの手を指差す。
「うん?あぁ、これはオイラの芸術のために付いているんだぜ」
「芸術?」
「ああ、そもそもオイラがここに来た理由はアンタにオイラの芸術を見せるために来たんだ。オイラの芸術を理解してくれるんじゃねぇかと思ってここに来たんだ」
「へぇ、後で見せてもらおうかしら」
「ああ、いくらでも見せてやるぜ。そしてオイラの芸術は爆発だ。アンタならこの芸術を理解できるよな」
デイダラは手の口から粘土を吐き出すとそれを捏ねて小鳥の模型を作った。レミリアはその光景に食い入るように見つめて背中に生えている可愛らしい羽をパタパタと羽ばたかせた。
「ええ、貴方の芸術は私を満足させてくれそうね。爆発という一瞬にしか現れない美はとても優雅だから」
そう言ってケラケラと笑うレミリア。
「分かってくれるか!オイラの芸術が!」
興奮して席を立つデイダラだが角都に黙っていろ、と言われ渋々座り直す。しかし、外の世界では彼の芸術は全く評価されずそれどころか里から拒絶されたため自分の芸術に美しさを見いだせない凡人達に憤りを感じていたが、生まれて初めて彼の芸術に目を向ける人物が現れたのだ。何の反応もないことがおかしい。
「そうね、どんなものか楽しみにしているわ」
デイダラが見せる芸術に期待しながらレミリアの興味は隣に座っている鬼鮫に移る。
「貴方は何か目的とかはないのかしら?」
「いいえ、ありませんね。いや、あったと言うべきですかね」
「あった?」
好奇心旺盛なお嬢様は目を光らせた。
「ええ、私達はとある組織にいたのですが、つい先日解散して暇を持て余しているのですよ」
「あら、それは好都合ね」
レミリアの言葉に鬼鮫は疑問が浮かぶ。
(好都合?一体何を考えているのでしょうか)
「私ばかり聞くのもあれだから、貴方も何か私に質問していいわ」
かなりの上から目線だが鬼鮫はそれに何も言わず少しだけ質問を考えレミリアに聞いた。
「では単刀直入に聞きますが、なぜ私達をここに招待したのですか?」
レミリアはミルクがたっぷりと入った紅茶を少しだけ飲んでカップを置いた。
「私が貴方たちを招待したのは至極単純よ」
レミリアは勢いよく立ち上がり、両手を大きく広げる。
「貴方たち、私の下につきなさい」
「あ゛ァ?」
飛段を始めとした四人から殺気が放たれ、それに反応した従者がレミリアの前に立とうとするがレミリアは腕で抑える。
「レミリアさん、私は暇を出されたと言いましたが、今更誰かの下に付く気はありませんよ」
「ウフフ、まぁそう言うと思っていたわ」
レミリアがからかっているのかそれとも本気で言ったのか判別できない鬼鮫は目の前の少女の考えを読もうとするが少女はただ微笑むだけで何を考えているかは分からなかった。
「他にここに来る理由があるなら話してくれないかしら」
レミリアが振ると一番右に座っている飛段が反応した。
「それならオレもあるぜー」
飛段の言葉にレミリアは顎で指して続けろと促す。
「オレがここに来た理由かァ~?それはだな~」
飛段はゆっくりと立ち上がり背中に差してある大鎌に手をかける。
「てめーを殺すためだァ‼」
飛段はそう叫ぶと大鎌を抜いてレミリアに飛びかかる。
それをレミリアは向かってくる刃を小さい手で掴むと大鎌を飛段ごと壁に向かって勢いよく投げた。
「ぐあっ!」
壁に飛段がぶつかるとそのまま壁を破壊し飛段の姿は隣の部屋へと吸い込まれた。
「あらあら、貴方達はそこまで野蛮ではないと思っていたけど評価を改めた方がいいかしら」
「そいつが馬鹿なだけだ」
角都のフォローにもならない言葉に壁の向こう側から「何だとーっ!!」と飛段の怒声が響いてきた。
「いくらなんでも気が早すぎだろ。こういうのはもっとスマートにやるもんだぜ、うん」
デイダラが手のひらから起爆粘土を取り出す。それを一瞬で芸術品に変えて吸血鬼の攻撃に備える。それを合図に従者が服に隠したナイフをデイダラ達に向かって投げる。
粉々になり壁だった穴から飛弾が大鎌を振り回しながら飛び出してきた。
「んの野郎ォ!」
菓子や紅茶の入ったカップは床に散らばり飛段や従者によって踏み荒らされる。
部屋の中は刃物が飛び交い、優雅な部屋の中は一転して戦場と化した。
