東方暁暴走録 〜暁メンバーが幻想入り〜   作:M.P

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遅くなりました。何とか立ち直れましたので投稿を再開していきます。


2. 暁、集結する

玄武の沢 河童のアジト

 

「整理すると今幻想郷で確認できる暁のメンバーはここにいる七人ということね」

 

「ああ、今のところはだが」

 

河童達のアジト、迷路のように入り組んだアジトに暁メンバーの一人、サソリに与えられた部屋に六人の男女が集まっていた。

あまり広いとは言い難い部屋に六人が入っているために皆少々窮屈に感じているようだった。

 

先程サソリに確認をとった人物、小南は暁が五人も集まっていることに予想外であったが一番危険な男がいないことに胸を撫で下ろす。

だが、ここにいないだけで他の場所にいるのではないか、そんな考えが頭をよぎる。

 

あの男だけは長門に合わせる訳にはいかない。

何故ならあの男が“暁”に関わってから“暁”は争いをなくし平和を目指す組織から武力を金で請け負う犯罪組織に変わってしまったからだ。

さらに二人に関わってきた時も最初から長門と“暁”を利用するつもりだったことも分かっていた。しかし、長門が目的を果たすためにはあの男の力を借りなければここまではこれなかったのも事実だ。

 

世界を征服し、争いをなくすーーそれが長門のそして暁の目的だった。

 

だが今は違う。長門は『真の平和』を見つけるという新しい目的を見つけたのだ。長門から天子の話を聞いて『真の平和』について考えさせられた小南は最後まで長門の支えになることを決意した。

幻想郷で『真の平和』を見つけて争いがなく皆が望むような世界にする。その長門の目的は小南の目的でもあるのだ。たとえ自分がどうなろうと長門のために尽くす小南はたとえ命を落とすことになろうと構わなかった。

 

そんな『真の平和』について考えながら小南が他のメンバーに視線を移すと飛段とデイダラがきゅうりを両手にボリボリと貪り食っていた。

どうやら二人はきゅうりを勝手に頂戴していたようですぐににとりに見つかり没収された。

 

「あまり食べないでおくれ。きゅうりは私達にとって嗜好品なんだよ」

 

「いいだろちょっとぐらい」

 

飛段の言葉を無視してにとりは二人が別室から持ってきたきゅうりを全て回収して部屋をそそくさと後にする。

飛段達のそんな行動に角都がギロリと睨み、目で飛段を嗜める。

 

「ちょっと小腹が空いたんだよ。文句あるか角都!」

 

「少しくらいいいんじゃないですか?小腹なんて誰でも空きますよ」

 

「そー言いながらてめーもちゃっかり食ってんじゃねーよ!鬼鮫ェ!!」

 

二人とにとりのやり取りのどさくさに紛れて鬼鮫はきゅうりを一本頂戴していた。

 

ギャーギャーと騒ぐメンバーに小南は呆れた。小南はメンバーが長門の敵に回ったら殺すと決めていたのだが、杞憂だったようだ。

 

(……このことは聞いた方がいいわね。あの男に繋がる情報が入るかもしれない)

 

「一つ、皆に聞くことがあるわ」

 

暁メンバーの視線が小南の方へと向く。鬼鮫の襟を掴んでいた飛段も小南の言葉に首だけ小南の方に向けた。

 

「……この中で神社に行ったのはいる?」

 

「神社?神社があるのは知ってるが行ったことはねーぜ。うん」

 

「知らんな、オレ達は地底から来たんだ。それにこんな片田舎のような所の神社など金になりそうにない」

 

五人はそれぞれ行ったことがないと言う。小南は五人が嘘をついているようには見えず、あの男が幻想郷にいる可能性が高くなったことに冷や汗をかく。

 

(……トビ、いやあの男がここにいたとしてもこちらにコンタクトを取るだろうか?奴の本性を知っている私がいる以上恐らくは近寄ってはこないか……どちらにしろやはりあの時、鬼をもう少し問い詰めればよかったか)

 

小南が頭に浮かんだ鬼、伊吹萃香は小南が同じ衣を着た人間について聞こうとすると霧になって消えていった。追いかけようにも形を持っていないためどこに行ったのかすら分からず天界は広いということもあり探すのは諦めた。

 

「……」

 

あの時、鬼は怒った様子もなく飄々とした感じで答えていたことからそのメンバーが何かをしたということはまずないと考えるのが妥当だろう。だが、本性を表に出していないだけ、ということも考えられた。

