【IS】 転生したので普通に働こうかと思う 作:伝説の類人猿
例によってIS要素はほぼ皆無です。読むときはご注意ください。
「で、何かいい仕事が無いか探しているんだが」
「ここをなんだと思っているんですかあなたは……」
色々ありすぎた学園祭も終わり破壊された建物も修復が進みつつある今。
IS学園には一応の平穏がもたらされていた。
そう、平穏がもたらされていたのだ……俺と同僚の給料を除いて。
「いやぁー今月……というか任期を終えるまでの間ずっと財布が厳しくなる予定でね…」
「…いやこれでもかなりーというか相当軽減されたんですよ?」
「……それは重々承知しているんだけどもさ、やっぱり先立つものは金なわけでございまして。それに世界は資本主義だし生きていくのには……ね?」
あの忌まわしき学園祭が終わった後俺と同僚にはそれなりの処分が下された。
具体的には今後三年間にわたる減給、今年のボーナスの消失である。
いやまぁボーナスは来年から出るし給料も三年たてば元に戻るんだよ?あれだけのことをしてこれで済んだのは本当に奇跡だったし。
「一応あの山の掃除を行わせた学園側にも責任があるという形でこうなったんだっけか…」
「ええ。本当に大変だったんですよ…。各国の高官相手にわたくしどもがいったいどれだけ働いたことか…」
「いやまぁそれよりも本当に何か手ごろな一日で終わる仕事はないのかよ?」
確かに大変だっただろうがこっちもこっちで大変だ。
あてにしていたボーナスとか給料とかがいろいろ変動しちゃったので生活を見直さないといけないのだ。
「そんなことよりって…えぇ……。いやまぁ確かにこれが私どもの仕事でしたけどもうちょっと労いの言葉は無いんですかまったく」
ぶつくさと言いながら彼ー呉無処理太郎はタブレットを扱う。
そう、俺は何か仕事がないかと処理部の方に顔を出していたのだ。
(クレームがあるということは問題があること。故にその問題を解決したら黄金色のお菓子が…ぐふふふ)
やがてちょうどいいものがあったのか処理太郎は俺にタブレットの画面を見せてきた。
「ここならどうです?依頼…というか苦情ですが、子供が反抗期に入って勉強をしなくなってしまったって言うやつです。解決できれば報酬もあるそうですよ。…………ていうかうちに出す苦情じゃないでしょこれ絶対」
「おお!ちょうど良さそうだな。ふふん!これでも子供の扱いには長けているんだ簡単簡単♪」
俺がそう言って胸を張ると処理太郎は微妙な顔で、「はぁ…そうですか」とだけ言ったのだった。
*****
「頼むうちの息子が反抗期に入ってしまったんだ!!」
「よりにもよってお前かよ!!」
後日、俺が依頼者との待ち合わせ場所に来たときそこにいたのはなんと以前出会いがあった電卓夫であった。
「君は子供受けもいいと聞くし何とか出来るはずだろだから頼む!」
「わ、わかった!分かったから顔を近づけるな!」
何が悲しくて男の面をドアップで見なくてはいけないのか。
とにかくとしてまずは卓夫の家に行かなければ何も始まりはしない。
「とりあえずあんたの家に行ってからにしよう」
「おお、なら引き受けてくれるのか。良かったならさっそく私の車に乗ってくれ」
「車ってこいつはダイマクション・カーじゃないか!」
流線型の三輪車なんてこいつぐらいしか存在しない。
「個人的な伝手があってねこいつはオリジナルだよ」
「世界に三台しかないオリジナルを手に入れることが出来る伝手ってよっぽどだぞ……」
「そんなことよりも早く乗ってくれ。ことは一刻を争うんだ」
「分かったから押し込むんじゃない!」
ドタバタと騒ぎながらも車に乗り込みV8気筒エンジンの駆動音を背景に卓夫の家まで行くのであった。
*****
「ここが私の家だ」
「外から見るといたって普通の家だな」
「君は私の家をなんだと思っているのかね」
「てっきり電卓の形をした家が出てくるものとばかり思っていたからな…」
思っていた以上に卓夫の家は普通の家であった。
いやこれが当たり前なんだろうけどさほら?卓夫のキャラクター的にね?
