東方暁暴走録 〜暁メンバーが幻想入り〜   作:M.P

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6.小南、長門 天界にて

天界

 

「では、もう一度確認します。貴方達はここ(天界)から地上に向かう、ということでよろしいのですね?」

「ええ、何回もそう言っているわ。私達は地上に降りる」

「分かりました。では早急にお願いします。総領娘様には私から喝を入れておきますので」

 

緑溢れる天界の外れで数人の人物が話し合っている。周りには多少の戦闘の跡が見られ、数人の内二人程がボロボロになっている。

二人の女性が向かい合って話しているが、他の人物達は沈黙している。一人は黒コゲになって倒れており、もう一人は上の空である。

 

「……ペイン、地上に私の紙を送り込んでいるわ。地上に危険がないことが分かったら地上に降りるわよ」

「……ああ」

 

ペインと呼ばれた男はただ返事をするだけだ。ペインに話しかけた女性、小南はペインの様子に困惑していた。先程からずっとこの様子だからだ。

 

 

小南が永江衣玖を打ち破り、洞窟に戻るとペインが少女と話し合っているのを見つけた。排除しようとしたがペインの顔が笑っていることに気づいた。あまり笑うことのないペインに小南は少女を攻撃しなかった。

 

「ねえねえ、自来也って人はその時何て言ったの?」

「自来也先生は『それが正しいのか間違っているのかは分からない。だが、友達を守った。お前は正しいことをしたはずだ』と言っていた」

「へー、その自来也先生は結構良いこと言うのねぇ」

「……だが、オレはその自来也先生をこの手で殺した。平和を望んだあの人を殺したんだ」

 

(……長門)

 

ペインがそこまで話すとペイン、いや長門の表情が暗くなる。

長門は三年とはいえ自分の師匠を殺したことに罪悪感があった。ここ(幻想郷)に来る前に自来也の意志を継ぐ者が現れたのでまだよかったものの、取り返しのつかないことになっていたかもしれなかったからだ。

 

「……長門!アナタは確かに師匠を殺したけど、今はその意志を継ぐ人がいるんでしょう!なら何でその人のことを信じようとしないのよ!バッカじゃないの!」

 

すっかり意気消沈となった長門に天子が叱咤する。天子の声が洞窟内を反響し、その音に天子はつい耳を塞いだ。

 

「…………確かにそうだな、オレはナルトに託した。『オレ達の未来』を託したんだ」

「何よ、できるじゃないの」

 

天子は肩や首をコキコキと鳴らして見回すように動かす。話してばかりだったのですっかりこってしまったのだ。

洞窟の入口の方に顔が向いた時に誰かがいることに気づく。見た瞬間は警戒したが、長門と同じ格好をしていたために仲間だと見抜いた。

 

「アナタ、長門の仲間?」

「ええ、そうよ。彼に何もしてないわよね?」

「ええ何も。ちょっと私の話し相手にはなってもらったけど」

 

天子と小南は互いに見合い、先に天子が顔を逸らす。

お互いは敵ではないが、味方でもないのでお互いに何もしないことが適切な距離なのだ。

 

「……そう。……長門、ここから離れましょう。ここの住人からもそう言われているわ。早くしないと厄介なことになるかもしれない」

「ちょ、ちょっと!もう行っちゃうの!もう少しゆっくりしていけばいいのに」

 

小南の発言に慌てる天子だがこれには理由がある。

ただ単純に暇になってしまうからだ。天子は他の天人からは厄介者扱いされているために天子に近づこうとする天人はいない。天子の話し相手になるのもせいぜい永江衣玖などの召使や使用人しかいない。

せっかくの相手がすぐにいなくなることに天子は慌てたのである。

 

「そうも言ってられないわ。さっき雷を扱う人と会ったわ。会って早々『出ていけ』と言われたわ」

「え、ちょっとそれって……」

「長門、身体は大丈夫?動かすわよ」

「ああ」

 

天子の声を無視して天界からの脱出を図る小南は自身の術で長門の体を持ち上げる。

ゆっくりとだが宙に浮いていく長門を見て天子は興奮する。

 

「ねぇねぇ!どうやってるのよ、それ!教えて!」

 

小南と長門がどう答えるか迷っていると、入口の方から声がした。

 

「その答えを知る前に家に戻って頂きます。総領娘様」

「げえっ、衣玖⁉︎」

「さあ、戻りますよ」

 

天子が「嫌よ!」と叫ぶ前に雷が天子に当たり、悲鳴もあげずに倒れた。

衣玖は天子が拒むのを分かっていて質問した。もし、素直に帰ると言っていた場合は家を抜け出した罰として弱めにするつもりだったが、衣玖は天子の空気を読み取り黙らせるために雷を落とした。

 

いきなり現れた衣玖に二人は面を食ったが、小南は現れた人物が衣玖と分かると長門を庇うようにして立ち塞がる。

 

