【IS】 転生したので普通に働こうかと思う   作:伝説の類人猿

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長くなっちゃいました・・・。


クレーム君

クレーム、それはいかなる組織でも一定数存在するものでその内容は多岐にわたる。

例えばこちら側の不手際で起こってしまった純粋なクレーム、相手がストレスを発散するためだけに行う言いがかり型のクレーム、もっとその製品もしくは組織をよくして欲しいという要望型のクレームなど様々だ。

 

そしてここIS学園でもそれは日常的に起こっている。

 

*****

 

「そんなにクレームが来るんですか?」

 

いつもの秘密基地にて今日も織斑さんや山田さんの愚痴とか悩みとかを聞いていたのだがその中で気になる話が出てきた。

 

「それはもう・・・ほぼ毎日来ますね。きちんと・・・という言い方はあれですけどちゃんとした内容のクレームもあればほとんど言いがかりみたいなクレームもありまして・・・」

 

でもたとえそれがどんな内容であっても一度は必ず話を聞かないといけないんですけどね、と苦笑いしながら山田さんが教えてくれる。

 

「私の所にも結構来るな」

 

「織斑さんにも来るんですか!?」

 

なんか意外だな・・・。あんまりそういうののイメージが無かったし。

 

「まぁISのせいで男の立場が小さくなってしまったからな・・・。ISが認められたきっかけも作ったのは私のようなものだしな」

 

「初代モントグロッソでの試合の技術がすごかったですもんねぇ~。あんな軌道も出来るのかッ!?って思いながら見ていましたよ」

 

「見ていたのか山田君・・・」

 

何やら二人だけで会話が盛り上がっているようだが、なるほど立場の弱くなった男たちからの熱いラブコールがきているのか。

世界最強も大変だな。

 

「やっぱり真夜中とか早朝とかに来たりしたんですか?」

 

「まあな。だが今はそんなことはないぞ」

 

へえ、なんかしたのかな?

 

「処理部の人たちのおかげでかなり楽になりましたようねぇ~」

 

山田さんが物凄く助かったって言う顔をしながら言うのだが、なんだ?

 

「処理部ってなんですか?」

 

*****

 

「ようこそいらっしゃいましたIS学園総合クレーム処理部へ。私はここの部長をやっております呉無 処理太郎(くれむ しょりたろう)です。以後お見知りおきを」

 

髭の生えた四十代ほどのスーツを着た男性が丁寧にあいさつをしてくる。

 

「これはどうもご丁寧に・・・。私は・・・」

 

「すでに山田様から聞いております。本日はここの見学をしたいということで。失礼ながら私めが案内の方をさせていただきます」

 

ここはIS学園総合クレーム処理部。

昨日の織斑さんと山田さんの話の中に出てきた組織だ。

今回はクレーム処理部がどんなものなのか気になったので山田さんに頼んで見学させてもらっているのだ。

 

え?仕事はどうしたかだって?もちろんするよ。

今回の見学は掃除も兼ねているからな。ちゃんと掃除道具を持って清掃員の制服を着ている。

 

しかしながらここ部と名前に付いてはいるものの規模がデカい。

一棟まるまる使っているのだから驚きだ。

 

「ここがクレーム処理室です」

 

「おお!・・・広い」

 

呉無さんに案内されたのはとても広い部屋だ。

どんな感じの部屋かというと・・・会社のオフィスだな。

パソコンが大量に並べられていて各机に二台の電話が備え付けられている。

 

今まさにクレームの対処をしているのであろう忙しそうにここで働いている人たちが電話と向かい合っている。

 

「なんで電話が二台あるんですか?」

 

「一台はクレーム対処用でもう一台は部内電話です。基本はそのデスクのものがクレームの対応をするのですが一人では難しいクレームの場合は専門の人間か上司にバトンタッチをしてもらうのです。その時に部内電話を使います」

 

「なるほど・・・」

 

「このクレームの対処なんですがコツがあるんです」

 

「コツ?」

 

オホンと軽く咳払いをしてから呉無さんはコツを教えてくれる。

 

「まずクレームの対応でしてはいけないことは三つあります。まず一つ目、お客様の困っていることに対してお詫びが出来ないこと。二つ目、クレームの内容を最後まで聞かずに言い訳をしてしまう事。そして最後に、事実の確認ができないことの三つです」

 

「謝ったら裁判とかになるんじゃないんですか?」

 

「それは間違いです。基本的に裁判になったとしても相手に具体的な損害が無ければ負けることはありません。第一に実際に裁判を起こそうとしてもお金がかかりますからまずしません」

 

なるほど・・・。まぁ確かに裁判をすると色々とお金がかかるもんな。

 

「それでこの中で一番重要なのが最後の事実の確認なんです。たとえばラーメン屋があったとします。従業員のミスで頼んだ出前がいつまで待っても来ません。そこで早く出前を持ってきてくれとクレームが来ます」

