……は、ともかくとして一番大変なのが今ものすごく日常編のグダグダが恋しくて仕方ない。
色んな意味で人間として終わってる日常編を書きたくて仕方ないんだ!
……まぁ、どうせ後数話で一巻の内容も終わりますがね!
加速された意識の中、俺は自分の脳を解析して記憶を辿った。
それこそ楽しい記憶、胸糞悪い記憶、嫌な記憶悲しい記憶……と多岐に渡る物だが、やはり目立つのはティナにまつわる記憶だ。
これについては一切の狂いなく鮮明かつ完璧に引き出せる。それこそ呼吸をするかのように自然にな。
例えば出会った時の記憶……今思うと初めて会った時は暗殺者と標的って関係性だったのにどうしてこうなったのかまったく理解が出来ん。
別に現状に満足しているから良いのだが。
あとはティナと会うよりも随分と前の荒れてた頃の記憶なんかも、脳を直接解析しているからか簡単に読み取れる。
ある日理不尽にキレて東京エリア周辺一帯のガストレアをほぼ皆殺しにしたせいで危機感を覚えたらしいステージIVが束になって襲ってきたこともあった。
あまりに殺しすぎてガストレアの死体の焼却が間に合わないと言われて自分で焼き払ったこともあった。
……あぁそう言えば、殺しまくって燃え尽きた時期もあったよな。
俺は記憶を辿って燃え尽きてからティナに会うまでの間の記憶を引き出そうとした。
……しかしそこで少し引っ掛かるような感覚を覚える。
これはなんだ?脳を直接解析しているからそこに引っ掛かりがあるはずは無いんだが。
別に忘れているということは無いし、人間が物事を忘れているというのは言わば金庫の中に鍵をしまってしまったような物に過ぎないと先生に言われたように、人間の脳から記憶が完全消去されることはあまりないはずなのだが……
違和感を感じる。
まるで誰かが作為的にこの記憶を封じているような、そんな違和感を。
……確認するか。
俺はさらに脳を解析し、燃え尽きたあとしばらくの記憶をどんどん引き出していくことにした。
突然全てのガストレアに対し際限なく沸いていた筈の怒りが沸かなくなった日のこと。
燃え尽きてやる気がなくなって預金生活の開始を決心した日のこと。
やる気なくただただ惰性でガストレアを狩るのに意味はあるのかと思って依頼を完全に受けなくなった日のこと。
様々な記憶が頭の中を駆け巡る……が、お目当ての記憶はこのどれでもない。
そして、数秒の間記憶を辿っていると、不意に違和感の強い記憶を見付ける。
それは何か分かりやすい行動をしたわけではなく、ただただ家に居た日の記憶。
俺はその日何をしていたんだ?
それを確認しようとする。
が、しかし。その記憶を閲覧するまさにその瞬間、不意に脳に直接フォークを刺してグリグリとされているかのような痛みが俺を襲ってきた。
まるで俺自身がこの記憶を見ることを拒否しているかのようだ。
この記憶に一体何があるというんだ……?
激しい頭痛に耐えつつ、さらに記憶を閲覧する。
その日は、なんてことのないただの平日だった。
週の真ん中、水曜日。預金生活者であった俺にとっては平日も休日も変わらず家で自堕落に過ごす日に違いはなかったのだが……しかし偶然にも俺はその日、無駄に時間を過ごすよりかは他人の弱みを握っておいた方が良いだろうというひん曲がった根性のもと、自分に与えられた世界最高のアクセスキーを使ってとあるデータベースにアクセスしたのだった。
そのデータベースには民間人に対して完全に秘匿されている表には絶対出せない情報が大量に乗っているため、上手くすれば俺が嫌いな奴の弱点が載っているんじゃないかと期待してそれを見た……しかし、そんな俺を待っていたのは……ぐっ!
