“プロモーター序列第一位”里見蓮太郎の物語   作:秋ピザ

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約20日ぶり……そのくせ話はちっとも進まない。
まぁ、次回くらいには護衛任務もスタートしますので、気長にお待ちください。



一時の交戦と堕落する最強者

朝目覚めたとき、もっとも嬉しいシチュエーション、なーんだ。

正解はティナと或守に挟まれている状況、つまりは俺の現状だ。

包容力があるティナと守ってやりたくなる系の或守の二人が揃えば死角はない。

俺としてもこれはもう役得を味わうしか選択肢はない。

今はまだ朝(多分)だし、この状況でわざわざ起きて寒さに身を晒す必要はない。

早朝のビルの屋上というものは人が思うよりも寒いのだ。

それこそ上着を何枚も着たり誰かと暖めあったりしなければあまりの寒さに耐えられないくらいには。

正直なところ今も広い寝袋から露出している顔の部分はかなり寒いし……

俺はそんなことを考えながら、正面にいるティナに突然抱き付いてみた。

こんな寒い場所だから子供ゆえの高い体温が心地いい。

このままだと思いっきり二度寝して次目覚めたら夜で聖天子の護衛任務は終わってました、なんてことになる気もするが、まぁそうなったらそれはそれで良いだろう。

ティナに甘えすぎて気付いたら夜だった、なんてのはこれまでに幾度となく経験しているからな。

 

……あ、そうだ。一応は依頼した側なんだから最初の約束通り電磁波で見張ってやるくらいはしよう。

俺は不意にそんなことを思い出して電磁波を発し始めた。

もちろんティナを起こしたりしないように一切動かず、ただただ電磁波を放つだけ。

それでもし面倒そうだと判断した奴等の居場所を特定して、特に問題のある位置に居るやつを電磁波を調節して近くのスピーカーからモスキート音でも大音量で流してやることにしよう。

そう考えてまずは東京エリア中全体を覆う電磁波でローラーして、昨日見つけたヤバそうな奴等を探そう。

そして電磁波を放つ……が。

なにやらこのビルの近くに一ヶ所、どうしても不自然に反応が存在しない場所があるな。

大体のサイズは半径5mの半球と言ったところだろうか。

……分かりやすすぎやしないか?

俺はそう思いつつも、とりあえずこんな近くに怪しい奴……恐らく例のバラニウムの化け物……が居るなら今すぐにそれとなく仕留めてやろうとその場所めがけて近くの鉄あるいはバラニウムを使った道具をさりげなくぶつけて掃除しようと、そいつの周辺からいくつかの鉄製品を弱めの超電磁砲……と同じ原理の別物でぶつけてみる。

無論そこにいる何かがどこに居るのかがわからない以上適当にやるしかないのだが、まぁ電磁波で探せない範囲の中心に居ると考えて間違いはないだろう。

だから近くにある色々なものを叩きつける。

民家の包丁、日曜大工にでも使うのであろう釘と金槌、その他工具、あるいはマンホールの蓋も持ち出して叩き付ける。

そして他人の家に備えられていた多数の弾丸を音速の3倍程度の速さで叩きつけ、ほぼ完全に破壊したことを確信する。

いくらなんでも音速の倍で銃弾を撃ち込まれたら生きていることはあるまいしな。

そうして電磁波で見ている景色に変化が起こるのを待つが、いつまで経ってもその景色から何も分からない場所が消えない。

まだ生きてるのか?

これまでほとんどのガストレアを一撃で葬ることの出来た超電磁砲を、たとえかなり威力の弱いものだとしてもそれを何度も受けて倒れないというのは……それこそ俺の知る限りでは2つしかないぞ?

ゾディアックガストレアとステージIV、アルデバラン。

頭のおかしい防御力を持つゾディアックや肉体を全て焼き払わない限り復活するアルデバランならまだいい。

だがどんなに全身をバラニウムので覆っていても、音速を越える速度で様々な物を撃ち込まれれば生存はほぼ不可能な筈なのに。

……いや、今はそんなことを考えるよりも冷静に効果がある攻撃を探った方がいいのか?

