可愛いは正義。
良く分からんが良家のお嬢様系ナルシスト気味アイドルがそんなこと言ってた気がする。
……まぁ誰が言ったかは置いとくとして、可愛いは正義。これは事実だ。
何故なら、電撃と磁力操作の2つの力によりぶっちぎりで人類最強街道をひた走る俺であっても勝てない相手がメチャクチャ可愛いから、である。
……さて、何故あえて今俺がそんなことを考えているのか、その理由を説明しよう。
それは至極簡単で、特に深い理由もない事だ。
扉を一枚挟んだ先で少女とティナが良く分からないが会議中でヒマ。それに限るね。
少女の目の治療のあと、先生に小切手(ワイロやら何やらにやたら便利なのでペンと一緒に五枚ほど持ち歩いてる)で請求書の額面通りの金を支払って帰宅する途中は、二人の間で何が起こるか戦々恐々としていたが……まぁ、このように平和的手段での解決となって俺は嬉しいよ。
扉(地味に防音防火防弾が完璧)を一枚隔てているので音は聞こえないが、一応平和に進んでいると思われるなんらかの会議を見ながらそう思った。
何事も平和が一番とかほざくつもりは毛頭ないのだが、しかし身内に限定するのなら出来るだけ平和であって欲しいと願うのは自然の摂理だろう。というか身内で争うとか微妙に悲しいぞ。
いや、まぁだから交渉決裂して大変な事にならないようにこうして扉の向こう側から電磁波を飛ばして見ているわけなんだが。
正直ここに帰って来るまでに俺を挟んで水面下で火花が散っていたもの。なんかそれが尾を引いて大変なことにならないか心配なんだもの。
しかし、俺の心配もよそに二人の会議は何らかの妥協点を見つけたのか、二人とも満足げな表情で最終局面に入っているようだった。
気になるな。非常に。
……電磁波の周波数を多少改変して……んでもって部屋の中にセルフで仕掛けた遠隔操作可能な盗聴機に合わせて……よし。
俺は少々ズルい方法ではあるが、二人の会話を盗み聞きすることにした。
クックック、この家は俺の家だからな。いついかなる時も襲撃やら何やらに備えていくつか俺自身に接続出来る侵入者対策を講じてあるのだ。
まぁ本来はこんなことに使うようなもんじゃないけどな。
『……それじゃあ、確認しますよ?』
っと、どうやら二人の方で話がまとまったみたいだな。
聞き始めてからいきなり結論とかちょっと流れ的にどうかと思うが、とりあえず聞く方に集中するとしようか。
『これから暮らしていく上で、おにーさんについて住み分けしましょう、という物です』
『……』
『ひとまず、おにーさんを甘やかすのが私で甘えるのがあなた、そういうことで良いですね?』
……ほぉ。なんか二人の間では住み分けの提案が行われたみたいだな。
俺は甘えるのも好きだが甘えられるのも悪くはないし、良いことだろう。
これまで通りを貫きつつ、そこに一人増える。そういうスタイルが一番だよ。
『了解、です』
そして、二人は頷き合ったあと、こっちにやってきた。
家に着くまでは火花を散らすほど対立していたのに、今は中が良さそうにも見えるよ。
うん、平和っていいな。
俺はそんなことを考えながら扉を開けた。
「話はまとまった?」
そしてまるで話の内容など知らぬかのようにそう言ってみる。
別に聞くまでもないが、聞いといた方が自然に見える気がしたからだ。
「えぇ、もちろんですよ」
「そりゃ良かった」
そのあと、何食わぬ顔でティナに抱きつきつつ、いつも通りの体勢になる。
大抵はこのままなんもしない内に1日が過ぎてるんだよなぁ……まぁ別にそれを気にしたことはないけどさ。
しかし、かと言って何もしないでいると本当にボーッとしたまま数日くらい過ごしかねないので、時々二人で人生ゲーム(ルーレット部分に金属が使われていなければ公平に遊べる)やらスマブ○やらをやってみる訳なんだがな。
特にスマブ○はティナが恐ろしく強いんだ。
俺の使うハリネズミも結構良い動きをしてるはずなんだが、それを上回る動きで某蛇の傭兵に遠距離攻撃を食らいまくった上に撃墜されて負けるパターンが固定化してしまうほど、ティナはスマブ○が上手いんだ。
元々狙撃が得意だからってのもあるかもしれないけどな。
話を変えよう。
突如としてこんなことを言うのも変だが、誰かに甘えられるってのもたまには悪くない。
俺としてはその逆の方が好みなんだが、しかしティナとはまた違ったこの感じも結構良い。
自分がティナに甘えつつ、甘えられる。もう訳が分からんが気分が良いな、これは。
自分の足にしがみついてくる少女(なんだかんだで名前を聞いてない)を見てそんなことを考えながら、俺は無駄なマルチタスクで平行して一番楽な姿勢を見付ける作業に入っていた。
別にどの体勢でも全体的にリラックス出来て心身共に休まるのだが、やはりよりよい物を求めることは大事なことだろう……と、いう建前の元、ティナの顔が微妙に見えなさそうで見えるくらいの位置に移動したいだけと言うのが本音だ。
この状況は言わば両手に花みたいなもんだから、それでちょっと拗ねてたりしないかなーとか思って、少し顔色を伺おうというわけだ。
「おにーさん、どうかしましたか?」
俺が顔色を伺おうとしていた時、不意にティナと目があっだ。
しかし飛んできたのはこれまで129回くらいは繰り返したであろう言葉。
うん、大丈夫みたいだな。一安心だ。
いやぁ、ティナはいつも通りみたいだし、これで安心して甘えられるぜ……
俺はいつもと変わりない様子のティナを確認すると、微妙に存在していた緊張が解けた反動で押し寄せた眠気に逆らうことなく、このまま寝たら深夜に起きることになるであろう程度に深めの眠りに就いたのであった。
「……まったく、おにーさんはガードが緩すぎるんですよ……もう」
そのためか、眠る直前にティナが言っていた言葉はあまり聞き取れなかったが……まぁ、聞き取れなくてもそこまで困ることは無いだろうさ。
はっきり言ってこういうのを書いてて初めて分かんだね。
延珠ちゃんという名のストッパーの大切さが。
良い感じに話を重く暗くなっていく方向から変えてくれるあの子は貴重な存在だと。
……ゆえにその延珠ちゃんが居ないこの作品は全体的に中身がドロッと重暗くなるわけでして。