マモレナカッタ主人公に転生したらしい   作:オールドファッション

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第三話 困った時は魔神剣

(……あれ、熱くない?)

 

迫り来る炎に焼き殺される覚悟し、二度目の死を迎えるはずだった。

瞼を開くと、俺は赤いバリアのような球体に包まれていた。

 

暴星バリアである。

 

ラムダや体組織を埋め込まれた魔物が纏うあらゆる攻撃を無効化する無敵のバリア。原作ではアスベルたちの持つ「光の力」の属性を持った技で攻撃しなければ突破できないという、普通のNPCでは破壊すらできない鬼畜技。

しかしアスベルの場合は暴星属性は無く、代わりに周りに炎を放つ「アクセルフォース」という力が手に入るようになっていたはずだが、宿主の危機を察知してラムダがバリアを展開してくれてるのか?

というかf仕様だったんですね。鏡なかったからわからなかった。それにしても……。

 

(頼んでもいないのに助けてくれるとか、ラムダさんまじヒロイン)

 

しかし、さすがにこのまま防戦一方というわけにはいかない。攻撃性能を測るためにもティアマットさんを攻撃しなければ。

できれば秘奥義で一気に決めたいところなのだが、エレスライズ状態でもないのに使用できるか不安が拭えない。そもそもゲームでない時点でエレスゲージやCCの概念があるのかも怪しいところだ。

通常技なら、リーチを考えれば覇道滅封か葬刃あたりが妥当なのだが、初撃の試し打ちにしてはCC消費が高い。となれば、まずはあれ一択だろう。

 

刀を振り抜き、あのセリフを高らかに叫んだ。

 

「魔神剣!」

 

武器を高速で振ることで地面を這う衝撃を放つテイルズの代名詞的技。リーチもそこそこ長く、CC消費にも優しい遠距離攻撃だ。やっぱりまずは魔神剣だよね。テイルズ入門したらまず魔神剣か虎牙破斬をやるようなものだと思う。

しかも歴代主人公のボイスで発動できるのだから、内心では絶叫レベルのエレスハイ状態である。

 

衝撃はそのままティアマットさんにぶつかり、硬そうな鱗を切り裂いた。やばい、ただの威嚇のつもりだったのに。てか、魔神剣の威力高すぎませんか?

反省しつつ、しかしせっかく出来た隙なので攻撃させてもらう。

 

「意思を刈り取る!吹き飛べ!」

 

『くッ!?がぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?』

 

砕陣霊臥で前に引っ張って刀の峰で殴打。無論、傷が残らないように手加減している。怯んだところ比較的殺傷力がなさそうで強そうな裂震虎砲で闘気をぶつけた。闘気だから死にはしないと思う。‥‥たぶん。

しかし予想以上に効いている。もしかしてラムダの暴星エネルギーが上乗せでもされているんじゃないだろうか。

 

「す、すごい!効いてる!」

 

後ろに視線を向けると銀髪幼女がキラキラした目でこちらを見ていた。

というか君は危ないから早く逃げなさい。またあのブレス来たら火傷じゃ済まないからね?

 

『図に乗るな人間がぁぁぁぁぁ!!!』

 

「あ…!」

 

(だから言ったじゃないですかぁぁぁぁぁ!!)

 

全速力で幼女の元まで駆け、業火から暴星バリアで守る。ラムダさん、勝手に能力使ってすみません。

そして幼女よ。君は何で逃げなかったのかな?お兄さんの言うこと無視ですか?それとも体調が優れないのかな?

 

「無事か」

 

「は、はい!」

 

と、笑顔全開で答え幼女。体調に問題がないということは無視されたわけですか。

ぐすん。

もう何も聞きたくない。

 

『殺す!灰の一つも残さずに焼き尽くしてやる!!』

 

そして変わらず殺気全開のティアマットさん。

傷つけたことは後で謝るので殺気を抑えてください。本当に怖いから。アスベルの姿で漏らしたくないから!

 

幼女には無視され、ティアマットさんには嫌われる。数時間前まで普通の根暗な高校生だった俺の精神はもうボロボロダァァァア!!

しかし巻き込んだ責任としてしっかりと守ってあげますよ。年上だから、俺もう文句言わない。

とりあえず、ボロボロになった精神を鼓舞するために俺は某セリフを言う。

 

「この子は俺が守る!」キリッ

 

‥‥やばい。ものすごく恥ずかしい。さすがアスベルさん。こんなセリフを堂々と言えるとは、すごい精神力だ。エレスハイ状態じゃなきゃ死んでた。

 

『ぐ、ぬぬぬ……ッ』

 

ああ!ティアマットさんの表情が険しくなっていく!あれはまるでいい年してまだ厨二引きずってんの?ばっかじゃないの?死ぬの?的な視線だ。

ああ、もうやめて。まじで無理。これ以上は吐く。

 

「騎士‥‥さま」

 

いやぁぁぁぁぁ!もうやめてぇぇぇぇ!!何で二人?して俺をいじめるんだよ!?

