【IS】 転生したので普通に働こうかと思う   作:伝説の類人猿

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まさかのお気に入り数二百!?
皆様いつもお読みいただき本当にありがとうございます。
なお今回のお話はいつもより長いのでご注意ください。


五人だけの秘密

「秘密基地・・・ですか?」

 

「ええそうなんです。駄目でしょうか?」

 

ここは最近俺の中でなじみの場所になりつつある用務員室だ。

今ここにいるのは俺と以前共にワックスがけをした同僚とここの主である轡木さんの三人だ。

 

「それで・・・なぜ秘密基地なのでしょうかな?」

 

そう轡木さんが言う。

俺たちが秘密基地を作ろうと思い立ったのは今日の朝までさかのぼる。

 

*****

 

「こんちわー」

 

清掃員の朝はそれなりに早い。これは清掃道具のチェックをしなければならないからだ。

だが、清掃道具のチェックとはいっても簡単に見るだけなのですぐに終わってしまう。

どちらかというと朝早めに集まるようになっているのは清掃場所の順路を頭の中に叩き込むためだったりする。

時間は朝の六時。仕事が始まる一時間前だ。

 

「えぇと今日の清掃場所は・・・ここか」

 

来てさっそく俺は軽く掃除道具の確認をした後に清掃場所の順路を紙に書き写し始める。

本当なら紙に書かないで頭の中に叩き込んでおくのだけれど俺は覚えきれないのでこうして書き写している。

見栄なんていらんとです。偉い人にはそれがわからんとです。

実際清掃場所は広範囲にわたるので何かに順路を書き写していないといちいち順路の書かれた場所まで戻ってこなければいけなく面倒だったりする。

 

「よお調子はどうよ」

 

俺がいつものように清掃場所を紙に書いているとIS好きの同僚が話しかけてきた。

 

「まずまずってとこ。今日の清掃場所は前に行ったところばっかだから助かったよ。」

 

「へぇ運がいいな。俺なんて悲惨だぞ。今日はあのへんな形の塔をしなけりゃいけないし・・・」

 

「何ともまた・・・。あれって掃除しにくいよな」

 

島の中央にあるうねうねまがった塔はその形のせいですごく掃除しにくいのだ。

 

「まぁあきらめてるよ。それよりもさ、これ見てみろよ」

 

そういいながら同僚は俺にスマホを近づけてくる。

 

「なんだいったい・・・大人の秘密基地?」

 

「そそ、ガキの頃に作ったやつとは違ってしっかりとした本格的な作りの秘密基地なんだよ」

 

みればスマホの画面にはツリーハウスのようなものが映っている。

なるほど壁や屋根などは段ボールではなく丸太でできているし窓とベランダまで付いている。

 

「確かに本格的だな。でもこれがどうかしたのか?」

 

確かにすごいがそれまでだ。

そもそも日本ではこんな立派なのは作れない。

日本の国土のほとんどは個人のものか国のものかのどっちかだ。

勝手に作っても撤去されてしまうのがおちである。

 

「わかってねぇな。作るんだよこいつを!!」

 

と言いながら顔をキラキラさせている同僚とは別に俺は

 

「は?」

 

とぽかんとした顔で言っていた。

 

*****

 

「なるほど・・・確かにこの場所はいかなる国も介入できない場所とはうたっておりますが・・・」

 

IS学園というはどこの国にも属さない場所として設立された。

これはISという今までにないまったく未知の存在を研究するにあたって国家という縛りをなくすためである。

国家を超えた研究を行う場所、それがここIS学園なのである。

で、どこにも所属しないというところに同僚(こいつ)は目を付けたんだと。

”ここでなら小学生どもが一度は考えたであろう夢である秘密基地を建てられる!!”て言っていた。あほか。

作ったとしても国じゃなくて多分学園側が撤去するだけだとと思う。

同僚にそう伝えたんだがやってみなくちゃわからない!と言って無理やり用務員室まで連れてこられた。

俺まだ順路を紙に書いてる途中なのに・・・。

 

「駄目ですか・・・?」

 

心配そうに同僚は轡木さんに尋ねる。

いや、この人に聞いても・・・そういやこの人の権力って結構強いって設定だったかな。

ならあながちこの人に聞いたのは間違いではないのかも。

 

「うーん・・・」

 

しばし悩みながら轡木さんは口を開いた。

 

「邪魔にならないところならいいですよ」

 

えっマジで!?

