【IS】 転生したので普通に働こうかと思う   作:伝説の類人猿

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十九話で学んだこと。
眠い頭で小説を書くもんじゃない。


ラジオ

「ラジオを直せるかだって?」

 

俺が掃除をしていたら同僚がやって来た。

しかもなんかケースを抱えてるし。

なんか真面目そうな顔をしているなぁと思っていたらいきなりラジオを直せるかって聞いてきた。

いきなりなんなんだこいつは。

 

「実はな昨日実家のほうに里帰りしたんだけどよ、その時についでに婆ちゃんの所にも寄ったんだよ。その時に婆ちゃんからラジオの修理を頼まれて・・・」

 

「なら業者の人間に頼めばいいんじゃないのか?」

 

「代金は俺もちなんだよ・・・」

 

まったくちゃっかりしてるよ婆ちゃんはと言いながら同僚は頭をかく。

本当にちゃっかりしてるな。

 

「でもよ、ラジオの修理にそんなに金は掛からんだろ?払ってやりゃあいいんじゃないか?」

 

「ところがそうはいかないんだよ・・・」

 

そう言いながら同僚は持っていたケースを開けた。

それラジオだったんかい、手際いいなおい。

 

「これなんだよ」

 

そう言いながら取り出したラジオは、

 

「真空管ラジオかよ。しかも木製だし」

 

古い木で出来た真空管ラジオだった。

 

「でもよそれなら直せないことないだろ。確かに普通のラジオより金は掛かるけど・・・」

 

「今ちょっと金欠で・・・」

 

「アホか」

 

呆れた。金がないから俺に頼んだのかよ。

俺が呆れていると、

 

「頼む。これ爺ちゃんの形見の品なんだ」

 

そう言って真剣な顔で頼み込んできた。

そんな顔で言われてもなぁ・・・。

第一俺がやる理由もないし。

 

「まぁ見るだけなら・・・」

 

俺ってかなり甘い奴なんだろうな、なんて思いながら俺は同僚の頼みを承諾するのだった。

ま、やる理由もなければ断る理由も特にないしな。

しょうがないお前のお爺さんに免じてここは引き受けようではないか。

まぁ直せるかどうかはわからんが。

 

「本当か!?」

 

いやこれで直る!なんて顔すんなし。

まだ見るとしか言ってないからな?

 

*****

 

「~~♪」

 

やや雑音を混じらせながらラジオが鳴った。

その様子を見て同僚が「おぉ!」と声をあげる。

 

「すげぇな、助かったわ!」

 

「なに、運が良かっただけだよ」

 

結論から言うと同僚のラジオは本当に真空管しか壊れていなかった。

別に同僚の言うことを信用していなかったわけじゃないよ。

ともかく真空管を新しいのに変えるだけでよかったから本当によかった。

これでもし他の部分も壊れていたのなら多分俺の手におえなかったと思う。

だって俺真空管ラジオにそこまで詳しくないもん。

 

「しっかしこんなのも売られているんだなぁ・・・」

 

同僚がまじまじと見ているのは「大人の科学 真空管ラジオ」である。

「大人の科学」というのは学習研究社の販売している工作キットと雑誌が一緒になった本である。

これは他にもシリーズがありプラネタリウムや卓上お掃除ロボットなんかもあって色々な種類がある。

またキットの精度も高いうえに雑誌の中身も面白いので人気がある。

 

「やってみようって言った俺が言うのもなんだがまさか本当にぴったり合うとは・・・」

 

「なんだろうと無事に直ってよかったよ」

 

そう今回は本当に運が良かったのだ。

俺はこのラジオキットの真空管を同僚のラジオに使っちまおうと思いついたのだ。

ちなみにこのキットは昔俺が作ろうと思って買って結局うまく作れなかった奴の余りだったりする。

どうでもいいか。

 

実際の所このキットの真空管が合うかどうかは運頼みだったりする。

これで駄目だったら俺は同僚を笑顔で修理業者の所に送り出していたと思う。

でも残念なことに・・・ゲフン、運のいいことにちょうどぴったり真空管が当てはまったのだ。

 

