“プロモーター序列第一位”里見蓮太郎の物語   作:秋ピザ

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9日ぶりですすみません。
実はオリジナルのやつが週間オリジナルランキングに載って舞い上がって2話連続で書いたり書き直し1回を挟んだりしていたらここまで遅れました。
だからという訳でもないですがちょっと多め(4000字弱)です。
ではどうぞ。


雷と鉄は話し合えない

「どーもこんにちは、人類最強です」

 

「帰れ!」

 

人が折角家を訪ねてやったのにそれは酷いんじゃなかろうか。

伊熊将監宅の玄関前にて、俺は非常にどうでもいいことを考えていた。

今回のミッションは、聖天子の依頼をなんとしても伊熊将監に押し付けることだ。

だからちょっとイラッとする対応をされたところで蓮太郎さんは怒らない。

ホントはちょっと殺意を抱く寸前まで来ていたが、しかしそこで留まる。

俺一人なら無理だっただろう。多分ここで実力で言うことを聞かせにかかること間違いなしだ。

だが今回は、ティナと或守が一緒に来ている。

だからイラッとしてもティナと繋いだ手の感触とか、或守が服を引っ張っている感覚とかがすぐに安心感などによって苛つきを静めてくれるから怒らない。

ゆえに怒らない蓮太郎さんは空気を読まず不自然な流れで仕事を紹介する。

「まぁ聞けよ伊熊将監、これは悪い話じゃないんだ。なんせ国家元首を護るお仕事だからカネも多く貰えるし、お前の能力なら防御に関しては満点だから心配はないな。しかも今ならコッソリ俺が協力してやろうじゃあないか……時給1000円を払う気があるならば、だが」

 

「あぁそうだないい仕事だな……だが断る」

 

しかしそれでもダメだった。

俺にしては珍しく安定したマインドで話したし、洪水の後の川のように(普段のイラついた時と比べて)穏やかな心持ちだった。

それに似合わない愛想笑いもしてみたし……うん、俺に落ち度ない。頑張ったよ。

 

なのに受けてもらえないならば仕方ないな。

ここは大人しく大人でオトナなOHANASHIをして依頼を押し付けるとしよう。

「……ところで伊熊将監よ、お前は今度創設されるガストレア新法の内容を知っているかね?」

 

まず、聖天子が今度新たに作るとか言っていたガストレア新法なるものの話題を出す。

「いや、知るわけねぇだろ。俺は別に政治なんざ興味は……」

 

「いやぁ、そのガストレア新法はな?『呪われた子供たち』の権利を保証するって理念の元に作られてるらしくてさ、その中には少々俺らみたいなヤバい橋渡ってる人種に都合の悪い所もあんのよ」

 

「何言ってんだお前、俺にはやましい所なんて」

 

「聞いた話だがぁ?お前は自分の相棒を痛めつける趣味があるらしいなぁ?」

 

そして俺は隠してきたと思われる事実を言い当てられて少し驚愕している伊熊に反論させず一気に攻める。

こういうのは先に攻めあげるのが大事なのさ。

「そんでもって、ガストレア新法においてはこれまで純粋な人間でないからと法を解釈することで見逃されてくることが多かった『呪われた子供たち』への暴行、搾取略取その他諸々がそこそこの重罪として新たに制定されるらしいんだわ」

 

「そ、それがどうしたって言うんだ?俺は暴行を行っている訳じゃあないぜ?」

 

「まぁ確かにな。解釈次第じゃお前はちょっと倒錯した性癖を持つ者同士で満足させ合っているだけでそれを理不尽な暴行として扱うのは難しいだろうさ」

 

ちょっとした反論をされても決してペースは譲らない。

維持でもペースを譲らず、とにかく言葉の弾幕で押しきるのだ。

俺に交渉技術がないわけじゃないが、少なくとも交渉がよほど上手いやつでもない限りこの方法を使うのが一番賢いと言えるだろう。

だからとにかく思い付く限りの方法でこの男の逃げ道を塞ぎ続けるのだ。

「だけどな?これがこの法律の面白いところなんだが……このガストレア新法において重罪に指定されたいくつかは本人がそう訴えずともその事実だけで逮捕できる。そして俺の財力を使えばその相棒とやらがいくら言ったところでその事実をねじ曲げて『伊熊将監という民警はいたいけな少女に暴力を振るう人間だ』という印象を与えることくらいは簡単なんだぜ?まぁこれだけじゃないがな」

 

「脅してるつもりか?」

 

「もちろん。俺としては是が非でもお前にこの依頼を請け負ってもらいたいんだ」

 

俺がようやくこの脅迫において肝心な『俺の意思によって相手の人生を滅茶苦茶にできる要素』を言った瞬間、伊熊が明らかに人に向けていいレベルではない殺気を放って威嚇しだしたので、とりあえず落ち着かせるために顔の前にニンジンをぶら下げてやるとしよう。

「それに悪いようにはしないさ。もしもこの依頼を受けてくれたら、俺が聖天子に掛け合ってガストレア新法を少々訂正させてやろう。そう難しいことじゃないしな」

 

まず鼻先のニンジン1つ目。

新法への介入。

これに関してはあくまでも被害者本人の認識次第という条文を付けさせるというものだ。

前に何度か頼んだら実際にやってくれたこともあったからきっと大丈夫だろうさ。

それに出来なかったとしても、その時はガストレア新法がぶっ潰れるくらいにセンセーショナルで最悪なニュースを流してやれば民衆やら議員やらを操作して自分に都合の悪い法律をなくすことくらいは簡単だろう。

具体的には俺が以前一緒に暮らしていた(過去形なのはティナが嫉妬して殺したからだ。だかそんなところも好きで仕方なくなってきたので俺はもう末期だろう)子が持っていた銃で反『呪われた子供たち』団体の大物の右腕を物理的に撃ち抜いて使えなくする、とかね?