 

「それで?」

 

「従業員は分かりましたと言ってすぐに出前を持ってきます。しかしながら持ってきたおかもちの中にはラーメンではなくチャーハンだけが入っていました。お客様はラーメンじゃないじゃないかと怒ってしまい二重クレームが起きてしまうのです。これは従業員が事実確認、どの商品を持ってくるのかちゃんと聞いていなかったから余計にクレームが発生したのです。このようなことを避けるためにも事実の確認は重要なんです」

 

「な、なるほど。慌ててはいけないということですか」

 

「その通りです。慌てたところでいいこと無し。焦らず冷静でいることが重要なのです」

 

うわぁ・・・俺には絶対無理だな。慌てやすいいし・・・。

 

「ちなみに基本的にこの棟の中の部屋は一部休憩室などを除いてほとんどがこの部屋のような作りです」

 

「え!?そんなにクレームが来るんですか?」

 

「もちろんですとも!!」

 

呉無さんが顔をグイッと近づけながらそう言う。

 

「ここはなんでもありのIS学園です。男性が低めにみられている今の世の中へのうっぷんが溜まった男たちからのやつあたりなクレームからISの情報、特に男性操縦者の情報を欲しがる一国の大統領まで幅広いですよ」

 

「そ、そんなに・・・」

 

「もちろん中にはまともなクレームもありますよ。もっと子供に会え易くして欲しいなど。もっとも割合的には全体の四割弱ぐらいですが」

 

割と少ないんだなぁ・・・。そういうのを全部相手しなくちゃいけないんだから大変だな。

 

「多いときにはクレームが一日で千件以上もありますからね。我々もそんなに多くのクレームをさばきたくはないのである程度はマニュアル化しています」

 

「マニュアル化?」

 

「そうです。コンピュータを使っていくつかのタイプにクレーマーを分類しているのです」

 

「まてまてまて!?そんな簡単に分類できるのか!?」

 

俺がそう言うと得意げに、

 

「出来ますとも」

 

と言った。

 

「こちらをご覧ください」

 

そう言いながら呉無さんは俺にデスク上の電話の通話機を見せてくれる。

 

「ここに本体につながっているコードとは別にもう一つコードが付いているでしょう。ここのコードはパソコンの本体と繋がっていてここからAIがどんなタイプのクレームかを声色や鼻息、言葉の間隔などから予測します。すると・・・」

 

「あ、画面になんか出てきた」

 

呉無さんがキーボードを触るとモニターに一つの画面が映し出される。

 

「このように画面の方に可能性の高いタイプが映し出されます。これらの予測に従って応対者はAIと共にどのようなタイプのクレーマーか判断していくのです。」

 

「凄い技術だ・・・」

 

「製作に百億以上かかりましたからね」

 

「おい!?」

 

絶対それクレームの火種になるぞ。一応IS学園は日本政府、つまり日本人の税金で成り立っている場所だ。

もしもそんなことが世に知られたらもっとクレームが来るんじゃないか?

「俺たちの税金を無駄にするんじゃない!!」って言う感じで。

 

「安心してください。もうすでに来ました」

 

「ばれてんじゃないか!!」

 

「安心してください。そのような問題を解決するのが私たちの仕事です」

 

「解決者が問題を起こすのは本末転倒だぞ・・・」

 

まったく・・・とんでもないところだな。

 

「実はそのことが上の方に知られてしまって今年の予算が・・・ちょっと厳しい・・・」

 

「自業自得だ!!」

 

「まぁクレームが起きないようにするのが一番なんですがね。ともかく最近はAIに頼らずにクレームを処理できる人材を育成している所です」

 

なんかいいことを言っている風に話しているけど説得力がまったくないからな?

 

「そしてこれがわが部で開発された人材育成マシーン、『クレーマー君』です!!」

 

そう言いながら新たに出された機械は・・・なんだこれ。冷蔵庫よりも少し小さいぐらいの大きさの何かが出てきた。

 

黒色の長方形で真ん中にはモニターが付いている。さらにモニターの横にはスピーカーがある。

 

「このモニターはタッチパネル式になっていてここでシミュレーションする相手を作ることが出来ます」

 

「なんと!?」

 

それは凄いな!!

