東方暁暴走録 〜暁メンバーが幻想入り〜   作:M.P

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8. ??? 博麗神社にて

博麗神社

 

蝉がミンミンと鳴く境内の裏で箒を手に持った男が掃除をしている。しかし、今はその手は止まっており一本の木をじっと見つめている。そこには何もないように見えるが、男はそこにいる何かとにらめっこでもしているかのように視線をそこに向け続けた。

 

(ちょっと、サニーあなたちゃんと能力使っているんでしょうね)

(使ってるわよ。でもあの人間何でかは知らないけど私達の居場所が分かってるのよ)

(でもこのままだとあの巫女に何もできないわよ。どうするの?)

 

男の視線の先には光を屈折させて姿を消した三人の妖精がいた。博麗の巫女である博麗霊夢にイタズラをしかけようと境内の裏から入ったが、そこには人間が箒を手に掃除しているのを見つけたのでまずはその人間からイタズラをしようとして三人は姿を消した。だが、人間は消えているはずの三人を見ている。声はルナが消しているので男には聞こえていない。

 

このままではイタズラをするどころか霊夢に見つかってしまう、と三人が頭を回転させるがいい案が浮かばない。

 

(あ、そうだ!)

(何?サニーいい案でも浮かんだの?)

 

サニーと呼ばれた妖精は両手を人間に伸ばして力を溜めていく。次の瞬間、手のひらから強烈な光が昼間の境内を眩しく照らす。

 

「ぐっ⁉︎」

「わっ!」

「「きゃあ⁉︎」」

 

サニーの光に男と仲間の妖精は目がくらんだ。サニー自身もここまで光が強いとは思っていなかったようで、驚き半分と自分の力の凄さの喜び半分だった。

 

サニーは「光を屈折させる程度の能力」だが、サニーがやったことは周りの光を少しずつ能力で集めて十分溜まったところで全体に光を放ったのだ。

 

「ふふん、どんなもんよ」

 

男は目がくらみ、仲間の妖精は光に驚いて気絶している。そのためサニーの言葉を聞いているものはいなかった。

 

「……よし、これならあの巫女にだってーー」

「誰に、何をするのかしら?」

「へ?な、何でここに?」

 

後ろから声をかけられサニーが振り向くと博麗霊夢が笑みを浮かべ腕を組み仁王立ちで立っていた。

 

「あれだけ光らせれば目立つわよ。ねえ、もう一度言ってくれる。誰に何をーー」

「きゃあーーー⁉︎」

 

霊夢が言い終わらない内にサニーは仲間を置いて逃げ出した。当然霊夢が逃がすはずもなく、飛んで逃げるサニーに弾幕を容赦なく放つ。

サニーは向かってくる弾幕を避けられずかなりの数の弾を被弾して落下した。

 

「ふう、あんた達もこれに懲りたらもうイタズラしないことね。まぁ、ないと思うけど」

「「ギクッ⁉︎」」

 

サニーがやられている間にこっそり逃げようとしていた二人だったが、霊夢はとっくに気づいていた。二人は脱兎のごとく飛んで逃げるも、霊夢の弾幕からは逃げられなかった。

 

結局、妖精達は全員打ちのめされた。

 

 

「……霊夢さん」

「はぁ、そんな堅苦しくしなくていいって何回も言っているのに何で直らないのよ」

 

男が霊夢を呼ぶと霊夢は少し不機嫌な顔になる。

男は神社で泊めてもらっていることから神社の手伝いをしたり、霊夢をさん付けで呼んだりしている。だが、霊夢はさん付けで呼ばれることに抵抗があり直そうとするが、そんな気配はまるでない。

 

(こんなところを魔理沙やレミリアに見られたら笑われるわね)

「掃除ありがとう。で、記憶は戻らないの?」

「ええ、何も」

「そう」

 

男が神社に来て三日、男は霊夢に助けられるまでの記憶がなかった。そして、男の記憶喪失は今も続いている。

男と霊夢は記憶を戻すことにあまり急いでいるようには見えない。食料は男がたまに森の中から野草や兎、猪などの動物を獲ってくるため問題となっていない。

 

だが、いつまでも神社にいるわけにはいかない。どうしたものか、と霊夢が考えていると神社に客がやって来た。

 

「お〜い、霊夢〜。来たぞ〜」

 

鬼の四天王の一人、伊吹萃香が猪やら魚が大量に入った魚籠を持ってやって来た。若干顔が赤く、フラフラな足取りである。

 

「萃香、あんたまた来たの?」

()()()がいるから霊夢んとこは食い物が少なくなってると思ってな。見る限りそこまで困ってなさそうだけど……」

 

萃香はそう言いながら男を一瞥する。収入が少ない霊夢のためにと獲物を獲って少しでも負担を軽くしようとしていた。

しかし、男が獲物を獲ってくるため食料問題はなかった。逆に男が来てから霊夢の食卓は豪華になった。

 

