“プロモーター序列第一位”里見蓮太郎の物語   作:秋ピザ

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ぴったり1週間ぶりの投稿。とりあえず何故か文字数が5000いくらかまで伸びてしまった。
しかしスコーピオン戦はまだまだ続く。
原作とは違い影胤さんが早期に退場したから、まだまだ続く。


天蠍宮vs英雄

ゾディアックガストレア、キャンサー。

かつて俺が討伐したゾディアックであり、現状マトモに討伐者が確認されているゾディアックであり、そしてバラニウムであっても、超バラニウムであってもほとんど傷付けることの出来なかった甲殻を持つ……現在最硬のガストレアだ。

特にカニの代名詞でもあるハサミはその巨体(聞いた話じゃゾディアックでは最小らしいが)であっても不釣り合いなほど巨大になっており、凄まじい硬度を誇る甲殻に包まれたそれは降り下ろすだけでもとてつもない被害を人間たちに与えた。

それだけでも驚異だと言うのに、そのハサミには鈍器やそのままハサミとして使うだけでなくもう1つ使い道があった、というのも問題だ。

これは今のところ俺しか知らない情報だが……ヤツは追い詰められると何やらハサミの奥から仕込み刀とでも言うべき代物を伸ばしてくるのだ。

その勢いはまるでパイルバンカーのようであり、恐らく当たれば俺であってもその場で死ぬことはまちがいなかっただろう。

 

……さて、ここまで散々ゾディアックの力を説明したわけだが、いかがだろうか。

強大だろう?

ステージIII程度であっても苦戦するのが一般的で、IVなんか出たものなら復興に一年掛かってもおかしくないようなことになるのが珍しくないこの世界においてゾディアックの力は強大、いや、ほぼ無敵に等しい。

何故ならゾディアックは人間が考えるよりも恐ろしく進化しているからだ。

カニであれば凄まじい威力の刀とも呼ぶべきものをハサミに隠すし、牛は大量にステージIVを従えたという。

 

しかし、人間も負けたものではない。

事実これまでにも金牛宮、処女宮の2つは破られたし、俺も一体倒した。

そう、あのゾディアックを、だ。

人間の意地はそう簡単に破れるものではない、ということである。

……まぁ、ここまで堅苦しく語って来といて難だが、俺が言いたいことは1つ。

「人間ナメんなよ?ガストレア風情が」

 

俺がそう呟くのを皮切りに、超帯電モードの大電力を活かしたガレキによる無数散弾電磁砲⇒少しでも刺さった散弾を誘導に使った落雷に等しい威力の、質量を持たせた電撃のコンボがスコーピオンを襲う。

1つ1つがまさに一撃必殺の、いやオーバーキルじみた威力を誇る攻撃だが……これでは全然足りないだろう。

少なくともキャンサーはそうだった。

あの時俺がキャンサーにダメージを与えられたのは、延殊が集中して蹴りを入れていた場所に最期に喰らわせた一撃が甲殻にヒビを入れてくれていたからだし、致命傷を受けなかったのは木更さんが死力を尽くしてハサミを斬り裂いて壊しやすくしてくれていたからだしな。

……ハッ、今思い返せばあの時は助けられてばっかじゃねぇか。うわ、世界最強の実態がそんなもんとか、情けねぇてやんの。

……いや、ここんとこの俺がどう考えても素でとてつもなく情けないってのは知ってる。ただ、それ以外の意味で情けないってことだ。

 

まぁとにかく、ほぼ完璧な状態のゾディアックとサシでやりあうのはこれが初めてになるってことだな。

俺は無駄に冷静にそんなことを考えつつ、体内で第二波のための莫大な電力を練る。

その電圧はおおよそ200億ボルトと言ったところだろうか。

「GYY……GRYAAAA!!!」

 

しかし、そんな莫大な電力であっても実はただ喰らわせるだけじゃあそこまで効果はない。

何故なら俺の生み出した電気そのものにはほとんど物理的な威力がないからだ。

たとえば……そうだな、雷雨の時に大岩が割れるって現象があるんだが、その原理をご存じだろうか。

あれは雷が当たったから割れているのではなくて、雷が当たったとき、岩のヒビやらなにやらに溜まった水が超音速で振動することによって割れるんだ。

……まぁ俺の電気の場合、一部の使い方においては当たるだけで対象を破壊するのも難しくはないんだが、それは例外だろう。

 

さて、それじゃあ問題だ。

何故俺はわざわざただ当てるだけじゃ大して意味のない莫大な電力を生み出したのか。その答えはなんでしょう?

