“プロモーター序列第一位”里見蓮太郎の物語   作:秋ピザ

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難産だった……というかあえて不自然な感じに書くの辛い……自分で何書いてるか分からなくなる……つーかちゃんと不自然になっているのかすら分からん……
みたいな感じです。なお珍しく5000文字なので、量的には普段より多い感じになります。
それではどうぞ。


番外編:IP序列1512位、伊熊将監“たち”の物語【後編】

「良いかテメェら!この戦いに懸かってんのはお前らの命だけじゃねぇ!テメェらの大事な奴を含めた、この東京エリアの全員の命が懸かってんだ!覚悟を決めろっ!」

 

大勢のアジュバントメンバーたちの前で、ウチの代表である三ヶ島さんがメンバーたちを鼓舞するような演説をしている最中、俺は一人若干上の空だった。

あまりよろしくないことなのは理解しているが……だが俺に意味深なことを言い残して消えたあのガキのことが頭に残って仕方ない。

戦闘の直前で何考えてんだか……

「そして……生きて帰って、逃げやがった臆病者たちに言ってやろうぜ!俺たちが、俺たちこそが英雄だってよ!」

 

俺は自分自身に呆れつつ、とりあえず戦うための準備に怠りはないかをチェックする。

剣よし、グレネードよし、投げナイフよし、気合いよし、覚悟は……出来てる。

あと夏世の方はどうだろうか。

そう思ってそちらに視線を向けてみると、夏世は俺よりずっと重装備(まぁ剣とグレネードとナイフだけで戦う俺が軽装備ってのもあるが)で、準備は万端のようだった。

これなら俺たちはいつでも出られるな。

「そんでもって生きて帰れたなら、俺がテメェら全員に酒奢ってやる!だから維持でも生き延びろ!俺に言えるのはそれだけだ!」

 

俺たちが準備を終えたとき、それとほぼ同時に三ヶ島さんの演説も終わった。

つまり、もう少しでゾディアックとの、人類史上最悪の敵との戦いが始まるという訳だ。

 

……あぁ、ヤベェ。手が震えてきた。

モノリスが設置される前の地獄をなまじ見てきたばっかりに、いやに鮮明に脳内をあの日の光景が駆け巡る。

ガストレアへの恐怖やら、憎悪やら、わけの分からない手に余る感情が頭の中で乱反射する。

決戦はすぐそこなのに、怖くて踏み出せる気がしなくなってきた。

「……将監さん」

 

……ふと、大事な決戦の直前で突然臆病風に吹かれた俺に夏世が声をかけた。

その声はいつになく真剣で、どこかに抱えていた恐怖を少し緩和してくれるような響きも含んでいる。

「怖いなら、別に戦わなくっても大丈夫ですよ?少なくともゾディアックを倒すよりは生きる可能性の高い方法をいくつか用意してあります。それに一番距離が短い大阪エリアの代表は力さえあればどんなクズでも使うことで有名ですから拒絶されることはないでしょう……それでも戦うと言うのなら」

 

夏世はそこで呼吸を挟んで続けた。

「私は将監さんを命懸けで支えます。将監さんを生かすためならば他の人は私も含めて全部利用するつもりですし、将監さんが他の人の身代わりになるくらいならその人を殺します。ですから何がなんでも生きてください……良いですね?」

 

夏世が俺に対して言ったそれは、一般論なら明らかに間違っていると断言出来るものだった。

しかし、その間違いきっている言葉は不思議と恐れを取り除き、俺に安心感と勇気を与えてくれた。

人間、自分を甘やかしてくれる奴にはどうしたって弱いということだろう。

「それ、三ヶ島さん辺りが聞いてたら大目玉どころじゃ済まないぞ?」

 

俺は勇気付けられていつもの調子を取り戻し、茶化すようにそう言って強めのチョップを叩き込む。

「ふふっ……そうなったら地獄の果てまでお供しますよ?将監さん」

 