「確かに困ってはいないわ。あの人が色々獲ってくるからね。心配してくれてありがとう」

「そうかい。まぁ、流石にタダで泊めさせてもらって何もしないことはないか」

 

よっこいしょ、と萃香は手に持ったものを置いていくとあることを思い出し、霊夢に話しかける。

 

「そういや霊夢、ここ数日天狗や河童共は見てないかい?」

「……そういえば見てないわね。文もここ最近取材に来てないし……いや、あいつは締め切りが迫ってるとかでしばらく来れないって言ってたけど」

 

萃香の質問に首を傾げる霊夢だが、そこまでのことかと考える。天狗達は山に閉じこもっていて姿を見せることは少ないし、河童達も毎日閉じこもって何かを作っている。何故それを聞くのか、と言おうとするとーー。

 

「いや何、あいつらが閉じこもって何かをやってるって噂なんだよ。最もそれは河童共の方だが」

 

萃香の言葉に霊夢は頭を抱える。河童達が何かをする、もしくは作っているときは大概のことはろくでもないからだ。

 

「で、そんだけ?天狗達の方は何なのよ」

「天狗達も何かをしているけど、警戒する程でもない。ただ動きが怪しい、山にいる何かを追い出そうとしている」

「山にいる何か?何よそれ、妖怪?」

 

霊夢が問うと、萃香は首を横に振りそれを否定する。

 

「分からん、少なくともそれが妖怪じゃないってことぐらいしか私は知らない」

 

霊夢は顎に手を置き思考する。これまでに様々な妖怪と対峙した霊夢だが、妖怪ではないものには関心を持たない。

山にいる何かについて興味は湧かなかった。

 

三人は黙り博麗神社に気まずい空気が流れ始める。

 

萃香はなんとなく嫌な雰囲気になったことを感じ取り話題を変えた。

 

「なあ霊夢、昨日の昼神社にいなかったがどこに行っていたんだい?」

「ああ、香霖堂よ。ほら、森にあるガラクタ屋、あそこよ。霖之助さんは最近私以外は誰も来ないとか愚痴ってたけど」

 

名前を出された店の店主が聞いていたら口を挟みそうな霊夢の言葉に萃香は大笑いする。

 

「霊夢、そいつは少しかわいそうじゃないかい。でもまあ、そこにいたのか」

「何、なんか用でもあったの?」

「いや〜、神社で宴会をとでも思っていたが霊夢がいなかったんでな。そっちの人間は酒は飲まないって言うからな〜」

 

萃香が視線を男に写し、つられるように霊夢も視線を写す。男は顔を少しだけ伏せた。

それを肯定ととった霊夢は何かを納得した表情だった。男はこの三日間酒は一滴も口にしていない。逆に霊夢は少しではあるが飲んでいた。

その時に男は酒を要求しなかったが、霊夢は男が遠慮していたと思い込んでいた。だが、何か飲まない理由があると確信した。

 

「ねぇ、何でお酒を飲まないの?それほどの理由があるってこと?」

「…………」

 

霊夢が聞いても男は黙ったままだ。男が目をつむり、何かを口にしようとした時ーー

 

「霊夢!その男は一体何なの⁉︎」

「……また、面倒くさいのが」

 

霊夢は声だけで誰かが分かり顔をしかめる。

三人が鳥居の方に目を向けると日傘をさした少女が瀟洒なメイドを伴って境内にズカズカとやって来る様子が見えた。

 

 

紅魔館 とある一室

 

紅魔館の主、レミリア・スカーレットは派手な装飾を施したソファに腰かけ優雅なティータイムを過ごしていた。人間の血が少々入った紅茶をカップを傾けて飲み、少しだけ甘くきつね色をしたチーズケーキを口に含む。レミリアがチーズケーキの濃厚な味を堪能していると、不意に食べる手を止めた。

 

「ねぇ咲夜」

「はい、お嬢様。何でしょうか?」

 

レミリアが従者を呼ぶと何もなかったところにいきなりメイド長の十六夜咲夜が現れた。レミリアは全く驚く様子がなく平然としている。紅魔館においてはこれは日常である。

 

「暇。何か面白いことでもない?」

「ではお嬢様、あの記者を呼びましょうか?」

「あー、あいつはいいわ」

 

咲夜が挙げた記者とは射命丸のことである。レミリアがたまに記事を取り上げてもらおうと何かをする時があるが、飽きてしまったのかその提案を下げた。

 

「……また霊夢のところにでも行こうかしら」

「お嬢様、あのような品行がよろしくない輩が集まるところに何度も行くのはどうかと思いますが……」

 

レミリアはことあるごとに博麗神社へと赴く。それは霊夢にちょっかいをかける、飲みに誘う、勝負を挑んだりするなど色々と理由をつけて神社へ行く。

今回は暇つぶしに霊夢のところへ行きついでに何か面白いことでもないか聞くつもりだ。

 

