魔法の森
コンコンッ
少女の家に訪問者が訪れた。
「……?」
少女は首を傾げる。ここに訪れる人はかなり限られているからだ。勝手に本を持っていくという人物ではないことは確かだ。
その人物はわざわざ扉をノックせず、勝手に上がり込んでくるのである。故に少女は扉をノックをする人物が分からなかった。
「……誰かしら?魔理沙じゃないわね、絶対に」
コンコンッ
「はいはい、今開けるわよ」
少女はそう言いながら、扉を開けた。
「うふふ、ずいぶんと開けるのが遅かったじゃない」
玄関に立っている人物を見て、アリスは眉を少しだけ動かす。訪問者はアリスにとって(おそらく幻想郷中の住人にとっても)あまり有難くない人物だったからだ。
玄関に立っている少女は日傘を差していて、黄緑に近い緑色の髪で真っ赤に燃えるような目をしている。白いブラウスに赤いチェックのベストとスカートを着ている。
少女は張り付いた笑顔をしており、優しさというものは全く感じられない。
「……何の用?」
「ちょっと人を探しているのよ」
日傘を差している少女、風見幽香はアリスの承諾もなしに勝手に家の中へ入っていった。
「ちょっと!」
「…………」
幽香は部屋を見渡し、目的の人物を見つけるとデイダラがいるベッドに近寄った。
まだ体に少し痺れが残るデイダラは近寄ってくる人物を警戒する。
「ねぇ、貴方に聞きたいことがあるの。答えてくれるわよね?」
「……何だ?」
ニッコリと笑う幽香にデイダラは少し思考して答えた。
「私はここの近くのひまわり畑を管理しているんだけれど、そこに今日一人の人間が来たの。その人間を知らないかしら?」
「…………」
デイダラはここに来るまでのことを思い返す。目の前の少女が言っているひまわり畑に現れた人物は恐らく自分のことだろう、と推測できるが、何故ここまで来たのかが分からなかった。
そうデイダラが考えているのを余所に幽香は話を続けた。
「その人間はね、ちょっと面白いことを言ったみたいなのよ。どんなことだと思う?」
幽香の笑みが一層深くなる。
アリスは話に入るタイミングを失っていて、二人の会話を聞いているしかなかった。また、幽香は邪魔をする者には容赦がないので入る気にもならなかった。
「……さぁな、そいつはどんなことを言ったんだ?うん」
「あら、しらばっくれるのね。いいわ、思い出させてあげる」
幽香はデイダラが答える気がないと分かると、手に持った傘をデイダラに向けた。
「……
流石に自宅で暴れさせる訳にはいかないため、アリスはいくつもの上海人形を操り幽香を牽制する。
「……フッ」
そんなアリスを幽香は鼻で笑い、笑われたアリスは気にせず牽制を続ける。
「私は今すぐにという訳ではないの。この男の答え次第よ」
幽香は視線を上半身を起こしているデイダラに向け、アリスもデイダラに視線を向けた。
(……こいつはそこまで強いのか?)
視線を向けられたデイダラは幽香の強さを測っているが、見た目は少女なので分からない。彼がいた世界でも見た目=強さという訳ではなかった為、デイダラが幽香の強さを推し量ることは難しかった。これはデイダラ以外でも言えることだ。
「ねぇ、貴方はひまわり畑を見て何を言ったのかしら?うふふ」
デイダラが幽香の強さを測っていると、幽香が笑顔で質問してきた。
デイダラはひまわり畑で自分が言ったことを思い出して幽香に言う。
「……あのひまわりが育ち子孫を残そうと頑張る姿は美しい、だったかな?うん」
「…………えっ」
幽香は
(……幽香ってこんな顔をするんだ)
アリスはそんなことを思うが、幽香は顔を見られたことに気づかずまだ動揺している。
(どういうこと⁉︎
◆
太陽の畑
風見幽香はその日も自宅で優雅に過ごしていた。ベランダにある椅子に座りひまわり畑を見ている。
そんな幽香の元に人形の妖怪、メディスン・メランコリーがやって来た。
「あら、今日も来たのね」
「ええ、今日も毒を撒きに来たわ」
「うふふ、威勢がいいわね。またやられたいの?」
幽香はやって来たメディスンを追っ払おうと、傘を手に持った。
「でも今日はそれだけではないわ」
「……何かしら?もっと強力な毒でも撒くのね。なおさら追い出さなくてはいけないわね」
傘を向けられたメディスンは怯えもせず、笑顔を浮かべる幽香に言った。
「ひまわり畑を爆破させようとした人間がいたのよ。鈴蘭畑も狙われるかもしれないのよ、もう!」
「……何ですって⁉︎」
メディスンの言葉を聞いた幽香はみるみるうちに顔の表情が変わり、憤怒の表情になる。
それを見たメディスンは足が震え、家から離れようと試みるが幽香に肩を掴まれ逃げるに逃げられない。
「フ、フフフ、フフフフ。ねぇメディスン、そいつはどんな奴だったの?」
「あ、えっと、金髪で黒くて、その、人形……」
メディスンは恐怖のあまりしどろもどろな話し方になった。
「……そう、フフフフフ」
幽香はそれだけ聞くと、笑いながら魔法の森へと歩き出す。が、メディスンは今言ったことに付け足した。
「あ、待って。確か男……だったと……思う」
それを聞いた幽香はピタッと足を止める。
「…………」
幽香は最初、魔理沙もしくはアリス辺りだと見当をつけていたが、その条件で男である人物を知らない。男で思い当たる人物はいるが、服装、言動でそれに当たる人物はいない。
「……となると、迷い人かしら?」
「……多分、そうだと思う。見たことがない人間だったから」
メディスンがそう言うと、幽香は歩き出した。
「……えっと、幽香、どこに行くの?」
「…………」
メディスンが聞いても何も答えない幽香。
幽香はとりあえず魔法の森の住人のあたりから探し始めることにしたのだ。
◆
幽香は目の前にいる男はメディスンが言った条件を当てはまってはいる。
この男以外で誰かいるか、と思う幽香だったが念の為にもう一度聞く。
「……本当にそれだけなのね?」
「……いや、もう少し言っていたな。うん」
男はその時のことを思い返し、続けて言った。
「それが爆発によって儚く散っていく姿は素晴ら」
ズガッ‼︎