 

(……どうしたらいいのだろう)

 

小南は何が正しいのか分からなくなり、自分が質問したことを忘れてぼーっとしてしまった。

 

「しかし、何で神社なんだ?」

 

デイダラの疑問に小南ははっとする。

 

「まだ私達の他にいるのよ」

 

「まぁ、大体予想はできていました」

 

七人もメンバーが揃っているのだから暁全員が幻想郷にいる可能性があることを考えるのは簡単なことだった。

 

「……今、暁のメンバーであり今ここにいないとなると」

 

「うちはイタチにトビ、ゼツ、抜けた奴も入れれば大蛇丸だが……」

 

指を折り数える角都。あと誰かいないか該当する人物がいないか小指を曲げ伸ばししながら唸った。

 

「少しの間だけメンバーだった奴も入れるともう数人いるんだけどな、うん」

 

暁のメンバーは今幻想郷にいる八人の他に抜けた者を合わせると二、三人いる。それ以前にも暁のメンバーとして入っていた者もいたが、戦死、同士討ちによって減ったりしたていた。

 

「ん中で一番マシなのがイタチってのがアレだなー」

 

「まあ、アイツらがよえーからな。うん」

 

散々な言われようだが実際トビ、ゼツは暁メンバーから見ても力がない。

それは戦闘向けではなくサポートやその他諜報活動などの役割があるためだった。

 

「その中でゼツはないんじゃないですか?アイツは私達を感知すれば顔ぐらいは出すでしょう」

 

「まーなー、アイツは弱いが結界は(ひれ)ーからな。いたら冗談言いながら来んだろ」

 

鬼鮫と飛段の言葉に他のメンバーは否定しなかった。

ゼツは広範囲を探知できる術を持っている。もし、ゼツが幻想郷にいたら各地に散らばっていたメンバーに何かしらのアプローチがあっただろうが、誰も会っていないと言うのでもしかしたら幻想郷にはいない可能性がある。

 

「ってーと、何だ。後はイタチかトビってことになるのか?」

 

「消去法でいくならな」

 

「イタチさんは結構用心深いですからね〜。こっちに来ていたとしても、もしかしたらもう関わってこないかもしれませんよ」

 

長年コンビを組んだ鬼鮫がそう話す。

イタチが暁のスパイだということに薄々とだが気が付いていたからだ。最初はごくわずかな違和感から始まりイタチが実の弟のサスケを結果的に助けたということを聞いて確信したのだ。

 

裏切り者は消す。それは暁の掟であり忍の世界の掟でもある。暁のメンバーも厳密に言うならば国の裏切り者だが、そこはまた後にする。

 

(敵として現れるならその時は今度こそ決着をつけましょう。前のようにはいきませんよ)

 

鬼鮫は次にイタチと会った時は場合によっては消すことを頭に入れている。

本気で戦ったことがないこともあり、どんな戦いになるか今考えても体が疼いてくる。

 

「そーかー?一人寂しいところに泣きついてくるんじゃないかー?」

 

ケラケラと笑う飛段だったが、先程から話を無視して傀儡作りに没頭しているサソリが作っているものが目に入った。

 

「んで、おめーはさっきから何作ってんだよ。オレにはどこからどう見てもゴキブリをいじっているようにしか見えねーぞ」

 

「コレはオレが今まで作った人傀儡と同様に技術美を追求した傀儡だ。見た目で判断するな」

 

「いや、そうじゃねーよ」

 

飛段が言い終わるのと同時に出来たのか、サソリは傀儡を机の上に置く。その傀儡はよく見るとチャクラ糸が傀儡の節々に繋がっておりサソリが手を動かすと傀儡もカサカサと動く。

 

それはどう見たって本物のゴキブリにしか見えずさすがの飛段も引いた。

 

「おめー他の作らねーのかよ。まだマシなのがあるだろ」

 

「材料がないんだ。ないものはどうしようもない」

 

飛段はあーそーかよ、と舌を出してもう傀儡について何も言わないことを決めた。

 

 

「……」

 

「ん?何だ、角都。何か言いたげな顔だな」

 