「おいおい、ここにいる奴はそんなもん振り回すのか?アンタの大事なご主人様に当たっても知らねーぜ、うん」
デイダラが従者に挑発すると返事はナイフで返ってきた。
デイダラは頭を少し動かしてナイフを避けると手のひらの口から起爆粘土を三つ出し、すぐに練って小鳥の形にする。
「見せるのは少し早いが、こいつがオイラの芸術だ!」
小鳥形の起爆粘土は従者に向かって飛び立つ。従者がナイフを投げて撃ち落そうとするが、起爆粘土はそれを何の危なげもなく躱す。
(そろそろ射程範囲だな)
起爆粘土が従者に接触する直前でデイダラは粘土を爆発させようと、「喝!!」と叫び粘土を爆破させたが、小鳥形の起爆粘土はいつの間にかナイフが刺さった状態で床に転がっており起爆粘土の爆風は従者には届かなかった。
「何っ!?」
従者と起爆粘土に目を離さずにいたデイダラだったが、突然起こったことが理解できなかった。
(どうなっている?あの女がナイフを投げた動作はなかったぞ)
デイダラが戸惑っていると何本ものナイフを指に挟んだ従者が鼻でフッと笑う。
「今のが貴方が言っていた芸術?まるで子どものおもちゃね」
「何だとっ!」
デイダラは袋に手を突っ込み手のひらの口に粘土を食べさせ、起爆粘土の準備をする。
ある程度食べさせすぐに手のひらの口から粘土を吐き出す。デイダラはそれを練って今度はトンボ形の起爆粘土を十個ほど生み出した。
「あれだけがオイラの芸術だと思うな!」
デイダラがトンボ形の粘土を飛ばすとそれは従者に向かって縦横無尽に飛び回り一部がレミリアの方に飛ぶ。主人を傷付けさせるものは許さない従者が投げたナイフによって正確に撃ち落とされる。
「そっちは囮だぜ、うん!」
従者が視線をデイダラに戻すと数体の粘土人形がデイダラの前に立っていた。それらはデイダラの手のひらの口から細い糸のようなものと繋がっていてグニャグニャと体を曲げながら従者を襲う。
「はっ!」
ナイフが投げられ粘土人形をバラバラになるが、切られた人形は糸がくっつくと再び動き出す。従者が人形を切れば切る程人形は小さくなりながらも数が増えていく。そして人形が従者を囲むとデイダラは二本指を立てて合図を送る。
「喝!!」
爆破の合図に散らばった人形は全て爆発し部屋の中に粉塵が立ち込める。従者は
「ヒャアーホゥ!!」
がら空きの背中を飛段が後ろから襲うが従者は身を屈めて避ける。
「声を出すんじゃねーよ!バレちまったじゃねーか!うん!」
「うるせー!こっちはやられてムカついてんだよ!」
喧嘩する二人に従者がナイフを投げる。飛段は大鎌を振り回してナイフを落として
その一方でレミリアと対峙する二人にも動きがあった。
角都は土遁を発動させて自らの身体を硬化させると
角都が今使える術はかなり限られており早くケリをつけなければいけないという焦りがあった。
「ぬぅん!」
「ふん!」
角都の硬化した拳がレミリアの細い腕とぶつかる。
角都の硬化した拳はコンクリートをも簡単に破壊できる威力だが、レミリアはそれを何事もないように受け止める。
「あら、貴方人間にしては随分と力があるわね。ちょっとだけ痺れたわ」
レミリアはフフンと鼻で笑っていると横から何かがこちらに向かってくるのが見え、二人は床を蹴って互いに離れる。
レミリアが跳んだ直後にほんの少し前に立っていた場所を水の槍が空を切った。
「おや?外れましたか」
「鬼鮫、次は当てろ」
「簡単に言いますね。小さくてすばしっこいんですからそう当たるものじゃないんですよ」
鬼鮫はその気になればこの部屋どころか紅魔館そのものを水に沈めることもできるが、チャクラが回復しにくいこの幻想郷では使う選択肢はない。
「貴方達はやっぱり面白いわね。この私と軽くでも闘える人間は貴方達で四人目よ」
妖怪と対等に渡り合える人間はそうそういない。久しぶりに力を解放できることに心が躍る。
「フン!」
角都に向けて放たれたレミリアの拳は硬化した腕を捉える。
「ぐうっ!」
角都の腕は硬化しているため痛みはないが、衝撃までは抑えることはできない。壁に叩きつけられそのまま隣の部屋まで吹き飛ばされる。大の字で倒れた角都はすぐに態勢を立て直そうと起き上がると目の前にはレミリアが見下ろしていた。
