魔法の森 アリスの家
ズガッ‼︎
幽香がデイダラがいるベッドに傘を振り降ろした。ベッドは粉々になり見る影もない。
「風見幽香!それは私のベッドよ!」
「あら、そうだったわね。フフフッ」
ベッドを破壊されたことに怒りを露わにするアリスだが、幽香は一言言っただけで後は何もない。
アリスはベッドにいた男のことを思い出す。男がいたベッドへと視線を移すと、破壊されたベッドの残骸と毛布があるだけで男の姿はない。
(あの状態でどこに……)
アリスよりも先に男の行方を追っていた幽香はその姿を捉える。男は体が少し痺れている状態で窓から脱出していた。
男は家の裏にあった巨大な鳥型を模したもので今まさに飛ぼうとしている。
「逃がさない‼︎」
幽香も窓から飛び出し、男を追う。飛び出す時にガラスが割れたが、幽香は構わず男を追った。
「…………」
ベッドと窓を壊されたアリスは上海人形を糸で操ったまま立ち尽くしていた。
「……あ、名前を聞くのを忘れた」
お互いに自己紹介さえもしていないことに気がついたアリスだったが、相手はすでにおらずどこかで出会うことを願うしかない。
「……サソリ、ね」
◆
(クソッ!何だいきなり!)
魔法の森の上空を起爆粘土で飛んでいるデイダラ(少女の家から拝借したハンカチで口周りを覆っている)は自分の芸術を語った瞬間に攻撃してきた“風見幽香”と呼ばれた少女に憤慨している。
デイダラは自分の芸術である“爆発”を理解する人は少ない、と自覚しているが、芸術を語っている時にいきなり攻撃してきた者はいなかった。
(……何でいきなり攻撃してきたんだ?)
いきなり攻撃された理由を考えるデイダラは自分が言ったことを思い出す。
(攻撃してきた理由が爆発じゃねぇ、となると……そういやアイツはやけにひまわりに拘っていたな、うん)
風見幽香はデイダラに“ひまわり”のことばかりについて質問してきた。ならば怒った原因はそこにあるのではないか、と考えていると 風見幽香が攻撃してきた理由が分かり始めた。
「……しかし、たかがひまわりにあそこまで怒るかな、うん」
「そう、貴方は
「⁉︎」
デイダラは後ろから
デイダラは声がした方に振り向くと日傘をさした風見幽香が空に停止している。
「フフフフッ、逃がさないわ」
幽香は日傘を閉じて、傘の先をデイダラに向ける。
そのすぐ後に傘の先から光線が出た。
「グッ!」
「あら、案外素早いのねぇ。それ」
デイダラは起爆粘土を操作して光線を躱す。だが、光線は一つだけではなかった。
「フフフフッ、一つでも当たると死ぬわよ。アハハハ」
笑いながら光線を放つ幽香を睨むデイダラだったが、自分から攻撃することは難しい。宙に浮いている幽香はどんな能力を使うか分かってもいないのに数少ない起爆粘土をすぐに使う訳にはいかない。
手持ちの起爆粘土は巨大鳥型を合わせても八個しかなく、それらを使い切ってしまえばデイダラは本当に何もできなくなる。
粘土を確保する手段がない以上、デイダラは攻撃を渋っていた。
「アハハハッ!貴方も何かしなさいよ!それともそのままでも死ぬ?」
(……このままだとジリ貧だ。ウダウダ言ってられないな、うん!)
