“プロモーター序列第一位”里見蓮太郎の物語   作:秋ピザ

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とりあえず盲目ちゃん(名前未定)の目を治してみた。
……と、言いつつ特に進展も何も無い回。


目を治すなら……

昼間。それは俺にとって特に何もない時間である。

ティナと散歩するなり、ブラッと未踏査区域に立ち寄って通り魔的にガストレアを殺して回ったり(なお、これで結構金が稼げるのは完全な余談だろう)して過ごすのが通例だが……今日に限って言えば、俺はとても珍しいことをしていた。

 

先生のラボを訪ねていたのだ。

それも俺とティナと、さっき拾った元物乞いの少女の三人で。

理由は何かと聞かれれば、それはもちろん拾った少女についてとある問題を解決しようと思ったからである。

まぁ最初はなんともならないよな……とか思ってたわけだ。盲目なんてもんはどこぞのマッドサイエンティストが作った変態的な性能の義眼でも使わなきゃ無理だ。

しかし、少し気になって聞いたところ盲目は自分で目に溶かした鉛を流し込んで作った物らしい。

いわくその方が同情を引けるし、何より自分の目を見られないから良いらしい。

で、その話からなんとなく察した訳だが、大体こんな感じだろう。

産まれた時に親が子供は『呪われた子供たち』であることを知って捨てた。

そして成長したものの、物乞いをしている内に身体的ハンデがあった方が得だし、自分の目が嫌われていることを理解した。

そのためになんらかの手段で鉛を溶かして目に流し込んだのだろう。

 

ハッキリ言って想像するだけで目が痛くなってくるので考えたくもない話だが……まったく。

「おにーさん、室戸先生は何をしているんですか?」

 

「知らん。ひとまずなんとかなるとは言ってたし、信頼は出来そうだけどな」

 

そんなことを言いつつ、俺は奥の手術室(とは言っていたが実際は死体の解剖室だ)に目を向けてすぐに離す。

先生の手術とか正直なところ何があるか分からないし、考えない方が良いだろうからな。

最悪帰ってきたらオプションで目を思考を加速する義眼デバイスに改造されているという可能性もあるだろう。

そうなったら……うへぇ。

この先待っているかもしれない未来を想像し、気分が悪くなったので現実逃避気味にティナのふとももに顔を埋める。

あ~、マジで癒されるわ~。

朝から若干良くなかった気分もみるみる最高にまで上がっていくし……もういっそティナって女神じゃないのか?……俺限定の。正確には俺だけのための。

そんな人間のクズ丸出しな思考を展開しつつ、俺はチラッとティナの顔色を伺う。

前回の全員殺戮という轍を踏まないようにしないとな……ティナに人殺しはさせたくない。

いや別にティナが実際何人殺そうと俺がティナを大好きなことに変わりはないだろう。たがアイツの遺言だし、出来る限りは尊重してやりたいんだ。

だから俺はこうして少し予防のためにティナがどう思っているのかを伺っている。

 

「どうしました?おにーさん」

 

ティナ現在の気分は………見た限りでは混沌といった所だろう。

上機嫌なようにも不機嫌なようにも見える。

上機嫌な時と同じく少しだけ口角が上がっているし心拍数も僅かに変化しているが、しかし電磁波で見ると前に一度物凄く拗ねた時のように違和感がある。

これは爆発はしなさそうだが少しだけ不機嫌、と言うのが正しいのかもな。

 

ティナはどうにも独占欲が非常に強いからなぁ。俺としてはそこも含めて死ぬほど可愛いんだけど、たまにそれでとんでもない行動に出るから、そこが恐ろしいというかなんというか。

「……もしかして、私がちょっと怒ってるとでも?」

 

「……!」

 

膝枕されながら考え事をすると集中しやすいのは良いが、突然声を掛けられたときビックリしてしまうな。

……じゃない。今驚いたのはティナが俺の考えていることを言い当てたからだ。

特に推理出来る材料もないのにそれを的中させるとは、流石はスナイパー。

「やっぱりそうなんですね」

 

だが今回ばかりは見逃して欲しいんだぜティナ。

別に浮気とかそういうのではなく、あくまでなんとなく保護してしまっただけなんだ。

そう、なんとなく、の、筈なんだ……

しかし、俺が心の中でそう弁解するのとは裏腹に、ティナは予想外の返答をしてきた。

「まったく、おにーさんは私をなんだと思っているんですか?私だっておにーさんがちょっと目移りするくらいなら許容出来るくらいには懐が広いつもりなんですから」

 

俺は予想外なまでに心の広いその言葉にそうかそうか……と、返しつつこう思っていた。

『あ、これはものすごく不機嫌だわ』と。

俺の経験則上、ティナがこういう問題で不機嫌な時はこの手のことを息継ぎなしで言ってくるというのを知っていたからだ。

ホント、以前このパターンに入ったときは家庭内戦争が勃発しかけて大変だったよ……

主に家の中で銃弾やらワイヤーやら爆弾が飛びかねないという意味で。

 

なんせティナは元々暗殺者だったもんだからバレずに相手を殺す術に長けていて、しかしその相手の方も外周区(治安レベルは最低に近い)を生き抜いてきただけあってその手のことに対して強いもんだからあら大変。

ある日は部屋の前がワイヤー地獄、ある日は各種ブービートラップのコンボ、またある日は直接的な攻撃、と多彩な攻撃が行われるのは傍目から見れば中々に愉快な光景だっただろう……当事者からすれば愉快でもなんでもないがな。

しかしその罠が俺であれば余裕で回避できるように作ってあるという親切設計。

ただ風景に溶けこませるように、しかし電磁波のサーチには引っ掛からないように入念に作られた罠は、それはもう世界の罠の歴史を変えかねないものだった。

現状それが俺の浮気対策やらにしか使われたことはないのだが、それが多くの人間に向いたらと思うとゾッとするね。

まぁ、俺やティナと一部の人間を除けば誰が何人勝手に死のうが知ったこっちゃないんだけどさ。

俺は我ながらクズ極まりないことを考えつつ、とりあえず殺しだけはしないようにと釘を刺しておくことにした。

「ティナ、頼むから殺すことだけはするなよ?」

 

「……分かってます。次は適当な変態にでも売りつけるだけにします」

 

……それで良いのか?

いや、良いんだろ。別にティナが直接手を下すわけでもなんでもないし。

売られた先がたまたま思っていたよりとんでもない特殊な変態で、生きてるくらいなら死んだ方がマシと思うくらいの状況になろうが……それは運が悪かったに過ぎない。

つまりそうなった場合ティナは悪くない。

俺はそこまで考えてから、なんとも言えない微妙な気分になってきたのでそれ以上考えることをやめることにした。

 

誰かの四肢が切られる光景なんて考えるだけでSAN値が減る。それくらいなら現実逃避のようにティナに甘えまくって寝ていた方がマシだろう。

俺の為にも、それと不覚にもこのタイミングで似たようなことを考えた誰かの為にも。




おまけ:この作品における蓮太郎の現在の価値観をまとめてみた。

ティナ:最優先。何がなんでも、誰を殺してでも護る。それを傷付ける者はもはや人と見なせない。
延殊:絶対のルール。その遺言は蓮太郎にとって破れない絶対規則……ただし、相手を人と見なしていない場合普通に破られる。
木更:喪ったショックが強すぎて記憶から半ば追い出している。
聖天子:好きではない。
菊之丞:苦労人として見ているため原作よりは好評価。
盲目ちゃん:とりあえず全力で護る。

要約:自分を含む身内に甘く他人に厳しい。それが現在の蓮太郎である。

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