そして急いでそっちの方を書こうと思いつつ最速でこっちの方を書き終えてみた結果……まぁ、お察しということで。
戦いの始まりは相手方のイニシエーターによる斬撃だった。
速さ、正確さともに申し分ない一撃。
文字通り相手が人間なら必中必殺の奥義となっただろう。
特に抜刀術どころか剣術ですら使ってないのにこの剣速を繰り出せるというところには素直に驚愕するしかないだろう。
まさに天才ってやつだな。
しかしそんな必中必殺の一撃も、マトモな人間ではない俺相手には通じない。
先刻の刃物野郎との戦いのせいで忘れがちだが、俺はこれでも視力がいい。
視力とはつまり文字通りの意味でもそうだが、戦闘における行動を決めるための視野でもあり敵の実力を測るための視力でもある。
あの刃物野郎は実力だけで見れば序列二桁前半は固いだろう。しかしイニシエーターの方は優秀だがティナのように桁外れに強いって訳でもなさそうだし……総合力で考えると二桁後半から三桁前半というところか。
で、現在戦っているこいつらの場合の分析はこうだ。
圧倒的耐久力と中距離に向いた装備によってサポートに回るプロモーターに加え……さっきイニシエーターがパパと呼んでいたし、実の父娘と思われる……イニシエーターの近距離において無敵に近いであろう神速の攻撃。
どちらにしても単体であれば余裕過ぎて一分ほど時間を与えてから目を瞑ってでもワンサイドゲームを行えるだろう。
しかし二人同時となると少し厄介な相手になる。
イニシエーターが神速の連撃で行動を抑制し、プロモーターが正確な援護と火力の高い何らかの攻撃によってダメージを蓄積しせてくる戦法は恐ろしく強い。
それこそ俺が厄介だと感じる程度には、だ。
……しかしそんなものは問題ではない。
もしも相手が力量的に序列2桁前半どころか1桁であったとしても問題ではない。
理由は簡単。
俺の力の前に連携などというものは無駄だからである。
連携というものは高度になればなるほど緻密な動きになり、ズレが許容されなくなる。
それこそ確実にリンクした完璧な動きを要求される、というところだろうか。
たとえばこの父娘。コイツらは完璧な連携により斬った次の瞬間に謎の攻撃を喰らわせてくるような、正に奇術とでも評するべき攻撃を行っている。
それこそどちらかがズレれば自滅待ったなしの、な。
そして俺の操る電気の一種には、生体電流ってものがある。
その操作には微弱な調整を要求されるし一歩間違えば成功しない、難易度の高い小手先の技だ。
しかしだな……もしそれを都合良く相手の体に流せたら、どうだろう。
通常神経を通って行われる命令伝達に合わせて別の命令を、高優先度で上書きしたら?
どうなるかは自明の利だよな。
俺はこの攻防の間にこっそりとセクハラ紛いの攻撃でしれっと触れて読み取っていた生体電流のパターンのいくつかをイニシエーターの要所要所を動かす神経の伝達ルートに横入りする形で撃ち込んだ。
命令内容は至って簡単、というかそれしか出来ないが、しかし単純かつ強力なものを選んだ。
『左足で蹴ろうとする』『右足で後ろに跳ぶ』の2つ……正確にはもう少し細かい……である。
まぁもちろん、左足を蹴り出しながらもう片方の足で跳んだら……
「えっ?」
バランスを崩して転ぶに決まってる。
相手のイニシエーターは、突如自分の体が言うことを聞かずに勝手に転んだことに困惑しているようだ。
クックック……驚くだろうよ。至って普通に戦っていたら突然自滅するんだもんなぁ?しかも自分の意思に関係無く、よ。
無論その程度で俺は満足しない。
そのままの勢いで仮面野郎も一気に殺ってやろうと第二波の命令信号を送る。
今度の命令はこうだ。
『右膝を抱える』『腕を動かさない』。
ただ相手を自分自身の力で拘束させるための対人用小技である。
ちなみに右膝を抱えて腕を固定する体勢とはどういう物なのか分からない人も居るだろうから、別の表現を使ってお伝えしよう。
頭と足一本を残して折り畳んだ片足立ち。だ。
言わずもがなこの体勢は死ぬほど不安定で、うっかりバランスを崩そうものなら転んでしまうこと受け合いの、酷い状態である。
しかし戦場において転ぶことは即ち死に直結するため……ある程度訓練された兵士はついうっかり転ばないようにしてしまう。
それが、俺の思惑だとは気付かずに。
仮面野郎が咄嗟にバランスを保とうとしている間に、俺は電磁波で仮面野郎の周囲100mほどをサーチしていた。
その中に攻撃へ転用できる大きめの金属片はないか、あるいは車の一台でもないかという若干の祈りも籠めて。
そしてその祈りは届いたのか、約250にも及ぶ大小様々な金属片が見つかった。