「しっかし爺ちゃんの形見とはいえこんなに古かったら直したところで何も聞けないだろうに・・・」

 

そんなことを言いながら同僚はラジオを見る。

 

「いや仮にもお前のお爺さんの形見なんだろ・・・さすがにその言い草はお爺さんがかわいそうだぞ」

 

「そうだけどなぁ・・・」

 

「それに、何も聞けないってのは間違いだぞ」

 

そう言いながら俺はラジオのスイッチを入れ周波数を調整する。

 

「あっ!前前前世じゃんか!?」

 

「どうだ驚いたか?」

 

ラジオからは人気の曲が流れ出す。

うん、ちゃんと直っているみたいだ。

 

「どうやったんだ!?」

 

「ははは、秘密はこいつだよ」

 

俺はそう言いながら小さな機械を見せる。

 

「これは・・・IPODか?」

 

「そ、IPOD。こいつをラジオのピックアップ端子につないでやればIPOD内の曲を真空管ラジオで聞くことができるんだよ。もちろん普通のAMラジオだって聞くことはできるぞ。もともとラジオは周波数があってればどんなものだって聞くことができるからな」

 

そう言いながらラジオからIPODを引き抜きまた周波数を調整する。

 

「~~♪」

 

すると今度はNHKの放送が聞こえ出した。

 

「おお!!」

 

「ラジオってのは部品さえそろっていれば聞けるからな。しかもテレビと比べて比較的安く作ることができるから戦前や戦後のものの足りなかったころにはテレビの代わりによく使われていたんだよ」

 

「へぇ」

 

「でも、復興が進みテレビやパソコンが家庭に普及していくとラジオはその姿を消していった。復興して豊かになった日本にラジオはいらなかったんだよ」

 

俺は続ける。

 

「だが近年再びラジオが評価されるようになった。阪神淡路大震災なんかの大きな災害が起こった時に他の機械に比べ頑丈で壊れにくいラジオが役に立ったんだ。そしてそれに後押しされるように再びラジオは身近な存在になって来たんだよ」

 

そう言いながら俺は同僚にスマホの画面を見せる。

 

「今はラジコっていうサービスもある。こいつがあればスマホやパソコンでラジオを聴くことが出来るんだよ」

 

「そんなのもあるのか」

 

同僚は感心しながらスマホを見る。

さてと話も長くなっちゃったしそろそろ終わるとするか。

 

「今も昔もラジオは俺たちを見守っているんだよ。その形を変えながらな」

 

「そうだったのか・・・」

 

「お前の持ってきたラジオだってかなり手入れがされてたぞ。多分お前のお婆さんがお爺さんのなくなった後もずっと手入れしていたんじゃないのか?」

 

「え!?そうなのか!!」

 

「ああ。中を見たときに気づいたんだが所どころはんだごてで直してあった部分があったぞ。多分残されたお婆さんにとってこのラジオはお爺さんの代わりだったんじゃないかな。だから今まで壊れたら自分で直してきた。でも真空管が壊れてとうとう自分で直せなくなったから孫のお前に頼んだってところだと思うぞ」

 

「婆ちゃん・・・」

 

同僚はそのまま黙る。

きっとこいつも色々と思うことがあるんだろうな。

しばらく黙った後に同僚はこう言った。

 

「婆ちゃんは寂しかったのかな・・・?爺ちゃんに先立たれて」

 

その問いに対しては俺はこう答えるしかない。

 

「さあな。でも多分お前がこの直ったラジオを持っていったら寂しくなくなると思うぞ」

 

「・・・そうだな。わかった。俺明日もう一度婆ちゃんのとこに行ってくるわ」

 

ただし、と同僚は付け加える。

 

「今度は爺ちゃんを連れてな!」

 

元気よく同僚はそう言うのだった。

 

ラジオの金属の部分が太陽の光に反射してきらりと光った。

その様子が俺にはラジオが同僚の言葉に対して返事をしているように見えるのだった。

 




薄型テレビもいいけどブラウン管テレビもいいと思うの。

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