 

「このように年齢や性別はもちろん。信仰している宗教や電話をした時の状況まで設定できます。そして会話をするときはこのモニターに相手の顔を表示することもできます」

 

「そんなに細かいところまでできるのか!!」

 

「習うより慣れろですからね。なかなかクレームの対応をする機会はありませんし慣れる暇もありませんから」

 

「その点これならいくらでも出来ると」

 

凄い発想だなぁ・・。

 

「ただ・・・」

 

「ただ?」

 

何やら渋い顔をしながら呉無さんは頭を抱える。

 

「これ一台の生産に十億ぐらいかかってしまって・・・量産が・・・」

 

「こらこらこら!?結局駄目じゃねえか!!」

 

「で、ですがこれは有名な芸人やアイドル、歴史上の人物まで幅広く再現が可能なんですよ!!」

 

「そんな余計な機能を付けるからコストがバカ高くなるんだろうが!!」

 

まったく・・・。なんでそんな無駄な機能を付けたのやら。

 

「量産しようにもコストばかりかかるからと言って上が量産の許可を出してくれないんですよ・・・。このままだと人材の育成が遅れてしまって・・・」

 

本気で困っているのかとうとう呉無さんは体操座りをし始めた。

・・・この様子だと真面目に困っているみたいだな。

 

「・・・要は作ってプラスになればいいんだよな?」

 

「え?」

 

しょうがない。面白いもの見れたしここはひとつ恩返しをしますか。

 

「私にいい考えがある!!」

 

・・・別にどこぞの司令官じゃないし失敗とかはないよ。多分。

 

*****

 

『さて皆様今日の特集は、今話題沸騰中のアングリーダイエットです!!』

 

テレビカメラが映す先には例の育成装置がある。それも何台もだ。

そしてそれぞれに人がいてみんな受話器に向かって怒鳴り散らしている。

 

「あんたなんか大っ嫌いよ!!」

 

「うっせぇ!!この糞上司。てめえなんか怖くないぜ!!」

 

「最後に殺すといったな。・・・あれは嘘だ」

 

「うっさい!ふぁいっきらいだ!!たんあいたんのヴぁーかっ!!」

 

『おやおや皆様怒鳴っていますねぇ。それではここでちょっと皆さんに聞いてみましょうか。・・・すみませーんどんな感じですか?』

 

『ふう、ふう・・・あっはい。いやぁいい汗かきますねこれ。私ここにきてまだ一週間もたってないんですけどもう五キロも痩せたんですよ!!』

 

『いやぁ・・・いいですよこれ。健康に良いだけじゃなくて日ごろのうっぷんも晴らせますしね。普段は言えない不満をここで発散して帰るのが最近の日課ですよ』

 

『・・・皆様大いにアングリーダイエットを楽しんでいるようですね!テレビの前の皆さんもぜひ一度やってみてはいかがでしょうか。それではリポートの方終わりまぁ~す!!』

 

スタジオの司会にバトンタッチして特集は終わった。

 

「すごいアイデアだな・・・。まさかここまで当たるとは・・・」

 

テレビを見て呉無さんが初めに言った言葉は感嘆だった。

 

「全国のマダム達に大うけですからね。一台数百万と高めですけど効果は絶対。しかも疲れたら今まで画面越しでしか出会えなかったアイドルたちとやろうと思えば会話が出来る。もうバカ売れですよ」

 

俺がやったのは簡単。あの機械を使ってストレスの発散をさせるのだ。

どうせ相手は架空の存在。ならば別にどれだけ当り散らしても現実に影響はない。

まさに現代日本人にピッタリなストレス発散装置だ。

 

それに設定をいじくれば普通に対人用のシミュレーターになるからまともな会話も可能なのだ。

 

「まずはジムの方から始めてその後リピーターになったお客に自費でこれを買うことを進める・・・そうすることによって確実に機械は売れる」

 

むっふっふ。まさに完璧。

しかもこの機械、無駄に全世界の言葉に対応しているので販売も世界規模で行える。

 

「そして今の世の中にうんざりしている男たちもストレス発散のためにこの機械を買う・・・うははは、素晴らしい、素晴らしいぞ!!」

 

「・・・うーむしかしクレーマー君にこんな使い道があるとは・・・。ありがとう君のおかげで助かったよ。おかげで量産の許可も下りたし君には感謝してもしきれないな」

 

そう言いながら呉無さんは俺に頭を下げてくる。

 

「いいですよ別に。案内のお礼ですから」

 

なんにせよ一件落着。めでたしめでたしってやつだな。

 

「た、大変です!!学園の方に大量のクレームが!!」

 

「「なに!?」」

 

俺たちが安心しきっている所へ山田さんが何やら慌てた様子でやって来た。

 

「こ、これを見てください!!」

 

そう言って山田さんは手元のタブレットを見せる。

 

「なになに・・・あ、これって2525動画じゃないですか。えぇっと、『クレーム君で喘がせてみた』『Hな会話をしてみた』『あのアイドルが○○を!?INクレーム君』・・・・・・」

 

ワアオ。

 

「「な、なんじゃこりゃぁー!?」」

 

俺と呉無さんは声をそろえてそう大声を上げるのだった。

オタクって凄い、そう感じた出来事でした。




もうちょっと投稿のスピードあげなきゃなぁ・・・。

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