つーわけでいつもより質が悪い気もする一章最終話、どぞー。
記憶を巡り、自ら施した封印に触れることで偶然新たな力を得た俺は、意識を現実に戻した。
視線を前方に向けると、加速をしてからまだほとんど動いていないティナとスコーピオンが存在している。
まぁこのまま、当初の予定通りチャージが終わるまで待ってしまっても構わないだろう。
というかその方が周囲への被害が少ないから英雄としてならばそちらが最適解だ。
……だがしかし、英雄としてではなくただのクレイジーサイコペドフィリアかつ堕落しきっている人間としてならば、それは最適解ではないと胸を張って言える。
いや、むしろ下の下の下策……もはやただ無策で特攻しての自滅の方がマシだろう。
何故ならばそんなことをすればティナの死亡率が大幅に上がってしまうからだ。
すでにティナには接近するガストレアへの対処で大きな負担を強いているし、これ以上それを続ければ俺がスコーピオンにとどめを刺すのとティナが死ぬのが同時になってもおかしくはない。
だから……俺はここで時間を掛けて溜めた電気を全て、自身の肉体を強化することとスコーピオンを葬るには足りないがそれなりに強い攻撃のために回す。
そして電気により強化された身体能力を利用し、即座にスコーピオンへの攻撃へと移行する。
意識を加速したまま、肉体を超電磁砲の要領で超加速。
下手すれば乗用車並の速度が出ているが体への負担などはあまり計算に入れずただただ愚直に突撃し……スコーピオンとの距離がほぼ0になったところで予め用意しておいたありったけの電気を使った攻撃を放つ。
「直列……大 帯 電 撃 ィ !」
その技はつまり、普通の相手ならばそれで勝負に決着が付くような大技である、直列大帯電撃だ。
今回は流石に相手が相手なのでそれほど効果があるわけではなくせいぜいが怯ませる程度に終わるのだが……
しかしこの技には他にない特徴がある。
「GRRRRRRRRRRRA!?」
名前にも入っている通り、大帯電撃の電撃は喰らった相手にまとわりつく性質……つまり強制的に帯電させる性質を持っている。
それを一度喰らえば死ぬまで延々と帯電して高圧電流を流し続けるのだ。
それも通常のガストレアならば再生能力のほとんどを無視して細胞が自然に再生を諦めるほど、と言えばこの技の恐ろしさが分かるだろう。
これほどの技を喰らえば、いくら頑丈なゾディアックであっても対処を迫られる。
嬉しくないことにこれで仕留められないようじゃ少ししたら完全に回復して大帯電撃ではダメージを入れることすら難しくなるだろう。
今度からは避けられるからな。
雷を避けるなんて普通は無理なんだろうが……相手はガストレアだしありえない話じゃない。
だからさっさと接近したメインの目的を果たそうと思う。
俺が今倒すための方策を捨ててまでここに来たのはスコーピオンを倒すためじゃない。
「ティナ、無理させてすまん……」
「いえ、おにーさんのことですからなんだかんだ言って私が心配になっちゃって東京エリアを見捨ててでも助けちゃうんじゃないかなー。とは薄々感じてました」
……そう、メインの目的とはつまり、ティナの回収だ。
理由は語ったらキリがないが、一番根幹にある部分を言うならば、ただ心配だったんだ。
俺にはこれ以上ティナが危険に晒されているのを見ていられない。
自分で頼んでおいて言う資格がないのは分かってるし、ティナが強いのはこの世の誰よりも理解している。
しかしそれでもティナが死んでしまう可能性を考えると、つい体が勝手に反応して助けてしまうのだ。
……それだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。
ただ、それで何人が死のうと俺の知ったこっちゃないと考えているだけで。
「なぁティナ」
俺は我ながらクズを通り越して存在自体が害悪じゃないかと思うようなことを考えつつ、ティナに話し掛けた。
そしてティナが声に出さず用件を聞くようなジェスチャーをしてきたのを確認し、話を始める。
まぁ、話とは言っても会話とは言えないような一方的なものなのだが。
「俺さー、なんか今ものすごく機嫌が悪くってさー……ちょいと無差別に暴れ回りたい気分なんだわー」
わざとらしく指を鳴らしつつ、そんなことを言う。
しかしこの言葉には大して真実は含まれていない……イラついてるのには間違いないが。