紅魔館のメイド長十六夜咲夜は自分の主人であるレミリアが博麗神社へ何度も行くことに抵抗感がある。博麗霊夢の卑しさや、下品さがレミリアに移ることを危惧しているのだ。

 

「あら、それこそ私の淑やかさを見せつけてやればいいのよ。自分達がどれほど卑しいかというのを霊夢達に分からせてやるわ」

 

咲夜は自分の不安がただの思い過ごしだったことに胸を撫で下ろした。主人であるレミリア・スカーレットが博麗の巫女に上品というものがどんなものか知らしめて格の違いを見せつける、という単純なことに気がつけなかったことに咲夜は恥じた。

 

「お嬢様がそのようなことをお考えになっていたことに気がつかず申し訳ありません」

「構わないわ、咲夜。ほらさっさと行くわよ」

「承知しました」

 

レミリアはお気に入りの日傘を手に持ち博麗神社へ行く準備をする。咲夜は食器の後片付けを済ませて急いで主人の跡を追う。

 

ルンルン気分で出かけたレミリアだったが、神社に着いて一番最初に目に入ったのは向かい合うように話す霊夢と人間の男の姿だった。

 

 

博麗神社

 

「霊夢!これはどういうことなのか説明してくれる!その男は誰!」

「あー、説明すんのめんどくさい」

「霊夢‼︎」

 

やる気がない霊夢に食ってかかるレミリアだが、その程度で何も起きないことは分かっていた。レミリアは霊夢に聞いても拉致が明かないと判断して怒りの標的を男の方に変えた。

 

「あなた、一体何者?霊夢の何なの?」

「…………」

 

男は何も返さず、ただ俯いている。

男が何の言葉を話さないことにレミリアは業を煮やし、男を爪で引き裂こうと手に持った日傘を投げ捨てて飛びかかった時ーー

 

「ふんっ‼︎」

 

ガッ‼︎

 

霊夢の渾身のチョップがレミリアの頭上に直撃した。

それがよっぽど効いたのか、レミリアは頭を抑えてしゃがみこんだ。

 

「う〜」

 

レミリアは涙目で霊夢を訴えるが霊夢は知らん顔をしてごまかしている。

日傘を投げ捨てたことでレミリアの体に日光が当たり、レミリアの体は少し煙を出しながら焼けていたが咲夜が投げ捨てられた日傘を持ってきたので消滅は収まった。

 

「お嬢様、このような場所に男を連れ込む輩には近づかないようにしましょう」

「ちょっと!こいつはそんなんじゃないって言ってるでしょ!」

 

咲夜の言葉に霊夢は今にも飛びかかりそうだ。萃香に服を掴まれてなければ咲夜にも一発入れていたかもしれない。

 

萃香にどうどうと宥められ落ち着いた霊夢は二人に男がいる経緯を話す。レミリアはそれを終始納得のいかない顔で聞いていた。

話を聞き終わった二人は男の今後についてどうするのかを聞いた。すると、霊夢はーー

 

「別に何もしなければいてもいいけど」

「ヒュ〜」

「ちょっ、霊夢⁉︎」

「おや」

「……霊夢さん」

 

霊夢の衝撃の発言に神社にいる人物達はそれぞれ反応した。

最も、霊夢の頭の中ではこの男がいれば食料事情には困らないからという単純な理由だった。

 

「霊夢!こんな得体の知れない奴を神社に置いておくつもり⁉︎それにあなた(人間)も何か言いなさいよ!」

「……霊夢さん、オレはいつまでも貴女の厄介になるわけにはいきません。しばらくしたら、人里へ行きます」

 

男がそう言うと霊夢は少しだけ残念そうな表情になったが男が決めたことなら、とすぐに穏やかな表情になった。一方、レミリアはいたく不機嫌だ。本人としてはすぐに出ていってほしかったが、霊夢達の前で言ったために男を追い出すことができない。もしこれが紅魔館であればすぐに追い出せることができた。しかし、ここは博麗神社だ。主ではないレミリアが踏み込む余地はなかった。

 

「そう、まあ準備とかあるから人里に行くなら早めにね。送ってってあげるから」

 

手をひらひらと動かしながら霊夢は神社の本殿へと入っていき、萃香もふらふらしながら後に続いていく。

 

「ぬぐぐぐぐ……霊夢〜」

「お嬢様、これ以上は踏み込めません。紅魔館へ戻りましょう」

 

レミリアはご立腹のまま紅魔館へと帰って行った。その帰り際にレミリア達は射殺すかのような視線を男に向けた。男はそれに怯むことはなかった。まるで何度もそんな眼を向けられたことがあるかのようだった。

 

残った男は何の表情を浮かべることもなく飛び去ったレミリア達の方を見続けていた。

 

 


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