【IS】 転生したので普通に働こうかと思う   作:伝説の類人猿

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今回の話はIS要素が非常に薄い話です。そういうのが苦手な方はご注意ください。
あと結構長いです。



電卓

「・・・じつはちょっと相談事があるんですけど」

 

やあ清掃員だ。最近初めの挨拶が思いつかなくて若干困っているぞ。

まぁそんなことはともかくとして今山田さんから相談を受けている真っ最中だ。

 

場所はいつもの秘密基地。若干酔っぱらい気味の山田さんはちょっと呂律が回っていないが割かし真剣な悩みなのか目が真面目だ。

 

「・・・その、私の横の席の人が机に私物を置いてるんです。自分の机だけならまだしも、その私物が私の席まで広がりかけてて・・・」

 

「あぁ・・・自分の机自体にはまだ広がってないからあんまり強くは言えないと?」

 

「・・・ん、ぷはぁ。・・・はい。しかもその人が男の先生なんですよ・・・」

 

コップの中のお酒を飲みほしてから山田さんは言う。

なるほど事情は分かった。

 

「要は男の人が相手だから片付けてって言いにくい、しかもまだ自分の机にはその人の私物があふれてないから強くは言えないと?」

 

「はぃ・・・。それであのぉ・・・すみません、私の代わりにその人に片付けてくださいって言ってもらえないでしょうか・・・?」

 

山田さんは体をちじこませながら小さな声で言う。

 

「まぁ、それも一種の掃除ですしね・・・いいですよ。明日職員室のエアコンの掃除があるのでそれが終わった後にでも注意してきますよ」

 

「・・・すみません。本当は私が言わなきゃならないのに・・・」

 

「ま、言いづらいのもわかりますし別に俺にとっては掃除する場所が一つ増えるだけですしそんなに気にしなくても大丈夫ですよ」

 

「・・・ありがとうございます」

 

そう言いながら山田さんはお酒を飲むのだった。

 

*****

 

「なんだこれは、たまげたなぁ・・・」

 

場所は職員室。山田さんとの約束を果たすために問題の机にやって来たのだが・・・。

 

「ものすごいゴミの量だな・・」

 

なんかよく分からない機械が山のように積み重なっている。

 

「ゴミとは失敬な!!君にはこの山の価値がわからないのかね!?」

 

「うわっ!?誰だあんた!」

 

いきなり髭の生えた中年のおっさんが現れた。

ひょっとしてこの人が・・・。

 

「いかにもこの私がここの机の所有者であり同時にIS学園数学科担当の電 卓夫(でん たくお)だ!!」

 

またなんか変なのが出てきたよ・・・。

 

「いいかね君!ここにあるのは決してゴミなんかじゃない!ここにあるの全て私が集めた電卓たちなのだ!」

 

「電卓・・・?」

 

確かによくよく見てみるとここにあるのはすべて電卓のようだ。

 

「・・・ってなんでこんなに電卓があるんだよ!こんなにあっても邪魔だろ!」

 

「ここにある電卓はただの電卓ではない。これを見てみろ」

 

そう言って卓夫が山の中から取り出したのは何やら大きな機械である。

フレームの色はクリーム色をしていてたくさんのボタンが付いている。

 

「これが世界最初の電卓だ」

 

「げ!?世界最初!?」

 

とてもじゃないが電卓には見えない代物だ。

 

「イギリスのBell Punch社から発売された電卓で名前はANITA MK8。各桁ごとに一から九までのボタンが付いている。重さがなんと約十四キロもある」

 

「十四キロ!?」

 

持ってみるかと言われたので持たせてもらったのだが、これは本当に重い。

これが世界最初の電卓か・・・。

 

「まだまだあるぞ。こっちは日本最初の電卓CS-10A。シャープ(当時の早川電気工業)から発売された。重さは二十五キロ。値段は五十三万五千円。当時はこの値段で乗用車が買えたぞ」

 

「そんなに高かったのかよ!?」

 

「このころの電卓は個人に向けたものではなく企業に向けたものだったからな。一般人はまず手は出せなかったぞ」

 

う~む・・・そんなに高かったのか・・・。

それが今じゃコンビニで千円以内で買えるんだから安くなったんだなぁ。

 

「しかし二十五キロとは・・・軽々と持ち運べる重さじゃないぞ・・・」

 

「当時はまだ電卓=小型ではなかったからな。どちらかというと電卓は据え置きなのが普通だった」

 

そう言いながら卓夫はさらに電卓の山をあさり始める。

まだあるのか・・・。

 

「他にはこんなのもある」

 

そう言って見せてきたのは割と普通な大きさの電卓だ。

ん?何か変わったところでもあるのか?

 

「これはSL-800。カシオより発売された電卓だ。厚さはわずか0.8mm、重さはわずか十二グラム。世界で最も薄いフィルムカード電卓だ」

 

「0.8mmだと!?・・・本当だ、凄い薄い。クレジットカードの中に紛れれるなこれは・・・。というかさっきのやつと差がありすぎだろ!」

 

「これが技術の進歩というものだな。他にもまだまだ変わった電卓はたくさんあるぞ」

 

「もういいよ・・・」

 

俺の言葉を無視して次に持ってきたのは、

 

「リモコン・・?」

 

「こいつも電卓だ。名前はSovereign。Sinclair社が作った電卓だ。多分イギリス製だな」

 

「絶対使いづらいなこれ・・・」

 

「あとはボタンのない電卓もある」

 

「何!?」

 

そう言って卓夫が取り出したのは、

 

「DigitalⅢ。製造コストを少しでも下げるためにボタンの部分をなくして金属を丸出しにした。電気の流れる特殊なペンが備え付けられてて実際に使うときはこのペンを金属の部分にあてる」

 

「凄い発想だな・・・」

 

感電しそうなのだがそのあたりは大丈夫なのだろうか?