「さ、入ってくれ詳しい話はそこでしよう」
「おう」
卓夫に連れられて家の中に入る。
どうやら中もいたって普通の様子で電卓の影も形もない。
「……中身も普通だな」
「当たり前だろ。家というものは日常生活を送るための場所なんだぞ」
「…………」
あ、はい。
しっかしここまで普通の家だとなんというか逆に不安になるぞ…。
「さ、そこに腰かけてくれ」
「ああ」
テーブルに腰を掛ける。どうやら本題に入るようだ。
「…さて、どこから話したものか。私の家では今二人の子供がいてな…兄弟なんだが兄の方が最近勉強をしなくなってしまってな…。私から言っても何も聞いてくれないんだ」
「つまり部屋から出ないということか?」
俺がそう聞くと「ああ…いや、微妙に違ってな」と卓夫は言う。
少し考えた後に卓夫は口を開いた。
「いや、それも少し違ってな…私に勉強をしない理由を話してくれないのだ」
「ああなるほど」
「そこでだ!」
いったん言葉を区切ってから卓夫はグイッと顔を近づけてくる。
だから距離が近い!誰もおっさんの顔をドアップで見たくなんかないわ!
「頼む!!息子から勉強をしない理由を聞いてきてくれ!!それだけでいいんだ」
「分かったから顔を近づけるんじゃない!!」
とにかく理由を聞いてきてくれればいいのか。
だが肝心の息子の居場所が分からないとどうしようもないぞ。
「息子はいま部屋にいるんだ」
「あそれなら都合がいい。…だがまずはある程度の情報を集めてからでないと何も『ピーピーピーピー』うお!何の音だ!?」
俺が喋っている途中どこからか機械音が鳴り響いた。
俺がそれにびっくりしていると卓夫がポケットをごそごそと漁って、
「失礼妻からのメッセージだ」
「いまどきポケベルかよ…」
ポケットベル、通称ポケベルを取り出していた。
「ええと…今夜の晩御飯はすき焼きです…か」
「ポケベルなんて大変だろ?」
俺がそう聞くと卓夫はそうでもないと言ってポケベルをこちらに渡してきた。
「我が家の教育方針で子供に小学一年生のころから数字になれるようにしているんだ。ポケベルもその一つだ。ただし普通のポケベルとは違って我が家のポケベルの数字はごろ合わせじゃなく組み合わせだ」
「組み合わせとはまた面倒な…。そういえばこれが出てから4649とか3470とかのごろ合わせが出だしたよな」
「うむ。ポケベルによってごろ合わせというものがぐっと身近になっていったな」
しっかしポケベルなんて久しぶりに見たな…。
正直こんなのスマホのアプリで探せばありそうな気もするが…。
「ポケベルは我が家での重要なコミュニケーションツールだ。今では家の内外に関わらず皆これで会話をしている。風呂場でも食事中でもな」
「ちょっとは会話をしろ!!どこのスパイ一家だよお前らは!!」
そうか?と言いながら首をかしげる卓夫にポケベルを返す。
「食事中にポケベルでやり取りをするのは周りから見たらただの変人だぞ…。第一ポケベルを外で使うときは公衆電話が必要になるいだろうが」
「心配いらない。私はこれでもIS学園の講師だぞ?それぐらいは簡単に改造出来る」
「肝心の電波はどうするんだよ…。ポケベルのサービスなんてとっくの昔に終わってるぞ」
俺がそう質問するとふふんと胸を張りながら卓夫が答えた。
「抜かりない。ちゃんと近くのアンテナから拝借している」
「盗んでいるんじゃねーか!!」
「失礼な!死ぬまで借りているんだ!」
「それを盗むって言うんだよ!」
まったくとんでもない奴だな。
ん?そういえば何か忘れているような…あ!
