魔法の森 外れ
「はあっ、はあっ」
オオオオオオッ‼︎
魔法の森特有の瘴気が薄い森の外れで一人の人間が必死に何かから逃げている。追う側は本来人間に追いつける程のスピードがあるが、獲物で遊んでいるのかややゆっくりに走っている。追われている人間はそれに薄々気づいていた。
「くそっ!あの緑の次は猫みたいな奴かよ。しかもオレで遊んでいやがる。粘土があったら吹き飛ばしてやるのにな、うん!」
ニャオオオオオオッ‼︎
追われている人間、デイダラは風見幽香を撒いた後粘土を探すために魔法の森から遠ざかるように探索していった。
しばらく歩いていると人が通れる程のやや大きい洞窟を見つけた。興味本位で覗くと、洞窟の奥から動物の唸り声が聞こえてきた。マズいと判断するも時すでに遅く、デイダラは洞窟の中から出てきた妖怪に追いかけられることになった。
◆
デイダラは少しずつ猫の妖怪との距離が縮まっていくことに焦りを感じていたが、突如視界に入った人物に声をかけた。
「鬼鮫の旦那ァーー‼︎」
「……⁉︎デイダラですか?」
声をかけられた干柿鬼鮫はこちらに向かって走ってくるデイダラに驚く。先程、爆発音を聞いたためにもしや、と思ったが本当にいるとは思わなかったのだ。
合流した二人は一緒になって巨大猫妖怪から逃げる。猫妖怪は遊び相手兼獲物が増えたことで機嫌が良くなったのかゴロゴロと喉を鳴らす。
「アナタは何故私を巻き込んだんですか?」
「鬼鮫の旦那ァ。他に誰もいないんだ、うん」
「アナタの芸術で吹き飛ばせばいいじゃないですか」
「……今、オイラは粘土を全然持ってないんだ。あと二つ使ったら弾切れだ、うん」
デイダラは迫ってくる猫妖怪にすでに蜘蛛型の起爆粘土を三つ使っている。残りは蜘蛛型と鳥型の起爆粘土が一つずつしかない。
「……で、私に押し付けた、と」
「まぁ、そうだな。鬼鮫の旦那、アンタの水遁で
「できなくもないですが……水があまりないところで、となると……」
鬼鮫が使う水遁は強力なものが多いが、それは水があるところのみで本領を発揮する。水気がない森の中では大体の術は封じられるといっても過言ではない。
しかし、鬼鮫程の忍になると水がないところでも自らのチャクラを水に変換させることで水遁の術を使うことができる。鬼鮫は走りながら印を結び立ち止まる。猫妖怪は獲物が疲れたと思い込み、一気に距離を詰めて飛びかかる。
鬼鮫は振り返り猫妖怪に向けて術を発動した。
〈水遁・水砲弾の術〉
鬼鮫の口から拳より一回り小さい水の弾が凄まじい勢いで放たれた。猫妖怪の頭にそれが触れると猫妖怪の頭を撃ち抜いた。
ギャゴッ⁉︎
猫妖怪は断末魔の叫びを上げてバタリと倒れ、ピクリとも動かなくなった。
鬼鮫は猫妖怪が死んだことを確認し、デイダラに向き直った。
「さてと、これでいいですかね」
「すまないな、旦那。粘土がもっとあれば何とかなったんだが……」
頭をポリポリと掻いて謝るデイダラ。蜘蛛型の起爆粘土では猫妖怪に目眩し程度にしかならず、C2以上だったら殺せていたと話す。
「そうですか、今はそれよりもこれからどうするか決めますがアナタはどうしますか?」
「オイラは粘土を見つけることが最優先だ。鬼鮫の旦那はどうするんだ?」
「私はこれから人里に向かいますよ。この辺りは人間には中々厳しいようで」
人里という言葉を聞いてデイダラは目を見開いた。まさかこんなところに人が住む場所があるとは思っていなかったからだ。
デイダラは粘土を見つけた暁には自分の芸術を披露しようと画策した。
「そういえば鬼鮫の旦那、ここが幻想郷ってところだってのは知ってるのか?」
デイダラはふと思い出したことを鬼鮫に聞いた。外の世界では自分達は忘れ去られているのだ。そのことについて話した方がいいと思ったデイダラは幻想郷のことを説明しようと考えた。
「ええ、知っています。妖精達に聞きました」
「妖精?そんなのがいるのか?」
「居ますよ。やんちゃなガキみたいなものでしたが」
