“プロモーター序列第一位”里見蓮太郎の物語   作:秋ピザ

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この作品で聖天子ルートが開拓される可能性はサハラ砂漠で適当に埋めた一本のうどんを3日経ってから見付けるそれよりも低いです。
要約するとほぼない。そして、聖天子は当然のように扱いが悪くなるので……


地獄への招待状

人間の脳味噌が何よりも速く回転出来るのはどのようなタイミングだろうか。

俺はかつてそんなことを考えてみたことがある。

確か12くらいの頃、両手両足が超バラニウム製の義肢だったり左眼にコンピュータが埋まっててその影響で思考を加速できたから思い付いたんだが……人間が素で思考を加速したとして、その限界はどれくらいか、そしてどのような場合に思考を加速できるのか。

その疑問にかつては答えが出せなかった。

判断する材料も、データもなかったからだ。

それにあの頃はただただガストレアを殺したくてひたすらに力を求めていたから仕方ないのかもな……まぁとにかく、かつて答えは出せなかった。

しかし、今ならきっと迷いなく答えを出せる。

どのような時、人は思考を加速できるのか。

その答えはただ1つ。

「働きたくねぇ……でもこれ断れねぇし……つーかあのクソアマの仕事受けたらセクハラ受けること間違いないし……もう嫌だぁぁぁ……」

 

現実逃避をしている時だ。

俺は今ティナに抱き付いて半泣きでぼやいている。そんでもって数日前までの何もなくただただ平和で退廃的なあの時間を夢想して現実から目を逸らしている。

まさにこの瞬間こそ、人間の思考は最も加速されるのではなかろうか。

……いや、俺の場合電磁波を上手いこと調整すれば思考の加速なんてやりたいようにやれるんですがね?

でも今はそんなことをやる気力すら起きない。

 

俺は、近くのテーブルに置いたままの封筒を見つめ、溜め息を吐いた。

これはエイン・ランドからの電話に出てから数十分後、爆音と共に届けられたものだ。

送り主は聖居在住の誰かさん。

ご丁寧に封筒にはおまけでラブレターのようなものが添えられているし、ラブレターの内容がいやに重いしなんか俺が責任取らないといけないような気がしてくるとかいう最悪なものだったしで……もうこれ送った奴は右足の小指をタンスに秒間16連打すれは良いのに。

……しかもこんな時に限って面倒事が俺に迫ってるんだよなぁ。

エイン・ランドからの刺客、改造イニシエーター。

ティナが受けたものによく似た改造を受け、機械化兵士としての力とイニシエーターとしての能力を合わせ持つ恐ろしい戦力が、俺を狙ってもうそろそろやってくる。

それが分かっているからこそ、普段ならばスパッと断れる聖天子からの依頼を断りきれない。口ではあーだこーだ言いつつも、合理的に考えると聖天子を味方にして国家権力と最強の単騎火力を合わせて蹴散らした方が良いとなんとなく理解してしまっているのだ。

不服ではあるがな。

 

……だが、とりあえず一度本当に聖天子を味方にした方が良いかを考えるとしよう。そうだそれがいい。

アレを味方にしてしまうのは最終手段だ。

まず、現在の勢力を3つに分けて考える。

エイン勢力、俺勢力、聖天子勢力。

エイン勢力。総勢一名(ただし増加する可能性あり)、正体不明の改造イニシエーターが俺を激しく憎んでいるということだけが判明していて、聖天子を狙っている。隠密性と危険性はトップだ。

俺勢力。総勢三名にして単騎の戦力では最強と言える俺、遠距離攻撃とサポートの分野では俺を越えるティナ、能力も因子も分からないが電磁波による分析ではバランスの良い身体能力を持つ或守という隙のない布陣と圧倒的な財力、IP序列1位の立場で得たハイレベルのアクセス権限と疑似階級(少なくとも大抵の自衛隊員に対して命令できる)による情報力が強みだ。

聖天子勢力……人数不明、構成員不明、でもって菊之丞のジジイが出てくる可能性があり、しかも国家権力の力で刃物野郎を徴用してきてもおかしくはない。

はっきり言って『何も分からない』が強みになっていて、戦力的には俺勢力を圧倒する可能性だってある。

ただし、俺の選択次第ではある程度リスクを負う代わりに味方にも出来る。

それに、そのリスクもティナたちの安全を考えるならば取るべきだと断言できる程度のものでしかない。

エイン・ランドの改造イニシエーターの凶悪さを身に染みて理解している俺だからこそ断言できる。

今回はプライドを捨てることも検討しなくてはならないほどの事態だと。

恐らく今回俺を殺しに来るイニシエーターはリタ・ソールズベリー。【冥王】の2つ名を持つIP序列17位のイニシエーターにして、エイン・ランドの最高傑作。

流石に17位のバケモノが相手だと、聖天子からの妨害を受けながらでは分が悪いし、もしかしたらティナか或守を完全には守りきれないかもしれない。まぁこれについては他の奴が来るって可能性もありえるが。

……それに、聖天子を味方にすれば、俺の中でも人類かどうかすら怪しくなってきた菊之丞のジジイを戦わなくて済む理由付けにもできるんだよな……

 

しまった、これじゃどっちにも味方しないルートがない。

というか聖天子側に付くメリットしかないぞ。

どうする、どうするんだ俺。

ティナの安全のためには聖天子側に付くのが一番だが、感情の方はアイツに味方するのは死んでも嫌だと叫んできかない。

どうしたものだろう。

高校中退(せいぜいが数ヶ月通っただけ)で出来のよくない頭を必死に回して自分にとって最良のルートを導こうと悪戦苦闘していると、不意にティナに撫でられた。

きっと難しいことを考えているのは似合わないどころの話じゃない、とでも言いたいのだろう。

だが今そんなことされると色々どうでもよくなってきて、ただただ怠惰に無為に無駄に時間を過ごしたいという欲望ばかりが膨らんでくる。

あー、こんなとき都合よく聖天子の暗殺阻止(少なくとも犯人の特徴が分かるので俺が協力する限り犯人の特定、追跡は非常に容易)が出来る人材が居れば良いんだがなぁ……

俺の知り合いなんて天童に居たころならばともかく今となっては菫先生(戦闘能力皆無)やら頼りたくない和服娘(今でもポストに手紙が送られてくるが、文面が怖くて読まずに捨ててる)くらいしか居ないからなぁ……

それに、あの聖天子のことだからどんな暗殺者が仕向けられても護りきれる人材でないとダメとか言い出しそうだし。

つまりは俺と同等か、それ以上の人間。

心当たりは2人。

1人は菊之丞のクソジジイ。

もう1人は、天童流最強にしてただ1人全ての天童流を極めた男、天童助喜与。

そしてどちらも、頼れるならとっくに頼っているであろう相手だ。

つまりこうなってくると俺と同等の相手なんて心当たりが……

心当たりが……

 

 

 

あ、そういやあったわ。


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