 

「当時はすさまじい価格競争が行われてたからな。どこの会社もできる限り他社よりも安く電卓を売りたがったんだ。そして極めつけはこれだぞ」

 

そう言って何やらアタッシュケースを取り出してきた。

まさかかもしれないのだが・・・。

 

「ひょっとしてこれも・・・電卓なのか?」

 

「いかにも。これはCL-110R。クラウンが発売した複合電卓で他にテープレコーダ、AM/FMラジオが付いている」

 

「こ、これを野外で使っている姿は完全にジェームズボンドだぞ・・・」

 

「うむ、北朝鮮に行ったときにそれを一緒に持って行ったのだがスパイとして捕まってしまってな」

 

「こんなものを持ってそんなところに行くんじゃない!!」

 

大体なんでそんなところに行ったんだ・・・。

 

「そう言えば昔電卓とゲームを組み合わせたやつが売られていたような?」

 

「カシオのBB-10なんかがそうだな。残念ながらゲーム自体は壊れて動かないが電卓のほうは今でも使えるぞ」

 

「本当にあったのか・・・デマかと思ってた・・・」

 

「この発想のおかげで文房具屋だけでなくおもちゃ売り場にも置くことが出来たからな。いいCMにはなっただろうな」

 

BB-10と呼ばれた電卓はポータブルゲーム機のような見た目・・・というかほとんどそれである。

これじゃぁ電卓のほうがおまけみたいだな・・・。

まぁそれはともかくとして俺は今日はこんな話を聞くためにここに来たのではない。

 

「・・・凄いのは十分に分かった、だけどあんたこれちゃんと全部使っているのか?」

 

まさか集めるだけ集めといてまったく使ってないとかないよな?

そんなんだったらこいつら全部即刻ゴミ箱行きだぞ。

 

俺のこの問いに卓夫は、

 

「えっ!!!?・・・も、もちろんではないかね!ちゃ、ちゃんと使っているさ!」

 

汗をかきながらそう答えるのだった。

 

*****

 

「・・・てことがあったんだよ」

 

昼下がりそこら辺にあった自販機で買った缶コーヒーを飲みながら俺は同僚に三日前にあったことを話す。

うんやっぱり缶コーヒーはBoSSに限る。

 

「ハハハ、それは良かったな。俺も見てみたかったぜその世界初の電卓ってのを」

 

「電卓を集めるのはいいんだがそれをまったく使ってなかったんだぞ、本人曰く電気が切れた時の非常用らしい。アホかって」

 

「へぇ、非常用ねぇ。それでその電卓たちはどうしたんだ?本当に捨てちゃったのか?」

 

「いやさすがにかわいそうだったから今回だけは見逃した。その代りその日のうちに電卓を全部家に持って帰らせたけどな」

 

重たい重たいと言って泣きながら電卓を運んでいたけど本来なら不要物として処分するところを見逃してあげたんだから感謝してほしいところだ。

 

「二十五キロを運ぶのはなかなかに大変だったらしくて電卓を集めるのはもう懲りたって言っていたらしいから多分もうこんなことは起きないと思う」

 

「じゃあこれで一件落着ってわけか。山田さんもこれでようやく落ち着けそうだな」

 

そう言いながら同僚は笑う。

まったく今回は疲れたよ。

もっとも何かを収集したくなるその気持ち自体は共感できるがな。

ほら人間何かしらのものは集めてるもんだろう?カードとか切手とか。

 

「ま、もう二度と机の上に私物を持ってくることはないんじゃないかな」

 

「あのぉ・・・そうでもないんですぅ・・・」

 

困った顔をしながら山田さんがやって来た・・・のはいいんだが、なんだって?

 

「また私物を持って来ていて・・・」

 

*****

 

「いったい今度は何を持ってきたんだ・・・」

 

ここは職員室。まさかこんな短期間にまたここに来るとは思わなかった。

 

「あれです・・・」

 

そう言って山田さんが顔を向けた先にあったのは、

 

「おお!誰かと思えば清掃員君じゃないか!いやぁ君のおかげで電卓を集めるのはきっぱり辞めたんだ。その代り今度はそろばんを集めるようになってな!これなら実用的だからな、こうして生徒に貸しているのだよ!どうだ実用的だろう!!」

 

「電卓の次はそろばんかよ!めげない奴だな!?」

 

「卓夫センセー、これ使いづらいよう・・・」

 

「なんで電卓じゃなくてそろばんを使わなきゃならないのよぉ・・・」

 

「英語の答えを教えてもらいに来たのになんでこんなことに・・・」

 

そこには生徒たちにそろばんを使わせている電 卓夫の姿があったのだった。

なんか今度は計算尺でも集めそうだなぁ・・・と思いながら俺は山田さんと共に頭を抱えるのだった。




参考文献 大崎 眞一郎 『電卓のデザイン』太田出版 より。
今回出てきた電卓以外にもたくさんの電卓が載っていますよ!面白いのでできれば読んでみてください(^_^.)
ちなみに電 卓夫とか水道橋とかは一発キャラなので再び出てくることはほぼ無いです。

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