飛段が角都の顔の表情の微妙な変化を感じとり声をかける。

頭巾を被りマスクをつけている角都のわずかに見える目の部分から読み取れたのはコンビを組んでいたからだろうか。

だが、飛段は角都のそんな様子にイヤな顔をした。角都が黙り込んでいる時は大抵面倒臭いこと、自分の主義でないことだからだ。

 

「コレを見せるかどうか迷っていた。ここにいる何人かは関係があるものだ」

 

角都は懐から巻物を取り出すとサソリへと渡す。サソリが巻物を開き目を通していく。デイダラもそれを見ようとサソリの肩ごしに巻物を覗きこむ。

 

「……?何だコレは、何かの術が書いてあることは分かるがコレとオレ達がどう関係する」

 

「読み続ければ分かる」

 

サソリは言われるまま読んでいくとある部分に目が止まる。

 

「……おい、コレ「ちょっと待て⁉︎コレ、()()()が書かれた巻物か⁉︎」

 

デイダラがサソリの言葉を遮ったことに怒りを覚えたが、それよりも巻物に書かれた術が気になる。

今思い出しても忌々しく感じるサソリは何故コレを見せたのか、それが疑問だった。

 

「どんな術について書かれているのですか?」

 

二人の反応に興味を示した鬼鮫が興味本位で聞く。暁に関係する術となると大抵禁術やら超高等忍術である。

暁には鬼鮫を始めメンバー全員が禁術あるいはそのメンバー特有の忍術を体得している。もしその術を発動すれば国や世界にとってかなりの被害を与えることとなる。

 

「あー、鬼鮫の旦那は関係ないかな。うん」

 

「確かに、()()()()()()お前(鬼鮫)はいなかったな」

 

サソリの目線が右上に向かい、()()()の状況を思い出す。

 

「どういうことです?」

 

鬼鮫は言葉の意味が分からなかった。

『あの時、あそこにいなかった』それがいつ、どこを差しているのか、自分の記憶を辿ってもこれといったものが思い当たらず鬼鮫は混乱する。

 

サソリが読み進めていくと所々の字の癖が時折目に止まる。この巻物に書かれた字の筆跡に見覚えがあったからだ。

 

「この筆跡はアイツだな、他に気になることがあるが」

 

「アイツってアイツか。おめーが術をかけた超便利な傀儡そのものだー、って言ってたアイツか」

 

「ああ、アイツだ。まぁ、今アイツがどこで何をしていようがオレには関係ない」

 

サソリは何か思うことでもあるのか顎に手を置き思考する。

 

「ちょっと待ってくれ、旦那。気になることって何だ?」

 

サソリの口からかなり重要そうな言葉が出たのを聞き逃さなかったデイダラが指摘する。

 

「ああ、気になるのはこの術の弱点については書かれているが、肝心のこの術を解除する方法が書いていないことだ」

 

「……ああ、書いてないな」

 

デイダラが確認すると確かに術を解除する方法が一切書かれていなかった。彼らの世界では一般的に危険もしくは禁忌の術は対処やそれを抑える方法が術の発動の仕方と共に書かれる。サソリが今開いている巻物には術の準備や弱点について事細かく書いてあるが、術を解く方法は記述されていなかった。

 

何故書かれていないのかは分からないが、それよりもサソリは確認したいことがあった。

 

「どうしてお前がコレをオレ達に見せたのかは知らないが、何のつもりだ」

 

角都の意図が読めないサソリは何故コレを見せたのか疑問に思うのは当然だ。

 

「確認したかっただけだ。全員が気付いているかもしれないが、この世界では忍術が発動できる」

 

「……何が言いたい」

 

フム、と角都が息を吐く。

 

「要はここ(幻想郷)の住人が忍術を使う可能性があるということだ。今その巻物があるように使われたら厄介なことになる術が幻想郷にはある。オレはその抑止力のためにソレを持ってきた」

 

「なるほど、つまりはそういうものは私達が独占しよう、ということですか?」

 

「今の所はそんな感じだ」

 

(当然、それだけではないがな。こういったものが集まればオレ自身も強くなる可能性があるからな)

 

サソリが巻物をさらに読み進めていくとーー

 

「これは……()()が終わった後にまとめられたものだな。『この術を安易に使用してはならない』と書いてある」

 

「そんなことは百も承知だろ。うん」

 

腕を組んでうんうんと頷き一人納得するデイダラ。

 

「一体何を話しているのかさっぱりなんですが」

 

話に置いてかれている鬼鮫は少し寂しくなった。置いていかれたのは鬼鮫だけではなく飛段、小南も同じだった。

 