そこまで記憶を見たところで、一段と頭痛が酷くなる。
これ以上思い出すな、まだ引き返せるとでも言いたそうなほどに酷い頭痛だ……いっそ本当に脳へフォークを刺した方がマシなんじゃないかと思えるくらいに痛いぞ。
しかしこれは何かに俺が迫っていることの証左……あともう少し探れば真実に辿り着けるだろう。
俺は頭を刺すような痛みをやせ我慢しながら、無理矢理記憶を探る。
【この情報にはロックが掛かっています】
俺が自らのアクセスキーで覗き見た情報を探っていく中、何やらガストレアが確認された当日から前後数週間の記録を閲覧するのにレベル12を越える権限レベルのアクセスキーが必要であることを俺は知った。
それこそ偶然に等しい形での発見だったが……しかし、偶然見付けたからこそ俺はそれが気になって仕方なくなった。
常人なら最高レベルと言われているレベル12でも閲覧できない情報をどうやって見ればいいか分からないだろうが、たまたま俺には裏技があった。
その方法とはずばり『アクセスキーに頼らず直接プログラムを読み取って文書を抽出する』だ。
普通のコンピュータどころか下手すれば世界有数のスパコンを数台繋げても不可能に近いであろうそれを俺は実行したのだ。
システム内でたまたま閲覧に必要な権限レベルごとに情報が分けられていたのも幸いだった。
あれでレベル12のところに隠されたそれ以上のレベルが必要な情報をより分けられたのだ。
あとはそれを分析して脳内で再生……そのステップを踏んで、俺は隠蔽された情報を覗き見ようとした。
いや、実際見たんだ。見た筈なんだ。
俺は確かにその情報の閲覧に成功している……その筈なのに。
記憶の中で俺が見た情報は、全て意図的に弾いたかのように真っ白だった。
つまり、中身がなかったのだ。
いや、中身がないという訳ではない。というか直接抽出してるんだから欠けこそすれ真っ白というのは逆にありえない。
正確には肝心なところからそうでもないところまで、ほとんどの言葉が抜けているのだ。
分かりやすく言うと、『○○が○○をした』、という文章が『 が をした』になっているのに近い。
ほとんど空白で、所々『が』やら『の』やら平仮名だけが入ってきている……なんだこれ。
俺は拍子抜けし、何も分からないのに頭痛を我慢してやる義理はないと決め、再び記憶を遡り始めようとする。
……が、しかし。
記憶を遡る俺の頭に突如として自ら考えている訳でもないのに文章が浮かび上がってきて、俺は記憶を辿る作業を中断してしまう。
【レベル13の情報には触れるな】
【これはお前自身からの警告だ】
レベル……13?
さっき記憶で見た、すっぽり抜け落ちてしまっていたあの情報のことか?
しかも俺自身からの警告だと?
【しかし自分自身で施したという証明はない】
【だから俺は俺自身しか知らない情報を3つ記載する】
【それを過去のお前が書いたものである証明だと信じてくれ】
そして、その文のあと確かに3つ、俺しか知り得ない情報が頭に流れてきた。
天童に居た頃の俺の趣味、実の両親の祖母の名前、あと延殊が好きだったのとガストレアを殺すことにもやる気が起こらなくなってついついブルーレイを全巻購入してしまった天誅ガールズの天誅レッド……の、コスプレ衣装(延殊が購入していた)を大事に保管してある場所とそこのロックのパスワード。
なるほど、確かにこれは俺自身からの警告らしいな。
さらに文章は続く。
【……さて、俺が予想するに、お前は今何か迷っているに違いない、と思う】
【それこそ自分の脳を自分で解析して記憶を見るくらいにはな】
というか過去の俺、随分と先を見通してるじゃないか。
ティナを救うことだけを優先するべきなのか、万人を救うべきなのか。
その迷いを解決するためにこうしているのだから、予想は完璧に当たっている。
我ながら見事な予測だろう。
自分のことが分からなくて何を理解できるんだ、という話でもあるが。
【さて、ここで過去のお前からの提案だ】
【今のお前の迷いを断ち切る何よりも簡単で手軽でお気楽な手段を解放してやる】
【だからこの記憶に触れようとするな。今後、一切何があってもだ】
【この記憶は開けてはならない。忘れて幸せに暮らせ。俺よ】
その文章は俺の脳内で数秒残り、消えた。
幸せに暮らせ……か。
それじゃまるでその記憶は不幸を招くかのようじゃないか。
俺は自分で過去の自分が残した意味深な言葉にもっと具体的にしとけよ……とか思いつつも、俺は過去の自分が記憶を見させない為のエサとして用意したと思われる力がどんなものかを軽く解析する。
あくまで解放するといってもその技の使い方の記憶を奪っているだけだから、記憶を取り戻せばどんなものなのかも自然と分かるのだが……ふむ。
……ふむ、なるほど。
記憶を見て過去の自分が解放した技を解析して不意に面白いと感じた。
これは確かに『迷いを断ち切る』技だ。
これならばきっとスコーピオンを倒すことも不可能ではあるまい……
俺は、脳内で密かに笑った。
なんだかんだ言ってブラック・ブレット最大のブラック要素は人間だよね……的な面を出そうとしたらつい思い付いたのが権限レベル13。
まぁ実は原作で10位以内なら権限レベル12を使って全てを知れるという描写があるのにそれを忘れゲフンゲフン。
しかし電気使いを書くなら一度はやりたかった記憶封印というものを書けたので一応は満足かな……と。
そういう訳で、次回……決着。(多分)