デイダラは光線を避けながら、懐から蜘蛛型の起爆粘土を一つ取り出して幽香に投げつけた。
「ハッ!こんなものが何に」
「喝ッ‼︎」
幽香は目の前に投げつけられたものをおもちゃのようなものと思い、油断した。蜘蛛型の起爆粘土は幽香の顔に触れるか触れないかの辺りで爆発した。
(……C1でやられるほどの奴じゃねぇよな、うん)
蜘蛛型の起爆粘土は幽香に間違いなく直撃した。だが、デイダラはその程度で倒したとは少しも思っていない。
粉塵が晴れると爆発によって服が焦げた幽香が姿を見せた。
「……………」
幽香の顔は少し汚れているだけで全く怪我はない。デイダラはその様子を見て、起爆粘土を操作して幽香から少しでも離れようとする。
最も幽香がデイダラを逃がす気は微塵もない。それどころか、一層表情が険しくなっている。
「ガアアアアッ!」
(怒らせただけだったな、うん)
幽香は飛ぶスピードを上げてデイダラを追いかける。そのスピードはデイダラの起爆粘土よりもかなり速く、デイダラはあっという間に後ろにつかれる。
(……こうなったら
デイダラは懐から二個の蜘蛛型起爆粘土を取り出し、幽香に投げつける。
「アアアアッ‼︎邪魔だ‼︎」
幽香は日傘で起爆粘土を払いのける。起爆粘土は日傘に当たった瞬間に爆発し、幽香の周りを粉塵が包む。
だが、幽香は粉塵を一瞬で抜け出しデイダラを狙い定める。そして、後ろに回り込み右腕で突き刺した。
「ガフッ⁉︎」
デイダラの口から血が垂れる。それを見た幽香はデイダラを仕留めた、と思ったが、腕から伝わってくる感触がおかしいことに気付く。
「……ッ⁉︎これは⁉︎」
デイダラの体は生身ではなく、巧妙にできた粘土分身になっており、幽香の右腕は深く刺さっている為に右腕を抜くことができなくなった。
幽香は粉塵から抜け出した時にデイダラが乗っている起爆粘土が一回り小さくなっていたことに気がつかなかった。デイダラは巨大鳥型の起爆粘土を少し使い、自身の粘土分身をつくったのだ。
「風見幽香っていったな、お前にオイラの芸術を教えてやる」
「……ぐっ⁉︎ぬああああっ‼︎」
デイダラの粘土分身が口を開く。幽香は腕を抜くことができず、狼狽える。先程食らった蜘蛛型の起爆粘土は小さく幽香には効果が今ひとつだったが、巨大鳥型とデイダラの粘土分身を合わせたサイズではそうはいかない。
幽香は腕を必死に抜こうとするも抜けない。粘土分身に攻撃しようものなら爆発するかもしれないため、粘土分身に攻撃をすることもできなかった。
粘土分身のデイダラは印を結ぶ。
「オイラの芸術は」
「アアアアアッ‼︎」
幽香は吼えるも腕はピクリとも動かない。
「爆発だっ‼︎」
デイダラの粘土分身と風見幽香は爆発に包まれた。
◆
魔法の森
暗くジメジメとした森を歩く人の姿がある。デイダラだ。
「……これでしばらくは大丈夫だな、うん」
デイダラはハンカチで口を覆った状態で森の中を歩いている。まだ体に痺れは残っているが、元の場所に戻る訳にはいかずデイダラは爆発音がした方を背にして移動することにした。
「……それにしても……上手くいったな、うん」
デイダラは二個の蜘蛛型起爆粘土を投げて、風見幽香にそれをワザと爆発させる。幽香が爆発による粉塵に包まれた瞬間に巨大鳥型の起爆粘土を使い、自身の粘土分身を作り上げる。この時、巨大鳥型の起爆粘土は少し小さくなるが、幽香は頭に血が上っていてその変化に気がついていなかった。
その後、デイダラは幽香が粉塵から脱出する前に地上に降りて、幽香が粘土分身を攻撃した瞬間に起爆粘土を巨大鳥型ごと全て爆発させたのだ。
「……しかし、これでもう空を飛べなくなったな」
起爆粘土を全て爆発させた為にデイダラは移動手段を失った。これからの移動は全て歩き、とデイダラは思うとやる気が失せたが、幽香に追いかけられるよりはマシだと思うことにした。
「……さて、と。……粘土を探すか。うん」
デイダラは目的である粘土を探しに歩いた。
デイダラはあの爆発で風見幽香は死んだと思っている。
だが……
「アアアアアッ‼︎おのれっ‼︎おのれーーーっ‼︎」
風見幽香は半裸の状態で怒り狂っていた。両足と右腕に火傷を負っていて、酷い状態であった。
「あの男め、殺してやるっ‼︎殺してやるーーーっ‼︎」
男には逃げられ、自分はいいようにやられたことに風見幽香は許せなかった。
自分は妖怪だ、人間にやられるはずがない、と妖怪のプライドが彼女を動かしている。
「…………」
幽香は冷静になり男を探そうとしたが、火傷が酷く一旦家に戻って体を回復させることにした。
◆
???
「……さっきの音は……爆発ですかねぇ。
次の話からは日を空けて投稿します。