若干嫌そうな顔をしてデイダラに背を向ける鬼鮫。暁の中でも温厚な方である鬼鮫が嫌な顔をするのだ。あまり妖精について話を振らない方がいいだろうとデイダラは判断した。
「まあそんなことより人がいるってーのは本当なのか、うん」
「見てはいませんが……行けば分かることです。そこにあるオンボロ屋敷で野宿した時よりはマシだといいんですがね」
鬼鮫が目を向けた方角には何も見えないが、方角は山の方だ。先程鬼鮫が言っていたように向こうに見える山を含めてこの辺りは人間にとっては危険な場所だ。普通の人間であれば、一日と経たずに死んでしまうだろう。
最も、鬼鮫は普通の人間ではないが。
「野宿?旦那は
「ええ、二日目になります。どうやらアナタはまだ来たばかりということになりますか?」
デイダラの口振りから鬼鮫はそう予想する。
「……旦那、刀はどうしたんだ?」
鬼鮫が刀を持っていないことに気がついたデイダラはそのことを指摘する。
「〈大刀・鮫肌〉のことですか?アナタが粘土を持っていないことと同じように失くしてしまったんです」
鬼鮫は外の世界で特別な刀を持っていた。だが、自分よりも良いチャクラを持った忍に出会ったために刀が持ち主を変えたのだ。
鬼鮫がスパイとして潜入のために刀を利用したのはいいが意思を持つ刀が裏切ったために刀は奪われてしまったのだ。
「ねぇねぇ、貴方がチルノが言ってた外来人?」
二人でこれからのことについて話し合っていると、鬼鮫の前に奇抜な格好をした妖精が現れた。紅白のストライプと青地に白い星が描かれた服を着ており妖精の証である小さな薄い羽が背中から生えている。
「鬼鮫の旦那、このちっこいのが妖精か?」
「ええ恐らくは、昨日の妖精達とは違いますが」
妖精は二人の周りをクルクルと飛び回り二人を観察する。
この妖精の名はクラウンピース。昨日チルノから外来人のことを聞きその外来人がどんなものか興味が湧いてここに来たのだ。チルノがその外来人にえらくこだわるのでこの辺りを散々探して今に至る。
「……ねー、昨日チルノと会ったのってどっち?」
首をかしげて質問するが、鬼鮫はそれを無視する。昨日チルノに付きまとわれてうんざりしているからだ。目の前にいる妖精がどれ程の力を持っているか不明だが、チルノ経由となると嫌な予感しかしない。
鬼鮫は無視を決め続けていた。しかし、鬼鮫が見るとデイダラが鬼鮫の方を指差していた。自分をバラしたことに鬼鮫はキレそうになったが、キレるより前にクラウンピースが反応した。
「あー、そっちなんだ。チルノが強い奴かもって言ってたから強いんだよね?」
「……アナタのこと、怨みますよ」
「旦那?」
デイダラはよかれと思って鬼鮫を指差したが、何故と思っている間にクラウンピースはスペルカードを取り出した。
「ふっふっふー、あんた達を狂気の世界に招待してあげる。アハハハッ‼︎」
クラウンピースはバンザイをするように両手を高々と上げる。左手に松明を、右手にスペルカードをそれぞれ持ち狂ったような笑顔を二人に見せた。
「……鬼鮫の旦那、これってすごくマズくないか?」
「マズいですよ。主にアナタのせいで」
二人は少しずつ後ずさりながらクラウンピースから距離をとっていく。しかし、クラウンピースは二人を逃すまいと回り込んだ。
「イッツ、ルナティックタ〜イム‼︎」
獄符「ヘルエクリプス」
スペルカードが発動されると月型の大きな弾と赤色、青色の弾がスペルカードから展開される。二人は弾幕を器用に避けつつ山の方へと走って行く。
弾幕は辺りの木々をまるで象か何かが通ったように破壊し、走る二人の跡を追っていった。
「キャハハハハッ‼︎」
辺りを破壊していく弾幕はしばらく放出が続き、二人がいなくなりクラウンピースが弾幕を止めた時には地獄絵図が広がっていた。
「あーあ、逃げられちゃった。……ま、いっか」
クラウンピースは二人に興味を失うと何処へともなく飛んで行った。
◆
