“プロモーター序列第一位”里見蓮太郎の物語   作:秋ピザ

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元英雄の朝

俺の朝は不定期だ。

時々5時くらいに起きることもあるし、10時にようやく起きることもある。

しかしいつだって変わらないのは、どんな場合でも俺は一人では寝られないらしい、ということだ。

頑張って一人寝をしようとしても無意識に体が誰かの体温を求めるので、結局眠れない。

まぁ確かに、相棒を失う前は毎日一緒に寝てたからな。多分その頃が忘れられないんだろう。

しかもこの一人寝が出来ない症状が酷い時、妙なまでに自滅願望が湧いてくるもんだから大変だ。

ある時は聖居……この国でも最高峰のセキュリティを誇る施設……に人間爆弾テロを仕掛けそうになったし、またある時はうっかり何千匹かくらいのガストレアを消し飛ばしてしまったこともある。

 

それだけ俺は一人寝が出来ない訳だが……最近はそれが変に進化して、ティナを抱き締めていないと眠れない。

幸いにして特に出掛ける事もない隠居に近い生活をしているからティナと離れるなんてことは滅多にないんだが、それでもかなりキツいものがある。

いくら堕落したことを自覚していても、17にもなって幼女と一緒じゃなきゃ眠れないとかどんだけだよ、俺を英雄と信奉する奴等もドン引きだよ。

 

……で、どうしてそんな話をしているのかと言えば今が朝だからだ。

昨日も夜遅くまで意味もなく時間を無駄にしていたからかちょいと瞼が重いが、8時に起きるなんて最近じゃ珍しくなってしまったことだし、ここから二度寝する理由もあるまい。

だが起きようにもティナはまだ寝ているし、昨日当分はずっと一緒に居るって言った手前、こっちから離れるわけにもいかない。

かといって揺すり起こすのも……

「ん……おにーさん……」

 

というか起きていると時々怖いが寝ていればただただ可愛いティナを起こす理由がまったく見当たらないな。

どうせ二度寝したって損はしないから、この際二度寝してしまっても……

「……あ、おはようございます、おにーさん」

 

……起きちゃったか、残念。

二度寝はまたの機会にするとしよう。

どうせ二度寝したところで時間を浪費するだけだしな。

それよりも飯でも食った方がまだ生産的だ。

「約束、守ってくれてるんですね」

 

「そりゃまぁな。特に理由もなく嘘はつかんよ。多分」

 

ティナと何気ない会話を交わしながら、適当に置いておいたジャージに着替える。

この生活を始めた頃からの愛用の品であり、夏適度に涼しく冬そこそこ暖かい、万能衣服。それがジャージなのだ。

それにどうせ滅多に出掛けたりはしないのだから見た目に気を遣う必要はないと考えるようになってから、いつもいつもこの服ばかり何枚も買っている。

自分でもちょっとダメじゃないかと考えることはあるのだが、それでも実用を考えるとこれ1択となってしまうのだ。

服を選ぶのは面倒、そしてわざわざ買うときに悩むのも面倒、人前に出ないのに服にこだわる必要はない。だからこそ俺はジャージを着る。

ちなみに着替えている最中、同じ部屋に異性が(子供だが)いることを気にしたことはない。

別に見られたって減るもんじゃないよな。とか思うようになったのはちょっとだけ悪い傾向かもしれない。まぁ、良く考えりゃ二人揃って適当に着替え始めている辺り、もしかしたら見られたところで気にならない程度には親密な関係ってだけかもしれないがな。

そこについては正直なところ俺自身すら良く分かっとらん。

ただ、1つ確かなことは、お互いに色々と人として大事なところが欠落してるってことだな。

俺にせよティナにせよ、同じ部屋で着替えてたら、普通であればどっちかが恥ずかしがってもおかしくはないはずなんだ。

……いや、そもそもの前提としておかしい奴がそれを言ったところで信憑性はないよな。悪かった。

 

 

 

我が家の食事は、はっきり言ってショボい。

適当なトースト、適当に三分で作った料理、適当な付け合わせの三品で大抵は事足りるし、かつてのようにガストレアを乱獲したりしないのなら腹一杯に食って空腹で動けないようにならないよう対策をする必要はないからだ。

それに、俺もティナもどちらかと言えば生活リズムは夜型なので、朝はどうにもそこまての量を食べられない。

それゆえに、その生活リズムに適応するように食事はショボいのである。

 

別に、そこには不満なんてないんだけどな。

それに、毎朝何か凝ったもん作ってたりしたら時間がいくらあっても足りん。

一応昔はそこそこのモノを作っては居たが、今やそれよりグレードは下がっている。

いやむしろあの頃の節約に節約を重ね続けて極端に金の掛からない料理ばかり作っていた頃と比べればグレードは上なのか?