もうやだお家帰りたい!枕に顔押し付けて悶え苦しみたい!!

 

「ふふ、もう‥‥終わらせる」

 

これ以上は精神衛生上悪いので即効で決めさせてもらおう。幼女を置いて、ティアマットさんに向かって駆けていく。炎ブレスで止めようとするが、暴星バリアによって攻撃は全て無効化されている。

 

俺は再び間合いを詰めつつ、ティアマットさんに対して効果的な技を発動した。

 

「抜砕竜斬!」

 

敵に駆け寄りながら神速の居合いで切り刻む抜砕竜斬。Wii版ではアスベルにとって唯一の竜族特性を持つ技として重宝したものだ。

 

『ぐはっ!!なんだこの威力は!?』

 

やはり効果は抜群だ。もちろん峰打ちだが、それでもかなりの効果があるらしい。

そこから続けて竜族特性技を叩き込む。

 

「竜よ、駆けよ!昇竜氷舞! 」

 

『かはっ……ッ!?!?』

 

回し蹴りで敵を蹴り上げて龍の氷像が追撃する昇竜氷舞。CC消費が少し少ない分、抜砕竜斬よりは威力は劣るが個人的に気に行っている技である。だって某オサレ死神漫画の子供隊長の技みたいでかっこいいじゃん。

というか、足技でティアマットの巨躯が4、5メートルほど浮かんだんですが。アスベルさん、なんちゅう脚力してんですか。ゲームでは疑問にも思わなかったけど、テイルズキャラって意外と人離れが板についてるよね。まあ、テイルズだから仕方がナイネ(思考停止

 

 

ティアマットさんの体が地面に落ち衝撃で地面が揺れる。上を見上げると砕けた氷の欠片がダイヤモンドダストのように降り注いる。

 

「綺麗……」

 

うん、綺麗だね。なんか某韓流ドラマのソナタ的な光景を思い出す。

しかし俺は花より団子もとい、氷よりコタツが欲しい状態だ。正直すごい寒かったので腕を組んで体を温めた。しかしこれで漸く一安心か。よかったよかった。

 

「ティアマットは……死んでるの?」

 

(へ……?)

 

いや、幼女よ。幾ら何でも死んではいないだろう。手加減もしたし、目立つ外傷だってないし。死んでるわけ………え、死んでませんよね?そういえばさっきから静かだけど、気絶しているだけですよね!?

 

『……』

 

(ヒエェェェ!!)

 

そ、そうだ!こういう時は脈を測れば良いってBJも言ってる………動いてない!?どうしよう、まるで鉄みたいにティアマットさんの肌が硬くなってる。これが噂に聞く死後硬直なのか!?……て、これ鱗だよ!!そもそも全身に鱗あるから脈が測れないじゃないですかおれのばかー!!

そうだ!呼吸してるか確認を………息してる!しかし呼吸は徐々に浅くなっている。このままでは本当に危険な状態に陥るだろう。

 

『あーテステス。マイクテスト、マイクテスト……もしもーし、聞こえてるか?なんかね、送るはずの時代と場所まちがちゃったぽいけど大丈夫?』

 

(こ、この声は杉◯神!)

 

『黙れ小僧!俺のことは誠ちゃん、もしくは誠実なる人馬神(セアリアス・サジタリウス)と呼ぶがいい。てか、これどういう状況?説明プリーズ』

 

 

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

 

‥‥‥‥‥‥。

 

 

 

『なるほど、お前もついにやっちゃったかぁ』

 

(俺はまだ殺てないから!てか、元はと言えばこんなところに送った誠ちゃんの責任だろ?神さまパワーとかで治せないんですか?)

 

『そら、お前あれだよ。ゲームといえばポーションとか薬草とか回復薬的なヒーリングアイテムがあるだろ』

 

おお、どうやらアイテムが使えるらしい。しかし肝心のアイテムがないのだがどうすれば……。

 

『欲しいアイテムを頭の中で念じてみ?』

 

俺は言われた通りに回復アイテムを頭の中で念じる。すると何もない空間に黒い穴がぽっかりと出現した。こわっ!