「別に何もしませんよ。貴人達は地上に降りるのでしょう。邪魔しませんよ」

「……さっきまで追い出そうとしておいてそれはどういうことなのかしら」

「ああ、言っておりませんでしたね。私はこの方を連れ戻しに来たのです。最初に貴人達を追い出そうとしたのは総領娘様と合わせないためでしたが……間に合わなかったようですね」

「……貴女、説明が足りてなかったわ。もう少し言葉数を増やしたら」

「よく言われます」

 

では、と言って衣玖は天子を黒く焦げた天子を連れて洞窟を出て行った。

 

「長門、行くわよ」

 

残された二人も衣玖の後を追うように洞窟を出た。

 

 

話は冒頭に戻り、小南は何も言わぬ長門に話しかけようとしてやめる。

今の長門には何を話しても同じ答えしか返ってこない気がするからだ。先程の少女に事情を聞こうにも彼女は衣玖の雷を食らい気絶している。

その内に長門の方から声をかけるのでは、と考えた小南は地上に飛ばした紙に集中する。

 

「……小南」

「長門⁉︎……何?」

 

いきなり長門から声をかけられて表情が明るくなる小南だったが、それは一瞬ですぐに気を引き締めた。

 

「……平和とは何だと思う?」

「……長門?」

 

小南は長門の質問の意図が分からなかった。平和を愛し、平和を望んだ長門がそんな質問をしたのだ。

 

「戦争のない世界。それが平和じゃなかったの、長門」

「…………」

 

小南の答えに長門は目を閉じ、思索に耽る。

まるで眠っているかのような顔だが、その顔は凛々しくとても穏やかだ。

 

「……オレはただ戦争がなく皆が幸せであればいい、と思っていた。だが、あの天子という少女は戦争がないこの天界を嫌っていた。ただ終わりのない永遠が続いているだけだと言っていた」

「……ッ!それは……」

「だからオレは“本当の意味での平和”をここ(幻想郷)で見つける。ナルトに伝えられないことが残念だがな……」

「……長門」

 

長門の言葉に小南に少し笑みを浮かばせた。

結局、長門はいつもと同じで平和を愛する男だった。今まで探していた平和が違うならまた探せばいい。そんなことを思っているとある異変に気づく。

 

「紙の術が、破られた?」

 

 

 

「おや、貴女程の人間の術が破られたのですか。一体どこの誰が破ったんでしょうねぇ」

 

 

 

小南の後ろから声がしたが、聞いたことがある声だった。

 

「……貴女、まだいたの」

 

小南が振り向くと身なりを整えた衣玖が立っていた。

 

「ええ、何か面白いことを話しておりましたので。ああ、総領娘様は家に放り込んでおきました。今なら私に色々と質問できますよ。さあ!」

 

衣玖の物言いに若干押された小南だったが、原因を突き止めるためにとりあえず聞くことにした。

 

「山の辺りに飛ばした紙がバラバラにされたわ。今のところそこだけだけど」

「山……ですか。そうなると天狗の縄張りに入ってしまったのでしょう。心配ありません、近付かなければ何もしませんよ」

「……そう」

 

術が破られた原因が分かり、ひとまずホッとする。天狗達の縄張りに入ってしまったが、それ以外は特に問題がなかった。

山以外の場所では危険がないことも分かり地上に降りようとする小南だったがーー

 

「おー、こっちにも迷い人がいんのかい。天界も騒がしくなりそうだねぇ」

 

いつの間にか、といえる程にいきなり現れた鬼に驚く二人。

瓢箪を持った顔が赤い鬼は二人を一瞥して瓢箪の酒を煽る。ぷはー、と一息ついてふらふらとした足取りだがこちらに近づいてくる。

 

「萃香様、天界での立ち飲みはあまりよろしくありませんよ」

「いーじゃないか、そんなマナーだか何だか。美味しく飲めればそれでいいだろう?」

 

萃香の傍若無人ぶりにため息をつく衣玖だが、萃香はただ笑ってごまかしている。

 

「永江の、この二人はどちら様だい?」

 

小南は萃香に対して触れないようにしていたが、そうもいかなくなり殺気を飛ばす。

だが、萃香は殺気を全く意に介さずけろりとしている。鬼に喧嘩を売るのは幻想郷でも一部の者ぐらいであり、久々の喧嘩売りに萃香は逆にワクワクしていた。

 

「ふふふっ、鬼に喧嘩を売る奴なんざ霊夢ぐらいかと思っていたが、面白い」

「小南様、抑えてください。後ろの方が巻き込まれますよ」

 

小南は衣玖の注意で我に返り殺気を抑える。萃香は目に見えて見てしおれた小南を見て少しだけ肩を落とす。

 

「何だ、こないのかい。ま、後ろの奴を守ろうとしていたみたいだからいいけど」

 

小南は長門をもう少しで巻き込みそうだったことに落ち込むが、長門は目でそれを許した。

 

萃香が手を出してくることもなく今度こそ地上に降りようとした時、萃香が二人に衝撃的なことを言った。

 

「しっかし、外の世界ではその格好は流行っているのかい。同じ格好の人間が神社に一人いるんだが」


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