「その元凶、お前だよな?」

 

俺たちはまるで日常の中に居るかのような気持ちで戦場へと歩を進める。

あぁ、戦場へようこそ、だぜ。ガストレアたち。

この世に産まれてすぐのやつも居るところ悪いが……俺たちの為、死んでくれや。

戦争が、始まった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

右の手に持ったバスタードソードで近付くガストレアを悉く薙ぎ払って戦場を進む。

戦況はほぼ互角。あるいは優勢。

幸いにしてゾディアックは正体不明だが腕利きの民警によって足止めされているため参戦はなく、飛行ガストレアは空自がなんとか食い止めている。

しかしガストレアはその物量にものを言わせて攻めて来るため、数で圧倒的に劣るこちらは全員が一騎討千を実践する必要があるほどの状態であった。

そして現在、ようやく互角から優勢に傾くかと思われていた俺たちの付近にこれまでを越える怪物……恐らくはステージIIIかIVと思われるガストレアが現れ、戦況を再び互角に変えようとしていた。

そのガストレアは巨大な肉体に無視のような眼が全身にいくつも存在し、さらに死角が少ないが急所の多い体を守るためか全身が射出可能なトゲで覆われており……言うなれば動いてマシンガン並みの連射もしてくる針山とでもいったところだろうか。

ハッキリ言ってお帰りあるいはお還り願いたい相手だ……

俺はそう思いつつも、やるしかないと考えてバスタードソードを構え、近くで戦っていた味方に援護を求める。

「雑魚は俺がやるっ!だから突っ込めぇぇぇぇぇっ!」

 

するとその民警は快くそれを了承し、得物を針山ガストレア周辺の雑魚を一掃するようにして連射し、スペースを作り出す。

そして俺はそのスペースへ勢いよく躍り出て……バスタードソードを叩き込むフリをしてその柄に仕込んであるある意味奥の手とも言える機構を発動させる。

それが生み出すのはただ一瞬の閃光であり……同時にこの瞬間だけは針を射出しようとしたガストレアの意表を突いて行動を止める強烈な一撃でもある。

そうしてガストレアに一瞬の隙が生まれ、俺は今度こそバスタードソードを全力で叩き込む。

「死に晒せエェェェェェッッッ!!!」

 

黒いバスタードソードは寸分違わずガストレアの登頂部を捉え、そして叩き斬る。

……だが、ガストレアの眼からはまだ戦意が失われていないように感じられる。

ならば、と俺はバスタードソードに仕込まれた第二の機構を発動するボタンを押し込み、剣の先端数cmほどをパージ。

自らの攻撃に巻き込まれぬよう細心の注意を払って距離を取り、その機構を発動したボタンを再度押し込む。

するとガストレア内に残された剣の先端部分が爆発を起こし、その中に仕込まれていた液化バラニウムが体内からガストレアを侵食、死に至らせる。

よし、これで巨大ガストレアを倒せた。奥の手をどっちも使ったから一旦戻って補給する必要があるが、まぁステージIIIやステージIVは普通単体で倒すもんじゃないし、上々の結果だろう。

「夏世!一旦戻るぞ!」

 

俺はあらかじめ用意しておいた俺たちの間で通信する用の無線機を使って合図を出し、一時撤退を指示する。

 

……だが。

『すみません将監さん、こちらは戦況が芳しくないため戻ることは難しそうです……』

 

無線機から聞こえてきた夏世の声は切羽詰まった時のソレであった。

チッ……タイミングが悪い!

