“プロモーター序列第一位”里見蓮太郎の物語   作:秋ピザ

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8日も掛かってまだ番外編終わらないです。でも次回できっと終わらせます。
たぶん。

なお今回、時系列的には蓮太郎くんがキャンサーを殺す前に当たり、内容は半シリアス半ほのぼのとかいう決戦前仕様です。
それと原作じゃ影の薄いあの人を適当なキャラにしてみますた。
それではどうぞ。


番外編:IP序列1512位、伊熊将監“たち”の物語【前編】

人生は理不尽だ。

死ぬほど腹が減っていて今すぐ何か食いたいって時に限って近所のファストフード店は閉まっているから夏世を頼らないといけなくなるし(しかも何故か準備はいつでも整っている)、今日はダラダラして夏世を殴って過ごそうかという日に限ってガストレアはとんでもない数の徒党を組んで襲ってくるからこっちもアジュバントを組んで倒さなきゃいけない。

ホント、辞めたくなるぜ。こんな仕事はよ。

だが民警以外に今時向いてる職業はないのも事実だし、民警を辞めたら夏世という名の素晴らしいサンドバックとサヨナラしなくてはならない。

それだけは嫌だから民警を辞められず、いつまでも理不尽に遭い続ける訳だが……それにしたってこれは酷い。

 

ある日突然ステージV、つまりゾディアックが襲って来るなんてよ!

しかもだぜ?それと真っ先に交戦するのはガキどもと来た。

ハッ……俺たちはソイツらを殺したゾディアックと戦うってわけかい。

不吉じゃないか。不吉すぎるじゃないか。民警は意外にもジンクスや占いを重要視しているのに、不吉すぎるじゃないか。

「将監さん、ストレスが溜まっているならいつものように私を殴って良いんですよ?……表では体面を気にしてやれないと言うのなら、私をどこに連れ込んでも良いですから」

 

しかもそんな不吉な状況でもマイペースに殴られたがるコイツがウザい。

殴って良いか?良いよな?よし殴ろう。

俺は手を握り締め、かなり強く手首のスナップを効かせた拳骨を振り落とした。

これならば俺の主観としては割と本気で殴っているだけなのに周りからは殴っているように見えないという素晴らしい手法だ。

こういう場に出た時、不意に殴りたくなったか殴られたくなった時はこうするとに決めたのだ。ついさっき。

そう、決めた……はずなのだが。

「……ふむ、つまり今の将監さん的にはいつもよりソフトなのが良いと……大丈夫ですか将監さん?良ければ膝枕とか腕枕とかしましょうか?なんなら抱き枕にしてくれても良いですよ?大歓迎です」

 

「誤解を招くことをっ!言うなっ!」

 

ゴツッ!ゴン!

ものすごく誤解を招く言い方をしたのでひとまず夏世にさらなる拳骨を叩き込んで黙らせ、俺は周囲を見た。

こちらに何か注目しているやつが居ないかのチェックである。

いや、別に注目しているからどうってことはないんだがな?しかしこっちを注目しているということは後々偽善者ぶって近付いてきてから夏世に精神をメッタメタにされる可能性が非常に高いと言うことにも繋がり……具体的には俺もされた側も精神状態がよろしくなくなる。

しかもそれはつい先程破壊力が証明されたばかりの代物だ。

 

……あぁそうだ、分かりやすいからさっきあった短いやり取りについて少し回想するか。

なぁに、どうせまだゾディアックが来るまでは少しの時間があるんだ。

来てくれないのが一番だが、とりあえず来るまでは平穏なのだからそれを有意義に使わないとな。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

アジュバントの結成により仮陣地がゾディアック襲来予測ルートの上に立てられてすぐ、俺は戦場にまだ中坊でも通じるような歳のガキが居るのを見て気分が悪くなり、気分転換に夏世を殴っていた。