「おめーらが何言ってるかさっぱりだが、んなことよりイタチはどうする?」

 

話がかなり脱線し再びイタチのことに戻した飛段が頭をぽりぽりと掻きながら言う。

 

「ん?そういや何で色々と話がずれたんだ?」

 

「サソリのゴキブリと角都の巻物だろ。それと神社にいるかもしれないのはうちはイタチではなくトビかもしれないっつーことを忘れんなよ。うん」

 

「ゴキブリじゃない。芸術だ」

 

サソリは未だに手に握られた傀儡を動かす。

 

「あー、分かった、分かったからもういいだろ。んでどうすんだ、イタチのやろーは」

 

「さぁ、保留じゃないですか?私達も今は暁がここにいるという情報を元に集まっただけですからね」

 

鬼鮫が言ったとおり今、暁は明確な目的はなくただメンバーがいるというだけで集まったに過ぎない。

 

「今はこれからどうするか、それが課題ですね」

 

「そのことだが……」

 

隣の部屋で眠っていたはずの長門がいつの間にか入り口にもたれかかって立っていた。長門は押せば倒れそうな程にふらふらで見るからに安静にしていなければいけない体だった。

 

「長門⁉︎アナタはまだ立っていい体ではないのよ。

 

「オレは大丈夫だ。それよりもこれからどうするか、もう決めている」

 

幻想郷に来てからの最初の指示に窮屈な部屋にピンと空気が張り詰める。

デイダラ、飛段は暴れられることを期待して自然と笑みがこぼれる。

 

だが、長門の口から出た言葉は二人にとって予想外の言葉だった。

 

「オレは暁を解散しようと思っている」

 

 

紅魔館

 

「……眠い」

 

霧の湖のほとりに大きく佇む真紅に塗られた館、人里からは悪魔の館と恐れられ

その紅魔館の門番、紅美鈴はそう呟く。

彼女は一日中門を見張っているが、そもそも紅魔館に訪問者が来ることが少ない。そんな刺激がなく温度が暖かいと自然と眠くなるのは必然だ。

美鈴が睡魔と格闘していると紅魔館から一人のメイドが出て来た。

 

「あら、随分と頑張っているわね美鈴。眠っていないでしょうね」

 

「あ、咲夜さん。大丈夫です、寝ていませんよ。……まだ」

 

余計な一言に呆れる咲夜は変わったことがないか確認を取る。

 

「あー、変わったーと言うか何と言うか」

 

美鈴後ろ手で頭を掻きながら言い淀んだ。

 

「何?」

 

「あ、別に異変とかではなくて、チルノ達が遊びに来た時にちょっと言ってたので」

 

紅魔館に妖精達が遊びに来るのは美鈴や咲夜にとってはいつものことだ。たまに妖精メイドに紛れておやつを持っていくことがあり、その度にナイフをおみまいしている。

 

そんなことよりも何を言ったのか、と咲夜が聞くとーー

 

「チルノが言うには玄武の沢に外の世界から来た人がいるらしい、と」

 

「あら、神社以外にもいるのね」

 

「あれ、そうなんですか?まぁ、チルノ達もルーミアから聞いただけで直接見たわけじゃないようなので。それだけですね」

 

(……さて、どうしようかしら)

 

咲夜は当主の耳に入れるべきか迷ったが、黙っていると後々で面倒くさそうなことになりそうなので一応の報告することにした。

 

紅魔館のお嬢様はとても暇であり好奇心が旺盛なのだ。『そんなの聞いてない』と

早目に当主の耳に入れようと美鈴に背を向けると歩き始めると背中から美鈴が声をかけてきた。

 

「そうそう咲夜さーん、その人物は黒い服に赤い雲が描かれているらしいですよー」

 

大妖精が言ってましたー、と美鈴は付け足す。

咲夜は特徴を聞くと足が止まる。先日、神社で会った男のことを思い出し再び歩を進める。この時、咲夜はこのことを最優先にお嬢様の耳に入れなければ、と自分でも気が付かない内に早足になっていた。

 

お嬢様はどんな顔でこのことをお聞きになるのか、そしてどんなことをおっしゃられるのか、そんなことを考えながら紅魔館の従者、十六夜咲夜は玄関の扉をガチャリと開けた。




P.S. 何故か遊戯王を書きたくなってきた。

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