俺はそう思いつつも、とにかく増援として駆け付けるために現在の装備を確認する。

あまり使えないバラニウム製破片手榴弾が2つ、先端の機構を使っちまったバスタードソードが一本、予備のナイフが数本。

……問題ないか。

そう判断して俺は夏世が戦闘している地点へとガストレアを薙ぎ倒しながら進んでいった。

そして夏世を視認出来る位置まで接近し、手こずっているらしいガストレアに目を移す。

そこには地獄があった。

「おいおい……冗談もいい加減にしろよ……いくらゾディアックが来ているからってこんなにウヨウヨ居るとかふざけるなよ!」

 

見ることが出来る範囲にいるのはイニシエーターばかりが10人ほどと、それを取り囲む大量のガストレア……戦況は最悪としか言いようがなかった。

しかもなんとか生き残っているイニシエーターたちも半分がマトモに戦えていない。これではもはやあと数分と持たないだろう。

『すみません……さきほど新たに現れた人間へウィルスを感染させることに特化したガストレアが……なんとか討伐には成功しましたが、すでに何人ものプロモーターたちが……』

 

……チッ。俺は舌打ちをしつつも、やるしかないと決意し、剣を両手で握り締める。

この付近にいるらしい感染特化型ガストレアはなんとか倒したようだし、ここで新しく犠牲者が出る前に全て殺すしかない。

きっと死んだ奴等もそれを願っているに違いないだろう。勝手な想像だがな。

「すまねぇ……」

 

まず俺に気付いていないステージIへ奇襲し、一撃で仕留める。

そこから流れるように雑魚ガストレアを蹴散らして……一気に十近く数を減らす。

その頃になるとようやくガストレアもこちらに気付いたが、時すでに遅し。

残っているのは三体のステージIIと、ステージIIIが一体のみ。

そしてそれだけなら……イニシエーターたちを夏世以外勘定に入れず戦っても、十分勝てる!

俺は勝利を確信し、薄く笑みすら浮かべながら剣を振るった。

ステージIIの一匹目は夏世の援護で意識を逸らしつつ首を斬り飛ばし、二匹目は頭が何故か足の間にある化け物だったので投げナイフを直接刺して殺し、最後の一匹はこちらの攻撃を読んで回避しようとしたところで夏世に脳天を撃ち抜かれた。

 

そして、最後の一匹。ステージIII。

俺はそのガストレアのクマと狼を混ぜ合わせたような体に一瞬で詰め寄って足の一本を狙って斬撃を叩き込む。

だがガストレアは攻撃されたにも関わらず、身動き1つしようとしない。

なんだこの違和感は?何か狙っているのか?

そう思ってガストレアを観察していると、偶然視界に捉えたそれですぐに疑問は払拭された。

 

ガストレアの顔の中心に、あったんだよ。

忘れもしねぇし忘れられねぇ。というかついさっきまでノロケてやがったあの人の、顔がな。

あぁなるほど、確かにあの人ならガストレアになってもしばらくなら気合いで持ちこたえることくらいできそうだ。

三ヶ島さんはいつだってそうだよ。

心が折れそうな状況だろうがなんだろうが、誰よりも生にしがみついて大事なもんを護る。

その為ならなんだってしていた。

権力に媚びても、強い力に屈しても、何をしてでも大事なもんを護り抜こうとしてた。

そんな三ヶ島さんだからこそガストレア化に少しだけ耐えられたんだ。

偶然と一蹴することも容易だろう。だが俺は信じるよ。

これは三ヶ島さんの意思が起こした奇跡だと。

だからきっと、そんな三ヶ島さんの意思を信じ、あえてここで斬らない選択肢が存在するのだろう。

……だが、俺は民警だ。ガストレアを殺す人間だ。だからここでピリオドを打とう。三ヶ島さんの遺志が、無駄にならないように。

俺はバスタードソードを振り上げ、全身全霊を込めてそれを振り下ろし、三ヶ島さんのなれの果てを斬り裂いた。

 

 

 

……筈、だった。

 

 

 

