人間、権力に負けて自分の意思を曲げたら色々と敗北だと思うんだよね。俺は。
だから絶対に、聖天子からの呼び出しは、応じない。
何がなんでも、応じてやらない。
正直そんなもんに応じてたらティナとの貴重な時間が減るじゃないか。誰がそんな呼び出しに応じると言うんだ。バカだろう。
それに今や我が家には一生働かず暮らせるだけの金があるんだからな。わざわざ働くこともあるまい。
「おにーさん、わざわざ国の最高権力者に直接呼び出されたんですから、一応行ってあげても良いんじゃないかと思うんですけど……」
ぬ、そういやティナは知らないのか、俺が絶対聖天子の呼び出しには応じないスタンスを取ってる理由。
まぁ教えたことないもんなぁ……かつての相棒が生きてた頃には聖天子から呼び出されるような用事なんてあんま無かったし。
多分当時のことを知らない人間でこれを話した相手はこの世とあの世含めていないだろうな。
まぁティナになら話しても良いんじゃないかと思う。
信用出来るし、相棒だし、ティナだし。
最後のは理由になっていない気もするが、俺としては相手がティナってだけで最大級の信用を置けるんだよ。
「……俺が絶対聖天子の呼び出しに応じないのには、理由があるんだ」
そして、わずかにやっぱどうしようかなとか悩んだあと、俺は自分が聖天子に呼び出されても応じない理由を話すことにした。
いや、正確には応じなくなった原因の出来事、だけども。
これは俺がまだ発電能力なんて持ってなくて、ティナとも出会っていなかったころの話だ。
ある日俺は、聖天子に名指しで、しかも相棒を連れず一人で来るように命じられた。
そんで、その頃の俺は当時切り札であった新人類創造計画……まぁ、ステージIVガストレアを一人で殺せることを念頭に作られた、実際のところ最高傑作の俺であればステージVにすら対抗出来たその力が必要な仕事かと思っていた。
もちろん、当時はまだまだ腹黒くてガストレアと呪われた子供たち絶対殺すマン状態だった、聖天子の側近である菊之丞のおっさんの策略ってのも警戒してたけどな。
まぁそんな訳でいつでも戦える用意をして聖居に向かった訳だが、その入り口でなんか見てはいけないモノを見たような、それでいて何か使命感に目覚めたような顔をしていた菊之丞のおっさんに出会った訳だ。
そこで、俺は今回呼ばれたのが少なくとも策略って訳じゃないと思い込んだ訳さ。
今思えば非常に愚かだった。
俺は少なくとも聖居の中に居る間は安心だなーとか思いつつ、中へ歩いていって、そこで罠に掛かってしまった。
……あ、でも別に落とし穴に落ちたとかじゃないぞ?
ただな……まだまだ純粋でマトモで聖天子を可愛いとか思っていた当時の俺はその罠に見事に引っ掛かってしまったんだよ。
そう、聖天子によるハニートラップという最悪の罠にな!
「……国の最高権力者がやっちゃって大丈夫なんですかそれ」
……知らん。
まぁとにかく、俺は当時まだ聖天子の本性を知らんかったからそのハニートラップにまんまと掛かってしまった訳だよ。
幸いにして偶然発生した、『俺に聞かれてはいけない内容の通信』が大音量で俺の耳に飛び込んで来たんだ。
内容は確か、相棒を始末するとかそんな話だったと思う。
んで、それを聞いて俺がブチギレ状態になり、脅迫してどうにか事なきを得たのだが……
まぁ、これで分かってもらえただろうか。俺が絶対に聖天子の呼び出しに応じないその理由が。
「とりあえず、今すぐ聖居まで行って軽くお話する必要はありそうですね」
「まぁな。だがあんなモノにわざわざ自分の手は汚したくないし、弾丸を消費するのももったいないだろう?」
俺としても本当なら今すぐ殺してやりたいくらいだよ。
しかし殺せば国中を敵に回すし、それをどうにかすることは出来てもその労力がもったいない。
そして時間ももったいない。そんなことに使うくらいなら、ティナに甘えていた方が数万倍は有意義に違いないしな。
俺は寝転がり、ティナに膝枕されている状態になる。
余談だが、そこそこ小柄なティナの膝くらいがちょうどいい高さなんだよな……枕として。
「ですよね」
というかティナ、お前もお前でなんだかんだアレにお話しに行くとか言いながら極自然に頭撫でる態勢じゃないか。
……まぁ、あれだ。
嫌いな奴への仕返しより何より日常のグダグダとした退廃的な時間が優先されるってのは、俺達の美徳だと思わなくもない。
誰も傷付かず、ただただ幸せな時間だけが過ぎていく。
これはきっととても良い事なんだ。俺を含めて誰も損しないし、俺自身はかなり得をする。
素晴らしいね。幸せだけが満ちて……ん?
なんか今、一応敵襲に備えて展開している電磁波のサーチ範囲に変な物が入ってきたな……
何やら金属っぽくて、巨大で……おい待てよ、これってまさか重機だったりしないよな?
しかもそれが結構な速度でこっちに近付いてきてるし……ぐぬぬ、電磁波だけじゃおおまかな形しか分からんから、本当に重機かどうかも分からん。
一度家の外に出て確かめてみるか?
いやしかしそんなことをしたらこの幸せな時間がおじゃんになる。
本当にヤバいならともかく、出来ればそれは避けたい。
それじゃどうする?
簡単だ。相手は鉄だから、磔にすればいい。
重機と思わしき物が移動する瞬間、そこにとてつもない磁力を発生させてやれば動けなくなるはずだ。
まぁこれまでは高速で移動させる使い方ばかりをしていたから、動けなくする使い方はあまり得意じゃないが、頑張って押さえつけてみるとしよ……
ぐしゃっ!
俺が磁力を発生させて重機を押さえつけようとすると、何やら潰れたような音がした。
まさかうっかり手加減しそびれて中の人ごと潰れたとかじゃないよな。
頼む、そうじゃないって言ってくれ。
「おにーさん、何か外からすごい音がしましたけど……何かしました?」
あ、ティナ察しが良いな。流石だぜ(現実逃避)。
まぁ、きっと何かが潰れたような音はしたけどそれはきっと重機だけの音のはずさ。
俺は、流石にちょっと外が気になってきたので窓を開けて音のしたほうを確認する。
するとそこには、何やら重機を多数組み合わせたような、多分ロボット的なもの、が完全にスクラップと化して転がっていたのであった。
……これ、どうしたものかな。
燃えないゴミに出すには大きすぎるし、しかし磁力で無理矢理小さくするとかするにしても面倒くさそうだぞこれ……
俺は、聖天子以外にまだ面倒事が増えてしまったと嘆いたのであった。
最近体調を崩し気味なせいかやたら投稿ペースがおかしくなっている気がする。
いつもなら産まれないはずの書き溜めが少しの間ながら産まれたりとか、1日に2000文字(しかしこの作品ではない)とか、投稿しないくせにやたら長い短編とか。
なんか変だなぁ……