ティナが彼女等を殺したのがバレるとまずいから死亡したことを誰にも言えないし供養も出来ないのがそこそこ心残り……な気もするからそのあとで警察を金で買収して全員その場所で死んだことにしてしまおう。

それならばみんなの墓を建てようと思った時の唯一の障害が消えるし不都合な法律も消えるしなんか以前から嫌いな奴を痛めつけられる……おぉ、一石三鳥じゃないか。

「どうだい?悪い話じゃないだろう」

 

そんなことを考えつつ、自分でも分かるほどの悪い笑みを浮かべながら伊熊に決断を迫ってみる。

了承なら万歳、断られたら実力行使でいくとするか。

まぁ俺が嫌われていることに間違いはないから後者の方を選びそうなんだが。

「……そうか、だが断」

 

「将監さん、一体何をしているのですか?」

 

あぁ、やっぱり断るのか。

半ばくらいまで伊熊の返事を聞いたところで断られるのが確実と理解した俺は瞬時に超帯電モードへの移行を行おうとしたが、不意に伊熊の背後から出てきた少女が原因で集中を乱され、すぐに出来た筈の移行に時間をかけてしまう。

「やぁどうも、今ちょっとコイツと取引をしていてね」

 

まぁ出てきたものは仕方がないので。とりあえずコイツを巻き込んで無理矢理依頼を受けさせてやろうと言葉巧みに(俺の言葉が巧みかどうかは知らん)誘いをかける。

「報酬は国のトップから出るってことでそりゃあもう莫大だし、俺からも少しは上乗せしよう。難易度的にはこの男なら十分どころか超余裕ってところだろうね。しかも、今なら依頼遂行中にたったの時給1000円でサポートをしてやるし、失敗して逃げる時は足とツテを付けてやろう」

「ちょっとこちらに都合がよすぎませんか?」

 

俺の出した条件を都合がよすぎるとこの場で初めて指摘したイニシエーター、千寿夏世は割と感情論的な理由でこっちの提案を突っぱねようとしていた伊熊を手で制し、俺がどう出るかをうかがっているようだ。

………尻に敷かれてるみたいな感じがするな。

事前情報によればこの夏世というイニシエーターは宿したイルカの因子の影響で知能が非常に発達しているとのことだったから、それでうまいこと主導権を握られているのかもしれない。

こちらとしては話の通じる相手だからラッキーと言えるが。

「そりゃあそうだろうな。こんだけ良い仕事なら疑いの1つや2つくらい抱いたって仕方ないさ。だからあえて言おう、俺はただただこの聖天子に関わりたくない一心でお前たちにこれを押し付けようとしている。他意はないと」

 

話が通じ、ある程度どころかとんでもなく頭のいい奴を相手にした時は俺みたいな交渉の素人が下手に駆け引きをするのは危ないと前に言われたことがある。

あの時は『だから交渉術を磨くことだ、蓮太郎』と続けられたが、今や記憶もちょっと曖昧な気がする交渉のテクニックに頼るよりもいっそはっちゃけて相手のペースを乱し、こっちのペースに持ち込んでやろうとしたわけだ。

 

それに、今俺がしていることは傍から見れば無意味で無駄で途方もなく愚かなことである。

割の良い仕事をわざわざ手放し、それどころか至れり尽くせりのサービスまで付けるのだ。

それ故に考えれば考えるほど理解不能で混乱を招く。

愉快でたまらないねぇ。頭のいいやつを良いように扱うってのはさ。

無駄にテンションを上げていく俺。

それに対してどう反応してくるかが見物だ……

「……嘘は言っていないようですね」

 

「へ?」

 

「将監さん、これは当たりですよ。ここで一稼ぎすればしばらくは働かずに暮らせます」

 

……だが、そんな期待を大幅に裏切り、千寿夏世はあっさりと依頼を引き受け、ちょっと訳の分からないまま話を進められてイラついている伊熊の手を引いて家の中へと引っ込んだ。

「おにーさん、1つ言わせてもらってもいいですか?」

 

「なんだ……ちょっと俺は慣れないこと連続でやって疲れたわ……」

 

「いえ、そうじゃなくてですね……さっきの2人って、ドクターが産み出した私とおにーさんのクローン的なものだったりしませんよね?」

 

そりゃ流石にない……よな……たぶん。

たしかにあの2人は先生がノリと勢いで俺たちから作ったホムンクルス的な何かではないかという突飛な話すらありえるんじゃないかってくらい似ていたが……

 

今度機会があったら先生に聞いてみようかね。


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