妖怪の山
「……全く、何故バラしたんですか?」
「旦那ァ、まさかあんだけの力を持っているとは思わなくてなァ」
あの後、クラウンピースの弾幕から逃げきった二人は妖怪の山付近にいた。
鬼鮫としてはこちらに来る気はなかったが、クラウンピースの弾幕から逃げるために無我夢中になっていた。デイダラと関わらなければここに来なかったかもしれなかった。
鬼鮫はとんだ貧乏クジを引いたと思っていると、森の奥の方から何かが近づいて来る気配を感じた。
鬼鮫が身構えるとデイダラも気配に気付いて続いて構える。
「……次から次へと、今日は災難ですねェ」
「旦那、来るぞ」
ザザザッと木々をかき分けて現れたのは赤い頭巾をつけた白狼天狗達だった。彼らは皆刀身が太い片手剣と様々な模様が入った盾を持っている。
「ここは妖怪が住まう山だ。何用でここへ来た‼︎」
椛の模様が入った盾を持つ白狼天狗が前へ出てきた。ピンと立った白い犬耳が二人の言葉を聞き逃さないようにし、やや殺気がこもった赤い目が二人の一挙手一投足を見逃さないように見張っている。
(さて、どうしましょうか?)
(旦那ァ、ここは正直に言った方がいいんじゃないか?逃げてここに来た、って)
二人がどうやってこの状況を乗り越えようか、と目の前の天狗達に聞こえない程度の音で相談する。それは天狗達にギリギリ聞こえない程だったために天狗達は不審さを抱く。
「…………⁉︎貴様等‼︎その衣、
一番前にいる天狗が二人の格好に気がついて激昂する。この天狗は数日前に同じ格好をした人間を見たことがあった。その時に一悶着あったが、その時は天狗の勘違いだったために治まった。
しかし、その人間は妖怪においても非道なことを行なっていたため、天狗は目の前にいる侵入者達があの人間と同じことをするのではないか、と感情が高まった。
一方、暁の二人組は他に仲間がいるのか、と聞かれ分かりやすく反応した。だが、考えてみれば他に仲間がいる可能性は十分にあった。
仲間の存在を知った二人はすぐにこの場を離れて探そうと体を反転させる。がーー
「待て‼︎ヤツの仲間かと聞いているんだ‼︎」
「……まぁ、仲間ですね。まさかまだいるとは思いませんでしたが……では」
鬼鮫の返答に天狗達は黙った。この天狗達は見張り及び侵入者への警告をする程度しか行わず、鬼鮫達が森を離れる以上何もすることはない。
激昂していた白狼天狗はワナワナと体を震えさせていたが、去っていく鬼鮫達に何もできずただ見送ることしかできなかった。
◆
「……失敗しましたねェ、もう少し何か聞けば良かったでしょうか?」
「鬼鮫の旦那、あそこはすぐ去って正解っすよ。あのままだと間違いなく戦闘になってたからな、うん」
仲間が他にいると聞いてすぐに探し出すことを決めた二人だが、仲間の居場所を聞かなかったことに後悔した。
どうやって探しましょうか、と鬼鮫が聞くがデイダラは何も思いつかない。派手なことをすれば他の仲間に知らせることができるかもしれないが、妖怪にも見つかる可能性があるためそれもできない。
クラウンピースから逃げるのに必死になりここが妖怪の山付近だということしか分からず、日も暮れてきたため二人は野宿することになった。デイダラは鬼鮫が言っていた屋敷に泊まるのはどうか、と提案すると鬼鮫は少し考えたのち、そうですねと返して屋敷へと移動した。
二人はしばらく歩いて鬼鮫が言っていた屋敷へと到着する。割れていない窓ガラスは一枚もなく見るからにオンボロであり屋敷?は蔦に覆われている。これを一言で分かりやすく言うならば、出そう、という言葉が一番しっくりくる。
「……ここが」
「ええ、中にはガラクタが所々あるのでぶつからないよう気をつけて下さい」
デイダラが割れた窓から中の様子を見るとなるほど確かに部屋のあちこちに荷物が置かれている。それらは木箱だったり、布を被せてあったり、よく分からないものと色々なものが整理されている。
「……鬼鮫の旦那ァ、これは……」