俺は体内で練った電力の一部を自分の肉体の強化に回して今まさにこちらを尻尾で突き刺そうとしていたスコーピオンとの距離を詰め、そしてサイズが違いすぎて確認しきれないが恐らくは頭と思われる部位に手を当てて一気に高圧(どころじゃない)電流を流し込んだ。

「正解は、ゾディアック式電子レンジをやるためでしたー、ってな!」

 

俺自身そこまで詳しいことを理解してる訳じゃないが、生物の体には必ず水が含まれているから、それを電子レンジと同じように熱することは可能なんだ。

で、今回は電子レンジで熱するのと同じ原理かつ通常のレンジを上回る電力でそれを行って……スコーピオンの体内にとんでもない熱が発生して体内から焼こうとした訳だ。

 

あくまで『焼こうとした』だけなんだが。

「GYAAAAAA!!!」

 

「ああクソが……あれで体内を焼いて焼きサソリに出来ねーとか抵抗高すぎだろざけんな!」

 

俺は悪態を吐きながら、自らに触れて焼き殺そうとした鬱陶しい人間を貫こうとしてくるスコーピオンの側から離れる。

体表は砕けず、体内も焼けず、挙げ句の果てに相手を警戒させるだけ警戒させて自分で難易度をHardからExtraにまで上げちまうとはな……

流石はゾディアックと言ったところか。

俺は内心キャンサーが実はステージ4.5くらいだったんじゃないかと思いつつ、スコーピオンの攻撃を回避していく。

基本的にコイツの攻撃はどこに居ても狙えてなおかつ一撃必殺の尻尾、そしてキャンサーのそれと似たようでいて違うハサミの2つによって行われる。

いや、まだ見せていないだけでもしかしたら尻尾から毒やらなにやらを超音速で吹き出せるとかもあるだろうな。多分。

まぁとにかく、その3つが主となってコイツの攻撃は行われる訳だが……やはりというかなんというか、その3つの単純な攻撃は単純ゆえに恐ろしく強い。

かすりでもすれば命はない攻撃しかない上にそのテンポはやたらデカい。

しかも下手なスピード特化型ガストレアの数倍はある。

しかし何よりも特筆するべきはその猛毒だろう。

さっきから避けた尻尾が当たった先が全部溶けてやがる。

ありゃもう一滴でも致命的かもしれねぇ……

ひとまずスコーピオンの尻尾、あれはなんとかして破壊する必要性があるな。

俺はそう決定し、次に作戦を立て始める。

コイツの尻尾を切る、それだけならやり方はいくらでもある。

それこそ射程をほぼ0にした超電磁砲とか、質量を持った電気の剣を最大出力にして斬り刻むとか。な。

だが問題はそれじゃない。

そう、それを当てるためには接近する必要がある……しかし、当てられるだけ近寄るためにはコイツを引き付ける囮が必要なのだ。

自衛隊じゃあ一瞬で溶けかねないから強度が足りないし、ヘタな民警だって同様の理由で難しい。

とにかくスコーピオンを30秒でいいから完全に引き付けていられるほどの実力者が必要だ。

それこそ世界有数の優秀な民警とか……あぁ、あの時刃物野郎の連絡先聞いときゃ良かった。

アイツなら構わず迷わず囮に出来るし、それに俺と同等に渡り合った強力なプロモーターだ。恐らくスコーピオンが相手でもそれなりに耐えてくれるたろう。

あとはその稼いだ時間で最大限のチャージを行えば……なんとかなるだろう。多分。

俺はないものねだりだと分かっていながらも、あの刃物野郎を呼び出したい衝動に駆られていた。

あれだけ強くて、なおかつ死んでもなんとも思わずに済むようなやつは貴重だからな。

「GRRR……AAAAAAG!」

 

「……っと」

 

スコーピオンは、俺が思案しているのを見て隙を見付けたとでも思ったのか尻尾で突き刺してきた。当然避けたが。

しかし、いくら避けられるからと言って無意味なことを考えるくらいなら少しでも有効な攻撃方法を考えるべきではないのか。

 

……いや、正確には有効な攻撃方法を取るべきではないのか。だな。

まぁ、その、あれだ。

気付いてはいるんだ。世界有数の優秀な民警かつ俺が呼び出せる相手は、実はすごく身近にいるということに。

そう、ティナだ。

ティナは元々ほぼ単独での実績で二桁まで上り詰めた優秀なイニシエーターだし、恐らく俺が呼べばすぐに駆け付けてくれるだろう。

それに多分、囮を頼んでも引き受けてくれるに違いない。

あくまで予想にすぎないがな。

だが……きっとティナはやるだろう。それこそ自分の命も顧みずに。

俺もティナに頼まれたらいつまでも時間稼ぎを出来るし、自分自身の危険すら考えずにやってしまうような気はする。

だがそれをやるのが俺ではなくティナだと思うととても受け入れられんし……どうしたら良いのやら。

 

本能はティナを呼んで時間を稼いでもらえと言うが、理性ではティナを危険に晒したくないと騒いでいる。

どうするべきなんだ?

