【IS】 転生したので普通に働こうかと思う 作:伝説の類人猿
「天馬空を落ちる……ってね」
「むぅ、それって太るよ~って言ってるつもり~?」
気がつけばあっという間に九月だ。時がたつのは意外と速い。
しかしながら残暑は衰えることもなく元気に活動しており体感的には未だに八月の気分だ。
もっとも時たま吹く風はどこか涼しく確実に季節が変わったなと感じ取れる。
清掃員の仕事と言うのは非常に地味であり重要な仕事だ。
この職に就いてから六か月。だいぶ俺も仕事に慣れてきた…と思っている。
今日の担当区域は裏庭だったので掃除が終わったら少しばかりそこでゆっくりしようかなと思っていたのだが来てみるとどうやら先客がいたらしい。
故に俺は真面目に掃除をしつつ早くどいてくれないかなぁと思ったりもしながらその人の姿を見ていたのだ。
そして先ほど言った言葉はその人の様子を見て自然と口から発せられたものなのでありそこには断じて俺個人の意識は存在していない。
「長ったらしく言ってるけど要は心の中でおもっていたことが口に出ちゃったっていう事だよね~」
「いぐざくとりー」
「お~いんぐり~っしゅ、わんだほぉ~」
現在裏庭で俺とこのばか…崇高な会話をしているのは布仏本音ちゃんである。
いつもだぼだぼな制服を着ていて非常に印象に残りやすい子だ。
実際インパクトがあってすぐに覚えられたわけだったし。
彼女の纏う雰囲気はなんというかほわほわしていて良く言えば安らぐ。
「じゃあ悪く言ったらどうなるのぉ~?」
「馬鹿っぽいって言うところでどうだろうかね」
「むぅ~学がないのはおじさんのほうっぽい~」
「おじさん言うな」
まったくおじさんとはなんだおじさんとは。
俺はまだまだ二十代のお兄さんだい!……この言い方だけはしないでおこう。
なんかすごくバカっぽいし…。
「とりあえずおじさん呼びでもいいからそこでお菓子を食べるのを止めてはくれんかね御嬢さん。君がそこでお菓子の食べかすをボロボロとこぼしているせいでおじさんは仕事が終わらなくて困っちゃってるんだ」
個人的にはお菓子の食べすぎも注意したいところだが俺の体系じゃあ説得力はないよなぁ…。
「むふふ~お菓子はね~お菓子なんだよ~。だから誰にも止められないのだぁ~!」
「あらまぁ~…………はっ!いかんこやつにいつの間にかイニシアチブを持って行かれていた!!?」
本音…恐ろしい子!!…いやそんなことはいいんだ本当に。
とりあえずこの摩訶不思議のんびり生命体のせいによって俺の仕事が本当にいつまでたっても終わらない。あとはここだけなんだがなぁ。
え?ほかが済んでいるならもう仕事を切り上げていいじゃないかって?
どうせ明日にはまた掃除をしなきゃいけないし戻っても大丈夫だって?
そんな発想は無かったよ…。
「…思っていた以上に俺は社畜だったらしい」
「あるある~そんな時にはお菓子を食べるといいよぉ~。はい!あげる~」
「ああ……ありがとう」
手渡されたのはひとつ十円で買えるスナック菓子だった。
味はコーンポタージュらしい。割と俺の好きな味のやつだ。
「…これを食べるのって結構久しぶりだな」
最近はお菓子売り場に行くこともめっきり減っていたしそもそもお菓子を買うこと自体が少なくなっていたのでこのお菓子の味がとても新鮮に感じられた。
菓子の細かなくずが口元に引っ付いてくるこの感触もなかなか懐かしい。
一口食べるごとにそうそうこんな味だったなと子供のころの記憶が蘇ってきた。
「立って食べるのもいいけど座った方がマナーがいいよぉ~」
「ん?そうだな…じゃあ座るか」
「お客さんいっちょ~」
本当は向こうのベンチに座ろうと思っていたのだがどうやら隣に座ってもいいらしい。
布仏ちゃんが横にずれてくれたので彼女の隣に腰を下ろす。
「……意外とうまいもんだな」
「でしょ~♪」
そのままむしゃむしゃとお菓子を食べ終える。
よし!今はまだこの子にイニシアチブを握らせているけどそれもこの菓子をすべて食べ終えるまでだ!
食べるものも食べたしさっさと仕事に……。
「おきゃくさ~ん…活きのいいのが入っていますぜぇ。いりますかい?」
「…………まぁ、たまにはいいか」
「そうそう休憩は大事なのだぁ~」
差し出されたスナック菓子を手に取って噛り付いた。
数年ぶりに食べた菓子の味は化学調味料の濃い味とそれからほんの少しばかりの優しさがしたのだった。
裏庭の静かな空間にしばらくの間二人が菓子を食べる音だけが響いたのである。
その後、結局菓子の食べかすを俺が掃除することになるのだがそこを語る必要はないだろう。
そんなところを話してしまったらせっかくのお菓子の味が消えてしまうのだ。
…そう言えば布仏ちゃんはあれでどうやって袖を汚さずにものを掴んでいるのだろうか。
IS学園の新たな謎が増えた日であった。
原点回帰と言うことで少しばかり初期のころの書き方に戻しました…。