レミリアが腕を突き出すと手の先から光弾を打ち出す。高速で放たれたそれを角都は紙一重でかわすと火遁の印を結ぼうとして思いとどまる。今、角都は術のレパートリーがない状態であり現在彼が使える土遁以外の術は一つしかない。
仕方なしに角都が印を結ぶと服と襟の隙間から面を付けた黒い化物が顔を出した。
〈雷遁・偽暗〉
化物の口から電撃が走り、レミリアに向かう。
「ぐうがっ!?」
レミリアが今まで受けてきた攻撃は全て物理だったが故に角都の雷遁には対応できず電撃をまともに食らった。雷遁の威力が強かったのか粉塵が舞い部屋とレミリアを包む。
「効きましたかね?」
「……いや、効果は薄そうだ」
煙が晴れると所々服が焦げたレミリアが立っていた。ダメージを受けた様子はなく、逆に怒らせただけだった。
「……こんの、吹き飛ばしてやる!」
レミリアは光弾で化物を消そうとするが黒い化物はすでに角都の服の中に隠れていた。
二人は放たれた光弾を避ける。標的を失った光弾は部屋の一面を破壊し尽くし部屋は再び粉塵に包まれる。視界が悪くなったことを利用して二人はレミリアの前から姿を消した。
まともな一撃が一つも入っていないことにやや苛立ちを隠しきれていないレミリアは二人を追おうと小さな羽を広げて飛ぶ態勢を取る。部屋が壊れそうなほどに足に力を溜めて飛ぼうとすると。
『レミィ、後は私がやるわ』
レミリアの頭の中に直接女性の声が響いた。
「ちょっと、パチェ!私一人でいいって言ってたでしょ!」
『こっちでレミィのこと見てたけどちょっと貴方危なっかしいわよ』
パチェと呼ばれた声の主はレミリアの友人であり普段は仲がいいが今はレミリアが我を忘れかけているため友人の指摘に普段軽く流すレミリアは激昂する。
「何がよ!あいつらの攻撃は私には効かないし、パワーもスピードも私の方が上じゃない!これのどこが危なっかしいと言うのよ!」
『レミィ、私は貴方が油断しすぎていることを言っているの。さっきあの覆面男から電撃を食らってたけど、あれが呪術の類だったら貴方終わってたわよ』
パチェの指摘は至極当然のことだ。大妖怪が人間に負けるはずがないという驕りがレミリアの動きを若干ではあるが鈍らせていた。
「ぬぐぐ」
『レミィ、昨日話した通りにいくからね』
「……はあ、分かったわ。後はパチェの好きにして」
レミリアが折れると通信越しに安堵の胸を撫で下ろすような吐く息が聞こえた。
『了解』
パチェとレミリアの通信が切れると部屋の床一面が光った。光はバラバラになっていた四人に向かいそれぞれの足元に魔法陣が展開する。
「なっ、何だこりゃ!?痛ェッ!!」
思わず足を止めた飛段は従者が投げたナイフに気付かず頭に刺さる。鬼鮫と角都も床に現れた魔法陣から離れようとするが、魔法陣から出る光のベールのようなものが体を弾き二人を逃さない。
デイダラは起爆粘土で爆破させようとしたが二人の様子を見て動きを止める。
(今爆破させたらオレまで巻き込まれるな、クソッ!)
四人は光に包まれる。魔法陣が光と共に消えた時には“暁”のメンバーは全員姿を消していた。
「はあーっ、もうちょっと遊びたかったのに。パチェったら全部持っていっちゃった」
「お嬢様、ここはパチュリー様に任せた方がよろしいかと」
「ぶー」
不機嫌さを顔に表すが、従者はそれに触れず話題を切り替える。
「お嬢様、おの人間達は妙な力を身に付けていました。もしかしたらお嬢様にも効く能力があったかもしれません」
吸血鬼は妖怪の中でもかなりの実力を持つ強力な種族だが、決して無敵の存在ではない。
「そんなことは分かっているわ。特にあのマスクを付けた奴は人間かどうかも怪しいわね」
レミリアの頭に浮かんだのは角都の服の隙間から顔を出した顔に仮面を付けた黒い化物だ。アレからはとても嫌な気配を感じ取ったレミリアはあの人間に対して少しだけ危機感を抱いた。
「ま、パチェだったら何とかなるわね」
だが、それは少しだけですぐになくなり、紅い吸血鬼は従者に持ってこさせた高級茶をクイと飲む。
戦闘で荒れた部屋は四人が来る前の広さに戻り壊れた家具や散らばった茶菓子の片付けは既に終わっていた。従者はすでに次の仕事にかかっていた。
「……でも、本当に大丈夫かしら?」
レミリアの問いに答える者はいなかった。
ストックも全て消えたため次話の投稿はかなり先になりそうです。