いや、まぁそれを言ったらそもそもイニシエーターなんざ小学生だってのは分かってんだけどよ……ただの身勝手な偽善だ。

そんなことを考えて気分転換をしている筈なのにナーバスになっていた時。

不意にソイツは現れた。

さっきのガキだ。

……まずい所を見られたな。

俺は夏世を殴るのを中断し、ジェスチャーでガキの背後に回り込めと伝えつつ、最後に大きく殴り飛ばした。

そして傍らに置いておいたバラニウム製のバスタードソードを手に取ってガキに向ける。

特に何かするでもなく、ただ剣を向けることで相手に自分から引かせようという意思の表明だ。

ある程度は名前が通っている俺に剣を向けられりゃ大抵は自分から引いてくれるんだ。それを利用しない手はないってことさ。

「……分かった。ここで見たことを俺は一切他言しないと約束しよう」

 

ガキはまるで自分の方が年上であるかのような口調でそう言い、両手を挙げた。

だがその次に、ガキは思いもよらぬ台詞を口にする。

「俺がここに来たのは、アンタはもうすぐ選ばなきゃいけない時が来るってことを伝えるためだ」

 

そのガキは、その言葉を告げながらこちらに接近してくる。

俺はバスタードソードを構えたままガキを待ち構えた。

だが、剣が見えていないかのようにガキは眼前まで接近してきて、反射的に距離を取ろうとする。

が、動けない。まるで体がそこに縛られているように。

そしてまったく動けない俺の耳元でガキは囁いた。

「自らの欲望に、望みに向き合え。さすれば道は開かれん……ゆめゆめ忘れるなかれ、だ」

 

そしてその言葉を囁き終えると同時に体に自由が戻り、俺は訳もわからずバスタードソードを全力で振るった。

 

しかし、その一撃はその軌道上に間違いなく居た筈のヤツを捉えることはなく、虚しく空を切るのであった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「おい」

 

「はい、これですね」

 

謎のガキが現れてから数時間。俺はまだ少し内心イラつきが消えきらぬまま、夕飯を貪っていた。

……それにしても、これが有事に備えて備蓄されていた保存の利く食料ばかりを集めた食事だから味が悪いのは仕方がないこととはとはいえ、非常に不味い。

普段食ってる夏世の飯のありがたみが理解できるなこれは。

……つーかこんなもん有事でもなきゃ食いたくならねぇよ。てか有事でもなるべく食いたくねぇよ。

説明文が本当なら栄養は一応完璧らしいが色身がないし、味は相当酷い。

偶然にも夏世がこんな事態を想定していたのか、あるいは複雑な事情からか備蓄食料料理なるものを作れたからウチ……三ヵ島民間警備会社だけはメシの味が不味すぎて士気が最低まで下がることはなかったが……やはりひどい気分だし、士気が下がってる。

なんそ味を打ち消すためのものもない上に、酒も美味いものもない。そして料理が出来る人員はいても材料がない。

これでまだマシと言うなら……他はとうなっているのだろうか。考えたくもないね。

「……お前ら本当に仲が良いよなぁ、つくづく羨ましい限りだわホント」

 

俺がそんなことを考えていると、横で不味い飯を食っていた三ヶ島さんが声をかけてきた。

どうやら俺たちの仲が良いように見えたらしい。

……皮肉なもんだな。自分のイニシエーターを殴るような男がイニシエーターと一応は良好な関係を築けているのに、ウチの中で一番『呪われた子供たち』を受け入れようとしている三ヶ島さんはイニシエーターにマトモに口を利いて貰えない。

現実はつくづく理不尽だよ、ホント。

「オイオイ、そんな可哀想なものを見る目で見ないでくれって。俺だって進歩してるんだ」

 

だが、三ヶ島さんは俺の視線に気付いたのか、少し笑みを溢しつつ懐から一枚の写真を取り出して、語り出した。

「見ろよこれ……ウチの相棒様が初めて笑ってくれた時の写真なんだがよぉ?これがもう可愛いのなんの……」

 

ただのノロケというか、娘が可愛くて仕方ない父親のような自慢話だったが。

……なんというか、護りてぇな。こんな日常。

俺は、幸せオーラ全開で惚け続ける三ヶ島さんを見て、生まれて初めて何かを護りたいと思うのであった。




三ヶ島さん⇒原作ではシャチョさん。しかし今作では戦うシャチョさん。
イニシエーターにデレデレだし甘い所があるが、人間力は今作屈指の実力者である。

なお、次回投稿はまた7日くらい掛かると思われますのでしばしお待ちください。

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