たとえばティナに時間稼ぎを頼んだとして、もしそれでティナが怪我をしてしまったら?死んでしまったら?

……前者だとしても恐らく当分は怒り冷めやらぬことだろうし、後者ならきっと俺は悪鬼羅刹と化することはほぼ確定だろう。それだったらゾディアックを倒しても何も変わらん。

まぁ結局、スコーピオンは俺が一人で倒せということなのかもしれないな……

こうなったらいっそ、殺されるのを覚悟で大技に全てを賭けようか。そう考えようとした瞬間、不意に携帯が鳴った。

誰だ?こんなときに。

俺はとりあえず留守電にしとくか、とも考えたが、もしかしたらティナからの電話かもしれないしそうだったら留守電にした場合後で物凄く拗ねられるだろうな……と思い直し、戦闘中にも関わらず電話に出ることにした。

『もしもし』

 

……電話の相手は、声の感じからするとティナだ。というか間違いなくティナだ。

どうしたんだろうか。

俺はスコーピオンのさりげない一撃を回避しつつ、内心少し心配になっていた。

「なぁ、こんなときに電話掛けてきたってことは何か緊急事態でも……」

 

『いえ、なんとなくおにーさんが馬鹿極まりない賭けに出ようとしている気がしたので止めようと思って。まぁ女の勘ですが』

 

……なんだ、どうやら緊急事態には陥っていないようだ。ひとまず安心して構わないだろう。

しかしまぁ、そんなことをなんとなくで察せちまうのかよ。女の勘ってすげぇ……いや、でもこれ女の勘とか言ってるけど多分これまでの行動パターンから何をするか読まれただけだな。

まぁそれだけでも驚異に値するんだろうが、なんというか嬉しいやら恐ろしいやら。

しかし、止める、ねぇ。

この状況じゃそれ以外に方法なんて無いだろうに……

『あと、それ以外に方法が無いからって言い訳も禁止です。とにかくおにーさんが生き残れるようにしてください』

 

「んなこた言ったって……!」

 

『おにーさんが死んでしまうようなら、私はすぐに後を追います』

 

「……」

 

しまったな。言い返せない。

ここで大技に全てを賭けるなら命を賭ける必要があるが、俺が死ねばティナも死ぬと言うのならそれは俺の命だけでなくティナの命も賭けに使ってしまうことになる。

 

だが気持ちの面じゃそれを拒否したくても、現実問題このままじゃ俺はいずれじり貧になって死ぬ。

かと言ってティナが一人来ただけじゃ大して変化はないだろう。ただ少しだけ楽になると言う程度だ。

俺はそう判断し、電話を切って大技の準備に入ろうとした。

『それに、今おにーさんが無理して命を賭けずとも、私と多少腕の立つという民警の方を何人か雇ってそちらに向かっているので、囮にでもなんにでも使ってください』

 

……ふむ。

『ですから、せめて私たちが到着するまでは無傷でいてくださいね?』

 

「……あいよ」

 

しかし、どうにも俺はティナの言葉には逆らえず、無意識に肯定の意思を示してしまうのであった。

 

……時間稼ぎ、か。

ティナたちが到着するまで待って、着いてから戦う……か。

なるほど合理的だ。それに、責任重大だ。

もし失敗すればティナに危険が及ぶかもしれないこの作戦。

やるしか、ないよな。

仕方ない。

俺は自分の中で少々区切りを付けると、構えを作ってスコーピオンに向き直る。

その瞬間にもハサミが迫るが……

「スコーピオン、俺としちゃお前とは一生顔も合わせたかぁないしもうさっさと帰りてぇが……もうちょっとだけ」

 

……相手してやんよ。

そう呟くと同時、攻撃を受け流してその力を流用してスコーピオンを転ばせる。

なぁに、時間稼ぎ程度俺には簡単よ。

何時間だってやってやるさ。

今回はティナが来るまで、だがな。




どうでも良いことですが現状いまだに決まらないものがあります。
とても肝心なものなのに。
予定ではとても重要なものなのに。

……あの元盲目の子の名前が決まらん!
候補がありすぎる!

……まぁ何が言いたいかというと、この1巻の内容が終わったらそのあとの更新がしばし滞る可能性が出てきた……ってことです。

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