???
そこは熱気と炎に包まれそこに立っているだけでも火傷しそうなまさに地獄とも言える場所だ。壁と天井は岩がむき出しになっていて少し触るだけでも傷付いてしまう程の
鋭さだ。
むせ返るような暑さで頭がどうにかなってしまいそうな赤と黒の世界で飛んでくる光弾を躱しながらその男は迷っていた。
「あはははーっ!燃えろーっ!燃えろーっ!」
天井を埋め尽くすほどの弾幕を展開してくる少女を相手にどう戦い逃げるかということ、そしてこの状況をどう切り抜けるかを。
男の視界の中にいるその少女は棒が付いた右手を突き出しており、その先から時折光線が打ち出されている。だが攻撃はそれだけではなくスペルカードと呼ばれた攻撃も含まれていた。
男はそれらを避けながらこの状況になった理由を振り返った。
◇◆◇
男は地獄にいた、はずだった。いやここも地獄かもしれない。何故なら男が立っている足場の下は全てを溶かす溶岩が流れている。溶岩との距離はあるため暑いという感覚程度で済んでいるが、落ちたらひとたまりもないだろう。
「……オレは死んだはずだ。これはどういうことだ?あの世でもないが……いやここは地獄かもしれないな」
男は頭巾を被り口の周りはマスクで覆われおり、瞳は緑色である。黒い生地に赤い雲の模様が描かれた外套を着ている。
男の名は角都。“暁”と呼ばれていた組織の一員で、彼もまたデイダラと同様に国を追われ指名手配されている。
しかし、彼はデイダラとは違う理由で犯罪者となった。
角都はとある暗殺任務を請け負っていたが失敗し、角都は祖国からは汚名と重罰を受ける。これを憎んだ角都は禁術で上役の命を奪っていき、国を抜け出したという過去があった。
「第四次忍界大戦でも死んだはずだ。なぜ生きてる?」
角都もまた穢土転生の術によって一度蘇っている。だが戦闘中に岩に下半身を押し潰され、角都はその状態で穢土転生の術が解かれた。
再び魂は黄泉へと還ったがここにいる理由は分からない。
復活した理由はさておいてここにいても仕方ないと角都は行動に移す。
「……とりあえずはここから出るか。……しかし、暑いな」
「暑くて当たり前だよ、だってここは地獄だもん」
「誰だ!?」
突然の声に角都は自分が立っていた場所から後ろに飛び身構えた。と同時に彼がさっきまでいた場所が爆発した。
「あなたさぁ~、何でここにいるの?ここに人間は来れないはずなのに。あ、私は霊烏路空。お空って呼んで」
話しかけてきたのは少女だった、いや少女という言葉だけでは表せない人物だった。
何故ならその少女は異形とも呼べる姿をしていたからだ。
背中に黒で塗り潰された翼が生えており、右腕には多角形の棒がくっついており、右脚は岩のような鉱物が固まっている。
服装は真っ黒のブラウスに真紅のスカートを履いているが一番に目を引くのは胸についている大きな真っ赤に燃える様な色をしている目だろう。
角都が目の前に浮いている少女に対して抱いているものは殺意だった。何しろいきなり攻撃してきたのだ。
「……あっ、そうか。あなた侵入者ね、排除してやる!」
空に浮いている少女、霊烏路空は少しの間思考するが、鳥頭故にさっき角都に攻撃したことを忘れて角都に向けて右腕に付いている棒の先から光線を放った。
「……!?チィッ!」
何度も放たれてくるお空の光線を避けながら角都は自らの能力を使おうとするが、ある異常に気が付く。
(……馬鹿な!?ストックが一つしかないだと……このままではまずいな)
角都は自分の心臓が
普段角都は心臓を五つ持っており心臓が止まる度に心臓を消費して生き延び、他人の心臓で補充することでその数を保っていたが、現在心臓の数は自分自身の一つしかなかった。
(……奴の心臓を奪いたいところだが、今のままだとそうは言っていられないな。早くここを出て心臓を調達しなければ)
心臓が一つしかないゆえに一回でも死ねばそこで終わりだ。
角都が攻めあぐねているとお空が動いた。
「うー、当たんないなぁ。よーし、こうなったら」
なかなか攻撃が当たらないことに業を煮やしたお空は胸の中からカードを取り出した。
核熱 「ニュークリアフュージョン」」
「何っ!」
スペルカード、それは幻想郷において弾幕ごっこと呼ばれる遊びで使われる紙である。
これの発動を宣言すると光弾あるいはその人物の能力を体現した弾幕が展開される。弾幕ごっこはどちらかが負けを認めるまで弾幕が続くがお空の頭にはそれが抜けていた。
お空が「行けーっ!」と掛け声を上げると光弾や巨大な赤い弾が足場や壁を破壊しながら角都に向かってきた。
ここで話の冒頭に戻る。
◇◆◇
(このままだとやられるな、それにこの暑さではアレに当たる前に倒れてしまう。……どうすれば……あの術は使えるか?)
弾幕を避け続けているが今の状態が続くとやられる、と判断した角都は印を結んだ。
〈土遁
術が発動するとたちまち角都の体が黒い灰色に変色した。
角都の術は体を極限にまで硬化させあらゆる物理攻撃は効かず、かつその硬さで攻撃もできる優れた術―――欠点として硬化した部分は動かせないという弱点がある―――だが、この術は近接格闘及び防御に使われるもので離れたところから攻撃してくるお空とは相性が非常に悪い。
(術は使える……が、それだけだな。空を飛んでいる奴に攻撃するのも難しい、ならば……)
お空が放った光弾が角都に直撃して爆風が舞い角都とその一帯を粉塵が覆い隠す。
「うーん、今あいつの身体の色が変わったような気がする。でも関係ないか。このまま押し切ってーって……うん?」
粉塵で見えなくなった角都を探すお空に直径三メートル程の岩が高速で突っ込んできた。
「このっ、ファイヤーッ‼︎」
棒の先から光線が放たれる。光線は飛んできた岩を容易く破壊し、お空の周りを砂塵が包んだ。
「うわっぷ!?ゲホッ!ゲホッ!」
咳き込むお空だったが、すぐに砂塵を振り払い角都を探す。
「あれ?いない、どこに行った?」
角都の姿はどこにもなかった。お空は宙を飛び回り消えた角都の姿を探すも、角都との戦いの記憶は抜け落ち忘れ去った。