剣を振り下ろした瞬間、感じた感覚は普段のようにガストレアの肉を斬ったときのそれではなく、それより幾分か柔らかいモノを斬った感触だった。

訳も分からず剣閃の通った場所に目を移すと、そこには三ヶ島さんが見せてくれた写真に写っていたイニシエーターの亡骸だけが無惨に存在していた。

……どうやら俺は人を斬ってしまったらしい。

しかも俺が斬った『護りたいもの』のために奇跡を起こした三ヶ島さんの目の前で。

あぁ、おかしいな。

悲しくなる筈なのに、絶望する筈なのに。

涙も、悲しみも絶望も、何も浮かばない。

ただそこには目の前の敵を斬るという目的のみが存在しているだけで、一片の悲しみすら存在しない。

……俺は無感動に再び剣を振り下ろした。

 

ほら、やっぱり。

三ヶ島さんには散々世話になったのに。護りたいものだと思った筈なのに。

何も感情が浮かび上がらない。

「将……監さん?」

 

そんなとき、不意に呼ばれたのでそちらを向くと、夏世が俺をまるで怪物を見るかのような目で見ていた。

俺は本当に怪物になってしまったのかもしれないな。

いや、俺の場合は偶然とはいえ、人を殺した奴なんてみんな怪物なのかもしれない。

……あぁそうだ。いいことを思い付いた。

怪物は怪物なりに暴れまわって何もかもを壊してしまおうじゃないか。

そうだそれがいい。どうせ俺みたいな奴に帰れる場所なんてな……

「ていっ!」

 

そんな破滅的な思考に陥りかけたその時……不意に俺の顔面を強い衝撃が襲った。

「将監さん!あんまり調子に乗ってると怒りますよ!」

 

「すでに怒ってるよなお前!?」

 

それは夏世がわりかし全力で俺を殴ったことによるものだった。

……何しやがんだこいつ。

「あれですか?自分の上司のなれの果てと一緒に偶然その相棒を斬っちゃって絶望して悲劇のヒーロー気取りですか?普段から8歳くらいの幼女を殴って笑ってるロクでなしなあなたが?ふざけるのも大概にしてくださいよ!」

 

夏世は、普段からは想像も出来ないような剣幕で一気に捲し立てた。

しかも生意気にもこっちの服掴んで持ち上げようとしてやがるし……

首の辺りが伸びるだろうが。

「私が求めてるのは普段通り笑いながら私を殴ってくれるロクでなしで人の痛みを理解できなさそうでどう見てもチンピラにしか見えなくてというか普通に行動原理がチンピラでそのくせかっこよくて可愛くて私を容赦なく殴り飛ばしてくれる将監さんだけなんですよ!無駄に似合わないシリアスムードなんか撒き散らしてる将監さんなんか将監さんじゃありません!」

 

……つーかコイツ、調子に乗ってるよな?よな?

人がせっかく黙って聞いててやってるってのに訳の分からんことを捲し立てんな。

俺はなんとなくそう思い、持っていた剣を捨てて拳を握り締めた。

「……人が黙って聞いてると思って調子に乗んなァ!」

 

そして、いつもとは違って遠くに飛ばすのではなく地面に叩き付けるように殴った。

この怒りやら何やらの感情を込めた拳はいつもの三割増しくらいで重いし、さっきまでの戦闘でとっくにウォーミングアップを終えた体は殴るために最適な状態だ。

まさに最高の一撃て評するに相応しい拳が、夏世の腹に命中する。

そして夏世はそれによって地面に勢いよく叩き付けられ、十秒ほど動かなくなったが、すぐに復活してこう言った。

「くふふ……今のは良かったですよ……というかようやくいつもの将監さんに戻りましたね。子供を殴って平静を取り戻すとか一体将監さんはどれだけ変態的なんですかもっとしてください」

 

しかし今回のは普段より数段キレのいい一撃であったにも関わらず、夏世はいつも通りニコニコとしながらさらに催促してきた。

……だが、流石に今これ以上やるのはコイツに負けた気がするのでやめておこう。

やるのは帰ってからだ。

 

俺は、先程までとは一転して軽い足取りで本営までの帰路に着くのであった。






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