手榴弾でも使ったのか、やたら細かい破片もあるが……まぁ関係無い。利用するだけなら大して変わらんさ。
……さぁ、さっさと片付けよう。
俺は脳内で仮面野郎の半径100mを細かくイメージした。
そしてその半径100mの空間に、ある流れを産み出す。
磁力と電撃による嵐。
金属が触れる度に巻き込んで段々と被害を増していく凶悪きわまりない災害が、仮面野郎たちを襲う。
まさに死体に鞭打ち、と言ったところか。
まだコイツらは死んでいないし打つのはムチではなくあくまで金属片だがな。
まぁ、さっきの刃物野郎戦ではある理由から使えなかったから、今のところ今月一回目の使用となる大技だ……存分に喰らいな、我が敵よ。
【刃雷磁嵐】。
鋭い金属片、つまり刃が空中を高速で動き回り、電撃によって体を焼く。
ただそれだけの簡単な大技で、仕込みに多少時間もかかる……しかし威力は本物。そんな技だ。
無論人に向けていい威力はしていない。
しかしこれまでになんだかんだ言って俺の攻撃を受けて生き残り続けている仮面野郎はきっと人ではないに違いない。
何故なら人間に俺の超電磁砲を受けきるほどの耐久力はないだろうからな……いや、もしかしたらコイツが実は改造人間で、どこぞの仮○ライダーと同じくとてつもなく頑丈ってんなら話は別だが。
って仮面繋がりとはいえ仮○ライダーに失礼だろうが。
俺は無駄に冷静にセルフツッコミを入れつつも、刃雷磁嵐に仮面野郎とそのイニシエーターがどう対応するのかを見る。
ここで攻めに来るかそれとも守りに入るか、あるいは逃げるかで相手の底がある程度分かるんだが、さてどうなるかな……
「パパっ!」
「ハハハ……任せなさい、小比奈!」
荒れ狂う刃の嵐の中、イニシエーターは仮面野郎にぴったりとくっつき、コートの中で何やらしがみついている。
まぁ確かに、いくらただのコートであっても何もないよかマシだろうが、一体何を?
相手が何をやるのかが気になり、俺は面白半分で刃雷磁嵐に少し細工をした。
ただ渦を巻き金属片で傷付けるだけの磁力の嵐を、金属片が自然な形で上にある程度集中するようにしたのだ。
これによって仮面野郎が上からの脱出を試みている場合に対応がしやすくなる。
そして下から出ようものなら……そこでは二段構えとして、俺が直接狙撃する。
無論威力最大の超電磁砲で、だ。
さぁ……どうする?仮面野郎。
「哭けゴスペル!詠えソドミー!……エンドレェェェェェェェス!」
俺が中々に隙の少ない二段構えで仮面野郎たちの命を狙っていると、突如として仮面野郎は叫びながら銃を地面に向けた。
真上からの脱出でも狙っているのか?
なるほど確かにいい狙いだ。刃雷磁嵐が嵐に近いことから台風の目と同じような状況になっているのではと踏んだのだろう。
だが、いくらなんでもその程度のことに対応出来ないとは思わないでもらいたいものだ。
俺は超電磁砲の照準をずらし、刃雷磁嵐が展開しているほぼ真上辺りに当たりを付け……そして少し刃雷磁嵐の動きを変えた。
渦のようだったそれを、今度は無作為かつ考えなくただただ高速で対流させる。それだけの動きに。
これであっちはどこに居ても刃雷磁嵐の範囲内にいる限りダメージを受け続けるハメになるため……多少なれど焦る。
だから俺はその僅かな心の焦りを突き、この超電磁砲で決める。
「……スクリィィィィィィィィィィィィィィィム!!!」
仮面野郎は、全力で絶叫しながら訳の分からない衝撃波……と思わしきものを地面に向けて放った。
その速度は人類の跳躍(これが正しい表現かは知らんが)のソレを遥かに越えているが……残念ながら、それは超電磁砲であればギリギリ捉えられる速度だ。
「逃げられると思うなよ仮面野郎!」
俺は全力全開の超電磁砲を放つ。
威力、速度ともに仮面野郎まで届いたらすぐ燃え尽きるギリギリのそれであるそれは、弾丸の数十倍はあろうかという速度で仮面野郎たちに迫る。
しかしその弾丸は、仮面野郎まであと5mというとこれで何か物体を貫通し始めているかのように急激に速度を落とした。
そして、速度を落とした弾丸は即座にイニシエーターにより排除され……俺が二発目を撃つまでもなく、仮面野郎はもう一度急加速して何処かへと逃げていった。
一方、逃げた仮面野郎たちに対し俺は、次会ったら人間とはハナから一切見ずに全力で不意打ち気味に殺すとイラつき気味に決定するのであった。
……なお、このイラつき故に俺はすぐ横で自衛隊たちがゾディアックと戦っていることを思い出すのに数分ほど掛かってしまうのだが……今する話でもないだろう。
次回からはスコーピオン戦です。
しかし原作のようにレールガンで一撃、ってのはない予定です。