「誰かがここに来て何かをしているということは明白ですが、昨日は特に何もありませんでしたし、誰も来ませんでした。さて、入りますよ」
お邪魔します、と鬼鮫はボロボロな扉を開けて中へ入っていく。デイダラも続いて屋敷の中へ入る。扉を閉めようとした時にバキッ、と音が鳴って扉が閉まらなくなったが、まあいいかと気にしなかった。
二人は埃が少し被った玄関を抜けて右側にある部屋の中へ入る。
「旦那ァ、ここを拠点にはしないのか?」
よっこいしょ、と無造作に並んでいる椅子の上にデイダラはどっかと座り、同じく椅子に座る鬼鮫を伺う。
「……さっきも言いましたが、この辺りは人間……と言うより私にとっても少し危ないですのでそれはありません。明日は朝一で人里へ向かいます。もうトラブルはゴメンですので」
鬼鮫はトラブル、と言った時にデイダラの方を見る。今日あの場面でデイダラに出くわさなかったら人里へ行けたかもしれないのだ。
その鋭い視線にデイダラはフッと目をそらした。
私はもう寝ます、と鬼鮫が眠ってから数分、デイダラも明日こそは何もありませんようにと願って目を閉じた。
森に夜が訪れ辺りが闇に包まれている。今日は満月ではないため灯りとなるものは何もない。当然、屋敷の中にも灯りとなるものはなく真っ暗である。
暁の二人が意識を眠りに任せて寝息を立てていると、森の奥の方から光の列が屋敷に向かってやって来る。
ただ不思議なことに屋敷にやって来るのは光だけであり、他の姿や影はない。
光の列が屋敷の前で止まると何かがいきなり出現した。いや、姿を現したという方が正しいかもしれない。
姿を現したソレは
光の列はあっという間にランタンを持った何者か達の列へと変わった。
姿を消していたソレ等は全員が揃っているのを確認するとすぐに
その時、列の先頭にいた何かは屋敷の壊れた玄関ドアを見て心臓が飛び出しそうになった。屋敷の中に何かが入り込んだということが衝撃をもたらしたのだ。
立ち尽くしても仕方ないので先頭にいたソレは決心して屋敷へと入る。ドアを開ける時にキイィ、と音が鳴りそれにビクビクしながら足を進める。手に持ったランタンで中を照らしながら進んでいき、色々なものが置かれた左側の部屋へと入っていく。無音であるということが更に恐怖を掻き立てて、ちょっとしたことで気絶してしまうのではないかと思いながらソレは進んでいく。
部屋の隅々まで探すも何もなく、肩透かしを食らった気分になり運ぶ作業を再開しようと戻りかけた時ーー
「何者ですか?」
「ホワアアアアアイ⁉︎」
「鬼鮫の旦那ァ、こんな夜中にうろちょろする奴はロクな奴じゃあない。殺した方がいいな、うん」
部屋の外に鬼鮫とデイダラが立ち塞がっていた。
二人はドアが開く音で目が覚め、屋敷に入ってきた何かに神経を尖らせた。少しして、侵入者は二人とは反対側の部屋へ入っていく。
侵入者はランタンを持っているために姿と居場所が丸分かりだ。二人は侵入者を捕まえるチャンスを窺い部屋の入り口で待ち伏せしていたのだ。
一方、暁の二人に腰を抜かした侵入者、河城にとりは落としたランタンの僅かな灯りで二人の姿がようやく見えた。にとりは河童の倉庫に何者かが入ったと分かった時は青ざめ、二人の格好を見て再び顔色が悪くなる。
「そ、その格好⁉︎お、お前らまさかサソリの仲間って言うんじゃないだろうな⁉︎」
にとりの発言にデイダラが反応して、
天狗の『ヤツの仲間か⁉︎』と言う発言から一人ということになり、サソリの他には誰もいないということになる。鬼鮫はまだ他に暁のメンバーがいる可能性を考えるが、とりあえずは合流した方がいいだろうとデイダラに話す。
私達の事情は⁉︎とにとりが騒ぐも鬼鮫は脅しをかける。
「私達を仲間のところへ案内してくれませんか?断るなら案内したくなるようにしますが」
にとりに拒否する権利はほとんどないと言っても過言ではなく、結局にとりは二人をアジトへと連れて行くこととなった。