「もうこの話は終わりだ!とりあえず何も情報が無いのは分かったからさっさと部屋に案内してくれ!」
「君から話を振って来たんだろうに。まぁいい。息子の部屋はあっちだ」
「もう帰りたくなってきた…」
*****
「ああ、あなたが噂の清掃員さんでしたか。父さんより話は聞いています」
「そのお父さんに息子が勉強しなくなったと泣きつかれたんだが」
今この部屋にいるのは卓夫の息子(関数と言うらしい)と俺だけで卓夫は部屋の外に出されている。
俺が泣きつかれたことを関数に話すと申し訳なさそうな顔をしながら口を開いた。
「父さんがご迷惑をかけて申し訳ございません」
「それはまぁいいんだが…せっかくだ。どうして勉強をしないのか話してみてくれないか?親父さんは本気でお前のことを心配しているようだし何よりも俺は何も知らない第三者だ。少しは話しやすいと思うのだが」
しばらく考えてからそれもそうですねと言って関数はなぜ勉強をしないのかその理由を話し始めた。
「実は…………どうしてもある問題が解けないのです!」
「問題?」
どうやら勉強をしないのではなく問題が解けなくて他の勉強ができない状況のようであった。
まぁしかし…俺の出る幕はないよなぁ…。いや、でもとりあえずはその問題を見てみるか。
「まぁ解けるかどうかは保証しかねるが見せてくれないか」
「ああ、はい。もちろん大丈夫ですよ。ちょっと待ってくださいね」
そう言って関数は机の引き出しを開けてごそごそと中身を取り出していく。
今チラッと見えたんだがフェルマーの最終定理とか書かれてあったぞ…いったいどんな問題が出てくるんだよ…。
よくよく見たら棚にある本とかも全部数学関係のものでタイトルが全く読めない文字で書かれているし…。
なんだよアレ多分ヨーロッパ系の言葉なんだろうけど全く読めないぞ…。
「ありました。この問題なんです…」
ようやく見つかったのか関数は一冊のノートをこちらに寄越してきた。
どうやらこのノートにその解けない問題は書かれているらしい。
「そのノートの十四ページに有る問題がどうしても解けないんです」
「どれどれ…」
問:以下の表記からもっともふさわしい文字を書き入れよ
8809 = 6 7111 = 0
2172 = 0 6666 = 4
1111 = 0 3213 = 0
7662 = 2 9312 = 1
0000 = 4 2222 = 0
3333 = 0 5555 = 0
8193 = 3 8096 = 5
7777 = 0 9999 = 4
7756 = 1 6855 = 3
9881 = 5 5531 = 0
2581 = ?
「なんじゃこりゃ」
なんか変な数字の羅列が現れた。
「8809が6になって7111は0になる…。なるほどこいつが解けないのか…」
「そうなんです!頑張って解こうとしたんですけどどうしても解けなくて…」
非常に困った顔をしながら関数はいってくる。
でもそれなら親父さんに頼めば良かったのではないだろうか…。
「父さんにこの問題が解けないって言いに行くのはちょっと抵抗があって…」
「ああ、なんか分かる気分だな。こういう事ってなかなか言いに行きづらいよな」
俺が共感の言葉を伝えるとやっぱりと言った様子でうんうんと頷きながら関数はしゃべり続ける。
「あなたもそうでしたか!そうなんですすごく言いに行きづらいんですよ!…ただ、一度母さんに聞きに行ったんですがその時は母さんも分からないって言ってきて・・」
「この問題は簡単だぞ」
「え?」
俺が言った言葉に対し素っ頓狂な声をあげる関数。
いやそんなに驚くことかよ…。
「で、ですがどれだけ式を立てても解けなかったんですよ!!」
「うお!?慌てるんじゃない!そして顔を近づけるな!!」
まったく…親子なだけあってか行動も似ているな…。
そんな俺の気持ちは至極どうでもいいようで関数は速く早くと俺を急かす。
仕方がない。さっさと解き方を教えて家に帰ろう。なんかもう精神的な疲れが半端じゃないし…。