 

*****

 

さてはてまさかのOKが出てから数日。とうとう休日がやって来た。

ちなみに休日は最低でも一週間に一日は保証されている。

 

必要な材料を買って同僚はこの日を今か今かと待っていた。

子供かお前は。あっでも案外当たりかも。

ISとか秘密基地とかいうあたりが特に。

 

そしてナチュラルにメンバーとして数えられていた俺。

今日は家でゆっくりしたかったのに・・・。

なお材料を含めたその他もろもろはすべて轡木さんがスポンサーとなって払ってくれた。

本人曰くどうせやるなら本格的にとのこと。

多分この人がいなかったら秘密基地は作れなかったと思う。

だってお金が圧倒的に足りないし。

ちなみに秘密基地完成後は私にも使わせてほしいとのこと。

同僚は”もちろんです!!”と元気よく言っていた。

そんなこと言って作れなかったらどうするんだ。第一俺たち二人じゃ何日かかるかわからんぞ。

 

以前に秘密基地の設計図とか言って見せられたのだがそこに書かれていたのはどう見てもログハウス。

こりゃ無理だなって思っていたんだが・・・。

 

「ふむ、ログハウスを作るのか。この大きさなら五人で酒盛りしても十分な広さがあるな」

 

「ログハウスですか~いいですねぇ。私小さいころ憧れていたんですよねぇ」

 

なんで織斑さんと山田さんがいるんでしょうか。しかも山田さんはISを装備しているし。

 

「轡木さんに手伝うように頼まれたのだ。その代り完成したらお前に酒のつまみを作ってもらうからな」

 

そう織斑さんは言う。

えっなんでそんなことをしなきゃいけないのさ。

というか何それ聞いていない。

 

「あの時のカサゴはおいしかったですよ。今回も期待してますからね!」

 

山田さんまで何を言って・・・というか期待されても困ります。

俺が何か言う暇もなく三人は図面を見ながら秘密基地の制作に移って行った。

織斑さんとかはどうせならもっと大きいキッチンにしたほうがもっといろいろ食べられるとか言っていた。

絶対に自分で料理しないでしょあなた!だってこっち向きながら言ってますもん!

 

「はぁ・・・」

 

そんな三人を見て俺はため息をするしかなかった。

 

*****

 

朝早くから始めて夕方になるころに秘密基地は完成した。

俺?魚釣って来いって言われた。今日の酒の肴にするんだと。

誰が肴を作るかって?俺だよ。

 

しっかし驚いた。

完成したという連絡を受けて俺が見に行ってみるとうっそうとしていた林の中に見事なログハウスができていた。

しかも部屋もかなり広い。

ざっと見て大人十人は入るんじゃないだろうか。

ログハウスの中は居間とダイニングキッチンとに分かれていた。

キッチンが最新のIHだったのを見て笑ってしまった。

その他も電子レンジや冷蔵庫おまけに食器洗い機まで付いている。

どうやってここまで電気と水道を持ってきたのだろうか。

 

「よくこんなのを作れたなぁ。すげぇや」

 

俺が感心していると山田さんが口を開いた。

 

「ふふ、これも全部みんなで酒盛りをするために作ったんですよ」

 

聞くとこれまでに何度か俺たちは酒盛りを用務員室でしてきたのだがその度にうるさいという苦情が入っていたらしい。

そこでどこか別の場所はないかと考えたところ同僚の秘密基地の話が入って来たとか。

で、ちょうどいいのでその案を採用して同僚を巻き込んでまで作ったのがこのログハウスなんだと。

ちなみにこのログハウス、地下にワイン蔵まであるんだとか。

完全に酒場だここ。

 

