【IS】 転生したので普通に働こうかと思う 作:伝説の類人猿
今回はプールの話です。キャッキャウフフです。
「こっち点検終わりました」
「あっ、じゃあこっちよろしく頼むよ」
「了解です」
春も終わりを迎えてきているのだろう、ここ最近はどこかじめじめとしている。
今日だって入学式のころに比べると湿気が高い気がする。
まぁ気がするだけなんだけど。
「うわっちょっと錆びてるし・・・」
「ん、どれどれ・・・あぁ~交換かなぁ・・・。また書類作らなきゃ・・・」
そういいながらため息を吐くのは俺より少し上の用務員さん。
名前を水野元 水道橋(みずのもと すいどうばし)という人である。
すごいだろ?これ本名なんだぜ。
水野元さんの実家はポンプを作っている会社でこの人で四代目なんだそうな。
水野元さんのところは二人兄弟で実家のほうは弟の水素(すいそ)さんに任しているんだとか。
何とも水に関係のありそうな名前なことで。
水野元さんの仕事は少し変わっていてこの人は学園の水道設備のあれこれを専門としている。
いわば水回りのプロフェッショナルだ。
そして今俺と水野元さんがやっているのはプールの清掃である。
「しっかし最近はプールロボットなんてのがあるんですね」
もっともやっている内容はプールの底をごしごしと洗うものではなくパイプの中の掃除やろ過機の点検などだが。
今はプールロボットというプール専用の掃除ロボットの点検をやっている。
「こいつは便利だよ。こいつのおかげでいちいち水を抜いて底を洗う必要がなくなったんだから」
プールロボットとはプールの底の部分を掃除してくれるロボットである。
台形の形をしていて地面と密着するように回転するブラシが取り付けられてある。
まぁ詳しくは個人で調べてくれ。
ともかくこのブラシの部分を使ってプール底を掃除するのだ。
「やっぱりドルフィンはすごいよ」
そういいながら水野元さんは手元のロボットを眺める。
このお掃除ロボット、ドルフィンというのだがこれは世界的に人気なプールロボットである。
イスラエルで開発されたこいつは世界で最も売れているプールロボットで日本国内の販売台数も同型のロボットの中で一番という非常にパワフルなロボットだ。
俺は知らなかったのだがイスラエルはテクノロジーの分野で世界トップクラスの位置にいるんだとか。
そういや原作ではアメリカと一緒にシルバー何とかも作ってたな。
「やっぱり世界的に人気のところとかですか?」
俺がそう聞くと水野元さんは、
「ううん、そこもだけどさやっぱり発想だよ。うちの会社はいかにしてゴミをできる限りろ過できるかを目標にポンプを作っていたんだけどさこいつは違う。ロボットていう新しい分野を積極的に取り込んでるんだよ。うちはポンプを作ることはできるけどロボットを作ることはできないからね」
「でもプールロボットなんて限定的なものだと売れにくいんじゃないですか?」
「そこじゃないのさ。いいかいものづくりで一番重要なことは柔軟な発想と未知へのチャレンジなんだよ。まったくもって正反対なもの同士を組み合わせることから開発は始まるのさ」
もっともこんなことを言うのは現場の技術者なんだけどねと言いながら水野元さんは頭をかく。
確かに水野元さんは長男であるので立場的に今の社長が引退したら次の社長になるのはこの人の可能性が高い。
そんな立場になるかもしれない人が利益を無視した話をするのはまずいのだろう。
もっとも俺はそんな立場にないからよくはわからんが。
でも、
「いいんじゃないですか、そりゃいつかは社長になるかもしれないですけど今はここの用務員なんですし。・・・いや、今のは無責任っすね。すいません今のは忘れてください」
さすがに今のは無責任すぎたななんて俺が反省していると、
「・・・いや、今の言葉は覚えておくよ。そうか・・・うん確かに今の僕はここの用務員だったね。ありがとう気分が晴れたよ」
そういいながら水野元さんはニッと笑う。
その顔はすっきりしていた。
本人も思うところはあったのかもしれない。
「そういえばなんで水野元さんは用務員になったんですか?」
個人的にすごく気になる。なんでこの人は家を弟にまで任せてここに来たのだろう。
「だってここって世界レベルのポンプが使われているんだよ?そんなのをまじかで見ることができるんだぞ。見なきゃ損だよ!!」
同じ場所に来ていてもそこに来た理由は人それぞれなものである。
俺は一人ポンプで盛り上がっている水野元さんを見ながらそう思うのだった。
やっぱりこの人は経営者に向いていないのかもしれない。
プールの話はいつかまたやりたいな・・・。
ちなみにプールロボットが導入されているのは日本だと神奈川の防衛大とかだそうです。