まぁいい、そんなことはどうでもいいのだ。

ひとまず卵をかき混ぜてフライパンで焼いてグチャグチャにするだけで出来上がるスクランブルエッグを小さめの容器に盛って、意味もなく黒コショウでも振って、食卓に並べる。

ちなみに我が家の食卓に大皿のモノを抜いて同時に五品以上並ぶことはない、というのがジンクスだ。

品数を増やそうと思ってもその辺りで疲れてきて、結局作れない。

料理は割と得意な筈なんだがなぁ……

「おにーさんが作ったと思うと、三分と掛からない程度の料理でもとても美味しく思えてきますね」

 

「そうかい」

 

あぁそうだ、思い出した。

相棒を亡くして以降、ガストレアに怒りを集中放火させてた時にほぼマトモな飯を作らなかったツケが回ってきてるんだな。納得納得……アホか。

 

それはあくまで質の問題で、品数はそこに関係無いだろう?

まったく、バカだよ俺は。

こういう時は、飯でも食って忘れるのが一番だ。

俺はケチャップを塗ってピザチーズを乗っけて焼いただけのトーストを頬張る。

我が家のトースターはこれでも去年最新式だったものなので、トーストを焼くのに最適な焼き加減を自動で見極めてくれる機能なんてものが付いているのだ。

便利だよ。本当に。

前使ってたトースターなんて、タイマー機能はぶっ壊れてるわトーストを焼くにも一度余熱を入れるために空のまま焼く必要があるわで……

「……?おにーさん、どうかしましたか?」

 

「いや、なんだよ急に」

 

「いえ、食事中に急に泣き出したので」

 

うげ、俺そんな酷い絵面?

いや確かに昔のことを思い出したりもしたけどさ、いくらなんでもトースターのことくらいで……

 

流石に泣いてないよな、的な確認のため頬に触れると、指に冷たい感触があった。

本当に俺は涙を流しているみたいだ。

びっくり仰天ってやつだな。1年経ってまだ引き摺って……は、良く考えると英雄なんて呼ばれながら隠居生活に甘んじている時点で引き摺ってない訳がないよな。

あーあ、今度はなんだか笑えてくら。

いっそこのなんとも言えない虚無感を八つ当たり気味にガストレア共にぶつけに行っても良いかもしれんな。

少なくともストレス解消も兼ねるから効果はあるだろう。

なに、ステージIVが100体揃い踏みでもしなきゃ俺は傷ひとつ付かないから……

「……おにーさん、今は食事だから仕方なく離れていますが、約束は忘れないでくださいね?」

 

……あぁ、そうだったか。

ちょっと変に流されて記憶からブッ飛んでたが、今日……と明日明後日くらい?はティナと一緒に居る約束だった。

一応は人類最強だと言うのに、情けない。

まぁ人類最強がなんだ、そもそも強さは感情を抑えたりするのに関係無いだろうって話にもなるだろうが……まぁ気分って奴だよ。

俺の今の精神的支柱は多分、殺人だけはしないという自分ルールと人類最強の自負、あとティナの3つだからな。俺が人類最強であることは大きいのだ。主に俺の精神的に。

 

「まったく……おにーさんは、私がちゃんと見ていないと危なっかしいですね?いっそのこと死ぬまで私が面倒を見ましょうか?」

 

「そりゃ遠慮しとくよ。流石にそこまでは面倒を掛けられない」

 

俺はティナがサラッと投げてくる地味に怖い言葉に冗談の成分が一片も含まれていないのを察し、多少背筋を冷やしつつも平常通りを装って答えた。

……まぁ、俺としても色々決着を付けた後ならお願いしたい物だけどな。

決着を、付けた後なら。

待っていやがれ……カニ野郎……

 

 

 

【最高機密文書】

【閲覧には権限レベル12が必要です】

【……認証完了】

【情報を開示します】

 

【ゾディアックガストレア・キャンサー】

【里見蓮太郎、藍原延珠ペア及び、天童木更の三名による討伐を確認済み。なおその際、里見蓮太郎以外の二人は死亡】

【キャンサーは、現状確認されているゾディアックガストレアの中で最も異端の種である】

【サイズはステージIとさほど変わらず、しかし左右に4つずつ存在する鋏の威力及びその破壊力は他のゾディアックガストレアをも凌ぐ】

【その上、甲殻の防御力はほとんどの攻撃を弾くため、通常兵器はおろかバラニウム製の400ミリ徹甲弾すら無効化し、強力無比なる物と思われていた】

【しかし、討伐後の研究によりその甲殻は金属に近い性質を持っていること、更に中への衝撃を完全に吸収するだけの能力を持つことが判明した】

【なお、甲殻とは裏腹に臓器はデリケートであり、なんらかのダメージを与えれば確実に破壊出来ることも証明されている】

【しかし、弱点と見ることが出来る臓器への攻撃は衝撃を吸収する甲殻によって守られているため、攻撃は不可能】

【そして甲殻が金属に近い性質を持つことから電気が通じるかと思われたが、少なくとも300億Vが必要なため、不可能とされている】

 


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