単純にこれは、久しぶりに使う切り札をちゃんと使いこなせるかが分からないからである。
アレは技の特性上取り扱いに注意が必要だし、仲間を傷付ける可能性も非常に高い。そのため間違ってもティナを傷付けたくはないがための配慮というか、ワガママだ。
だからどうにも直接口にはしにくいのだが……
「つまりは、先に帰って討伐記念パーティでも準備してろってことですか?」
しかしそこはティナ。俺が言いたいことをなんとなく感じとってくれたようだ。
「……察しが良いな。流石はティナ」
「これでもおにーさんと一年間べったりでしたから……帰ってこなかったら確実に後を追いますよ」
……そいつは怖いな。もっと帰らねぇ訳にいかなくなったわ。
俺が最後にそう呟いたのとほぼ同時、ティナは全速力でモノリスの内側へ撤退していく。
まさにそれは脱兎のごとき速さで、恐らく数秒としない内に俺の攻撃に巻き込まなくて済む場所まで移動してくれることだろう。
そしてそれから数秒待ち、去っていったティナとの距離が100mを越えた瞬間、俺は力を解放するための準備に入る。
まぁ準備と言っても……
「我は雷操りて傲慢なる星へ裁きを下す者なり」
ただ自分の言葉と特殊な電気信号で自分に簡易的な暗示を掛けてイメージを固めるだけなのだが。
どうやら取り戻した記憶によるとこの技はある程度イメージを固めておくことで成功率と出力が上がる……らしい。過去の俺が面白がって付けたかあるいはただの願掛けみたいなものじゃあなければ。
とにかくそれが真実か嘘かは分からんが、やっておいて損は無いだろう。
「咎星よ、覚悟せよ。これは罰である。汝の奪いし物をその命で償うがよい……しかしこれは救済である。我は汝を全ての苦痛から解放する者なり。故に受け入れよ。門は既に開かれている」
俺は急いで取り戻した記憶の中の言葉たちを呟いていく。
正直なところ中々に恥ずかしいが、これもアレをぶち殺すためだと信じて湧き上がってくる羞恥心で詠唱が滞らぬように耐える。
「さぁ、逝くがよい。我は汝の門出を祝福しよう……」
そこで一度だけ空気を吸い込み、最後の一説を唱える。
「汝の行く末に災いあれ」
突然内容を180度変更したようなその言葉を呟き終わると同時、体内で普段ならありえないような量のエネルギーが精製されて左手に収束する。
ふむ、どうやらこの暗示は俺自身が体に刻みつけた反射とも言える特定の動きを無条件に呼び出す……らしいな。
エネルギーの収束はその後一秒にも満たぬ間だけ続き、それが終わると俺の左手に収束したエネルギーが僅かに漏れ出て周囲を煌々と照らしている。
そして俺は、スコーピオンに対して視線を動かし、莫大なエネルギーが収束した左手を叫びながらスコーピオンに向け勢いよく突き出した。
光が、溢れる。
「……ガストレアはッ……とっとと……消えやがれぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」
その叫びに呼応するかのようにして収束したエネルギーが左手から放出され、1つの流れとなる。
そしてその流れは俺の左手から離れると、さらに細く鋭くなって光の槍とでも形容すべき状態へ変貌し、貫くべき対象へと一直線に突き進んでいく。
それに対してスコーピオンはなんとかかんとか光の槍を避けようと全身全霊で反応しようとするも……しかし所詮は生物。
光の速さに勝てるわけはなく、その体を光の槍が貫く。
槍はただその一瞬でその体を通過し、虚空へと飛び去っていく。
しかしその槍は肉体を貫くだけでなく、莫大なエネルギーがスコーピオンの体を侵食して一瞬でその肉体を自らの熱で全身が崩壊するような温度に上昇させ、地に倒れさせることに成功する。
そして、スコーピオンは、その後倒れたままピクリとも動かなくなった。
……ついに俺は、ゾディアックの残りの九体の内一体を、憎むべき相手を、殺したのだ。
今回の元ネタ⇒とある&ロクでなし魔術講師と禁忌教典
技そのものの効果についてはとあるの方から半分、ロクでなしの方から半分と言ったところ。
なお詠唱は全部その場のノリで考えた物だったりするのでちょっとだけ色々な所から端々をパクった程度になってます。
……なお、これで一章でやりたかったことは全部やったので、次回からは安心してグダグダします。