しかし俺のまだまだ追い打ちしてなんとか仕留めようという思考を読まれたのか、あるいは超電磁砲連打による惨状の中心に居たことで顔が割れるのを恐れたのか、電磁波で確認できない敵はその場からそそくさと退いていった。

……一応、撃退には成功したみたいだな。

俺はそんなことを考えつつ、先程超電磁砲が通用しなかったことに動揺したせいでついうっきゆティナを抱き締める力が強くなっていたことにようやく気付き、慌てて力を抜く。

痛くしてたりはしないよな……

「んん……おにーさん……?」

 

……いや、大丈夫だったらしい。特に痛いとも言ってない。

ただ俺のせいで起こしたのは申し訳ないな……

「そんなに強く抱き締めるなんて、怖い夢でも見たんですか?」

 

「どちらかと言うと嫌な現実の方を見たけどな……」

 

「嫌なことがあったら私の胸で泣いていいんですよ。おにーさん」

 

俺はティナからの質問に答えつつ、多少ネガティブになりかけていた思考を切り替えようと、少し寝袋に深く潜って言外に撫でてと要求した。

「それに、辛くなったらいつでも私が甘やかしてあげますからね……」

 

あぁ、頭が溶けそうだ。

いつもティナの言葉は下手な薬物よりも中毒作用と依存性が高いんじゃないかと思うよ。特にこういうときは。

甘やかして依存させてくれる相手ってのは居るだけで安心感がある。

いつ甘えても受け入れてくれるし、俺がどんなに情けなくても優しく受け入れてくれる………あぁ、もう完璧。

欠点のない人間は居ないと聞いたけどティナこそがその欠点のない人間なんじゃないかな、と思うよ。

いっそ仕事とか放り出して家帰ろうかな………いや流石にそれやったら面倒極まりない奴等まとめて相手することになるし、そもそもそれが嫌だから今の状況になってるわけだし………

あぁ、働きたくねぇ。

ずっとティナに甘やかされてたいのに、なんで誰も平穏に過ごそうとしないんだか。

今だって結局はどこかのバカが暗殺されるかもしれないからわざわざ俺が出なきゃいけなくなった(一応は人に押し付けたが)わけだしさ。

あの約束が無ければ今すぐ全人類皆殺しにしててもおかしくはないな………いや、もちろんティナと或守だけは殺さないがね。

………いろいろ辛いなぁ。

俺はティナに撫でられながら、その胸に顔を埋めて目を閉じる。

どうせ護衛任務………のヘルプが始まったら見たくもない現実を見ることになるんだから少しでも現実から目を背けよう。

 

それに今回はこれまでより格段に面倒くさそうだしな。今のうちに癒されておかないと俺の精神が耐え切れなくなりそうだ。

ままならない現実から目を背けて、背けたままどうにかしよう。

出来るものならこのままずっと依存しあって朽ちていきたいけれど、今はそれが出来そうにないから。

出来る限り早くこの仕事を終わらせてこれまで通りの生活に戻ろう。

「ずっとこうしていたいのにな……人生ってなんでこうも理不尽なんだよ……」

 

「大丈夫ですよ、これが終わればみんな元通りです」

 

「元通りね……なぁティナ、ティナはこれからもずっとこうして俺を甘やかしてくれる……よな?」

俺はティナにそう問い掛けた。

自分でもなんでこんな質問をしたのかは分からないが、多分わずかに不安だったのだと思う。

「えぇ、私が生きていて、おにーさんがダメダメなおにーさんでいてくれるなら、いつまででも」

 

それはほぼ確実ってことだろう。

俺がまた昔のように健全で健常な人間に戻ることはもう出来ないし、かと言ってこれより下があるわけでもないのだから。

 

なんだか安心した。

「ん……それじゃ、出来るだけこの仕事を終わらせて全部元通りにしよう」

 

「それ、寝袋で私に甘えながら言う台詞でもないと思いますけど?」

 

「……いいんだよそんなことは」

 

バケモノも、訳の分からん組織も重なる思惑も関係ない。

俺は、俺が求める堕落した生活のために戦う。

その結果がどうなろうと……ティナと、俺と、或守さえ生き残っていればあとはどうだっていいんだ。

 


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