びくびくしながら中に手を入れ、手に触れる感触を確かめながら目的のアイテムを取り出す。

テイルズの回復アイテムでおなじみ、食べると回復する謎のグミである。アップルのフルーツフレイバーから始まり、マグロやホタテ、豆腐にトンカツ、ドラゴンとエターナルなどよく分からないものまで幅広い種類があり効果も様々。原理や原料などは全くわからないが、とにかくすごいグミだ。

ちなみに出てきたのはグレープグミ。食べると体力が70%回復する。ティアマットさんの口に投げ込んだら切り傷が一瞬で治った。◯豆かな?

 

まあ、とにかく傷も治ったし大丈夫だろう。うん、逃げよう。

 

『…待て』

 

しかし周り込まれた。くそぅ!

 

『なぜ、私の傷を治した?』

 

いや、元はと言えば怒らせたこっちの責任ですし、治すのは当たり前でしょう。出来ればこれでさっきの件をなかったことにしていただきたい。

それにこの豆腐を通り越して湯葉メンタルの俺に殺生とか無理だからね。

 

「あなたには…生きて欲しかった」

 

(俺のメンタルのためにも)

 

『…っ!?』

 

ティアマットさんはまだ怒っているのか、顔が赤くなっている。どうやら許してはくれないようだ。

残念。

 

『もしもし?取り込み中悪いんだがね、そろそろ時空転移の準備が整うから』

 

やっとか。さて、今度こそ逃げよう。

 

「あ、あの!」

 

しかし幼女に回り込まれた。この二人?ディフェンスが固すぎませんか?

 

「わ、私の名前はグレイフィアと言います。失礼ですが貴方のお名前は?」

 

名前か。答えるのは別にいい。

だがこの姿のまま七尾飛鳥の名前を使うのはどうかと思う。なんか名前が肉体に沿わないというか、ぶっちゃけると名前が肉体に完全に負けている感があった。

 

「……アスベル・ラント」

 

一回くらい名乗ったってアスベルさんなら許してくれるよね。

 

「アスベル様……素敵なお名前です」

 

至極同意。

でも幼女よ。少し近くないかな?そんなに服の袖掴んだら伸びちゃうよ。それと顔も赤いし……もしかし君もおこなの?

 

幼女がつぶらな瞳をぎゅっと閉じて、何かを決意したように口を開いた。

 

「アスベル様……私、私ッ」

 

『はい。時間切れ』

 

「アスベル様!御身体が…!?」

 

(タイミングから悪意しか感じられないのですが!?)

 

誠ちゃんの言葉と同時に体が淡く発光し、体が金色の粒子に変わっていく。どうやら転移とやらが始まったらしい。

 

「行ってしまわれるのですか?」

 

涙目で状況を察しながらも困惑している幼女。そりゃ体が発光する不思議人間がすぐそばにいたら怖くて泣きたくもなるわ。ごめんねと、思いながら頭を撫でた。ナイスキューティクルだった。

 

「あ…」

 

泣き止んだ幼女は涙を拭って、微笑みを浮かべる。

 

「また、会えますか?」

 

うーん、どうだろ。未来で会えるかどうかも分からないし、確証もないので、俺はやんわりとした答えを返した。

 

「君が、大人になっても覚えてくれてたら……きっと」

 

大人ってつくづく卑怯だね、と思いながら、俺は幼女の前から消えた。

 

 




【暴星バリア】
光の力でなければ破れないチート防御。しかし光の力のないキャラの攻撃でも少しダメージが通るので絶対というわけではないらしい。バリアの強度や技の威力に関係があると思われる。

【エレスライズ】
エレスゲージが満タンになると発動するボーナスタイム。CCが無限になったり、敵の攻撃でのけぞらなくなったり、攻撃が全て命中したり、秘奥義が使用可能になったりと破格の効果を持つ。

【CC】
技を使う際に消費するポイント。

【秘奥義】
文字通り必殺技。エレスライズ時か特定のヒット数を稼げば発動可能。

【エレスハイ】
エレス濃度の濃い場所にいると発症するテンションがおかしくなる状態。真面目なキャラですらボケてしまう恐ろしい現象である。

【虎牙破斬】
斬り上げと同時に前方へ跳び、斬り下げて攻撃する技。
「テイルズ オブ」シリーズにおいて最も基本的な技の一つである。

【特性】
技や敵毎に設定された属性。

【抜砕竜斬】
敵に駆け寄りながら神速の居合いで切り刻む技のこと。Wii版ではアスベルにとって唯一の竜族特性を持つ技として重宝した。

【昇竜氷舞】
冷気を放つ蹴り上げで敵を浮かせる技。浮かせ効果が優秀で敵によってはCC回復を待つ余裕すら生まれる。 抜砕竜斬より少ないCCで竜族特性をつけるのも魅力。

【グミ】
テイルズの定番アイテム。

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