「そもそもの話この手の問題を解くのに必要になってくるのは数学の力じゃなくて柔軟な発想なんだよ。まず初めにしなくちゃならないのは最初の四ケタの数字を数字だとは思わずに記号だと思うことだな」
「え?」
「この問題の答えは2だ」
俺がそう言うとどうしてそうなるのかとうんうん言い長ら頭をひねり始める関数。
ここはひとつヒントを出してやろうか。
「ヒントは〇だ。数字じゃない図形の問題だ」
「〇……あ!そうか!!8は〇が二つになるのか!!それじゃあ他の数字も…」
「そ、他の数字も同じように…たとえば6と9は〇が一つずつになる。あとの数も一緒だな」
どうやらこの説明で納得できたらしく関数は喜んでいた。
こういう問題って大体が真面目に解いたら負けなやつなんだよな。
「けど式を一切使わない数字の問題があったなんて驚きです!!」
「こういう問題を解くのに必要なのはさっきも言ったけど柔軟な発想だからな。芸術系の能力が必要になってきたりする」
「なるほど芸術ですか!!」
「お、おう」
何やら目をキラキラさせながら聞いてくる関数。
いや、正直ウザったいレベルだがまぁ問題は解決?したのかな。
とりあえず本人から確認だけ取って終わりにしよう。
「それで、これでもう勉強は出来るようになったのか?」
「はい!!本当にありがとうございました!!」
どうやら本当に問題は解決したようだ。ならばこれで俺の仕事はもう終わりだ。
卓夫に言って貰えるものもらってさっさと帰ろう。
それじゃあと言って俺は卓夫に問題を解決したことを報告してくるのであった。
この後涙を流しながら卓夫が眼下に迫ってきたことは思い出したくない…。
*****
「じゃあ問題は解決できたんですね」
「もっとも精神的にひどく疲れましたけどね」
ここは何かと世話になっている秘密基地。
もっとも最近では公然の秘密になってきているような気配があるがそれでも名前は秘密基地だ。
今日は山田さんと久々に二人きりで飲んでいた。
「あの問題って実は結構有名な奴なんですよ。以前ネットの方で見たことがあってそれで簡単に答えが出せたというわけです」
「それでも関数君にとっては悩みが解決したから結構なことじゃないですか♪」
ふふと笑いながら山田さんはお酌をしてくる。
あ、これはどうも。
そそがれた酒を飲みながら今回のことを改めて思い返す。
「正直って今回のことはあまり割に合いませんでしたね…精神的にですが。これなら普通に清掃員として働いた方がいいかなぁ…っていうところです」
「あれ?もうアルバイト辞めちゃうんですか」
「アルバイトというかなんというか……」
「もったいないですよ!せっかく私も教師のお仕事を依頼しようとしたのに」
「……教師はもう勘弁してください」
むうと頬を膨らませながらこちらを睨んでくる(本人はそのつもり)山田さん。
正直言って教師の仕事って大変だもんなぁ…。
もう前回のやつで懲りたし今後は質素倹約でちまちまとした生活を送るしかなさそうだ。
それはそれとしてどうやって山田さんの機嫌を直そうかと考えているとドタバタと騒ぐ音がした。
「き、君!!」
「げ!?また出た!!今度は何の用事だよ…」
よっぽど急いできたのであろう額に汗を浮かばせながらぜいぜいと息を切らしている卓夫がそこにはあった。
今度はいったい何の用事だよほんとに!!
「た、たたた、大変なんだ!!また息子が反抗期に入ってしまったんだ!!」
「あいたたたたた!!首を掴むんじゃない!!」
「そんなことはどうでもいいんだよ君!!息子がいきなり芸術を学んでくると言ってパリに行ってしまったんだ!!」
え?芸術を学んでくる?パリに行く?卓夫の息子?
……………………。
どうしようめちゃくちゃ思い当りがあるぞ。
「頼む!!もう一回息子に会って説得してくれ!!!金なら払う!!」
グアングアンと卓夫に頭を揺すられながら俺は関数の真意に気が付くと思いっきり叫んでいた。
「お前らの一家はやることが極端すぎだアアアアアア!!!」
お金を貯めるのって厳しい。そう学んだ俺であった。
過去に未解決の数学の問題(解けたら賞金が出るやつ)を解いてみようと思ったのですがまず第一に何を求めたいのかがわかりませんでした。