「苦情が入ってしまってな。どうしようかと思っていたところに今回の話が入ってきたのだ。お前の同僚には感謝しないとな」

 

そういいながらさっそく織斑さんは部屋から持ってきたのであろう缶ビールをあける。

教師なのにいいのかな・・・。

 

「安心しろ、今日は私も休みだ」

 

そっすか。

 

「でも俺魚釣りしかやっていないんですけどここ使っちゃっていいんですかね・・・」

 

ろくに力仕事もしていない俺がここを使うのははばかられる。

そう思いながら俺が言うとみんな一斉にきょとんとした顔をした後に一斉に笑い出した。

なんだ俺何か面白いこと言ったか。

 

「くくく、話を聞いていなかったのかここは酒盛りするための場所だぞ。いくら酒を飲める場所と酒があっても肴がなければ話にならんだろうが」

 

「まったくですよ清掃員さん。確かにここを作ったのは私たちですが清掃員さんの作るおいしいおつまみがないと完成しないんですから」

 

織斑さんと山田さんはそういいながら笑う。

同僚も、

 

「俺もこの二人の絶賛するお前の料理を食べてみたいからな。働かなかった分料理で貢献しろよ」

 

にやにやと笑いながらそう言った。

 

「はぁ、まったく」

 

しょうがない。みんなが働いたのだから俺も同じくらい働かなければ不公平だろう。

 

「言っておくが私たちは昼飯も食べずに働いたからな。おなかにたまるものを作ってくれ」

 

喉をごくごくと言わせながら缶ビールを飲む織斑さんがそういう。

そういえば俺も昼飯食べてなかったな。

俺も私もと残りの二人が織斑さんに同意する。

 

「なら今日は鍋にでもしますかね。春とはいえまだまだ夜は冷えますし」

 

新鮮な魚もたくさん手に入ったことだしじゃっぱ鍋でも作ろうか。

ちなみにじゃっぱ鍋とは青森の郷土料理でじゃっぱは雑把(ざっぱ)が濁ったものだ。

簡単に言うと寄せ鍋だな。ただし魚が多いが。

さてととりあえず作るものが決まったものだし魚を釣り場から持ってこなければ。

俺がそんな風に考えていると、

 

「おっ!これはまた立派なものが出来ましたねぇ」

 

「あっ轡木さん!今日はお鍋らしいですよ!」

 

予想以上だったのだろう感心しながらログハウスに入ってきた轡木さんに山田さんが今回の料理を教える。

 

「鍋ですか。いいですねぇ。まだまだ夜は冷えますし。ちなみに何鍋ですかな?」

 

轡木さんが聞いてくる。

 

「あっはい今日はじゃっぱ鍋にしようかと」

 

「じゃっぱ鍋ですか、これはまた楽しみですねぇ。青森で食べて以来ですよ。おいしいのを頼みますよ」

 

「もちろんですとも!」

 

さてと皆もおなかを空かせているし俺だって腹ペコだ。急いで鍋を作らなければ。

 

「じゃ、ちょっと魚取りに戻りますね」

 

そう告げてから俺は釣り場まで走りながら向かうのだった。

 

時刻は夕方も終わりを告げようとしている頃。

すでにあたりは寒くなり始めていたが、この時ばかりはこの寒さが心地よかった。

少し息を切らしながら俺は魚を取りに走る。

春も半ば、この日俺たちは俺たちだけの秘密の酒場を手に入れたのだった。




秘密基地って憧れますよね。
私も小学生のころ友人たちと一緒に段ボールで作ったのですが雨に降られて駄目になりました。防水加工は大事。
なおいまだに他の転生者は出てこない模様。
もう出さんでもいいんじゃ・・・冗談です。

(ちなみに今回初めてISが出てきました)

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